大逃げが不利なんて言わせない   作:紗夜絶狼

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京都Sで骨折をしてしまったが、順調に回復していき、復帰戦に向かってリハビリを続けている毎日。
チームメンバーとトレーナーによる懸命な補助などのおかげで、ようやく走れるまでに回復した4月。
あるウマ娘との出会いが訪れる。


第6話 爆逃げウマ娘

「外からウオッカ、ウオッカが来た、しかし真ん中からダイワスカーレット、先頭はダイワスカーレット、ウオッカ捉えきれないか、ウオッカの末脚が捉えきれない、逃げるまだ逃げるダイワスカーレット、桜花賞を制すのはどっちだ!?」

 

 

 

いやぁ、テレビでだけど桜花賞のスカーレットの走りは痺れたなー。あのウオッカの差しから逃げ切るなんて、また今度並走トレーニングお願いしてみよっかな。逃げの精度上げていきたいし。

おっとその前にトレーナーから呼ばれてたなー、一体何の用だろう、もしや復帰戦が決まったとか?早くいかなきゃ。

 

「トレーナー、呼び出しという事はもしや復帰戦が決まったとか?」

 

「残念だがまだ組んではいません。ですが次の休みの日、私と一緒にレースを見に行きませんか」

 

「いいよ、その日は予定ないし」

 

まさかのレース観戦のお誘い、もちろんその日は特にやる事も無かったからオッケーした。

今日の復帰トレーニングは一段と応えたなー、左脚も完全に治ってきてるし、もうそろそろチームに練習に合流できそう。

今日はブルボンと一緒にゲームする約束があるから早く寮に帰らなきゃ。でもその前に三女神像に寄っておこうかな。祈れば願いが届くかもしれないかも。

三女神像に着くとそこに1人ウマ娘が何かを叫んでいた。耳を傾けなくても分かるぐらいの大声だ。

 

「うおぉぉぉ、アイツの追い込み半端なかった!バイブスぶちあがり過ぎてパネェー!次こそ爆逃げしてやるんだ~!!!」

 

どうやらあの様子だとレースで負けたみたいだね、気持ちはめちゃくちゃ分かる。悩んでる人の話を聞くの得意だし声かけてみようかな。

 

「あ、あのー。なんか悩んでたりする?よかったら話聞くよ、私で良ければだけど」

 

「え、マジ!?あざまる水産」

 

あ、アザマルスイサン?どういう意味だろう、もしかして何かのお店?全然分からないや。でも話しかけたのは私だしどう返したらいいんだろう。

 

「えーと、もしかしてあざまる水産分からない感じ?」

 

うぐ、図星だ。もしかして顔に出ちゃってたかな。

 

「なんかごめんね、全くわからないよ」

 

「MJK。パリピ語分からないと私の話ひとつも分からないよ。よしそれじゃ私がパリピ語教えてあげる」

 

「えー?」

 

お悩み相談からのまさかのパリピ語講座始まってしまった。

それな、ウェーイ、ワンチャン、エモい、フロリダなど、聞けば聞くほどなんだかこちらも楽しくなってきた。メジロ家では言葉遣いも定められていたからなぁ。

 

「どーよウチのパリピ語、使いこなせる自信はありあり?」

 

「うーん、ありよりのあり?かな」

 

「おっいいじゃん、ウチら相性よくね」

 

「そうかもね。そういやまだ名前言ってなかったね、私はメジロパーマー」

 

「ウチは爆逃げのダイタクヘリオス、ヘリオスでよろ~。あっウチこの後用事があるんだった、てなわけでパマちんバイビー、またよろ~」

 

結局ヘリオスはパリピ語講座だけしてどこかへ行ってしまった。でも話しかけて損した気分じゃなかったな。

そういえば爆逃げって言ってたけどヘリオスも私と同じ逃げウマ娘なのかな?ヘリオスの逃げ気になるな。でもなんか近々見れそうな予感がする。

 

 

~レース観戦当日~

 

 

「曇り空広がる中山レース場。本日の第11R、G3クリスタルカップ。天気は何とか持ちこたえ稍重の発表です。このレース注目は・・・」

 

 

初めて見る重賞レース、でもなんでマイルレースに私を連れてきたんだろう。私はてっきり中距離か長距離かと思ってたのに。

でも流石G3とあってOPレースとはお客さんの入りが全く違うし、本バ場入場してくるウマ娘たちも全く動揺せず堂々としてる。

私らは最前列で観戦してるんだけど、ひとつだけ疑問がある。

 

「なんでゴルシが来てるんだよ、てっきりトレーナーと2人だけかと思ってたのに」

 

「なんでって、そりゃゴルシ様は呼ばれてないのに来てしまう友達みたいなもんだからな。ありがたいと思えよな」

 

訳が分からないが、これで納得してしまうのがゴルシなんだよね。

 

「いやまさか後をつけられてるなんて思いませんでした。ゴルシ、次からは事前に伝えてくれれば連れていきますから」

 

「へいへーい」

 

あからさまに話聞いてないや。調子狂っちゃうよ。

 

 

「さぁ来ました。今日も爆逃げ宣言、2番人気ダイタクヘリオスです」

 

 

ダイタクヘリオス。うん?ダイタクヘリオスってまさか。

中央へ視線を移すとそこには間違いなくヘリオスが居た。向こうにいるヘリオスはどうやら私を見つけたみたいで、手を振りながら走って近づいてくる。

 

「あれ?パマちんじゃん、もしやウチの爆逃げ、見に来たってわけでしょ」

 

「偶然だよ偶然。トレーナーに誘われたから来たんだよ」

 

「そうなのかトレーナー?まさかそれを見越して」

 

「まさかヘリオスから来るとは予想外でしたが、パーマーには同じ逃げウマ娘のヘリオスの走りを見せてあげたかったんですよ」

 

「なるほどね、じゃ今日もテンションアゲアゲで爆逃げするぜ、ウェーイ!!!!」

 

「ヘリオス、見させてもらうからね」

 

「それじゃカマしてくるぜ~」

 

そう言い残してゲートに向かい走っていくヘリオス。私の目指す大逃げとは何が違うのか、マイルレースとはいえめちゃくちゃ気になってくる。

 

 

「各ウマ娘ゲートに収まっていきます。クリスタルカップ制するのは一体どの娘になるか、いよいよ出走です」

 

 

「なぁ、このレース瞬き厳禁だぞ。あのヘリオスってやつ、パーマーよりもすごい逃げをしそうな予感がするぜ」

 

あのゴルシでさえこの真剣さ、トレーナーもビデオカメラ構えてるし、この目でバッチリと目に焼き付けとかないと。

ファンファーレが演奏されたのち、ゲートが開かれ一斉にスタートする。ヘリオスはスタート直後から先頭に進んで行ってレースを先導していってる。それにしても私と違ってハイペースで後続との差を広げていく。

 

 

「2番人気のダイタクヘリオス、宣言通り爆逃げでただ1人先頭を進みます。第3コーナー中間の時点で2番手集団との差は5バ身、シンガリまでは12バ身となっています」

 

「2番手集団は第4コーナーまでに加速していかないと、追いつくことはとても厳しいですよ」

 

 

速い。G3とはいえG2クラスのウマ娘がいる中であの大逃げ、もし今の私だったらがスピードが足りなくてあんなに引き離せられない。

 

「おい、ヘリオスのやつ全く落ちてくどころか更に伸びてきてねぇか」

 

「確かに加速しています。いくらマイルとはいえ圧巻の一言です」

 

2人の言葉通り、先頭をひた走るヘリオスはどんどんと加速していく。気付けばヘリオスだけが最後の直線に入っていた。もう誰が見ても勝負はついている。

私は圧倒的な爆逃げを前に、無意識に身体が震えていた。

 

(ヘリオスと逃げで競ってみたい・・・)

 

 

「爆逃げチェケラー!」

 

 

「直線に入ってきたのはダイタクヘリオスただ1人。中山の直線は短いぞ、しかし後ろの娘たちはまだコーナーを廻りきっていない。これは間違いなくダイタクヘリオスの1着でしょう。圧倒的だ、爆逃げ宣言ダイタクヘリオス、今ゴールイン。完勝です」

 

 

「うおぉぉおおおおお!!」

 

 

「こりゃあ厄介なライバル出現だな、あの逃げは間違いない」

 

「予想以上の収穫になりましたね」

 

周りから大歓声が巻き起こる中、私ら3人は呆気にとられてて歓声どころじゃなかった。

しばらくしてヘリオスがこちらに戻ってきた。あんなハイペースで逃げてたのに肩で息をしていない。

 

「どだったパマちん、ウチの爆逃げ、バイブスぶち上がるぐらいイカしてたっしょ」

 

「もちろん、同じ逃げウマ娘とは思えないぐらい圧倒的だったよ」

 

「えっ、パマちんウチと同じ逃げウマ娘なん?」

 

「そうだぞ、パーマーはお前に負けないぐらいの逃げを持ってるんだぜ。なんならお互いにライバルになりそうじゃね?」

 

「ちょちょっとゴルシ、いきなり何言ってるんだよ」

 

ゴルシの意表を突かれた横やりに戸惑いを感じたけど、内心ライバル関係になりたい自分がいる。

でも思いの外ヘリオスは私とライバル関係になることに肯定的だった。

 

「つまり爆逃げライバルここに誕生って訳?いいじゃんノってきたぜウェイウェイ!」

 

「パーマーはどうなんだい」

 

「ヘリオスとライバルなんてテンション上がるね~、これからよろしくヘリオス!」

 

「もちオッケー!ズッ友だかんね」

 

私とヘリオスは、固い握手を交わした。お互いに爆逃げをするウマ娘としての友であり、そしてライバルであるために。

 

翌日から左脚の具合を見つつ、復帰レースに備えて本格的な練習を開始していった。札幌で行われるエルムステークスは芝1800m。京都よりも200m長いのか。

今日はトレーナーとワンツーマンでの練習日。逃げを磨くにはスピードを磨かなきゃだけど、1人だとタイムぐらいでしか実感湧かないんだよね。ヘリオスみたいな爆逃げをするには・・・。

う~ん・・・。

 

「パーマー先輩どうしたんですか」

 

「もしやまだ万全ではないのか?」

 

練習トラックでトレーナーと2人で暫く考え込んでいると、今日は休日のはずのルドルフとスカーレットが声をかけてきた。

 

「ルドルフにスカーレット。今日は休日のはずじゃ」

 

「パーマー先輩が心配で来てみたんです。会長さんとは来る途中で偶然お会いしまして」

 

なんて優しい後輩を持てた私は幸せ者だね。するとルドルフから「そういえばまだ走って無いみたいだが、何かトラブルでもあったのか?」と聞かれたから、素直に思いを伝えた。

 

「桜花賞の時のスカーレットや、昨日のヘリオスの爆逃げを見たら、自分だけの大逃げをもっと磨きたいとしてるんだけど、1人だけじゃイメージとか湧かなくて」

 

「艱難辛苦。つまりは壁が立ちはだかっているんだな」

 

「まぁそんな感じだね」

 

「先輩の大逃げを磨く練習ですか・・・」

 

「トレーナー君。なにかいい案は無いかね?」

 

「そうですね。でしたら今から3人で模擬レースに近いレースをしてみませんか」

 

私たちはとても面白そうだと目線を合わせ共感し、トレーナーが発案してくれたレースをしてみることにしてた。

コースは芝2000m。模擬レースとは違い、順位は着けず、作戦はあらかじめ伝える。

スカーレットは先行、ルドルフは差し、私はもちろん大逃げ一択よ。

よーし、早速スタート前のストレッチしないと・・・。

 

「ヤッホーパマち~ん!」

 

なんか昨日聞いた声がする気がする。まさか。

 

「うん?いったい誰だ」

 

「もしかして、ダイタクヘリオス先輩!?」

 

「どしたんヘリオス、なんでここに?」

 

ヘリオス曰く、練習終わりに偶然通りかかっただけで、そこで私を見つけて声をかけてきただけみたいだ。今からレースがあるからまた今度と伝えると「ねぇねぇ会長さん。アタシが代わりにパマちんと走ってもオケなカンジっすか!?」流石のルドルフも突然のパリピ語に戸惑いを隠せなかった。そのためトレーナーが間に入って話を続ける。

 

「昨日ぶりだねヘリオス。レースの件ですが了承しましょう」

 

「ウェーーーイ!めちゃアザ~ス!」

 

「トレーナー、ホントにいいわけ?」

 

「えぇ、いい経験になりますし、スカーレットとルドルフには申し訳ありませんが、また日を改めてしましょう」

 

スカーレットとルドルフは渋々納得したようだ。

唐突に始まったヘリオスとのレース。大逃げVS爆逃げ。着順関係ないとはいえ、勝ちたい闘争心がメラメラと燃えてきた。

そしてお互いスタートポジションに就く。状態は万全、絶対に勝つ。

 

 

「位置について、よーい・・・ドンッ!」

 

 

スタートと同時に先に仕掛ける。昨日と同じ走りなら直線で伸びてくるはず、だからまずは先頭をキープしてヘリオスとの差を広げる。

コーナーを廻って向こう正面、差は1バ身しかない。でもまだまだここから逃げていくよヘリオス。

 

 

「すごい逃げ展開、2人とも全くペースが落ちてないわ」

 

「確かに落ちてはいない、だが距離は2000。逃げウマ娘とはいえ必ず垂れてくる。そこからが勝負だ」

 

 

第3コーナーを廻るところで、2バ身あった差が無くなって、ヘリオスが並んできた。

 

「やっと追いついよー、ここまでとはマジ卍なんだけど」

 

「卍か。ヘリオスも中々やるね。」

 

「それな!きさらぎ賞を思い出しちゃったよ、ここから更にアゲてくよ~、爆逃げチェケラー!」

 

「だったら私もスパートかけちゃうんだから。うおぉぉぉ!!!」

 

4コーナー手前からスパートをかけた。ほぼ横並びの接戦だ。ここから更に伸びてくるはず、少しでも先に。

廻りきって最後の直線、先にヘリオスが仕掛ける。

更にギアが上がったかの如く前に出始め、差が1バ身、2バ身と広がっていく。このままじゃダメだ、ここで加速するにはアレしかない。

一瞬目を閉じ、深く深呼吸をし、思いを胸の内で復唱する。

 

(はぁ~。私は日本一の逃げになるウマ娘、メジロパーマー)

 

眼を見開くとそこは鼓動しか聞こえない私だけの世界(ゾーン)。選抜レースの時と同じ状況。ぶっちぎってやる。ぶっちぎってやるんだ。

 

「こんじょーーーーー!!!!!」

 

右脚を深く芝に喰い込ませ芝を蹴り上げ、更に加速し、2バ身あるヘリオスとの差を徐々に詰めていく。

私はまだまだ速くなって、ヘリオスを越えて強くなるんだ。

 

 

「パーマー、ゾーンを発動させたな」

 

「そうみたいですね。上がり3ハロンのタイム、自己ベスト更新ペースです」

 

「パーマー先輩、頑張ってください!あともう少しです!」

 

 

残り100m、追いついた。そしてヘリオスをかわして加速する。

私だけの世界。1着は絶対に譲らないっ!

 

「ゴーーーール!」

 

持てる力を全て出し切ってゴールを駆け抜ける。スピードを緩め、膝に手をついて乱れた呼吸を整えていく。

その後すぐにヘリオスも駆け抜けてきた。

ヘリオスも全力を出し切ったためか、芝に大の字で寝転んだ。

 

「はぁはぁ、パマちんヤバすぎでしょ。マジやばたにえんなんだけど」

 

「ははは。でもヘリオスのおかげであんなに加速出来たんだよ、ありがと」

 

「やっぱり逃げウマ娘はパーマーしか勝たんわ」

 

2000mを全力で逃げたのに笑いが止まらない。やっぱりヘリオスは私のライバルなんだね。

選抜レースの時とは違い、身体を強化してたから身体が悲鳴を上げることはなかったけど、踏ん張った右脚は余韻で震えている。

そんな中とある考えが頭の中で閃いた。

 

「ねぇヘリオス」

 

「どしたのパマちん」

 

「いつか、いつか絶対にWDTで最強の逃げウマ娘をかけて勝負しようよ。あっ、でもその前に有マ記念にしようよ」

 

「おっ、いいじゃん。約束だかんね」

 

「もちろんさ」

 

まだかなり先になるかも知れない有マ記念とWDTでの勝負。選ばれるためには結果とファン投票が必須条件。お互いにG1で勝たないとね。

こうしてヘリオスとの最初の直接勝負は、私の1勝で幕を閉じた。




ウマ娘のジェミニ杯期間とあり、育成と執筆の両立になってましたが何とか書けました。
みなさんジェミニ杯はいかがでしたか?
私はグレードリーグ、Bリーグ決勝で3位でした。

それはさておき、場面はダイワスカーレットの桜花賞が終わった約1週間後になります。
ようやくダイタクヘリオスとの逃げウマ娘ライバルが結成されました。
今後はどうやって絡ませるか考えていきます。
また他キャラのレース描写は、外伝的な短編枠で書けたらなと思う。
パリピ語って難しい・・・。
次回も1週間以内には出しますのでお待ちくださいませ。
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