しかしある日、トレーナーからのチーム全員に急遽3日間のお休みがプレゼントされた。
お休みに何するか考えていたところダイワスカーレットがある提案をする。
ヘリオスとの模擬レースで何かを得た私は、同じ逃げウマ娘のアイネスと一緒に汗を流す日々を送っている。
そんな中、チーム「デネブ」も順調に勝ちを重ねている。
皐月賞ではセイちゃんとゴルシの同着。タマはライバルのオグリキャップを下しての天皇賞・春を制覇。今まさに波にノっている。
怪我が癒えてきた私も徐々にだけど、脚に走る感覚が戻ってきている。エルムステークスに向けて、調子も上々だ。
アイネスは皐月賞で負けてしまった悔しさを糧に、5月末の日本ダービーに向けてこちらも絶賛調整中。
「皆さーん、集合してくださーい」
いきなりのトレーナーからの集合指示に、各々が駆け足で集まる。一体何だろうか、まさか誰かの密着取材とか?
考えられるとしたら、前人未踏の七冠を達成したルドルフだよね。
そわそわする中、最初に口を開いたのはルドルフだった。
「練習中だというのにいきなり集合なんて、君にしては珍しいではないか、トレーナー君?」
「そうだぜ、アタシは今から感謝の1000本突きをするとこなのによぉ~」
「もしや、今日は予定を変更してみんなで魚釣りとかですか~?やったね」
「いいえ、きっと日頃から頑張ってる私たちに、トレーナーがスイーツ食べ放題をプレゼントするとかじゃないかしら?」
うーん、まぁめちゃくちゃ色々と突っ込みたい部分はあるんだけど、ここは我慢して聞き流したほうが吉だね。スルーしよっと。
トレーナーも慣れてる様子で澄ました顔してるし。
「違いますよ、確かにいきなりで申し訳ありません。ですが伝えたいことがありまして、明日から予定を少し変更させていただきます」
「変更やて?急になんて珍しいな。一体どういう風の吹き回しや」
「何かトレーナーさんに用事が出来たの~?」
「簡単に言いますと、明日からの3日間。みなさんにはお休みを取っていただきます」
3日間お休みというワードに、みんな一瞬言葉が詰まっている。
トレーナーによると、明日からの3日間は、練習トラックの芝の張替え工事により、練習が出来なくなってしまうらしい。学園内の練習施設も、軒並み他のチームの予約で埋まっていて、満足な練習が出来ない。それならば、私たちにゆっくりと羽を伸ばして欲しいと考えたとのこと。
「以上になります。今日は早いですが、ここで練習を切り上げます。しっかりとクールダウンしてから、みなさんは明日からの休日を楽しんで下さいね。私は別件の用事が沢山ありますので、それでは」
「はーい」
トレーナーが去っていったの見て、スカーレットがある提案をする。
それはチーム「デネブ」でお泊り会をしてみないかと。これには意外にもみんなが乗り気で、話がトントン拍子に進んでいく。
「ふむ。だがダイワスカーレット、肝心の場所はどうするんだ?」
「そこなんですよね。大人数ですし」
「確かに大人数だと旅館ぐらいしか思いつかないです~、どうしましょうタマちゃん」
「なんで困ったらいっつもウチに振るねん!でも場所は考えもんやな」
「そうだ、パーマーちゃんのところはどうなの?」
「えっ!?私のとこ!?」
いきなりすぎるアイネスのキラーパスに、思わず声が噴き出てしまった。
たしかに広大なメジロ邸だったら空いてる部屋ぐらいはあるだろうけど、問題は許可が下りるかどうかなんだよね。
「使えるかどうかは、お婆様に聞いてみないと分からないんだよね」
「だったら今からマックイーンをとっ捕まえてくるからここで待ってな!うおぉおお、どこだマックイー―――ン!」
「こら待つんだ、ゴールドシップ!」
そう言い残しゴルシは、ルドルフの静止を振り切り、マックイーンを捕まえに走り去っていった。
マックイーンごめんよ、また今度美味しいスイーツ食べに行かせてあげるからね。
「なぁー頼むよマックイーン。私らのためにメジロのお婆様とやらにお願いしてみてくれよ~」
「わ、わかりましたわ、お願いしてみますから早くヘッドロックを解いてくださいませ!ギブ、ギブアップですから!!」
「おぉー、流石マックイーン頼りになるぜ。ありがとな!」
「なんで余計に強くなってるんですの~!!!」
その後ゴルシにより半ば無理矢理説得された?マックイーンは、お婆様に掛け合ってくれて許可を取ってくれたらしい。
お泊り会当日。
時間は朝、天気は文句なしの快晴。学園からメジロ邸までは距離があるため、マイクロバスを運転できるトレーナーにみんなでお願いし、送ってもらうことになった。
3日間という事もあり、各々着替えや生活必需品などの荷物が盛り沢山。
人間とは違いかなりデリケートなウマ娘には、必要なものが多い。そのため大きなスーツケースが目立つ。
特にスカーレットとゴルシの荷物が群を抜いて多い気がする。
「スカーレットちゃん、流石に荷物多くないの~?」
「遠征に行くんじゃないんだからさ~、一体何が入ってるの?」
「着替えとタオルはもちろん、アロマ、ドライヤーにヘアアイロン。それにお気に入りの化粧道具でしょ」
「ははは、どれだけ持ち込むつもりなのさ」
スカーレットはチームの中でも身だしなみとかには滅法気を使ってる。まだそれなら分かる。
だけども問題はゴルシだね。
「ゴールドシップは何を持っていくつもりなんだ?」
「おっ、これを見て腰を抜かすなよ~?まずは人生ゲームにオセロだろ?スイカに藁人形、蝋燭に五寸釘と・・・」
「お前は丑の刻参りしにでもしにいくつもりなんか!怖すぎるわアホ!」
ん?聞き違いでなければ藁人形に五寸釘って聞こえてきたんだけど、気のせいかな?
だけどもこれを聞き逃さなかったタマの鋭いツッコミが炸裂した。
「まぁまぁ落ち着いてタマちゃん。怖かったら私がなでなでしてあげますよ~」
「おわぁ、せやから隙をみてなでなでしようとすなや!」
「盛り上がってるところすいません。みなさん、バスに荷物を積みますから順番に来てくださいね」
短い茶番があったけども、荷物と私たちを積んだマイクロバスは、メジロ邸に向かって発進していった。その車内では、着いたらまず何をしたいかといったお泊りあるあるが繰り広げられる。
「やっぱ枕投げや肝試しは鉄板じゃね?」
「枕投げ、ええやん」
「それいいアイデアなの~」
「やりたいことだらけよねぇ~」
「だがやはり、枕投げは真っ暗な中でやってみたいものだな」
「・・・」
「うん?どうしたんだみんな?」
ルドルフの何気ないギャグが車内の空気を止める。身構えようにも、その本人が自覚せずに発している場合があるから、防ぎようがないんだよね。あとなぜか急に寒気が。
これを毎日聞いてるエアグルーヴは大変だね・・・。
「はっ、クシュン」
「どうしたんだエアグルーヴ」
「いやなんでもない、気にするな」
「ならいいんだが、会長は今頃何してるんだろうな」
「まさか会長、また無意識に・・・。考えたくない」
その後、なんとかルドルフのギャグを封じ込みつつ、会話を進めていると、気付けばバスはメジロ邸前に着いていた。久しぶりに帰ってくるメジロ邸はとても大きく感じるよ。
それぞれの荷物を降ろしたトレーナーは、マイクロバスと共に学園に向かって走り去っていった。
「で、でけぇ・・・。これ、全部私有地なんだよな」
「流石はメジロ邸。えらい豪華やなぁ」
「みんな、くれぐれも失礼のないようにするんだぞ」
「とりあえず中に入らなきゃ始まりませんから、パーマーさんお願いします」
「分かった、みんな少し待っててね」
門のインターホンを鳴らし暫く待つと、奥の方から執事のじいやが歩いてくる。じいやは門を開け、私たちを出迎え、敷地内を通り、屋敷へと案内する。
周りに咲き誇る可憐な花々は、昔と全く変わっていない。
屋敷の扉の前に着くと、じいやは一度深くお辞儀をし、説明が入る。
「わたくしめの案内はここまでとなります。お部屋までは他の使用人が案内致します。みなさま、お部屋にてごゆっくりとお休みくださいませ。パーマー様は少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?少々お話したいことがございます」
「うんいいけど?みんな先に行ってて」
みんなが居なくなり、この場は2人だけの空間になる。
快晴の青空の元、少しの沈黙が続く。こっちから話しかければいいんだけど、久しぶりすぎてなんて切り出したらいいのか。
しばらくすると、じいやの方からから話しかけてきてくれた。
「かなりご無沙汰しておりますパーマー様。お元気でしたか?」
「私は元気だよ、じいやの方も昔と変わって無くて安心したよ」
「いえいえパーマー様も立派になられてわたくしめ、とても嬉しゅうございます」
「なんだか照れるなぁ。それで話ってどうしたの?」
「実はお婆様より預かっているモノがございまして。こちらをお渡しさせていただきます」
「お婆様から?ありがとう。こ、これって」
じいやから渡されたモノ、それはひとつの蹄鉄だった。
「こちらはメジロ家からの蹄鉄になります」
「マックイーン達が使ってる蹄鉄。ぐすっ・・・。お婆様、ありがとうございます」
「わたくしの方から確かにお渡ししました。これにて失礼いたします。パーマー様のご健闘をお祈りいたします」
私ってこんなに泣き虫だったっけな。この蹄鉄で、いつかG1とれるようにしなきゃね。
おっとそろそろ行かなきゃ。多分みんなは来客用の広い部屋に案内されてるはず。蹄鉄はカバンの中に入れておこっと。
私は少し早めの駆け足で、みんなが案内されてるであろう、来客用の大部屋に向かう。部屋の前に着くと中からは騒がしい声が聞こえてくる。その声につられ、自然と扉を開ける。
「みんなお待たせ、少し長くなっちゃって」
「全然大丈夫ですよ~、みんなでゴルシさんが持ってきたトランプでババ抜きしてましたので」
「まぁ、そのゴールドシップがスーパークリークとどこかへ行ってしまったのだがね」
「あの2人、めちゃくちゃ嫌な予感するわ」
「でもでも、きっとすぐに戻ってくるかもなの、パーマーちゃんもトランプやろうよ」
「そうだね、それじゃお昼までやろ!勿論罰ゲームありで!」
「パーマー先輩、ちゃんとノリが分かってますね!それじゃ次は大富豪やりましょ!」
「いいねぇ~、あっでもその前にお手洗いに行ってくるね」
「うむ、待っているから早くトイレにいっといれ」
「・・・」
ルドルフのギャグが再び空気を凍り付かせる。そのせいか、トイレに行く気が失せてしまった。
「やっぱりいいや、なんか大丈夫になった。さぁやろうよ」
そこから私たちは、お昼まで大富豪やポーカーなどを沢山楽しんだ。だけどもゴルシとクリークが戻ってくることは無かった。一体何をしてるんだか。
しばらくすると部屋にある電話が鳴り響く。ルドルフが電話を取る。数回頷いた後電話を切る。どうやら昼食が出来上がったので、パーマーの案内でダイニングルームに来て欲しいとのこと。
「だそうだパーマー、場所は分かるかい?」
「うん、場所は把握してるから、準備して行きましょう」
それを聞いたスカイたちは、手に持っていたトランプを片付け、身支度を整え、沢山の料理が待つであろうダイニングルームへ向かう。
「なぁクリーク、本当にこんなもんでいいのか?」
「えぇ~、とってもバッチリです~。あとはみんなが揃ったらテーブルに運ぶだけです~」
「オッケー、早く来ねーかな」
広い屋敷を歩くこと数分、ようやくダイニングルームの前に着いた。中からはとても美味しそうな匂いがしている。匂いに触発され、思わずお腹が鳴ってしまいそうになるよ。
「じゃあ開けるね」
扉を開けると、そこにはとても豪華な料理が盛られたお皿が、それぞれの席の前に用意されている。
人参の蒸し焼きに人参スープ、人参ステーキに人参サラダ。一面人参だらけ。
「こ、これがメジロ家の食事・・・。もしオグリがここに居たら、一瞬でペロリやろな」
「ここまで豪勢とは、流石に私も想定していなかった」
「羨ましいの~」
「とりあえず席に着きましょ、料理が冷めてしまいますよ」
席に着いた私たちは、暫くゴルシとクリークを待ちつつ、楽しい会話をしながら昼食を進める。にしても相変わらずメジロのシェフが作る料理は美味しいなぁ。
和気あいあいとした昼食会は、時間を忘れてしまうぐらい熱中したものとなり、気付けば終わりに近づきそうになっていた。
「なぁパーマー、この料理っておかわりってあったりするんか?」
「それ私も思ってました!」
「え、えーっと・・・」
しまったー。意外に食べるタマやスカーレットが居るのに、事前におかわりがあるかを聞いておくの忘れてたー。
流石に今から同じのを作れるかなんて聞けないし、ダメもとでじいやに聞いてみようかな。
「パンパカパー―――ン!」
「突撃!お宅のランチタイムだぞこの野郎!」
突然のゴルシとクリークの登場に、不意を突かれた私たちは、思わず耳と尻尾が逆立ってしまう。ゴルシのサプライズは、毎回寿命が縮むんじゃないかと思う。
「2人とも今までどこにいたんだ」
「そうですよ。ゴルシさんは分かりますが、クリークさんが急にいなくなったりしたら心配しますよ」
「おい、アタシの心配はいいんかい」
「アンタこの前なんて、太陽が私を呼んでるとか訳分からんこと言って、ようけ練習抜けだしてるやろがい。ほんで気付いた時にはしれっと練習に戻ってるし」
「はぁ、放辟邪侈。ゴールドシップにはこの言葉がよく似合う」
「まぁ~まぁ~、落ち着いてください。それではみなさんには、私とゴールドシップさんからデザートのプレゼントをさせていただきますね」
そうして運ばれてきたのは、大きな人参ケーキだった。
沢山のホイップに人参、食後のデザートにしては豪勢すぎるよ。でもなんでホールケーキなんだろう、今日誰かの誕生日だったっけ?
「あっ、私としたことが大事なことを言い忘れてたぜ。クリーク、代わりに言ってくれないか?」
「分かりました。タマちゃん、お誕生日おめでとうございます!」
「ふぇ!?」
タマ本人が一番驚いちゃってるよ。でも確かに今日はタマの誕生日ではない、確か日本ダービーの前だったような。
「何言うとんねん、ウチはまだ誕生日ちゃうで?」
「確かタマモちゃんは23日だったの~」
「もしかして前祝いみたいなものか?」
「そうそう、早めに祝っちゃおうってことで、クリークと協力して用意してたんだぜ」
なるほど、だから2人は大部屋に居なかったのか。
「だがここで騒ぐのは止めておこう。続きは大部屋に戻ってやるとしよう。私がじいやさんに許可を貰ってくるよ」
「いいんですかルドルフさん」
「あぁ、学園生徒会長としてこれぐらいは当たり前だ」
「それじゃあ私先に戻ってますね~」
「あぁズルいですスカイ先輩。ほらタマモ先輩も行きましょ」
「あっこら袖を引っ張るな!お気に入りの服が伸びてまうやろがい!」
セイちゃんとスカーレットはお得意の逃げ先行で、タマを強引に大部屋へと連れていった。
「それじゃ私たちも移動しようよ。ゴルシ、クリーク、ケーキ運ぶの手伝うよ」
その後ルドルフが直々にじいやから許可を貰い、タマの誕生日会が再開される。
ゴルシが持ち込んだとされる大量のクラッカーが、まるでライブのように乱れ撃ち。部屋の外から聞いたら、誰かが銃撃戦と勘違いされそうなぐらいに。
「みんなホンマにありがとな!まさかゴルシとクリークから祝われるなんてな」
「ゴルシ先輩、たまにはいい事するんですね」
「そうなの~」
「たまにはとはなんだ失礼な!ゴルシちゃんでも祝う心ぐらい持ち合わせてるぜ」
「あはははは!」
お昼から始まったタマの誕生日会は大いに盛り上がった。
ケーキを食べた後は、部屋にある大画面のテレビに、セイちゃんが持ち込んだ「ウ・マッチ」で、ダービーカートや、大混戦ウマッシュスターズをやりまくった。
「やったー、また私の勝ちなの~」
「なんでウチ以外こんな強いんや」
「単にタマモ先輩が弱いだけなんじゃ」
「そ、そんなことないわアホ!」
「んじゃそろそろ終わるか」
「もうかいな!?」
「そろそろ夕食ですから仕方ないですね」
「なぁゴルシ、ホンマに頼む。あと1回、あと1戦だけでええんや。頼むこの通りやで!」
この負けず嫌いのタマによるの再戦願いは、夕食が終わってから、就寝前まで終わることはなかったのである。
「んあぁあああああ!なんでウチだけ勝てへんのやー!!!!!」
とまぁお泊り会1日目から、サプライズあり、お笑い多め、怒涛のお楽しみラッシュが盛りだくさんなのであった。
「それにしても、タマのゲーム下手をファンに見られたら、ファンが減って不安になってしまうな!ふふふ」
「・・・ファンと不安をかけたのね。・・・ルドルフ、君はもう寝たほうがいいよ」
※お気に入り登録50越え、誠にありがとうございます!
本来は昨日投稿予定でしたが、投稿が遅れてしまいすみませんでした。
今回からダービーまではお泊り会を、前後編に分けて書いていきます。
次回も書きあがり次第出しますため、投稿まで時間がかかると思いますが、おまちくださいませ。
ご指摘お待ちしております。