東方戦国記   作:楠名等

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どうも、楠です。

遂に今年も残り一ヶ月程となり、季節も本格的に冬となってきました。雪の降る地域の方々は積雪に向けて早めの準備をしておきましょう。

本編では雪が降るのはまだまだ先ですがね。現実とのギャップが酷い。




赤い鎧武者

「思ったよりあっさり着いたわね」

「そだね」

 

特に何の問題も無く人里に辿り着く霊夢達。妨害に遭うかと身構えていたが、結局通りすがりの野良妖怪を二~三匹退治しただけで終わってしまった。

 

「じゃ、あたい遊んでるから!」

「本当に何で付いて来たのよ?」

 

里に着くや否や早々別行動をとると宣言するチルノ。霊夢からすれば余計なお荷物が自分から居なくなってくれてありがたい限りではあるが。

 

あっという間にどこかへと去っていくチルノを見送り、霊夢は最初に戦国がいる診療所を目指す。聞きたいことが山ほどあるし、萃香や魔理沙ももしかしたらいるかもしれない。人里の中を探し回る事になればそれだけ余計な面倒に巻き込まれる。出来るだけそんな事は避けたい。

 

「って、思ってるのに何でいるかなぁ」

「何がじゃ?」

 

里の中を歩いていると、どうしてか会いたくない人物に遭遇してしまう。腰まで届く茶髪に丸渕眼鏡、厚い着物を着込んだ女性は霊夢の言葉に首を傾げる。

 

「おお、霊夢か。いつもと違って忙しそうじゃのう」

「白々しいわよ、化け狸。里に入った時から付いて来てたでしょ」

「化け狸とはご挨拶じゃな。今の時間の挨拶はまだお早うじゃないかのう」

「やかましい!」

 

おお、怖い怖いと霊夢の真後ろを歩いていた女性が大袈裟に怯えた仕草をする。女性―――『二ツ岩 マミゾウ』は葉っぱの形をした髪飾りの位置を直しながら霊夢の横に並ぶ。

 

「またあんたこそこそやってんじゃないでしょうね」

「失礼じゃのう。最近はどこもかしこも危なっかしくてやる暇がないわ」

「危なくなかったらやるんかい」

「当然じゃろ。出来るだけリスクは少なくせねばな」

 

マミゾウはどこからどう見ても人にしか見えないが、本来の姿を隠しているだけの狸の妖怪だ。いつも何か企んでいる癖に上手い事人と共存している。それが霊夢は気に食わないのだが。

 

「最近は里の人間もぴりぴりしている。以前の怪物騒ぎがこれほどまで根を引くとは思わなかったが」

「確かに。でも、一週間もしたら平然としてるでしょうね」

「そうだと良いんだけどね・・・」

「あんたらしくもないわね。どうせ心の中じゃどうとも思ってないんでしょうけど」

「失敬じゃな。わしとて人と生きる者として最低限の思い遣りは持っておる」

 

おぬしと違ってな、と余計な一言も忘れない。

霊夢の怒りが爆発寸前まで溜まっている事をみてか、マミゾウは違う話題を話し始める。

 

「ところで、魔理沙はどうしたんじゃ?」

「魔理沙なら里のどこかに」

「いや、そういう意味じゃない。実は今朝そこの診療所に運ばれてたんじゃが」

「は?」

 

気が付けば戦国が泊まっている診療所は目と鼻の先にあった。危うく通り過ぎるところだったが、霊夢は全く違う事を考えていた。

 

「魔理沙が・・・?まさか、食い過ぎじゃないでしょうね?」

「何じゃ?知らなかったのか。何かよく分からない変な坊主と鬼に運ばれておったぞ。確か、インベスがどうとか。だいぶ様子が可笑しかったが、って、話は最後まで聞かんか!」

 

霊夢の冗談にも一切表情を変えず、マミゾウは自分の知っている情報を話し続ける。次第に霊夢の顔が強張っていき、マミゾウの話が終わる前に診療所へと駆け込んでいってしまった。

 

「ふむ・・・。まあ、いいか。『小鈴』の所にでも行くかのう」

 

何か只事ではない雰囲気をマミゾウは感じ取ったが、我関せずと言った態度で本来の目的地へと歩いていった。上手くやれば恩を売れるとも考えたが、捕らぬ何とかの皮算用。余計な手は加えないのが彼女の長生きの秘訣の一つだった。

 

 

診療所の個室部屋で魔理沙はだらけていた。戦国と色々話をして、自分なりに気持ちの整理を付けようとはしてみたのだが上手く纏まらなかった。今は取り合えず、考えるのを止めたといったところだ。

 

「あー、暇だ」

 

ごろごろと布団の上を転がりながらうな垂れる。退屈は耐え難い苦痛だ。いっその事診療所から抜け出そうかと思ったが、無料で診てもらってる手前、それはやめておく。

 

「ふんふんふんふ~ふふん」

 

鼻歌を歌って気分を紛らわせる。確か何年か前に人里で流行った歌詞の無い流行り歌だ。いつ誰が作ったのか分からないし、もうとっくに廃れて忘れられた歌だが、魔理沙は何となくこの歌が好きだった。

 

鼻歌を歌っていると廊下の方からどたどたと誰かが走る音が聞こえた。診療所で走り回るなんて非常識だな、と他人事の様に魔理沙は気に止めなかったが、次第にその音が近づいてくる事に気付く。遂に魔理沙の部屋の前で止まった。一体何事かと魔理沙は扉の外を確認しようとする。

 

「魔理沙!!」

「おおぅ!?」

「きゃっ!?」

 

勢い良く扉が開かれ凄い形相をした霊夢が飛び込んできた。いきなり飛び込んで来るものだから、危うくぶつかりそうになる。飛び込んできた霊夢自身も魔理沙が目の前にいる事に驚く。

 

「よ、よぉ、霊夢。そんな慌ててどうしたんだ?」

「あんたこそ、どうしてここに運ばれてきたのよ?」

「それは、その、ね☆」

「ね☆で伝わるなら楽よね?」

「分かった!話すから離せ!」

 

頭を鷲掴みにされながら今朝の出来事を話し始める。話が進むたびに力が込められていく所為で話し終えるのにだいぶかかってしまった。話し終えた後も頭は鷲掴みにされたままだったが。

 

「ねぇ、魔理沙。私が昨日言った事、お・ぼ・え・て・る?」

「あいたたたたたたた!!」

 

分かってる分かってる、と霊夢を宥める。

 

「巫女が神社にいるのは当然でしょ?だろ。なのにお前こんなとこに居ていいのかよ?それとも昨日言った事も忘れ」

「ふん!」

「いてぇ!!」

 

パコンと御払い棒で頭を叩く。怪我人である事を考慮して軽く当てただけだが、痛いものは痛いらしい。

 

頭を擦る魔理沙を見て霊夢は少し安心していた。インベスがどうのと詳しい話が分からなかった所為で不安になっていたが、見たところ怪我も無い。戦国が言っていた症状が起きる気配は無さそうだ。

 

「で、時正は?」

「あいつなら医者に怪我の様子診てもらってるぜ。後、脱走した事についての説教でも受けてるんじゃないか?」

「とばっちり、でもないわね」

 

どんな理由があったにしろ勝手に抜け出した事に変わりがないのなら怒られるのも仕方ないだろう。事情を知らない身からすれば、だが。

 

「そういえば、霊夢。知ってたか?時正の奴、結構凄いらしいぜ」

「収入が?」

「お前本当にがめついな」

 

誰もいなくて退屈だった鬱憤を晴らしたいのか、魔理沙は聞いてもいない事を話し始める。霊夢は適当に相槌を打ちながらも、そんな魔理沙に最後まで付き合っていた。

 

 

「だいたい、お前は怪我をしているという自覚はあるのか?いや、自覚の有り無しにしろ、黙って勝手に抜け出すというのは有り得んぞ」

「ごめんなさい・・・」

 

魔理沙の予想通り戦国は医者から説教を受けていた。診察よりも説教をしている時間の方が長くなっているほどだ。

 

「謝る事は誰でも出来る。そこから先に繋げられるかはお前次第だ。分かったな?」

「分かりました・・・」

「分かればいいさ。・・・黙っていなくなられたら、残された方はずっと苦しむ」

 

医者は机の上にある写真が見る。それには今よりも若い姿の医者と、恐らくは妻と娘が写っている。三人全員が幸せそうな顔をしていて、他人から見ても仲の良い家族だと分かる。

 

「あれって、写真?」

「そうだ。天狗に撮ってもらった俺と妻と娘だ」

「・・・この二人はもしかして、もう」

 

残される悲しさ、その意味を考えた時この写真を医者が見た意味が分かる。

 

「・・・そう。死んだ。妻は病気で、娘は行方不明になってそれっきりだ。もう十年も経つ」

「ご、ごめんなさい。辛い事思い出させて・・・」

 

気にするな、と医者は首を振る。だが、その目には確かに悲しみの色が広がっていた。聞いてはいけない事を聞いてしまい、戦国は顔を反らしてしまう。

 

「この年になると、一人でいるのが当たり前に感じてきちまってな。行方不明の娘も、もう生きてないって思っちまうんだ・・・」

「・・・」

「ああ、すまんな。つまらん話を聞かせちまった」

「つまらないなんて、そんな。家族がいきなりいなくなったら誰だってそう思う・・・んですよね」

 

顔を反らしたまま自信なく呟く。死別する辛さも、残される悲しさも自分は知らない。

 

「僕は家族、いないからよく分からないけど」

 

そもそも、家族の存在を知らないから。

 

「・・・事故か?」

「分からないです・・・。一年くらい前に病院で目が覚めて、それまでの記憶とか全部無くなってて・・・」

 

一年前、自分は病院で目が覚めた。それまでの記憶は無い。自分の名前も、帰る家も、両親の顔も、本当に何も覚えていない。どうして自分が死ぬ寸前までの傷を負ってたのか、どうして戦極さんは自分をユグドラシルに入れたのか、本当に何も分からない。

 

「・・・そうか。ただ、覚えといてくれ。お前は一人ぼっちなんかじゃない。一人だけで無理をするなよ」

「・・・でも、僕はやらなきゃいけない事をやるだけです」

「時正、だったな。子供はな、我侭なくらいがちょうどいいんだぞ?」

 

医者の大きい手に頭を撫でられ、温かい気持ちになる。ごつごつとした手だがそこには確かな温もりが感じられた。

 

「俺の娘も、お前みたいに無茶する奴だったからな。結構心配してるんだぞ?」

 

優しい言葉をかけられて何故か視界が滲む。外の世界でもこうやって頭を撫でてくれた人がいた。厳しいけど優しくて、自分に名前を付けてくれた・・・

 

「・・・『時代』さん」

 

ほんの少しだけいない筈の家族が恋しい気分になる。本当なら今すぐにでもユグドラシルに帰りたい。だけど、まだやらなきゃいけないことは沢山ある。その為にも自分に出来る事を探さなければいけない。

でも、許されるなら今だけは誰かの温もりを感じていたい。今だけは・・・。

 

「はーい!失礼しまーす!娘々でーす!」

「ええー・・・」

 

などという些細な願いも仙人様にぶち壊しにされる。何故か妙に高いテンションではしゃいでいるが、正直何だかもう全部どうでも良かった。

 

「あら、丁度終わったようですね。それでは約束通り時正君を借ります」

「おいおい、怪我の容態次第だと言っただろ」

「何か問題でもおありで?」

「いや無い」

「あの、僕置いてけぼり何ですけど」

 

当人を置いて会話をするのが幻想郷では流行っているのだろうか?

 

「里の中を案内します。ご一緒してくださる?」

「そういうのは事前に言ってくださる?」

「あら、それは失礼しました。申し訳ありません」

 

戦国の側に寄って慇懃無礼なほど丁寧に謝罪する青娥。だが、その後の言葉は誰にも予想出来なかった。

 

「黒影トルーパーさん」

「!?」

 

戦国にだけ聞こえる様に小さく呟く青娥。その声はいつもより低く、遠回しについて来いと言っているのが嫌でも分かる。

 

「・・・ちょっと娘々と出掛けてきますね。暗くなる前には戻ってきます」

「ああ。折角だし楽しんでこいよ」

「はい」

「それでは行きましょう」

「はーい」

「返事は良いわね」

 

二人揃って仲良く診療所を出て行く、様に医者には見えたが、実際は酷くギスギスした空気が二人の間に流れていた。

 

「しかし、あいつ妙に怪我治るの早いな」

 

それに気付かず、医者は呑気にお茶をすすっていた。

 

 

「いやー、ここのお団子は絶品ね」

「そうだね」

 

戦国と青娥は里の中を観光していた。だが、二人の間の空気は固い。表情は笑顔のままだがお互い目は笑っていなかった。

 

茶屋から出て再び里を巡る。先程からこの繰り返しだ。じれったくなった戦国は青娥に気になっている事を聞き出そうとする。

 

「娘々は何者なのさ?」

「強いて言えば仙人ね」

「それは知ってるよ。それ以外を知りたいんだ」

 

うーん、と青娥は腕を組んで考え込む。そして、何か思いついたのかポンと手を叩き戦国に言う。

 

「じゃあサンタさん」

「・・・・・・・・・?」

 

唐突なボケに戦国は何も答えられなかった。

 

「あら?サンタさん知らない?ほら、プレゼントを渡してその代金に家の物を貰っていく」

「仙人って色んな事知ってるんだよね」

「あら、無視・・・。ええ。でも、まだまだ世界の真理には遠いわ。学ぶべき事は沢山ある」

「アーマードライダーの事も?」

 

流石に面倒になり単刀直入に質問をする。ほんの一瞬、青娥が笑った気がするが、戦国はそこまで気に留めなかった。

 

「勿論。その為に監視してたんですから」

「やっぱり娘々が・・・」

 

戦国は自分を監視していた者の正体が分かり一つ納得する。

 

「どこで黒影トルーパーの名前を知ったの?」

「それは秘密」

「教えてくれてもいいのに」

 

戦国の質問を軽く流す青娥。戦国が気になってるのは青娥が黒影の名前を知っていた事、ではない。黒影『トルーパー』の名前を知っていた事だ。量産型の元になった黒影の名は戦国自身が名乗った事があるが、トルーパーの名を言った覚えは無い。となれば、この世界で知りえる筈の無い情報をどうやって彼女は手に入れたのだろうか。ただ、青娥が秘密だと言う限りはきっと口を割らないのだろうが。

 

「何が目的?」

「目的はありませんわ」

「無いの?」

「結果よりも過程を楽しみたいの」

「ふーん」

 

よくは分からないが青娥がそう言うのならそうなのだろうと今は納得する。

 

「慧音さんとお医者さんに何を吹き込んだのさ」

「そうですね。怪物は謎のヒーローが倒してくれたとだけ」

「・・・ヒーローじゃないけどね」

「そうね」

 

吹き込んだ、という言葉を否定しない事に青娥の性格が表れていると戦国は思った。

 

「何で僕を助けてくれたの」

「困ってる人がいたら助けるのは当然の事じゃない?」

 

それはそうなのだが、胡散臭いと思ってしまうのは何故だろうか?

 

「じゃあ逆に質問。時正君は何が目的?」

「え?」

 

今度は戦国が考える番だった。自身の目的とは何か。強いて言えばあの空間の亀裂の調査だが、今はそんな事をしている暇は無い。今一度考えてみる。

 

「霊夢達に協力してインベス騒ぎを終わらせる」

「その割には貴方は隠し事ばかりね」

「むっ」

「まあ、話しにくい内容なのでしょうけど。そこで一つ提案なんだけど、私の仲間になりませんか?」

「いや、脈絡が無さ過ぎるよ」

「まあまあ」

 

この人は思いつきで話をしているのだろうかと本気で疑ってしまうが、青娥の顔を見る限り適当に言っている訳ではないのは伝わった。さっきまでの掴み所の無い笑顔ではなく、真っ直ぐにこちらの目を見ている。

 

「私もこの世界が無くなるのは困るの。お互いにやるべき事は一致してる。何も知らないあの子達よりは戦える」

「だから手を組めと」

「そう、あなたの弱さは私なら補える。それに何か困った事があればまた助けられるし」

 

青娥が手を差し伸べる。差し伸べられた手を見て戦国は迷う。あまりに青娥の意図が読めないからだ。だけど、信じられるのなら信じたいとも思う。

 

「・・・」

 

悩む戦国を黙って待つ青娥。数十秒ほど悩んで戦国は答えを出す。

 

「これからよろしくね。娘々」

「ふふ、よろしく」

 

それは、青娥と手を組む事だった。お互い笑顔を見せて握手をしようとする。

 

だが、戦国が手を握り返そうとした時だった。

 

『---------!』

「っ!?」

「時正君?どうしたの?」

 

突然、体中に怖気が走る。胸の辺りに酷い痛みが走り、声が出なくなる。数多の人の悲鳴が耳元で叫ばれている。頭の中に誰かの感情が流れ込んできて、吐気と頭痛に襲われる。

そして、そんな中に混じって別の声が聞こえる。

 

―来い―

 

ただ一言それだけを伝えると全ての声が消える。

 

「ちょっと、どこに行くの!?」

 

青娥の声が遠くから聞こえる。それでも戦国は足を止めずに走る。

 

「・・・はぁ、タイミング悪」

 

置いていかれた青娥は戦国を追いかけるでもなく溜息を吐く。

 

「時正の方は・・・あの子に任せるとして、あっちは間に合うかしら。『芳香』はどんくさいし・・・。まぁ、霊夢来てるみたいだし、人里は大丈夫よね」

 

青娥は戦国の走っていった方向を一度だけ見てそのまま逆の方向に歩いていく。まだ行きたい茶屋があるからだ。

 

彼女の行動はあまりに余裕を持ちすぎていた。

 

今から何が起きるのか知っている者にしては。

 

 

人里の近くの山の中、初級インベス二体とアーマードライダーが交戦していた。

 

「ふん!らぁ!」

「オォ!」

「ギィ!」

「うおらぁ!!」

「グウオォ」

「ギギィ」

 

二体のインベスに巨大な拳で渾身の一撃を食らわせる。断末魔を上げながら二体は爆散する。

辺りの気配を探り、インベスが潜んでいない事を確認しアーマードライダーは変身を解除した。

 

「片付いたか。ったく、何なんだこいつら・・・」

 

アーマードライダーに変身していた青年―――ノアは嫌な気分になりながら愚痴をこぼしていた。

山の中を歩いていたら突然飛び出してきた怪物。一体一体の力はそれ程でもない。この力にも慣れてきたが、未知の生物を相手にするのは楽ではない。

ノアはこの怪物に見覚えは無いが、人里を襲った怪物があんな見た目だったと聞いた気がする。しかし、そいつらは博麗の巫女に退治されたと聞いた。さっきのは逃げ延びた奴か別の個体だろうか。

 

「早くあいつら見つけねえと」

 

あんな怪物がまだ何匹もいるんだとしたら、何の対抗手段も無い二人の命が危ない。

だが、一つ解せない。何故あの二人が急にいなくなったのだろうか。自分があの場から離れるまでは特に変なところは無かった。妖怪に攫われたのだろうか・・・。

そう考えながらノアは歩を進める。

 

しばらく歩いていたノアは目的の場所に辿り着く。幼い頃から三人でよく遊んでいた場所だ。そこには三人で作った簡素な秘密基地などがある。作ったのは割りと最近だが。

基地の中や周りを調べていたノアは落胆する。二人がここに来た痕跡は無かったからだ。

 

「ん?」

 

空高く飛ぶ朱鷺を見つける。この辺りを飛んでいるのは珍しい。

 

「そういえば、あいつらも高いとこ好きだったな」

 

空を見上げて思い出す。高い所が苦手だった自分を見下ろして笑っていた二人の姿を。馬鹿と何とやらは高い所が好きだとはよく言ったものだ。

 

「オオオオ!!」

「またか・・・」

 

物思いに耽る暇も無くまた一体怪物が現れる。戦うのは嫌いではないが、命の奪い合いは好きではない。それでも、相手が逃がしてくれる訳ではないが。

腰にベルトを装着し、クルミの錠前を取り出す。

 

『クルミ!ロックオン』

 

錠前を解錠し、ベルトにセットする。頭上に鎧が召喚され、ベルトからエレキギターの音が鳴り響き準備が完了した事を知らせる。

 

「変し」

「オオォォ!?」

「何!?」

 

だが、ノアが変身するよりも早くインベスが体から火花を上げて爆散する。ノアの目には攻撃の瞬間が確認出来ず、何が起きたのか全く分からなかった。

辺りを見回した時、木の後ろに隠れている人物を見つけた。陰になっていてはっきりとした姿は確認できないが、その背丈から男だとノアは判断する。

 

「誰だ!」

 

拳を構え警戒する。さっきの攻撃の正体は分からないが、遠距離からの攻撃である事は間違いない。ノアはいつでも対処できるように身構える。

 

「・・・・・・」

「あ!おい、待て!」

 

数秒ほど沈黙が続き、男が木の後ろに完全に隠れてしまう。慌てて男の居た場所まで駆け寄るが、その場には既に誰も居なかった。

 

「何だったんだ・・・。うお!?」

 

首を傾げ振り返ったノアの背後に額にお札を貼った少女が立っていた。一切気配を感じなかったノアは面食らうが、少女は気にせず話し出す。

 

「今すぐ人里に戻れ~」

「あ?」

「今すぐ人里に戻れ~」

 

少女は焦点の合わない目でへらへらと笑いながら少女はノアにそう言う。初めて会った少女に唐突に忠告されたノアは訳も分からず首を捻る。そんなノアを気にせず少女は何回も同じ言葉を繰り返す。

 

「今すぐ人里に戻れ~」

「・・・今日は変な奴によく絡まれるな。おい、ここら辺は怪物が出るから危ないぞ」

「今すぐ人里に戻れ~」

「・・・家まで送ってやるか?」

「今すぐ人里に戻れ~」

「・・・・・・はぁ」

 

ノアは溜息を吐く。朝っぱらから人にぶつかるは撥ねられるは怪物に襲われるは変身しろだの天下を手に入れるだの言う変な女性に絡まれるわ。終いには壊れた様に同じ言葉を繰り返す少女だ。嫌にもなる。

これ以上会話にならない奴の相手をするのは勘弁だった。だからといってこの場に置いていくなどできないが。

どうしたものかと悩むノアを見て笑っている少女。だが、その笑顔が突然消える。

 

「もうすぐ人里が大変な事になるわ」

「・・・なに?」

 

少女のその言葉は無視するにはあまりにも物騒な内容だった。

 

「それって、どういう」

「走れば間に合うかもね~」

「おい、待て。どういう意味だ!」

 

意味を問い詰めようとした時、少女がノアから離れ始める。その後を追うが、ふと少女の姿が消え、そのまま見失ってしまった。

 

「・・・まさかな」

 

ノアはさっきの少女の言葉をありえないと考える。博麗の巫女が結界を張っていたし、この間起きた騒ぎの件も考えて警備は万全だ。何の問題も無いはずだ。

だが、

 

『夢って人より凄い存在が『これからこうなるぞよ〜』って伝えるために見せるんだよ』

 

おもむろに自分を慕っている少女の言葉を思い出してしまう。あの時は笑い流してしまったが、もしそれが真実ならば自分が見た夢も・・・。

 

「っ!くそ!」

 

不安に襲われ、人里へと走る。ただの思い過ごしならばいい。そう淡い希望を持って。

 

 

その頃、ノアが見失った少女は・・・

 

「お~ち~た~」

 

足を滑らせて穴に落ちていた。

 

 

「里へ出掛けたって、誰と?」

 

戦国が戻ってこない事に疑問を持った霊夢が直接確かめに行き、擦れ違いになった事に気付く。問題は怪我をしている筈の戦国を連れ出した人物だ。

 

「青娥だか娘々だかって言ってたな。時正の事は任せろと」

「青娥!?」

「何だ、知り合いだったか。最初は胡散臭いって思ってたが、話してみると中々良い人だったな」

「ちょっと詳しく教えてもらえません?」

「ん?まあ、いいが」

 

霊夢は医者から経緯を聞く。診療所を抜け出した戦国がフラフラの魔理沙を連れてきたのは魔理沙から聞いたとおりだったが、その後からがおかしい。図ったかの様に現れた青娥の意図が読めない。初対面の戦国を意味も無く庇うのは聊か不自然すぎる。となると、確実に何かがある。

 

「・・・何か嫌な予感がするわね。二人はどこに行くって?」

「あー、いや、特にそんな話はしてなかったな」

「そう、失礼しました」

 

医者に頭を下げ部屋を出て行く。青娥が絡んでくるとなると一気にきな臭くなる。医者の表情を見る限り青娥は既に医者に信頼されているようだ。それが尚更霊夢の不安を煽る。

 

霊夢はこの異変が想像以上に複雑だという事に気付き始める。そして、このままだと今以上に複雑になる事も。

 

「あの馬鹿はどこにいるのよ!」

 

何故どいつもこいつも大人しくしていられないのか、人里を走りながら霊夢は怒りを露にする。

 

―あいつを見つけたら必ずきっちり話をつける―

 

霊夢は誰に言うでもなく固くそう決心した。

 

 

霊夢が戦国の様子を見に行ってしまい、魔理沙がまた暇を持て余している時、誰かが扉をノックしてきた。丁寧な仕草から戦国でも霊夢でもないと魔理沙は考える。

 

「はーい、どちら様だ?」

「私だ。慧音だ。入ってもいいか?」

「ご自由にどうぞー」

 

適当に返事を返す。入ってきた慧音に適当だな、と突っ込まれてしまったが気にしない。

 

「で、何の用だ?」

「ああ、この間の事で礼を言い損ねてたからな。里を守ってくれてありがとう」

「お、おう。って、別に私は大した事してないけど。働いてたのは・・・霊夢だし」

「それでも、魔理沙も頑張ってたのだろ?だから、ありがとう」

 

慧音の言葉に魔理沙は笑って首を横に振る。真面目過ぎると余計なとこで損をするらしいが、慧音はその典型的な例だろう。こんな細かい事で気を使っていたらきりがない。

 

「それより、その怪我大丈夫なのか?」

「ああ、これか?見た目程酷くはないが治るまでしばらくかかりそうだ。それよりも、奴を逃した事の方が・・・」

 

余計な気を使わせないようにと話題を変えたが、その所為で余計に慧音は気を落としてしまったようだ。だが、慧音の言葉で魔理沙はある事を思い出す。慧音は赤い妖怪を取り逃がしてしまったと言っていた。そして、その赤い妖怪―――インベスは既に倒した。

 

「その事なんだけどさ。慧音が言ってた赤い奴ならもう退治したぜ」

「え!本当か!?」

「まあ、私が倒した訳じゃないけど。神社でひと悶着あってな」

 

面倒なのとどう説明すればいいのか分からないから省略しながら話をする。慧音は魔理沙の話を聞いて開放された様な表情に変わっていく。

 

「しかし、よく無事だったな。手強かっただろ?」

「手強かった・・・いや、うーん・・・手強かったな」

 

あの赤いインベスは手強いといえば手強かった。自分のとっておきが通用しなかった時は信じられなかったし、恐怖で動けなかった。あの場に霊夢がいなかったら自分は・・・そう考えると身震いを覚える。ただ、その最期は巨大なスイカに押し潰されるという何とも言えないものだったが。

 

「まあ、結果オーライってやつさ。あのインベスもまだ他の個体がいるかもしれないから油断できないけど」

「インベス?奴もインベスだったのか?」

「・・・え?ああ、そうか。慧音は初級しか見たことなかったのか。インベスは結構種類が多いんだよ」

「初級?」

「あー、あの沢山いたずんぐりしてるキモイのが初級で、動物みたいな形してる強いのが上級インベスって言うらしいぜ」

「そうか、随分姿が変わるのだな。・・・待てよ、動物?」

 

一度納得した慧音だが、すぐに疑問を思いつく。

 

「私が戦ったのは動物とはかけ離れていたぞ?」

「は?じゃあ、どんなのだよ」

「どんなの・・・。強いて言えば、赤い・・・」

 

指を額に当て慧音は考える。魔理沙は黙って続きを待つ。何故か心臓の動きが激しい。まるで知ってはいけない秘密を聞いている様な。

 

「赤い―――か?」

「・・・なん、だと?」

「魔理沙?どうした?顔色が悪いぞ」

「なあ、慧音。そいつってさ、もしかして」

「何だ?何か気になるのか?」

 

慧音の言葉に魔理沙は耳を疑った。ありえない。だけど、魔理沙の記憶に引っかかる物があった。

 

「・・・赤い刀と、腰に『ベルト』付けてなかったか?」

 

初めて変身した時、頭に過ぎった記憶。その中にそいつはいた。だが、あり得ない筈だ。そいつはもう・・・。

 

「ああ、確かにどっちもあったな」

「・・・!」

 

勘違いであってくれと願うが、残念ながら魔理沙の予想は正しかった。

 

「行かなきゃ!」

「こら!大人しくしてろ!」

「離してくれ!霊夢に伝えなきゃ!」

 

病室を抜け出そうとするが慧音に止められてしまう。

 

魔理沙は気付いた。この異変の敵はインベスだけではない事に。

 

 

青娥と別れた戦国は人里の中を走っていた。道行く人を避けながらも足は一切止めない。

 

「はぁっ、はぁっ・・・!」

 

人混みの中を走る。

 

 

人の少なくなる裏の道を走る。

 

 

人一人いない薄暗い道を走る。

 

 

何かに導かれるように自分の意思とは関係なく足は動く。ある場所へ近づくたびに胸の痛みは感じなくなる。その代わり別の気配を感じる。インベスではなく、かといって人間でもない。

 

『何か』がいる。この先に。

 

そして、

 

「・・・・・・え」

 

戦国が辿り着いたのはただの廃材置き場だった。ただ、予想通りそこにはインベスでも人間でもない存在がいた。

 

「なん・・・で・・・・・・?」

『ふっ』

 

そこにいた者は愕然とする戦国を見て嗤う。それには愚か者を嘲笑うかの様な感情が込められていた。

だが、戦国はそんな事には全く気を止めなかった。それ以上に受け入れ難い現実の所為で。

 

『遅かったな、異世界の武神よ』

 

血の付いた赤い刀を持った、赤い『鎧武者』は言う。

 

『全ては終わった後だ』

 

血を流して倒れている萃香を見せ付けながら。

 





最後まで読んでいただきありがとうございました。

本来の予定なら十話頃には既に紅魔館辺りの予定でしたが、色々と済ませておきたくて赤いのが出てきました。まあ、ぶっちゃけ名前を隠す程ではないのですが、次回までは赤い鎧武者で通します。

後、本編中に出た『時代』の読みは『ときしろ』です。『じだい』じゃないよ。

書いた後で気付いたけど、ノア変身待機音鳴らしっぱなしだよね。クルミアームズも出たまんまだ。想像したら会話シーンがシュールだよ。

次回もよろしく
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