オリ主モノの方と並行してやろうとするとなかなか時間が取れなくて……
後自粛生活のせいでファミレスに通いづらいせいもあります
本当は上下編で終わらせたかったのですが、途中が長くなり過ぎたので間を挟みます
今ナザリックにおける一般メイド達の界隈で、
単に読書で時間をつぶしたり、書評を入れた栞を巻末に挟んだり。後学のための調べ物をしたり。アインズ様が御手に触れた本を追読しながら慣れない頭脳を悩ませたり。あるいは電子描画ツールを借りて自分で創作してみたり。等々、各々の個性のままに過ごしているらしかった。
主に与えられし安息日を有意義に過ごせるならば、大いに素晴らしい事である。 ピクセルの休日譚がどういうわけかメイド達界隈の中で広まった結果だと思うと、本人としては少し気恥ずかしいものがあるが。
そんなわけでピクセルは41日ぶりに
例の如くゴーレム達に開いてもらった大扉を通過し、荘厳さと静寂が合わさった知的な神秘空間へと足を踏み入れた。
のだが、その先の光景を見てピクセルは唖然とした。
「あらら、みんな随分手を付けたわね……」
メイド達は、ピクセルが職務に努めていた41日間で図書館の内装に数多くの手を加えていたらしい。
ざっと全体像を見据えただけで、ピクセルには手に取るように事の次第が読み取れた。
以前記憶したはずの
すると、保存魔法の欠けられた上等な生け花の花瓶や、アルベド様から手習いした刺繍技術の応用で造られたであろうテーブルクロス。額縁に飾られたアインズ様や他の至高の御方々の肖像画。ほかにも様々な微細な小物が加えられているのがわかる。
幸いにも図書館内の雰囲気を致命的に損なう無粋者はいないようだ。ピクセルとて同僚たちの美的センスは信頼している。しかしこれは如何なものか。
エ・ランテルにおける旧都市長邸宅とかならまだしも、至高の御方々が御造りになられたものに、ここまで手を加えていいものだろうか。
多分、代わる代わるに訪れたメイド達一人一人は一品添えた程度の気持ちなのだろう。だが塵が積もって山になり、大きな変化をもたらしてしまったようだった。
残念ながらそれをメイドの中で理解できたのは、一番最初の状態を知っているピクセルだけだったということだ。
入り口近辺に控えて利用者を待っていた司書J氏に、ピクセルは不安を込めて伺いを立てた。
「久しくお目にかかります、司書J様。同僚たちが大変な模様替えをしてしまったようですが、これは大丈夫なのでしょうか?」
ピクセルが飾られた小物たちや小道具を視線で指し示しすと、司書Jは笑うというか嗤うみたいに顎骨をカクカクさせて快く答えた。
「事の次第をお知りになったアインズ様が大変お気に召されたそうですよ!」
「えぇ!? それなら良かったのですが」
意外に思いながらも、ピクセルは胸をなでおろした。
アインズ様は他の至高の御方々がお決めになられたことを極力尊寿しようとするきらいがあるから。
代表例では至高の41人の一柱、源次郎様の私室のことが挙がる。
かの御方の部屋は自他ともに公認の『汚部屋』だ。メイドとしての感性と観点からはっきり言えば、マジックアイテムや宝物が散乱して足の踏み場が切ないあの状態はあまりに見るに堪えない。だからメイド達の中で室内に臨時で収納スペースをつくり、分類別に整理しようかと案が挙がったのだが、源次郎様の意向を尊重するためにアインズ様によって却下された。
ほかにもプレイアデス7姉妹におけるエントマとシズ・デルタの年功序列が不明な問題について。本人たちが暫定的にでもとりあえず決めて欲しいと申し立てたのだが、「何か意味があるのかもしれない」ということで先送りになったらしい。
また少し特殊な例だが、アインズ様が直々に守護者統括のアルベドに『愛するよう』に命じたことについて。ご自分で命ぜられたことでアルベドも大変喜んでいるのに、時折タブラ・スマラグディナ様へ慚愧の念を浮かべることがあるそうな。
至高の41人の頂点として他の至高存在を徹底的に尊重するアインズ様のスタンスは、仕えるシモベとしてとても好ましいと思うと同時に模範とすべきものでもある。
だから御方の言動から最大限その価値観を読み取って尽くすのが、従者としての務めである。
しかし上記3例がアウトゾーンで、図書館の小物追加がセーフ。考えるだけでは法則性が見いだせない。
「具体的に、アインズ様はどういった部分に感心しておられたのですか?」
「寄贈される本や品のクオリティの高さですね。また、一般メイドの皆様方が有意義に休日を謳歌していることも気にかけておられるご様子でした」
「なるほど」
単純に図書館内装へのメイドの干渉がグリーンゾーンに収まっているからという理由。
それにメイドに命じた休日の遵守を、アインズ様自身が快く思われている点が大きいようだ。
とはいえ万が一ということもある。次の休日当番には軽く釘を刺しておくべきだ。
更に翌日のアインズ様当番の際にピクセル自ら、図書館のことをさり気無く伺いを立てるのが望ましい。
それにより主人の意向が判明した後に、次の一般メイド朝礼で全体に注意喚起を行うのがあるべき流れであろう。
円滑な報連相は正確な確認作業の上に成り立たねばならないのだ。
そうして胸算用に顎に手をやるピクセルを見て、司書Jは笑いながらも緩やかに窘めた。
「いやはや生真面目と言いますか生粋の従者と言いますか。ピクセル嬢の業務への忠実振りには、同じくシモベとしてひたすら関心するばかりです。
しかし今日は貴女様だけの休日、どうかごゆるりと図書館をご利用くださいませ。アインズ様もきっと、それをお望みでしょうから」
「確かにそうですね」
ごもっともな話であった。
休日は翌日のアインズ様当番に控え、肩の力を抜いて過ごすべきもの。
明日のことは明日思い悩めと、どこかの誰かが言っていたような気がする。
「では、失礼します。また電子ツールお借りしますね」
「どうぞどうぞ。良い休日を」
かくして司書Jと別れ、ピクセルは一般的な書籍が所蔵されている知の間へと向かった。
目的としているのは、前回の休日でピクセルが著作した絵本の修正である。
衝動と熱に浮かされて勢い任せにでっち上げたあの絵本。司書たちや他のシモベやメイドの同僚からよくできてると評価の声を頂いたわけだが、下書き無しの急造作品であったため思い返すと粗が多くかえって恥ずかしくて仕方が無かった。
だから今日は絵の構図をもっと練って下書きからちゃんとやり直すつもりである。もちろん、本日までの40日間の間に構図案の修正は考えてきたので抜かりはない。
「そうそう、あとアレをちゃんと付け加えないと」
おなじみの『この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは何ら関係ありません』である。
著作物としてある意味最も重要な注意書きだ。
事は第1から第3階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンが発端。
何と彼女は恐れ多いことに、ピクセルの描いたあの絵本をアインズ様とペロロンチーノ様の同性愛の暗喩として解釈してしまったのだ。
『ペロロンチーノ様×アインズ様まじてぇてぇ! 欲を言うなら二人の間にはさまりてぇ!』
彼女の感想を聞いた時は思わず拳が出そうになるところだった。
ピクセル自身は我慢したが、後で事情を知ったプレアデスのユリ・アルファがレベル差をものともせずおなかに良い一撃をくれてやったらしい。
自分の作品がどのような形で読者に嗜まれようと気にするピクセルでは無い。だが流石にピクセル自身がそのような意図で絵本を作ったなどと思われてしまっては、ナザリック地下大墳墓中から白い目で見られること請け合いである。
だからこそ、フィクションうんぬんの注意書きは必須なのだ。
なぜだかわからないがあの時の彼女の背後からは、ピンクの肉棒の如き畏れ多い御姿の幻影が感ぜられた。
彼女の創造主はペロロンチーノ様のはずなのだが、血は争えないというものなのか。
廊下を歩きながらピクセルは、事の次第を考察し始める。
「シャルティア様は
故に最上級アンデッドであるオーバーロードのアインズ様が性的対象として魅力的に映る。それをお決めになられたのは創造主のペロロンチーノ様。
そしてシャルティア様は
あれ?」
何かがピクセルの思考に引っかかる。多分この引っ掛かりを引っ張り上げると恐ろしいことになるだろうなという確信があったので、ピクセルは振り払うように別のことを思い浮かべた。
6階層守護者のマーレは男性なのに雌のような顔でアインズ様を見つめているな、とか。
武装したシャルティアは吸血鬼の羽じゃなくてバードマンのような翼のアイテムで飛行するんだよな、とか。
7階層守護者のデミウルゴスと執事長のセバスは本当に仲が悪いよな、とか。
「ないないない、それはない。ありえない。万が一もない。私は知らない。何もわからない」
世の中には知らないほうがいいことなんていくらでもある。
餓食孤蟲王の生態とか、御隠れになられた至高の方々の行き先とか、第8階層の謎とか、エントマのおやつの素材とか、立ち入り禁止されたアルベドの部屋とか。
多分これもそう。
星座の如く悍ましい一枚絵を描きつつあるシナプス回路を強引に引きちぎりながら、ピクセルは努めて平静にして歩き続けた。
とっとと絵本修正して帰ろう。そう思って目的の本棚に近づいたわけだが、ピクセルの目の前に思わぬ障害が立ちふさがっていた。
絵本が収納されている本棚のすぐ近くのテーブル。そこに幾冊の書籍とノートを広げ読み書きにふける、メイド見習いのツアレニーニャ・ベイロンの姿である
内心で『ゲ』とつぶやいて、まるでそれが聞こえたかのように気配に気づいたツアレはピクセルの方を向き直った。
「! お疲れ様ですピクセルさん」
「お疲れじゃありませんよ……今日は非番です。ツアレこそ日本語の勉強御苦労様ですね」
「早く日報や帳簿を書けるよう頑張ります」
愛嬌のある表情で健気に声を張るツアレ。
ノートに習字された不格好なひらがなを見下ろして、ピクセルは酷くバツが悪くなった。
やはり、自分が休んでいる中で同僚が働いてる姿を見るのは後ろめたいものである。
休日には同僚に出くわさないよう気を付けていたのに、丁度メイド見習いとして日本語を勉強している彼女に出くわすとは本当に運が悪い。
しかもよりによって、今彼女が広げている本の一冊は――
「お顔が赤いようですが体調がお悪いのですか?」
「……気遣いは不要です。ところで読み途中で悪いのですが、その絵本すこし貸してください」
何も言わずに差し出してくれればいいものを、何故かツアレはパアッと顔を明るくして尻尾を振る子犬の様に笑みを浮かべる。
「やはりこの絵本、ピクセルさんがお書きになられたのですよね!
わかりやすいストーリーできれいな絵で、日本語の勉強にとても役に立ちました!
一般メイドの皆様方は、お仕事だけでなくこのような才覚もお持ちなのですね! 尊敬します!」
ピクセルは差し出された絵本をそっけなく受け取った。
「どうも、お役に立てたようなら結構です
貴女の場合は業務でもそうですが、
「以上だなんて……そのようなことは決して……」
ツアレ二ーニャ・ベイロン。
大多数の一般メイドと同じように、ピクセルはこのツアレというメイド見習いが酷く苦手であった。
9階層最高責任者でピクセルの上司である
一般メイドとして極めて悪く言えば、彼女はセバスに媚びて擦り寄り、神への奉仕という尊い仕事を奪いに来た簒奪者だ。
彼女のメイドの志望動機はピクセルたちからすればとても
「失礼しますね。暇者が習字の邪魔をしては悪いですから。ナザリックの皆を見直させたければ忠義に励むことです」
「はい! 拾って頂いたセバス様だけでなく、お仕事を教えていただいたナザリックの皆様方。
なによりアインズ様から賜った御恩を返すべく最大限尽くさせていただきます」
「よろしい。ただ図書館ではお静かに。少々はしたないですよ」
「……失礼しました」
「こちらこそ」
後々彼女は、エ・ランテルで出張し人間の使用人を束ねるメイド長の地位が与えられる予定である。
とっとと一人前になってナザリックから出てってもらえればピクセルにとっても気が楽である。そういう意味では彼女の頑張りにとても期待したいところであった。
今はピクセルから立ち去ろうとしたのだが、遠くから近づいてくる人影に気付いてふと足を止める。
『ゲ』と今さっきの様に心の中で呟いた。
「これはこれはデミウルゴス様、まさかこのような場所でお会いすることになるとは奇遇でございますね」
あらわれたのはピクセルたちにとって遥か格上の存在、第7階層守護者で
いつものように刺々しい耳とオールバックヘアに鮮やかな橙色のスーツの姿。柔和な笑みを浮かべながら、しかし眼鏡越しに輝くダイアモンドアイはギラギラと二人を見据えていた。
「ごきげんようピクセル嬢。それにツアレ嬢、君に会うのは王国以来だったかな?」
「……はい、お久しぶりでございますデミウルゴス様」
デミウルゴスの視線の種類はピクセルとツアレに対しそれぞれ全くの別物である。
前者は志同じくする同士だが、後者は興味深い実験動物。
しかもセバス・チャンと根深い因縁のあるデミウルゴスの存在は、ツアレにとって酷く険しい鬼門と言えるだろう。
上位者を相手に気後れしてしまうツアレの態度はシモベとして低評価であるが、相手が悪いのだから今ばかりは致し方が無い。
少なくとも即座に喧嘩腰になるセバスよりは100倍マシだと思うべきだ。
ピクセルは塩味の強い汗を垂らしつつも、努めて二者に割って会話を促す。
「してデミウルゴス様は本日如何ご用件でこちらにおいでになられたのですか?」
「2冊ほど気になる本があってね。今後の侵略計画の参考にしようと読みに来たのさ
そうしたら君に会えたものだから、ついつい声を掛けたくなってね」
デミウルゴスの視線はピクセルの手元に落とされて、次いでピクセルもあわてて手元の絵本を見た。
背筋が凍る感覚が奔り思わずひきつった笑みが浮かび上がる。
「……先日のご評価は一種のお戯れかと思われましたが、よもや本気でおっしゃられていたとは。大変失礼しました」
絵本がプロパガンダに使えるだのなんだのと言われたが、一体全体どうしてそうなる。
「キミからすればピンと来ないかもしれないがね。ペンは剣より強しという言葉もある。実際絵本や童話は世界の文化の中で大きな意味を持つものだ。
君の作品のおかげで、アインズ様の真の御計画を理解することが出来た。心より感謝を送るよ」
本当に何がどうなってピクセルの拙作からアインズ様の御心へと繋がるのだろう。
シャルティアもそうだが、どいつもこいつも普段からどんな視点で読書しているというのだ。同じシモベなのに得体が知れなくて鳥肌が立ってくる。
「左様でございますか。創作者として大変興味深く思いますので、どうかあちらでお聞かせ願えますでしょうか。
ここではツアレの勉学の邪魔になってしまいますし」
「ああそうだね。ところでツアレ嬢」
「は、はい!」
デミウルゴスは値踏みするような目つきでツアレを見つめ、彼女は睨まれた蛙の様に縮こまる。
表情だけは本当にニッコリと、悪魔なのにキューピッドの様に慈しみに満ちていた。
「セバスとの進展は如何かな? メイド見習いとしての自己研鑽も大変結構だ。
しかしそれよりも個人的にはナザリックの将来において君たちの展望は個人的に大変興味深いところだよ」
「……は、はぁ」
「交渉術に困りごとがあれば是非相談に乗ってくれたまえ。配下に専門家がいるからね。
彼女はその手の知識に関してならば、同種族のアルベドなどとも比べ物にならないから安心してほしい」
「……どうも、ありがとうございます」
カチーン。
ふとピクセルの頭蓋の頂点に、響きよい亀裂が立ち上った。
「それは下世話というものです、デミウルゴス様」
会話は酷くオブラートに包まれ気遣いに溢れていたが、聞いていたピクセルはかなーり頭にきてしまったのだ。
デミウルゴスは彼なりに、真摯に紳士にナザリックの将来を見据えて、ついでにツアレのことも思い遣って相談を持ち掛けたには違いない
しかし彼の意図には確かにツアレの努力を足蹴にするニュアンスが含まれている。
そしてそれは結果的に、一般メイド達の誇りとアインズ様を軽視することに繋がるのだから怒りが沸くのは当然のことだ。
「僭越ながら申し上げます。メイド見習いの地位を与えたのは他ならぬアインズ様の命によるものであり、それを軽んずることは不敬に値します。
また、ツアレはいまだ従者として未熟な身であり、当分他事にうつつを抜かせる暇も余裕もありません。
デミウルゴス様としてもナザリック全体のことを慮り提案した次第でございましょうが、アインズ様直々の勅命でもない限りは優先事項を間違えてはならないかと」
口にはしていないがデミウルゴスは、所詮人間が一般メイドの真似ごとなどと……思っているようである。
当初の一般メイド達も同じような認識をもっていたのでその気持ち自体は本当によくわかる。
だがツアレがアインズ様の命に忠実に従い懸命に学習を積んでいることは否定しようのない事実。
だからこそツアレは一般メイド達の間で浮くような存在になったとも言えるのだ。下らぬ人材であれば簒奪者にもなりえないのだから一般メイド達から敵視すらされないだろう。そういう意味で彼女の存在は、閉鎖環境にあった一般メイド達のカンフル剤としてちゃんと機能している。
そして一番大事なことだが、将来的なエ・ランテル王宮におけるメイド長就任の辞令は、彼女の努力をアインズ様が評価していることの何よりの証明なのである。
「……失礼、大変不用意な言動でありました。階層守護者でありながら御方の意向を軽んじ、ひいてはツアレをはじめメイドの皆様方の業務を侮辱するような発言を申し上げたこと、心よりお詫び申し上げます」
このように理屈と筋を通し、真心こめて意見を述べればデミウルゴスはしっかり理解を示してくださる御方であった。
知能と力に優れる悪魔でありながら、その能力に奢ることなく己を顧みることが出来るその性質は、ある意味で彼の最も尊敬すべきところと言えるかもしれない。
少なくともツアレの故郷たる王国の中枢などとは、話に聞く限りでも比べるべくもないことがわかる。
「滅相もない事でございます。ツアレの未熟故にかような行き違いが生じてしまいますことは、教育を仰せつかりし一般メイドとしての落ち度でもあります
それに重ねて申し上げますが、デミウルゴス様なりの深い御心遣いであることは全く重々承知の上です。そうでありましょう? ツアレ」
上位者からの謝罪は、こちらの落ち度を引き出して相殺し相手を極力立てるのが常識である。
煮えた腹の内は正直まだ治まってはいなかったが、これを怠ることこそ真の不敬と言えるだろう。
そしてそろそろツアレを黙らせているばかりではみっともないので。軽くひと睨みしながら発言を促した。
「はっ。わたくしの心技それぞれが未熟でありナザリックの皆様方に不愉快とご迷惑をおかけしていることは紛れもない事実であります。
にもかかわらずお気遣いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
……一体幾年かかるやもわかりませんが、いつか自分に猶予と暇が許された暁には……その、ご相談の程どうかよろしくお願いいたします」
ほら、やればできるではないか。任命初期のコミュ障ぶりが嘘のような礼節ぶりだ。ツアレもツアレなりに成長はしている筈なのである。
それを見て理解できないデミウルゴスではないだろう。
ひとまず丸く会話が治まってよかったなーと、ピクセルは心底より安堵した。
「ああ! 逆に間違ってもアルベドにだけは相談しないでくれたまえよ。
色恋の類なら彼女は快く知恵を貸してくれるかもしれないが、全く当てにはならないのでね!」
「はぁ……承知しました。肝に銘じておきます」
かくしてようやくピクセルは、デミウルゴスからツアレを引き離して話を聞くことになった。
彼は彼で、シャルティアとはまた別にとんでもない絵本の解釈をしてしまったのだが、結果的に言えば階層守護者たちの中では一番マシな部類に入るのだから頭の痛い話である。
◆◇◆
※おまけ
上の話はまだ続きますが、書けるスペースの無いオチのネタがあるのでそっちを書きます
ところでデミウルゴスがツアレに対し、執拗にアルベドの助力に注意を促していたことについて。
この理由をピクセルが知ったのは翌日のアインズ様当番の時のことである。
あろうことかアルベドも、シャルティアの絵本の解釈を鵜吞みにしてしまったのである。
バードマンの同性がお好みならばと勘違いした我らが守護者統括。
彼女は恵まれたはずの豊満なバストやヒップを無理矢理引き締めて男装麗人の装いをなし、己の黒翼に合わせたカラスの被り物をかぶってアインズ様に熱烈なアピールを敢行してしまったのである。
あれはまったく目を覆いたくなるほど哀れな姿だった。
『カァー♡! カァー♡! カァー♡!』
だが一番哀れなのは、倒錯した彼女を見て何らかの精神支配を確信して心を痛められたアインズ様に他ならない。
本当に、本当に、哀れなご様子であらせられた。
『おのれぇ!! シャルティアを手籠めにするだけに飽き足らずアルベドの尊厳を奪い辱めるかぁ!!
あの糞共めがぁ!! その正体暴いた時には必ずや地獄を越える苦しみを与えてやるぞぉ!!』
違うんです、ソイツ自分で尊厳捨てたんです。辱められたんじゃなくて恥ずかしい奴なんです。
本当に、階層守護者という連中はヒトの描いた絵本を何だと思って読んでいるのだろう?
この後滅茶苦茶弁明した。
次回、デミウルゴスの話を聞いてから、ピクセルがもうひと作品思いついて発表して完結です