ポケットモンスターMIX ~時神の瞳を持つ者~ 作:万年レート1000
ひとと けっこんした ポケモンがいた
ポケモンと けっこんした ひとがいた
むかしは ひとも ポケモンも
おなじだったから ふつうのことだった
赤い、赤い、ほのおが赤い。
半分になった視界には、赤しか無い。
燃える研究所。
粉々の機械たち。
死んだ職員、死んだおとうさん。
ぼくの体に、何かが触れた。
気持ち悪い何かが。
顔を上げると、そこには時の神様がいた。
*****
ハッと、悪夢から逃げだすように目を開ける。
ぼやけた視界に広がるのは、見知らぬ天井。
温かみのある木造の家のようで、天井からぶら下がる古い型のランプからオレンジ色の淡い光が僕を照らしていた。
(何処だ、此処は)
意識が落ちる前、何をしていたかを思い出す。
確か、海に、そう、海に出たんだ。『なみのり』を使えるポケモンが居なかったから、船に乗ったんだ。
それで……嵐に巻き込まれて……船が……。
「あ、目が覚めたのね!」
突然耳に入った甲高い声に、びくりと肩が震える。
声の方を見ると、湯気立てるマグカップをトレイに乗せた、少女一人と、
その愛くるしさとカントーのチャンピオンが手持ちに入れていることから、知らぬもの無しの有名ポケモン、黄色い電気ネズミことピカチュウが隣の部屋から現れた。
…………よく見ると、少女の頭にピカチュウの耳が、腰からピカチュウの尻尾が生えている。
『ポケモンだいすきクラブ』か、『ポケモンごっこ』のトレーナーか?
「アナタ、海岸で倒れてたんだよ。意識戻ってよかったー、心配したんだよー」
「ピッピカチュウ」
差し出されたマグカップを受け取る――暖かい。
船が転覆して、波に飲み込まれた僕は潮の流れに沿って、運良く何処かの町の海岸に流れ着いたようだ。
いや、本当に運が良かった。死んでてもおかしくなかった。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「ピッピカピカチュウピカピカピ」
「えへへー」
「……?」
ピカチュウがうんうん頷いて、少女が照れたように頬をかく。
……ん?
「と、ところで此処は何処ですか? 一応僕、ガラル地方に行く途中だったのですが……」
「ピカピ? ピカ、ピッピカチュウ」
「…………」
「?」
何故か僕の問いにピカチュウが返してくれたが、当然何を言っているのか一ミリも理解できない。
助けを求めるように少女に目を向けたが、少女は首を傾げるだけだった。
「ピカ」
ピカチュウは何かを思いついたかのようにポンと手を打ち、あっという間に隣の部屋に行ってしまった。
な、何なんだ一体。
と思っていると、すぐにピカチュウは赤いきのみを持って戻ってきた。
「ピカチュ」
「く、喰えって? これ何の実?」
「ピカピカ」
赤いきのみを受け取って訊ねると、うんうんと頷くピカチュウ。
少女は何が起きているのか理解できないかのように首を傾げたままだった。
「ピカピ、ピカチュ」
「え!? ホント!? お父さん!」
「……おとうさん?」
状況が飲み込めていない(僕もだが)少女に対して、ピカチュウが何かを語りかけた。
ていうかこの子、ピカチュウのことお父さんって呼んでるの? そういうニックネームなのか重たい事情があるのか……。
「…………」
ぐぅ~っと、お腹が空腹を知らせる音を鳴らす。
そういえば船で出発してから何も食べてないっけ。
きのみの匂いを嗅ぐと、甘い匂いが食欲をそそる。
とりあえず、食用ではありそうだ。
この状況で食べられないきのみを持ってくるのも意味不明だし、僕がお腹空いているだろうと親切心で持ってきてくれたのだろう。
ありがたく、一口齧る。
念のため舌の上で転がしてみたが、特に違和感もなく甘酸っぱい味が口の中に広がった。
何これ、美味しい。
シャクっとした感触も心地よく、果汁たっぷりでとてつもなくジューシーだ。
あっという間に食べきってしまった。満足満足。
「ありがとう、美味しかったよ……ええっと、『お父さん』?」
「貴様にお義父さん等と呼ばれる憶えは無い」
愛らしい体躯からは想像できない程渋い声が、ピカチュウの口から放たれた。
おや、お父さんというのはてっきりニックネームだと思ったのだが違ったようだ。
はっはっは、こりゃまたうっかり。まあ勘違いしても仕方ないよねこんな状況じゃね。
はははは。
「…………!? ピカチュウが喋ったー!?」
「ふむ、この反応、やはり『余所者』か」
「す、凄い! 外の地方の人なんて初めて見たよ!」
思わずベッドから転げ落ちてしまった。
いや、いやだって! ポケモンが喋るなんて……あ、さっき食べたきのみの効果か!?
ていうか声渋い! 見た目とのギャップが凄まじすぎて脳がバグりそうだ!
「ねえねえ『人間』さん! 外の地方ってどんな感じなの!? わたしみたいな『
少女がやたらとグイグイ来る。顔が近い!
ていうか、は? ミックス? 何のこと?
「まあ落ち着け。さっき食べて貰ったきのみは『チエのみ』と言って、この地方特有の甘い果実だ」
「…………」
「この地方の人やポケモンはこのきのみを常食することで、『ポケモンと人間の会話を可能にしている』のだよ」
「そ、そんなきのみ聞いたことないぞ……此処は……この地方は、一体何処なんだ?」
ポケモンと人間が会話できるなんて、そんなきのみ、需要はいくらでもあるだろう。
世界中に広まってないとおかしい筈だ。
「此処は『カミヨ地方』。古の風習が根強く残る、人とポケモンの『距離が近い』土地だ。余所者からしたら信じられないかもしれないが、此処では人とポケモンは言葉を交わし、人とポケモンで子を成すことすらできる……外の世界とは、隔絶された地だ」