ポケットモンスターMIX ~時神の瞳を持つ者~   作:万年レート1000

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プロローグ②:フィオタウン

 堤防に座り、煙草を嗜むゴルダック。

 鉄骨を運ぶ仕事をしているゴーリキーに、弁当を届けるゴーリキーと人間の混血らしき男の子。

 木々に止まった鳥ポケモンたちが、主婦のように井戸端会議に精を出している。

 

 あのピカチュウが特別なわけじゃなく、この地方では本当に人とポケモンの『距離が近い』のだという実感がわいてくる。

 

 ――あの後、ピカチュウと、混血(ミックス)の少女――『ピカリ』に改めてお礼を言った僕は、二人の家から出て町の中を歩いていた。

 『フィオタウン』という名前らしいこの町は、町というか村という呼称のほうがふさわしいくらい田舎とのこと。

 

 だから余所者がよっぽど珍しいのか、いろんな人やポケモンにジロジロ見られながら僕は漂着した海岸を目指して歩いていた。

 荷物とか、モンスターボールとかも漂着していないかの確認のためである。

 

 水平線が何処までも遠く広がっている。

 此処が地図上の何処にあるかわからない以上、『なみのり』で海上に出ても、船を出しても他の地方に行ける保証は無いな……。

 

 海岸を、端から端まで注意深く練り歩く。

 海の家があることから夏は海水浴場として人でごった返しているのだろう。

 ただ、幸い肌寒い今の季節に海水浴をしている人はいないようで、見通しが良い。

 

 これならすぐ見つかりそうだ――漂着していれば、だが。

 

(…………何も無い、か)

 

 海岸を一通り見て回って、僕はそう結論付けた。

 

 ……目の前が、真っ黒になりそうだ。

 頭を抑えながら、砂浜の上に座り込む。

 

「……モウカザル、コロトック、ミミロル」

 

 こんな僕に、付いてきてくれた仲間たちの姿が脳裏に浮かぶ。

 あいつらは、助かっただろうか。何処かの地方にちゃんと漂着して、良い人に拾われてくれただろうか。

 

「…………」

 

 無言で立ち上がる。

 僕の命があっただけでも幸いだったと思おう。

 こんなところで悲しみにくれて立ち止まってても意味はない。

 

 ポケモンセンターを探そう。

 

 ポケセンには電話があるし、ポケモン預かりシステムが使えるパソコンだって置いてある。

 ナナカマド博士に連絡して、保護してもらおう。ついでに念のため預かりシステムにビッパとコリンクを預けていた筈だから、自衛用に連れて行こう。

 

 よし、今後の行動方針は決まった。

 

 早速行動開始だ。

 なあに、そんな広い町じゃない、ポケセンくらいすぐに見つかる――と。

 

(思ってたんだけどな……)

 

 数時間後。

 日がだいぶ傾いて夕焼け色に染まりだしても、ポケモンセンターは見つからなかった。

 

 道行く人に訊ねてみても、「ポケモン……センター?」とポケモンセンターの存在自体を知らないような反応をされたことから何となく察してはいたが……。

 

 どうやらこの地方には何処に行ってもポケモンセンターが無いらしい。

 そしてそもそも、他の地方と連絡を取る手段が無いようだ。

 

 隔絶された地。

 神話時代級の古き風習が残っていることや、ポケモンと人間の会話を可能にする『チエのみ』なんてものが外の地方に流出していないことから察するべきだった。

 

(いや、待て)

(差しあたっての問題はそんなことじゃない)

 

 リュックを無くし、モンスターボールを無くし、外界から隔絶された地方に一人流れ着いた今の僕は。

 

 完全完璧、欠片の疑いようもなく一文無しだということだろう。

 

 え? ホームレス?

 十五歳のホームレスと化してしまう?

 

(詰んだ……)

 

 人生オワタ、と公園のベンチで沈みゆく夕日をボーっと眺める。

 こんなことしてないで、段ボールや新聞を集めないと今の季節ヤバいことは頭で理解しているが、心と体が動いてくれない。

 

「あれ? 『トキヤ』さん?」

 

 そんな時だった。

 

 名前を呼ばれて、振り返る。

 そこには僕を助けてくれたピカ耳少女、ピカリが買い物袋片手に立っていた。

 

「こんなところで何やってるの?」

「ピカリちゃん……」

 

 頭から生えたピカ耳と、同じ色のツートーンヘアー。

 ほっぺはピカチュウほど露骨に赤く無いが、それでも普通の女の子と比べて赤く染まっている。

 黄色いワンピースはピカチュウの尻尾のような稲妻マークが刺繍されていた。

 

 一見、ピカチュウのコスプレをした女の子のようだが、よく見ると人間としての耳が生えていなかったり、ピカ耳もピカ尻尾も本物であることが見て取れる。

 

 ピカチュウと人間の間に生まれた子、混血(ミックス)

 

 …………あんまり考えたくないけど、どうやって作ったんだろう。

 

「トキヤさん?」

「ハッ! え、ええっとね――」

 

 僕は、ジロジロと観察した上に、失礼なことを考えてしまったことを誤魔化すように事の経緯を説明した。

 一文無しな上に、頼れる人もポケモンも居ないこと。このままじゃ若くしてホームレス真っ逆さまなこと。途方に暮れて公園でボーっとしていたこと。

 

 いつの間にか隣に座っていたピカリちゃんは、話を聞き終えて「じゃあさ」と指をピッと立てた。

 

「わたしのお父さんに相談してみよっか? お父さん、この辺の顔役だから何かお仕事くれるかも」

「マジで!?」

 

 思わず僕は、立ち上がってピカリの手を両手で握りしめていた。

 

「ぴぃ!?」

「ありがとう! ありがとう! ホント助かる! 女神! ピカリちゃん天使ゃあああああああああああああああああああ!?」

 

 握りしめた手から、大量の電気が僕に流れ込んできた。

 

 でんきショック。

 頭の天辺から足のつま先まで針で刺したかのような痛みが痛い痛い痛い!

 

 反射的に手を放し、後ずさる。

 し、し、し、舌が痺れて、上手く喋れない……。

 

「あ! ご、ごめんつい……。で、でも女の子の手をいきなり握ったら駄目だよ!」

「ご、ごえんなはい……」

 

 ピカチュウの血が混ざっているのは伊達ではなく、しっかりと電撃も使えるようだった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 痺れが取れるまで少し休憩してから、僕らはピカリちゃんの家に向けて歩いていた。

 

 晩御飯もご馳走してくれるとのこと。

 ピカリちゃんマジで天使か?

 

「トキヤさんって此処に来るまでは何をやってたの?」

「ポケモントレーナー、かな。ちょっと事情があってね、大した実力も無いのに全国を旅してたよ」

「えっ!?」

 

 ピンッ! とピカリのピカ耳とピカ尻尾が垂直に立った。

 

「ポケモントレーナー!? 全国を旅!?」

「お、おう……そんなに驚くことか?」

「わ、わたしね、外の地方に出て、全国を旅するのが夢なの。一流のポケモントレーナーの手持ちとして、色んな世界を旅するの!」

 

 目をキラキラさせて、尻尾をパタパタと振りながら夢を語るピカリちゃん。

 

 夢見る少女って感じだ。

 ……ん? 外の地方に出る?

 

 隔絶された地方だと思ったけど、外に出る手段があるってことか? いやでもポケモンと人間の混血(ミックス)が外の地方で見つかったら大変なことになるよな……。

 

「外の地方に出る手段があるの?」

「うん、『アルセウス杯』で優勝するとね、わたしたちみたいな混血はポケモンか人間の『どっちか』になって外の地方に出ることが出来る……らしいの!」

「アルセウス杯?」

「カミヨ地方の中心にある『てんくうのはしら』で開催される、ポケモンバトルの大会だよ。一年に一回、この地方で最強のポケモントレーナーを決めるの」

 

 チャンピオンズリーグみたいなものか。

 優勝者は、混血を純血へ。ポケモンと人間の混ざった存在から純粋な存在に……。

 

「――……!」

 

 目を、見開く。

 

 これだ。

 これならもしかして、と。

 

 『金色に輝く』僕の右目を右手で抑えた。

 

「? どうかした?」

「い、いや……」

 

 ピカリちゃんが顔を覗き込んで来ていたので、慌てて手を振って誤魔化す。

 

 右目が疼く……みたいなポーズを取ってしまった。

 そういうのはもう卒業したのだ。恥ずかしい恥ずかしい……。

 

「…………」

 

 そうだ、落ち着け。

 

 僕が地方最強のポケモントレーナーを決める大会で優勝する? 無理に決まってるだろうそんなの。

 

 僕はジムバッチ4つで挫折した男だぞ。

 一瞬、この地方に来たのは偶然じゃなくて運命だったとかそんな風に感じてしまったが、勘違いも甚だしい。

 

 自覚しろ、自惚れるな、僕は凡人だ。

 

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