ポケットモンスターMIX ~時神の瞳を持つ者~   作:万年レート1000

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プロローグ③:さいしょのいっぴき

 フィオタウンに来て、一か月が経過した。

 

 幸い、ピカリちゃんのお父さんピカチュウのおかげでホームレスルートは回避。

 毎日ポフィンを作る仕事に精を出し、夜はお父さんピカチュウが融通してくれた使われていない倉庫の片隅で眠りにつく。

 

 たまの休みには、遊びに来たピカリちゃんに旅していた頃の話をしたり、この地方の風習や文化を調べたり。

 

 そんな日常を遅れているのもホントお父さんピカチュウとピカリちゃんのおかげですありがとうございます。

 

 二人の家には足向けて寝れませんわ。

 

「ふぅ……」

 

 冷たい水で顔を洗って、一息。

 

 今日は休みだ……とりあえず買い出しだな。

 タオルで顔を拭いて、鏡を見ながら身だしなみを整える。

 

「……ん?」

 

 鏡に映る自分の顔に、違和感を覚えた。

 

 相変わらず金色の右目以外酷く凡庸な顔だが……右目の輝きが、若干強くなっているような?

 今まで透明感のある金色だったのに、色が濃く……なっている。

 

 眉をしかめる。

 

 まさか、ディアルガとの融合が(・・・・・・・・・・)進んでいる(・・・・・)

 

(いや――)

(た、多分気のせいだろ。十年間何も無かったんだから、今更今更……)

 

 頭を振って、思考を遮る。

 

 それより買い出ししないと朝ごはんも無いぞ。

 この前ピカリちゃんに教えてもらった美味しいパン屋に行こう。

 

 倉庫から出て、町に繰り出す。

 やはり言葉が通じるのは大きいのだろう。人とポケモンが、他の地方と比べても密接な関係にある町だ。

 

 人と、ポケモンと、その子供である混血児が仲良さそうに歩いていたり。

 当然のようにポケモンが店を開いていたり……ポケモンが人間とあまり変わらない振る舞いをしていて、未だに違和感はあるがまあ慣れてはきた。

 

「ん?」

 

 公園を横切るとき、ふと見慣れたピカ耳が目に入った。

 

 ピカリちゃんだ。

 公園の広場で、知らない男と話している。

 

 ナンパか? いやでも、男の傍らには茶髪ツインテールの女の子が控えていた。

 女連れといてナンパは無いか……ていうかあのツインテール娘、赤い羽根が生えてるんだけどもしかして何らかの鳥ポケモンの混血(ミックス)か?

 

 茶髪、鋭い目つき、赤い羽根……この辺りの特徴から考えると、オニスズメ?

 赤茶色のラインが入ったセーラー服っぽい服に、雀のワンポイントが入っているから多分そうだろう。

 

「――から、……の、仲……に……」

「……っと、……たし……」

「あー! もう! …………わね! ……から、…………っ!」

 

 会話の内容は途切れ途切れにしか聞こえないが、揉めてるのか?

 どうしよう、会話に割って入った方がいいかな、とか考えていたその時だった。

 

「……!」

 

 オニスズメ娘が、男が何かしらの指示出した瞬間『みだれづき』を放った。

 

 放たれた五発の突きの内、三発が命中。

 ピカリは大きく後ろに退くと、ピリピリと電撃を体に纏いだす。戦闘態勢だ。

 

「ちょ、ちょっと待ったー!」

 

 思わず、ピカリちゃんとオニスズメ娘の前に割り込む。

 公園とはいえ、町中でいきなり何やってんだこいつら!

 

「何だい君は、そのピカチュウのトレーナーか?」

「…………いや」

「違うんなら、邪魔しないでくれないかな。今俺がその子を勧誘しているんだ」

 

 勧誘?

 あ、この男ポケモントレーナーか。

 

 ピカリちゃんが『一流トレーナーの手持ちとして旅をしたい』って言ってたから何となく察していたが、本当に混血(ミックス)を手持ちにしているトレーナーいるんだなぁ。

 

「どきなさいよ、あんたピカリの何?」

 

 オニスズメ娘がにらみつけてくる。

 気の強そうな女の子だ。……なんかどっかで見たことあるような?

 

「…………」

 

 改めてトレーナーの男に目を向ける。

 白金色の髪の毛が特徴的な、キザなイケメンだ。僕より少し年下だろうか。

 自分の才能に自信満々、といった風な雰囲気を醸し出している。

 

 ロケット団とか、ギンガ団みたいな悪の組織って感じじゃないな。

 

 ポケモンを捕まえるために、ある程度バトルで弱らせる。

 それは当たり前のことであり、僕だってやってきたことだ。

 

 でも、ピカリちゃんは半分人間で……女の子で……いやでもトレーナーの手持ちに入りたがってたし……。

 

 ぐるぐると、無言のままどうしよう考えていると、そっとピカリちゃんが僕の肩に手を乗せてきた。

 

 微笑んで、彼女は前に出る。

 ……余計なお世話だったのだろうか。

 

「ピィィイカァアアア! チュゥウウウ!」

 

 でんきショックが、ピカリちゃんの頬を伝い、手の先から放たれる。

 でんきタイプの技は、ひこうタイプには効果抜群。

 

 当たれば大きなダメージになるだろう。

 

「ジュン、かげぶんしん」

 

 しかし攻撃は外れた。

 

 かげぶんしんは自身の分身を生み出して、相手を惑わし回避率を上げる技だ。

 オニスズメに覚えさせるには確かわざマシンを使う必要があるっけ。

 

「嘘! かげぶんしん!? 何で!?」

「ふふん! これがタイトの力よ!」

 

 驚きのあまり動きが止まるピカリちゃんと、勝ち誇るオニスズメ娘(名前は『ジュン』のようだ)。

 

 いや、わざマシンで技覚えたくらいでドヤるなよ。

 

 …………待てよ? そもそもポケセンすら無いこの地方にわざマシンはあるのか?

 

「きゃあ!」

 

 僕の思考を遮るように、ピカリちゃんが悲鳴と共に攻撃を受ける。

 仕返しとばかりに電撃を放つが、雷鳴は虚しく空を切るばかりである。

 

 気づけば、展開は一方的なものになっていた。

 傷ついていくのピカリちゃんばかり。逆にジュンとやらはでんこうせっか等の小技には当たれど、本命の電撃は全て的確にかわしている。

 

 ……どういうことだ? 何故ここまで一方的な蹂躙になる?

 ポケモン同士の実力が同じ程度の場合、確かにトレーナーの有無は勝敗に大きな影響を与える。

 見たところピカリちゃんとオニスズメ娘の力量はほぼ一緒。

 

 だが、タイプ相性はピカリちゃんが圧倒的に有利なのだ。

 

 タイプ相性と、トレーナーの有無を加味して、ほぼ互角の勝負になると予想していたのだが……現実は一方的な蹂躙だ。

 

 見たところ、あのタイトとかいうトレーナーが特に優れた指示をしているわけではないのに。

 

「ジュン、つばめがえし」

「きゃあああああああああ!」

 

 瞬間、

 赤い羽根による必中の攻撃が決まり、ピカリちゃんが大きく吹き飛ばされた。

 

「ピカリちゃん!」

 

 思わず反射的に駆け寄る。

 …………ぎりっぎり戦闘不能ではないが、あと一発でも何か喰らったら終わりだろう。

 

「はぁ……! はぁ……! これが……トレーナーの力……」

 

 肩で息をしながら、まさか正面対決で負けるなんて、と呟くピカリちゃん。

 

「……? どういうことだ? あのトレーナー、大した指示はしてないぞ? あれなら僕の方が上手くできるくらいだ」

「……ホント?」

 

 ピカリちゃんは物凄く期待を込めた目でこちらを見つめてきた。

 

 そんな目で、見つめられても。

 あくまで駆け出しトレーナーよりマシってだけで、才能自体は凡人中の凡人、ピカリちゃんがお望みの一流トレーナーどころか三流に届くかも怪しいトレーナーだ。

 

 そんな僕の内心なぞ知らず、ピカリちゃんは語りだす。

 

「あのオニスズメの子、わたしの幼馴染でね、ライバルなの」

 

 幼い頃から、競いあってきた。

 『同じ夢』を持つもの同士、切磋琢磨しあってきた幼馴染だと。

 

「わたし、負けたくない、あの子には負けたくない」

 

 僕の服の袖を掴み、震えるピカリちゃん。

 一緒に戦って欲しい、とその目は如実に語っていた。

 

 目を閉じる。――ふと、脳裏に浮かんだのは昔の仲間たち。

 

 『負け』なんてものは、何回何十回も経験してきた。

 

 それでも何度だって僕たちは『負けたくない』と立ち上がって、負けて、立ち上がって。

 

 負け続けたその先に、最初に立ち上がれなくなったのは僕だった。

 

 ジムチャレンジは諦めよう、と彼らに告げたのは僕だ。

 そんな僕が、今更どんな顔して夢を追いかける少女のトレーナーになれるというんだ。

 

 ゆっくりと目を開けると、そこにはモウカザルが居た。

 

「――――え?」

『もう、いい』

 

 倒れて戦闘不能になったモウカザルに手を添え、『僕』は声をかける。

 

 なんだ、これ。

 体の自由が利かない、これは……ノモセジムに最後の挑戦をしたときの記憶?

 

 記憶にしては鮮明で、妄想にしてはあまりにも現実すぎる。

 まるでこれは……そう、過去の映像を直接見させられているような。

 

『モウカザル、よくやった。お前は頑張った。負けたのは僕の実力が足らないせいだ――すまない』

 

 ああ、そうだ。この敗北を最後に僕はジムチャレンジを諦める。

 

 倒れたモウカザルが、震える手で僕の服の袖を掴んで立ち上がろうとするのを、僕は『もういいんだ』と諫めていた。

 

 ピカリちゃんの姿が、この時のモウカザルと重なる。

 

 歯を食いしばって、眉間に皴を寄せて、モウカザルはこの数秒後に鳴き声と共に気絶する。

 

『……たくない』

 

 それは、聞いたことある鳴き声で、聞いたことない言葉だった。

 

 記憶ではただの鳴き声だったその声が、モウカザルの声が。

 今の僕には――確かに理解できる。

 

 チエのみ。

 ポケモンの言葉が、分かるようになる不思議なきのみ。

 

『――いやだっ、負けたくない、負けたくない、トキヤ、トキヤ、ボクはまだ、諦めたくなんてない……!』

 

 そうしてモウカザルは目を閉じる。

 

 同時に、過去の映像は終わって視界に現在の世界が戻ってくる。

 

 ずきり、と右目の奥が僅かに痛んだ。

 

 震える唇で、叫ぶ。

 

「僕は……僕は馬鹿か! 何でそんな当たり前のことに気付かない!」

「!?」

 

 急に大声を出した僕に驚いて、ピカリちゃんが肩を震わしたが、止まらない。

 

「僕だけが負けたくないとでも思ってたのか!? そんなわけねーだろ! ポケモンたちだって負けたくないに決まってるだろ! 一人で諦めてんじゃねえよ! ポケモンはペットか!? 戦う道具か!? 違うだろ! そうじゃねえだろハセガワトキヤァアアアアア!」

 

 肩で息をしながら、涙を袖で拭う。

 僕は馬鹿だ。凡人なんかじゃない、どうしようもない馬鹿だ。

 

 でも、だから。

 

「――『仲間』たちに謝らないといけないんだ」

 

 モウカザル、コロトック、ミミロル。

 きっとあいつらもまだ生きている、何処かにいるかも分からないけど、この世界の、何処かで。

 

 あいつらを探しに行くには、この地方を出るしかない。

 

 出る方法は、一つだ。

 

「だから、僕と一緒に戦ってください」

 

 頭を下げて、手を差し出す。

 

 ピカリちゃんは少し戸惑いながら、それでも嬉しそうな笑顔で、僕の手を握り返してくれた。

 

「よろこんで!」

 




主人公のフルネームは『ハセガワ・トキヤ』です。
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