ポケットモンスターMIX ~時神の瞳を持つ者~ 作:万年レート1000
ピカリちゃんの手を引いて、立ち上がる。
さて、トレーナーになると決めたわけけど、生憎モンスターボールを持っていない。
ていうか
「名前を」
「ん?」
「わたしに新しい名前を付けて。それがこの地方の、トレーナーとポケモンの契約の証なの」
契約!? 新しい名前!?
……あ、大仰な単語が出てきて一瞬びっくりしたが、よく考えたら捕まえたポケモンにニックネームを付けるというのは他の地方でも普通にあることである。
それの延長線上として、カミヨ地方の風習としてポケモンを捕まえるてニックネームを付けることを契約と評しているのだろう、と自分なりの推論で一旦納得する。
後でこの地方のトレーナーとか捕獲について詳しく聞こう。
とりあえず目下の問題点は、僕がニックネームを付けないタイプのトレーナーだったことかな……。
「おい、そのピカチュウは俺が捕まえようとしていたポケモンだ。……横取りする気か?」
「あっ」
僕らのやり取りを静観してくれていた男が、口を挟んできた。
だがその口調に刺々しさは無く、一応立場的に言っておかなきゃな……といった感じの口調だ。
初対面の印象では生意気盛りの調子乗った駆け出しトレーナーだと思っていたけど……僕らのやり取りがひと段落終わるまで待ってくれていたことといい、案外良い奴なのかもしれない。
ピカリちゃんは彼とオニスズメ娘に向き合ってぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい、アナタたちとは一緒に行けません」
「そうか」
「……ピカリぃ……!」
男は、まあそうだろうな、と素直に頷いたが、オニスズメ娘の方はまだ納得できていないようだった。
歯ぎしりして、ピカリちゃんを睨みつける。
「ごめんねスズ――いや、今はジュンだっけ。確かにアナタと一緒に旅をするのはきっと楽しい」
「なら!」
「けど、わたしはアナタとはライバルで居たい」
「……!」
オニスズメ娘――ジュンは、照れたような、残念なような、嬉しいような、複雑な表情と共に顔を真っ赤にした。
なんだこの二人、結構微笑ましい関係じゃないか。
「だとさ、……残念だったな、ジュン」
「うっさいうっさいうっさい! ニヤニヤすんな! いいわよ別に! 元から大して一緒に行きたいなんて思ってなかったし! 誘わなかったら不機嫌になるかなって仕方なく一声かけてあげただけだし!」
「……そっか」
「そこの男! 契約するなら早くしなさいよ! この際正々堂々とぶちのめして、あたしの経験値にしてやるわ!」
リアルツンデレだ、初めて見た。
しかし、契約を早くと言われても、良い名前が咄嗟に思い浮かばないんだよな……。
もういっそ安直と思われてもいいから『ピカ』とか……?
どんな名前がいい? ってピカリちゃんに聞くのもなんだかなぁ。
可愛い娘だから、可愛い名前を付けてやりたい。
ピカチュウ……ピカ……チュウ……ピッピカ、チュウチュウ。
いかん、種族名をもじる方向で考えている辺り本格的に名付けセンスが僕には無いことが分かる。
可愛い名前。可愛い名前。
……あ。
「――……『チュチュ』、とかどうだろう」
「――思ってたより全然可愛い感じ。うん、良い、凄く良い」
ホッと一息。
良かった、気に入って貰えたようだ。
「今日からわたしは……チュチュ! さあ行くよ、
「! ああ、やろう、
『さん付け』も、『ちゃん付け』も要らない。
今日この時から、僕らは仲間だ。
仲間にそんなもの必要あるものか。
戦闘、開始。
久しぶりの本気戦闘だ。
チュチュの体力は残り僅か。
対してジュンの体力はまだ殆ど健在。
けどタイプ相性を考慮すれば、やってやれないわけではない筈だ。
集中。
……。
…………?
(何だ?)
上手く言葉に出来ないが、実際に何かがあるわけではないのだが。
チュチュとの間に、『繋がり』を感じる。
「ジュン、みだれづき」
「チュチュ、避けろ!」
一発喰らったら終わりなところに連続技とは中々に容赦が無い!
迫りくる硬質化した手刀の乱れ突きを完璧に避けることは至難の業だ。
けど、それでもチュチュの素早さと小柄な身体なら……今、このタイミングで……。
「「そこ!」」
チュチュと声がシンクロする。
チュチュは、僕が思い描いた理想の避け方と寸分違わぬタイミング、動きで攻撃をかわし、さらに背後を取った!
「でんきショックで反撃!」
「ピィカァ……チュゥウウウウ!」
これ以上無いくらい完璧なタイミング――思い描いた通りの威力と範囲の電撃が放たれたが、まるで背中に目が付いているかのような動きでジュンは電撃の範囲外へと即座に離脱した。
思わず、笑みが零れる。
そりゃトレーナーが居るポケモンの方が圧倒的に強いわ。
人とポケモンの『距離が近い』この地方で、『トレーナーが居る』というのがどれだけ圧倒的なアドバンテージを得ることが出来るのか、今の攻防で何となく理解した。
背中に目が付いているのではない。
背中にはトレーナーが居るのだ。
ふと、相手のトレーナーと目が合った。
笑っている。そりゃそうだ! だってこんなの楽しいよ!
確かに感じる、チュチュとの『繋がり』。
呼吸を合わせろ、チュチュの隙を埋めろ、僕が考え、チュチュが動く、二人で一個の生命体になったかのような、感覚。
研ぎ澄ませ、研ぎ澄ませ研ぎ澄ませ研ぎ澄ませ――!
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『チュチュ! でんじは!』
『ぎっ!?』
麻痺効果のある電磁波がジュンに当たる。
よし、お互いにトレーナーが付いている以上、全部の攻撃を避けられるわけではない。
でんきショックに関しては最大限警戒されているだろうから、一工夫必要かもしれないが……そのためのでんじはだ。
麻痺状態になったポケモンは、すばやさが著しく下がる。
これでこちらの攻撃を避けにくくなった筈だ。
『ジュン、つばめがえし!』
『ぁ、あああああああ!』
が、電磁波に怯まずジュンはチュチュへと突貫した。
空から急降下しての、攻撃は麻痺による影響を最低限に抑え襲い掛かる……!
『きゃああああああああ!』
つばめがえしは必中技。
半端な回避行動は意味を成さず、わずかに残っていたチュチュの体力を削りきる。
くそ……!
僕らの……負けだ……!
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「…………!?」
研ぎ澄ませ、と。
集中力を研いでいたその時、右目を通じて上記のような映像が、僕の脳裏を巡った。
何だ、今の。
確かに次はでんじはを撃って麻痺状態にしよう、と考えていたが……。
「ぐっ……!?」
右目が、熱い。
何だってんだ一体……!
「? トキヤ?」
っ、いけないいけない。
僕の動揺が伝わったのか、チュチュが不安そうにしている。
考えるのは後だ。
でんじはは……多分意味が無い!
なら、ここで撃つべきなのは……。
「チュチュ、あまえる!」
チュチュは可愛く甘えるようにジュンのことを見つめた。
あまえるは、相手のこうげきをがくっと下げる変化技。
ただあまえるだけと侮るべからず、『技』にまで洗練されたその仕草は、問答無用で攻撃力を下げてくれる。
これで――。
「っ、ジュン、つばめがえし!」
「にゅぅうううう! 可愛いからって容赦は……容赦はぁ!」
容赦はしてもらう。
攻撃力の下がったつばめがえしを受けたチュチュは、ギリギリで踏みとどまった。
「チュチュー! でんきショックだー!」
「うん! ピィカア……! チュゥウウウウウウウウウウ!」
「しまっ――」
つばめがえしの後隙で、ろくな回避行動はとれないし距離も近い。
外す要素は……無い!
チュチュの全力全開のでんきショックが、ジュンを直撃した。
効果は抜群だ。
大きなダメージを受けたジュンは、膝をつき、倒れた。
僕の……いや。
僕らの、勝ちだ!