ポケットモンスターMIX ~時神の瞳を持つ者~ 作:万年レート1000
「ふむ……成程ね」
なんやかんやあってチュチュの家に帰ってきた僕たちは、今日あった出来事をお父さんピカチュウに報告した。
お父さんピカチュウは、報告を最後まで聞き終えた後、座布団の上で胡坐をかき、腕を組みながらうんうんと頷いて静かに口を開く。
「ピカリ……よかったじゃないか、お前ここ最近トキヤくんトレーナーになってくれないかなぁってぼやいてたもんな」
「お、お父さん! そういうの言わなくていいから! もう!」
「そしてトキヤくん、ふつつかな娘だが、よろしく頼むよ。トレーナーと一緒に全国を旅することは、この子の大事な夢なんだ……」
「はい、わかりまし「なんて、言うと思っているのかぁ?」……え?」
ぴり、とお父さんピカチュウから電気が漏れる。
え? あれ? 今すんなりと認めてもらえる流れじゃなかったのか?
「大事な一人娘を……男と二人旅なんてさせられるかぁ! お父さん許しませんよ!」
「え、えええええええええ!?」
そ、その発想はなかった!
でもそうか、考えてみれば当たり前だ。
ポケモンも混血も人間も、この地方では全くの同価値。
自分の娘が男と二人で旅に出るなんて、父親としては受け入れがたいだろう。
チュチュの見た目は十歳前後の少女に近い。
十歳といえば、ポケモントレーナーにもなれる、もう立派な成人女性だ。
「ぴ、ピカチュウさんの言い分はご尤もですが……大丈夫ですよ! 僕、チュチュのことを『全くそういう目で見てませんから』! ――あばばばばばばばばばばばばば!?」
「お前の目は節穴かぁ! うちの娘世界一可愛いだろうがぁ!」
極大の電流が、僕を襲う。
いやどうしろというんだ! 確かに可愛いけど『そういう目』で見れるかどうかは別でしょうが!
僕の守備範囲はおとなのおねえさんなんだよ!
……ていうか今、二方向から電撃が飛んできた気がするんだが? っとチュチュの方を見ると、ぷいっとそっぽを向かれた。
……なんなんだ一体。
「――とはいえ、トレーナーとしてすでに契約が完了しているなら仕方ない。娘の夢でもあるしな」
「! お父さん!」
「ただし! 条件がある!」
条件?
お父さんピカチュウは、戸棚から一枚の紙を取り出して僕らの前に広げた。
これは……『タウンマップ』?
「フィオタウンが、此処。そしてその隣に大きな森があるだろう?」
ピカチュウの小さな指が、大陸の端にある小さな町を指差して、そのまますーっと隣にある森を指差した。
森には、『シェイミーウッド』と銘打たれている。
「このシェイミーウッドという森で、もう一匹ポケモンを仲間にしてきなさい」
「仲間を……」
「この地方の捕獲は、余所の地方と『勝手が違う』。トキヤくんがこれから先カミヨ地方のトレーナーとしてやっていけるか、証明してみなさい」
成程。
暗に二人旅は絶対許しませんよということか……。
どっちみち、手持ちポケモン一体じゃポケモンバトルは厳しい。
元々仲間は増やすつもりだったのだから何も問題は無いな。
「分かりました。ところで一つ教えてもらいたいのですが、モンスターボールは何処で売ってますか?」
「そんなものはない」
「えっ」
タウンマップを丸めて、僕に渡しながらお父さんピカチュウは言う。
「じゃ、じゃあどうやってポケモンを仲間にすれば……」
「交渉」
「こ、こうしょう……」
「ネゴシエイト」
何故英語で。
い、いや、そうか、この地方では、ポケモンと『言葉が通じる』のだ。
だから、仲間になってもらうように交渉する。
モンスターボールで捕まえるというやり方が乱暴に感じるくらい平和的な捕獲方法だ。
「大丈夫、結構いるんだよ、トレーナーの手持ちになりたいっていう野生のポケモンって」
「そ、そうなのか?」
不安げな顔をしていた僕を、安心させるようにチュチュが言う。
「わたしだってそうだったじゃん。ポケモンが強くなるには、トレーナーの下で戦うのが一番早いからね」
「そ、それもそうか。よ、よし、いっちょやってみるか」
拳を握り締め、覚悟を決める。
成程確かに、この地方の捕獲は『勝手が違う』。
バトルで弱らせて、モンスターボールを投げればいいわけではないようだ。
でも、こんなところで躓いてなんかいられない。
僕らの旅はまだ始まってすらいないのだから。
「……あれ? でもあのタイトとかいうやつ、チュチュにバトル挑んでなかった?」
「あ、あれはどちらかというとわたしが挑発したっていうか……い、いや、結構あるあるなんだよ!? 野生のポケモンが、トレーナーの力量を確かめるために勝負を挑むのって! 何その顔、わたしが特別好戦的ってわけじゃないからね! ねえ聞いてる!?」
*****
カミヨ地方には六つのジムがあり、それらを制覇した際に貰える『ジムバッチ』を全て集めた者のみが『アルセウス杯』への参加資格を得ることが出来る。
という説明を、道中チュチュにして貰っていた。
必要な数が八つではなく六つになったくらいしか、他の地方のいわゆる『ポケモンリーグ』との差異が無いようで、すんなりと理解することが出来て助かる。
六つなのは、多分他の地方と比べると物理的に土地が狭いからだろうか。
タウンマップを見た限りでは、シンオウ地方の三分の二程度の広さしかないようだ。
「着いた……」
シェイミーウッド、と看板が立っている森の前に辿り着いた。
結構広い森のようだが、チラホラと人が出入りしているようだ。
資源や果実が豊富な森で、道も森にしては大分整理されていることから、近隣の町への通り道やポケモントレーナーの修業の場として利用されているとのこと。
意を決して、入る。
木々によって太陽光が大分遮られているからか、中は薄暗くて少し涼しい。
「ねえねえ、トキヤ、どんな子を仲間にするの?」
「そうだなぁ、とりあえず、ひこうタイプかみずタイプがいいかな。チュチュとの相性補完も良いし、『そらをとぶ』や『なみのり』を覚える子は是非欲しい」
前の旅では、ちょっと運が悪くてひこうタイプもみずタイプも仲間に出来ていなかったが、そらをとぶもなみのりも、ひでんマシンを持っていなかったから後回しにしていた。
でも今回はチュチュがでんきタイプであることを考えると、弱点のじめんタイプに対抗できるひこうタイプかみずタイプ……あるいはくさタイプ辺りを仲間にしておきたい。
じめんタイプを育ててやる! と捨てセリフを吐きながら立ち去って行った白金色の髪をしたライバルを思い浮かべながら、森の中を歩く。
ポケモンは草むらから飛び出すものだ。整理された道よりも、獣道を行こう。
そうして歩くこと数分。
その瞬間は唐突に来た。
「あ! ムックルだ!」
「!」
チュチュが指を差した先に、木の枝にとまってきのみをついばむムックルの姿があった。
ムックル。
シンオウ地方にも居る鳥ポケモンの一種で、白い体躯に黒い模様、つぶらな瞳が特徴的な小型のポケモンだ。
うん、欲しかったひこうタイプではあるし、文句なしだ。
ただ……。
「? どうしたの? げんなりして」
「い、いやちょっと、前の旅でムックル捕まえようとモンスターボールを三十五個無駄にしたうえに捕まえられなかったことを思い出して……いやいや」
弱気になっちゃいけない。
今からするのは捕獲じゃなくて交渉だ。
そう、つまり運じゃなくて僕の交渉力に左右されるというわけだ。
それなら大丈夫、といえるほど自信家ではないが、少なくともげんなりしていては駄目だろう。
「おおーい! そこのムックル!」
「?」
呼びかけると、ムックルは食事を中断してこちらを向いた。
「僕の名前はトキヤ、ポケモントレーナーだ。今ひこうタイプのポケモンを募集していてね、よかったら話を聞いてくれないか?」
「…………」
ムックルは、値踏みするような目で僕とチュチュを交互に見つめる。
迸る緊張感。
少しの沈黙の後、ムックルはその小さなくちばしを開いた。
「オウフwww勧誘キタコレwwまさか拙者が働けと言われる日が来るとはwww」
「…………」
「…………」
「しかもwwwパーティメンバーには可愛らしいロリッ娘もいるとかwwwこりは我が世の春が来たというやつではwww? ママンに巣を追い出された時には途方に暮れたけど、まさかトレーナーの手持ちに勧誘されるフラグだったとはこのムックルの目をもってしても見抜けなんだwww」
「…………」
「…………」
僕とチュチュは顔を見合わせると、同時に頷いた。
「さあマスターwww拙者に名前を……」
「ごめんなさい取り消します!」
僕とチュチュは、同時に逃げ出した!