ぎゃぐです!
楽しく読んでいただけると幸いですー。
バレンタインデーは、チョコの日でなければむしろそれに篭められた愛の日であって然るべきだろう。
そうでなければ、その名の由来となった聖ヴァレンタインの死に至るまでの愛への奉仕(諸説あり)が、意識されなくなってしまうに違いない。
そう思い、私は世の風習に激怒した。
ちなみにこれは先日の節分において恵方に手巻き寿司を食べる習慣の根拠の不透明さから怒り心頭になったこともあるので、今月だけでもう2回目か。
取り敢えず、私はあまりに怒ってこう弟にあえて笑顔を作って話しかけるのだった。
「くっくっく……弟よ。私は今からこの世を……はちょっとムズそうだから学校を震撼させる悪事を行おうと思う」
「あー、何。この前姉ちゃん、鬼の恐怖というものを思い出させるって学校に鬼のお面被って行ったのに直ぐ様部活の顧問に取り上げられたって、泣きながら家で恵方巻かぶりついたばっかじゃない」
「くっくっく……もう私は恵方が分からないからってその場で横回転しながら手巻き寿司を頬張っていたあの時の私ではないぞ? もっと恐ろしいことを思いついた」
「期待はしていないし、後始末をするつもりもないけれど、一応姉ちゃんの迷惑行為を避けるためにも何するのか教えて」
「くっくっく……今回はチョコレートの陳腐化を行う! つまり……全校生徒に向けた、手作りチョコレート配布作戦を遂行するのだ!」
叫ぶように言い切った私は、自らの考えの恐ろしさに思わずぶるりと震える。
これから私がするのは聖ヴァレンタインの行いとは真逆の、愛のない行為。本命も友チョコも何も無い無意味なチョコレートの頒布など、ただの糖分と金のバラマキに他ならないだろう。
しかし恐らくはそれによって、本当に愛の籠もったチョコレートが炙り出されるに違いない。
本命ならばきっと私のものより手がこんだものだろうし、また既製品だとしても本当に好きならば私の奇行を越えるためにと告白など発生することだって期待できる。
「くっくっく……」
だが、自然と続く笑い声はどこか淋しいものとなる。
私は正しくなく、いっそ悪だ。役柄として愛なんて望めない立場である。
きっとサンタクロースのようにチョコを背負って現れるだろう私は配布行為を怒られるだろう。半ば私の指導担当になっている陸上部の荒井先生はぶってこないけど、怖い。
だが、それでも愛の日たるバレンタインデーを輝かせるためにも、私はそれを磨いて汚れるハンカチのようなものでいいと思うのだった。
そしてそのために、私は弟に頭を下げる。目的のためには恥をも忍ぶなんて、ますます悪役っぽくていいなと思いながら。
「弟よ。ついては一緒に買い出しに行ってはくれないか?」
「えー……目的を考えたら一粒配る程度でいいんじゃないの?」
「うー……だって、折角のバレンタインだし少しは盛ってあげたいし……出来れば先生とかにもあげたなあ、って思うからさあ……」
「あー。分かったよ。スーパーに一緒に行けばいいんでしょ? ただ、お金は貸さないよ?」
「大丈夫! 私にはお婆ちゃんから貰ったこのお年玉袋があるからなっ!」
「婆ちゃん姉ちゃんにはオレの倍くれるからなあ……バカな子ほど可愛いってことかなあ」
「ん? 何か言ったか?」
「いいや。姉ちゃんのくくく笑い、悪役っぽくていいなって」
「くっくっく……そうだろう! 昨日寝不足になるまで役作りしていたんだ!」
「それはヤバいね……」
そして、私は嫌がる弟と手を繋ぎながらルンルン気分で買い出しを行い、その後親に無駄遣いを怒られた後に夜中までチョコレート作りを続ける羽目になる。
「くっくっく……しんどい」
最後は砂糖と塩の分類すらよく分からなくなってきた挙げ句、個包装のために朝を迎え思い立ったが吉日とは言うけれども、時間的余裕は作ったほうがいいなと理解した私だった。
そして私は徹夜後一睡もしないままふらふらとチョコの包みを袋いっぱいにして背負ったまま朝日のもとを歩んだ。
やがて部活のために登校をする人から遅刻寸前まで寝入っていただろう羨ましいやつまで平等に、私はチョコの配布を敢行する。
「くっくっく……どうぞ」
「え? マジ? いいの?」
「勿論。くっくっく……貴女もどうぞ」
「私も? 手作りっぽいけどねーこれ全部友チョコなの?」
「くっくっく……それはどうでしょうね……はい、そこの貴方も」
「え? 僕にもくれるの?」
「くっくっく……私の愛は人を選ばないものでね……くっくっく……」
「天使だ……」
「くっくっく……」
ぶっちゃけ疲れていた私には、何でか一部生徒がこちらにしきりに感謝していた理由を聞きそびれてしまったが、まあどうでもいいことである。
そんなことよりチョコレートどうぞ。配布機械となった私はそのうち先生たちの目に留まることになり。
「おい、町田。また何やってんだこれ……手作りチョコ配るとか金配ってんのと大差ないだろうに……」
「くっくっく……あ、荒井先生。チョコどうぞ」
「あ、ああ……まあいただくが……おい」
「それでは横田先生にも、教頭先生にも、校長先生は居ないからだれか渡して……」
「はぁ。職員室に呼び出されて食べ物配りだす生徒とか、前代未聞だな」
「くっくっく……」
何とか私の悪事はそうして完遂。
寝不足眼では私の行いでどれだけの愛が際立ったかはよく分からなかったけれども、取り敢えずはその日家にて爆睡してバレンタインデーは終わった。
後にずっと笑顔で愛を配り歩いたという聖人さながらの生徒の噂を聞くことになった私は誰のことだろうと首を傾げるが、それくらい。
まあやることやったからいいかなと思っていたけれどもそればかりで。
だから、悪因悪果。この世には報いというものがあることを忘れていて。
「くっくっく……いや……笑えないよこの量は……」
私はホワイトデーにて私の机に山と積み上げられた全校生徒の殆どからいただいたクッキーの山をどうすべきか頭を抱えるのだった。