だいたい青い
全てはだいたい青いと思う。諸行無常に温く浸って、それで終いとなりはしない。だから、青。下らない色だ。
季節は夏で青く、頭上で積乱雲が青い。日差しの鋭さは青く体を熱して、そして日差しの中で人は青かった。
留まれないことは、止めである。最上はどこまでも、下らない。だから、目の前では基本的に青くなったのだろう。
なら、うるさい人々の香りは、どれだけ青いのか。それが気になって、街に出てみた。
「青」
「青」
「青」
やはり、だいたい青い。みずみずしい匂いだ。水臭いのである。
「青」
自分の声も青い。だから、それが誰の声なのか分からない。青カビは、黒カビと代われなくても知らなければ変わらない、といったようなものか。
青くなくても、青く見えてしまえば紛れてしまうのがまた怖い。
「青」
「青」
「青」
すれ違う人の波が青を語る。誰も彼もが、青についてしまっていた。青以外にないのは仕方ないことなのか。よく分からない。
「青」
「青」
その、飛沫が顔にかかった。似たような青色が、自分に語りかける。
「青」
「青」
しかし、いくら見知ったその青に対してだって自分は青としか語れない。一度赤と言ってしまえば、きっと自分は青を失ってしまうだろうから。大人しく、青を話して別れるしかないのだ。穏便に、青くあるために。
「青」
青い手が、振られる。やがて、その意も次第に紛れて青くなった。寂しくは、ない。
「青」
「青」
青い屋根の青色の壁。そんな目印の我が家は人気が薄い。帰宅しても、青く過ぎているのは大嫌いだった。
「青」
唯一の人の、小言も青い。だから、どうしようもないのだ。
「青」
ついつい、逃げる。部屋に入り、青い音を立てて鍵を閉めた。
何時から何時まで、青いのだろう。きっと答えは、何時までも、なのだ。辛い。いや、青い。
「青」
机の上のパソコンが、ブルースクリーンのまま、睨んでいる。
水筒幻想
「こんにちは。今日もまた会いましたね」
私は、嘘をつく。乾いた、底の見える愛用の水筒に向けて。
「そっちは、楽しかったですか? ……そうですか。私も同じです。もっと、いい日が続くといいですね」
キラキラと、輝きはしない。ただ鈍く光を返す、その銀色が好きだ。だから、毎日洗って、乾かして、そして見栄を張ってしまう。
愛らしいピンク色の内に秘められた、銀世界に入り込みたくて、騙って過ごす。
「ええ。こっちは、晴れています。すごく綺麗な青空でした。思わず、見惚れてしまいましたよ」
とても、楽しい時間ではない。でも、売れるほど時はある。きっと、その値段は高いのだろうけれど、それでも私は水筒の中に落とし込む。先は、見えている。
「そうですか。今日も嫌いなカレーが。それは悲しい。私が食べてあげられたら良かったんですけど」
有象無象が長けていても、私は短い。だから、どうすればいいか分からない。代わりたいのだ。本当に。
「あ、それが例の彼ですか。こんにちは。あ、随分と優しげな顔ですね。聞きしに勝る、ってものですよ」
私の顔は、使い込まれた銀色に、暗く歪んで映って分からない。ただ、肌色が邪魔だ。
「あはは。おかしい。彼氏さん、私のと交換したいくらい。もちろん、ダメだって分かってるけどね」
堪らない。涙一滴くらいでは、水筒は貯まらないのだ。丸く、縁にそって私の口は歪んでいる。
「わかってる。わかってますって。だから、そんなにムキにならないで。ほら、彼氏さんも困ってますよ。……笑ってるけど。ふふ」
注ぎこむ、注いでいく。観たくないのだ。もう、見たくもなくなった。無色透明ではダメだから、茶色ばかりでペットボトル一本分。
私は紅茶のことが好きなのだろうか。都合よく扱ってばかりだから、それがよく分からない。
「じゃあ、そろそろお時間ですね。…………さようなら、私」
もう、暗くて見えなくなってしまった底に、さようなら。蓋をキュッキュと閉めて、もうおしまい。
そしてまたきっと、明日に続く。
毎夜、こんにちは。ありがとう。