ギルティクラウン -Fake Crown-   作:SUMI

11 / 17
訓練:a preparation-phase2

シャワーを浴びてふらりと疲れた体で廊下に出る。アレから一週間訓練漬けだ。下地はあったからついて来れたものの訓練でこの状態なのだ。少しばかり本番で上手くやれるかどうか心配になってくる。いかん、すこしネガティブになっていた。明日は本番だし、さっさと寝ようとしたとき歌が聞こえた。それが気になって街灯の光に釣られる蟲のように足を運んでいた。

 

大きな窓があるその部屋は元は休憩室だったのだろう。そこに一人いのりが歌を歌っていた。その姿はどこか儚げでいつの間にかその歌に聞きほれていた。

 

「? 誰?」

 

そうしているうちにいのりに気づかれたようだ。素直に出る。でも俺だと分かった瞬間、いのりの表情は何処か硬くなる感触がした。

 

「悪い、邪魔だったらなら退散させてもらうけど」

 

でも彼女の様子は怒っているとは何処か違うようである。俺は何かしたのだろうか?

 

「ねえ、どうしてきたの?」

 

その声にどこか硬いものが感じられる。

 

「どうゆうこと?」

 

「涯のいうことにどうして従っちゃたの?」

 

「ああ、そういうことね…………俺としては従うべくして従ったと思っているからかな」

 

実際に会ってみて協力したいと考えていた。涯だってただ一人の女の子のために動いている一途だし、綾瀬だって特訓は厳しいけど話してみて思いっきりがいいし話していて楽しくなる、友人としていいタイプだ。

 

「? だったらどうして六本木のときに涯のことを断ったの?」

 

「あー……あれは断るべくして断っただけで本当は涯に協力したいと思っていた。でもあることのためにああしてGHQにわざと捕まる必要があったんだ」

 

「どうして?」

 

「ルーカサイト、それによる檻の完成を防ぐ為の保険ともいうべきものかな……最悪の事態が起こったときのために必要だからなんだよ」

 

「…………そっか」

 

俺がわざとGHQに捕まったことが不満らしい、あんだけ心配させたのに実はわざとでしたなんて怒っても仕方がないものだ。だけどいのりは了解してくれた。その健気ないのりの姿を見ていたら、ずっと黙っていればいいのに話してしまうなにかがあった。どこか彼女なら見せてもいいと思えてしまうなにかが。気づけば喋っていた。

 

「俺さ、実は記憶喪失なんだよ」

 

「え?」

 

「七歳から前のこと……正確にはロストクリスマスから前のことが記憶から無くなったんだよ」

 

これは本当だ。十年前の記憶(・・)はない。ただ知識として残っているだけだ。だからこそ、いのりや涯と会ってもすこしだけなにか思うところがあっただけだ。しかもそれは桜満集として知識じゃない、俺としての原作知識からだ。本当に桜満集としてではない。

 

「だからかな、葬儀社に入れば……なにかが戻りそうな気がするんだ」

 

本当は涯の本当の気持ちを知って協力したいとも思っている。でも……知りたいのかもしれない。桜満集の感情を、あのときの夢はただ映像を流していて、俺はそれをただ見ていた観客に近い。

 

「それが俺が葬儀社に入る理由。そういえばいのりはどうして葬儀社にいるの?」

 

俺の質問にいのりの雰囲気が硬く感じられる。やっぱり、この話題は学校のときのヴォイドのことと同じようにあまり踏み込まれたくないことなのかもしれない。すこし気まずそうに話してくれた。

 

「涯はわたしに名前をくれたの…………名前すらもなかったわたしに名前を、世界をくれたの。だから涯についていく」

 

「そっか……いのりはその名前を気に入っているの?」

 

無言で頷いて肯定を示す。

 

「なら大切にしたほういい。さっきも言ったけど俺が記憶喪失なんだ。あの時は自分の名前が世界が怖くて仕方なかったんだ。だからその世界を大切にしながらいけばいいと思うよ」

 

それは嘘のない本当の気持ち。自分の名前を大切に、好きでいられるのはいいことだと思う。なんにもなかったとしてもそれが唯一のものだとしても自分を好きでいられるのは。桜満集でなった直後は本当にその名前が怖かったのだから。そのことにいのりはそう、と短く答えただけだった。まあ、彼女がこのことをどう受け取るかは彼女次第だし、俺のお節介かもしれないのだから。

 

「はは、なんだか説教くさく……へっくし!……湯冷めしちゃったか。長く話しすぎたかな」

 

暖かくなり始めた春といえど夜は流石に冷える。これ以上長居したら明日のテストに影響が出るかもしれない。いのりのほうにも用事があったみたいでここで別れることに。

 

「じゃあおやすみ、いのり。また明日」

 

「……うん、おやすみ、集」

 

おやすみといったいのりがどこか安心できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集と別れた後、いのりは涯と同じ部屋にいた。涯はベットで横になり、いのりは近くに座っている。両方の腕にはチューブが刺されていて、血が抜かれている。

 

涯は集と出会う前の事情により常人よりもアポカリプスウィルスを多く体内に保有していた、下手すればキャンサー化するほどの量を。だけど涯はアポカリプスウィルスを抑えられる理由はいのりにある。彼女の血液にはゲノムセフィラクスが作り出しているワクチンよりも強力な抑制物質が含まれているからだ。そして今、それを透析に似た措置を施していた。

いのりはいつもとは様子が違った。うつむいて思いつめるように悩んでいた。

 

「何を考えている?」

 

「気に……なるの?」

 

いのりは心の何処かでこのことを集に見られたくないと。直前に集の傍にいて、おやすみと言われたとき、他の誰かから言われても何にも感じなかったのにとても安らいだ。笑ってまた明日って言ってくれとき、暖かった。なにもなかった自分を暖かな。集なら既に知っているかもしれない、だとしてもこんな自分を見せたくなかった。他の人には見られてもなんとも思わなかったのに。

 

「集に誤解されるのが怖いのか?」

 

涯の呟いた言葉にいのりは苦い顔をしていていた。葬儀社における恋愛沙汰に涯は禁止してはいない。葬儀社の皆はいのりとの関係を誤解している。そのほうが都合がよかった。涯も、いのりも、その中に巻き込むわけにはいかないのだ。涯は判っている、いのりは集に惹かれ始めている。だけど……

 

(お前が惹かれているのは、それはお前の気持ちじゃない)

 

いのりが集に惹かれているは、いのりから来るものではないこと、それは桜満真名から来ていることを。それゆえにわからなくなっているのだろうとあたりをつけていた。少しばかりいのりは考えた後に

 

「そう……なのかもしれない」

 

やや疑問形になりながらも頷いた。そのことに涯はすこしばかり驚いていた。それはいのりに変化が表れているのだ。その証拠にいのりは集のことになるとすこしばかり多く話すようになっている。

 

「集はなにか知っている……いのりが知らないことを……」

 

「どういうことだ?」

 

「わからない……でも集のこと、すこし話してくれた……昔の記憶がないって言っていた」

 

「何……!?」

 

涯は驚いた。集が記憶喪失なんてしらなかった。だが腑に落ちなかった部分の疑問は解けた。何故あの時集が涯を初対面のように接したのは記憶がなかったから、昔に合ったとしても集には初対面なのだ。

 

だがまだ涯の中にはまだしこりみたいな疑問がこべりついていた。何故王の力を使いこなしていたのか。いや、何を知っているのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、入団テストしてルーカサイト攻略のシナリオの一部の想定として単身、綾瀬が操るシュタイナーと対峙する。目的はシュタイナーの後ろにあるトレーラーへと到達すること。こっちに支給されたのはアサルトマシンガン。

エンドレイヴとこうして対峙するのは二度目。だからこそ分かる。目の前のシュタイナーは核が違う。あの時ゴーチェとは別物だ、誤魔化しの身体強化では到底敵わないと知らしめてくる。

 

『じゃ、始めるわよ』

 

さらには綾瀬には俺に対する油断が一切ない。普通は歩兵一人に戦車を当てるのはあまりには過剰だ。ほとんど歩兵には勝ち目はないだろう。それを示すように周りの野次馬というか観客はこの想定に無茶だろと言っている。だが、その例外を俺は成し遂げている。それを綾瀬は見ていたのだから。

 

「ええ、いくぞ!」

 

だが王の力を持っている以上この状況よりも悪い場面なんて数えきらないくらいに遭遇するだろう。どうにかできなければこの先乗り切るなんて無理に近い。だからこそ、模擬戦としてやるには最適だろう。まずやることは始まった直後即座にシュタイナーの方へダッシュ。

 

『正面突破か。だけど私はそんなに甘くはないわよ!』

 

だが綾瀬もそれに直ぐに反応し、迎撃しようと構えた瞬間急ブレーキ、牽制として銃を撃ちながらすぐさま反転し近くの柱に隠れる。

 

『え!?』

 

綾瀬は俺がエンドレイヴと張り合える能力を持っていると知っているからいきなり向かってくることで即効でシュタイナーを何らかの手段で無力化しようと勘違いしてくれたのだろう。だが俺はそれでどうにかしようなんて微塵にも思っていない。あの時は状況がおあつらえ向きだったからだ。まずは壁際にいたこと、次に銃器を所持していたこと、俺の身体能力が高かったこと、元が低くければブーストしようが高が知れているから。一番大きいのはあのゴーチェが俺をたかが一囚人と侮ってくれたことだ、だからこそ俺は意表をつけた。今回も綾瀬は俺がエンドレイヴをどうにかできると思っているから意表をつけたのだから。

 

いい感じに撹乱できた。そのお蔭で綾瀬は俺を見失っている。その間に隔離施設のときのように身体能力を上げて、あの人がいる場所へ全力へ走る。綾瀬が俺を再び見つけるまでの時間との勝負、これに合格しなければ葬儀社とのみんなに認めてもらえないだろう。

 

「アルゴさん!」

 

その間に目的の人物がいるところ、月島アルゴがいる場所へ辿り着く、アルゴは驚愕していた、すこしばかり離れていたやつが気が付いたら目の前にいたのだから。

 

「失礼ッ!!」

 

とは言いつつも速攻でアルゴからヴォイドを抜き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『してやられた!』

 

綾瀬は僅かばかり焦っていた。少しばかり意表をつかれたのだ。集とは一週間の訓練と隔離施設での戦闘で人となりを見てきた。ひねくれた部分もあるけど基本的に真面目でからかいがいのある人間だ。だからか最初に正面突破しようしたときになにかシュタイナーをどうにかできるのだろうと勘違いしていた。

 

撒かれたあとに探していると見えた柱に隠れるように走る集の姿。でもその走る速度は常人よりも速い。おそらくあのときのゴーチェを無力化したときに見せた異常な跳躍と同じものだろう。

 

『逃がさないわよ!!』

 

だからこそ、視界から外れればなにをするかわからない。全速力で追いかけてみたがそこに集の姿はいない。その瞬間頭上にぞくりと嫌な予感と隔離施設での集が行った出来事が脳裏に浮かび、見上げると空中で逆さになりながら右手でペンライトみたいなものを構えていた集の姿。

 

『きゃ!? なにこれ!?』

 

何かすると感じ、避けようとした間もなく、ペンライトが光った瞬間に綾瀬の視界がすべて真っ暗になる。シュタイナーの計器が件並みエラーと赤い警告を発している。恐らくあのペンライトの、王の力を利用したものなのだろう。だけど目と耳を潰された今の状態ではどうすることも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴから取り出したペンライト型の暗くなるライトを使って目と耳を潰し、身動きできない状態にしてそのままトレーラーへと駆け込んだ。ふうと一息つけた。気が付けば汗をかいていた。

 

「ゴーチェと似たことになったけど何とかなったか……すこし疲れた」

 

今回やったのは奇襲。綾瀬は王の力を一度見ている、何せ当り一帯を無重力にしておきながら剣一つでエンドレイヴ十数両を殲滅したのだから。俺がなにかをしようとした際に直ぐ対応できるように警戒していた。そんな状態でアニメの時のようにしても避けられるのがオチだろう。だから今回はあえて見えるように柱の影に誘導、俺はその直後に柱を使ってジャンプ、そのまま釣られてきた綾瀬にヴォイドを当てただけだ。ようは反応される前に当てればいいだけなのだから。

 

さっきも言ったように綾瀬のエンドレイヴのパイロットとしての腕は高い。それこそ上位に入るくらいだ。いくら俺が王の力を持っていようと綾瀬ほどの相手をすれば、やられる確立もあると思っている。

だから今回は足止めに留めた。

 

流石にこのまま居続けるのもなんだかなと思ってトレーラーから出ると歓声が聞こえてきた。

 

「綾瀬相手にあそこまでやるなんてさ!」

 

「それにすげー動きしていたな!」

 

最初は疑っていた人たちも認めている。気づけばいのりも見ていた。

 

「やられた、警戒していたんだけどね」

 

「あれ? 何時の間に?」

 

いつの間にか綾瀬が車椅子に乗り換えていた。なんだかすっきりした表情でどこかで見たような……ああ、思いっきり殴りあった後の谷尋と似ているんだ。出しつくしたような感じだ。綾瀬も結構本気だったのだろう、その上で出し抜かれたんだ。

 

「さっきよ。それにしてもやられたわ。隔離施設であんだけ暴れていたからてっきり正面から来るかと思ったのよ」

 

「はは、冗談きついよ。正直言ってヴォイドなしでエンドレイヴと戦いたくはないし、それに綾瀬のシュタイナーだと下手したらヴォイドによってはやられる可能性もあったんだ」

 

「え? そうなの?」

 

いくら王の力があっても万能じゃないんだ。取り出す人によってヴォイドの能力も変わるから下手すると戦闘に向かない能力もあると。そのことに綾瀬は納得してくれたようだ。

 

あー、あとアルゴさん、自分のヴォイドが暗闇になるライトだからって落ち込んでいる。意外と気にしていたのね、落ち込んでいる姿になんだか愛嬌があった。

 

そのあとに小さなマル眼鏡をかけた白いロンゲのいかにもインテリだといわんばかりの風貌の人。たしか四分なんとかさんだっけ? その人を先頭にアルゴや大雲さんたちが俺のことを見ていたが最初のここに訪れたときとは視線に篭った感情が違った。

 

「歓迎します、集。今日から君は私たちの仲間です」

 

その言葉に皆も認めている。それに俺はどこか言い様のない自分でもよくわからない気持ち、でも悪くないないと感じていた。そのことにどう返したらいいのかわからなくて、何と言ったらいいのか悩んでいたら。

 

「綾瀬……」

 

「入団おめでとう、それとこれ必要なんでしょ?」

 

そのまま渡されたボールペンを受け取る。

 

「ああ、とは言いつつも必要じゃないことになるようにしたいけど」

 

その直後に大変!とあせった様子のツグミの声が聞こえてきた。ああ、撃たれたのかと思い出した。そしていつの間にか血がにじみ出そうなくらい手を握りこんでいた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。