恙神涯。かつて桜満集が俺になる前の最後の夏に海から流れ着き、姉の真名からトリトンと名づけられた少年。その頃は気弱で引っ込み思案で、桜満集にいつも引っ張りまわれていたけど親友と呼べるほどの仲がよかった。姉の真名に恋し、最後はロストクリスマスの後に強くなると告げて別れた。
実に十年ぶりの再会であるはずだった。すでに恙神涯が知っている集はいない。俺はお前が知っている桜満集ではないのだから。
だからはじめましてだ。トリトン……いや、恙神涯。
さて、成長した彼はくすんだロングの金髪に冷ややかな切れ目の整った顔は何処か危険を連想させるような風貌。イケメンすぎる。トリトンだったころは可愛らしかったのに。どうしてこうなった。
無駄にかっこつけて登場。そのままあっという間にゴロツキの一人をぶっ飛ばした。
強っ! 自分も護身術とか習っているから解る。身のこなしがはんぱないな。たしか五年前にはどこかの国で少年兵として戦っていたんだっけ。それを潜り抜けてきたのだ。強いのは当然なのだろう。こんなゴロツキ程度相手にならないほどに。
でも一人でかっこよく倒すことになんか気に食わなくて涯に気を取られて隙だらけのゴロツキの一人の鳩尾にヤクザキックをかまして沈めておいた。
ゴロツキを蹴散らした後に改めて恙神涯と対峙する。
「あんたがガイさん?」
「ああ、そうだが」
知識として知っているものの確認してみたらあっさりとそうだと言ってくれた。でもなんか怪しく見えてしまう。
「どうした?」
「いや、GHQに追われているってことからテロリストかなんかじゃないのか? しかもリーダーみたいだし、そんな人物が簡単にそうだって言うのがなにかおかしくて」
本当は本人だとわかってはいるが建前の理由を述べたら、確かにといった具合に苦笑いしていた。
「確かにその通りだな。『オウマシュウ』」
「!!どうして俺の名前を!?」
本当はどうして知っているのかは知っているがあえて驚いておく。俺からすれば初対面なんだし。俺が初めて会った人物のように接する姿にいぶかしんでいたが置いとくみたいだ。
「でこれと一緒にいた女はどうした?」
「…………捕まったよ。勢いで逃がそうとしたけど逃げ切れなかった」
「そうか……」
その時のことを思い出して悔しい気持ちになるがそれと同時に涯がどこか安心したような気がした。それは変わっていないことに対するものかもかしれない。それがすこしなにかがざわついた。
その後に自分よりも小さい黒髪のロングに猫耳のカチューシャを掛けた少女のツグミにふゅーねるを奪い取られるように返した後、近くで爆発音がした。
この展開は覚えがある。部室で襲撃を掛けた奴らだと。そいつらが攻撃を始めたんだと。
「ガイ! GHQの白服どもが街に入り込んできます!」
その後に銃撃。悲鳴が入り混じって聞こえる。正直いっていろいろ展開速すぎて現実味がなく感じてしまう。
周りはいきなりGHQが襲ってきたことにパニックを起こしかけている。
「生き残りたくば、俺に従え」
だが涯の一喝でパニックは収まった。涯の姿に他にはない凄みがあった。そのままこの状況を打破する為の指示を出す姿にリーダーとしての凄みがあった。
その状況は原作どおりに…………世界の修正力なのかそれともダァトの意志なのかはわからないが涯たちと分断されてしまった。
これを手放すなと。ああもう、これじゃあ原作どおりの展開だ。そうしようと思っていたけどさ! でもそのまま流されるはなにか気に食わなかった。
そして駆け出した先には横転したGHQのトレーラーがあった。おそらくあのトレーラーがいのりを拘束していたトレーラーなのだろう。だとするならば!
やっぱり! 戦闘によって不自然に盛り上がった場所に彼女はいた。
だが目の前にはGHQの所属するエンドレイヴ、ゴーチェが銃口を向けていた。
この状況下では今更助けに行っても無駄なのかもしれないむしろ自殺行為に等しいかもしれない……だけどな。
「いのりさん!」
誰かになって変わっても人を見捨てるような屑には落ちぶれた覚えはない!!
彼女に向かって必死に走る。だけどゴーチェがそれに気づき俺たちに向けて銃を放つ光景。
「くっそぉ!!」
発射される前にいのりのもとに辿り着き、無駄だと解っててもいのりを抱きしめるように庇う。あたる直前にヴォイドゲノムが砕け、血のような結晶が散らばった。それは運命から開放されるように。
「ここは……まさか……」
目を開ければ、銀の光を螺旋を描く白の世界。そこには俺といのりのほかにはいない。
「がっ!?」
直後に右腕に銀の螺旋が蛇のように絡みつき鋭い痛みがはしる。手の甲になにかの紋章が描かれていた。
「シュウ。お願い……私を……使って」
そう胸元を曝け出すいのり。それは自分の意志なのかはわからない。まるで自分を曝け出すように。人が生きる為に呼吸をするように。それは自然と行なわれた。
『取りなさい、シュウ。今度こそ……』
どこからか声が響いてくる。いのりとそっくりでありながらまったく違う声色。そこにいるのか…………桜満真名。
これを取れと、まだ桜満集を王と選ぼうとするのか。
……いいよ、取ってやるさ。だけどな、あんたが選んだ桜満集としてじゃない。俺として取ってやるよ。
人の心を繋いで形と成す……
『罪の王冠(ギルティクラウン)』を
意識はしっかりとしていながら体は自然と動いてく。右手はいのりの胸へと吸い込まれ彼女の内からなにかを引きずり出していく。
「あっ…………」
銀のプリズムが輝き、右手が結晶に包まれた何かを引きずり出していく。
その結晶は形を成し、美しい剣へと形を変える。これは『心』。それは『命』。形相を獲得したイデア。
俺を中心に王の誕生を祝福するように光が降りた。
いのりのヴォイドを手に銀色の螺旋の中心で俺はかつてないほどの力の充実を感じる。知識の中でもあったヴォイドゲノムによる身体能力の上昇。これならばヴォイドなしでもエンドレイヴ一両ならばどうにかできるだろう思える位に力が溢れていた。
さっきの俺たちを撃った目の前のゴーチェが俺に向かってミサイルを発射する。その数6。
だけどヴォイドゲノムによって身体能力が上昇している今の俺には遅く、この手に持ったヴォイドの力があれば簡単に退ける事なんて可能だ。
片手で剣をミサイルを刺すように構える。すると剣先から銀色の何かが円を描く。ヴォイドの力の円によってミサイルは弾かれ、後方で役目を果たせず爆発。
ゴーチェのパイロットはミサイルが効かないと解ると即座に右手のパイルバンカーで攻撃しようと突撃。
俺も片手で持っていた剣を両手で抱え駆け出す。それは一条の銀閃となってゴーチェを両断した。
ゴーチェの上半身がずれ落ちる姿を尻目に別の意味で驚愕していた。これが王の力なのかと。普通では一人で倒すのは困難なエンドレイヴを簡単に倒す人並みはずれたこの力に。
その直後に後ろからゴーチェの爆発が王の誕生を祝う祝砲にも聞こえた。