英国製のオーダーメイドのスーツを涯は内心驚いていた。傍にはいのりがいる。だがそのいのりは普段は無感情な彼女が人目でわかるほど怒っていた。この部屋にいる他の人も今までにないいのりの様子に声をかけ損ねていた。
「どういうこと? 涯」
いつもは淡々と話すいのりがナイフのように鋭く切り出す。その声には怒りが僅かに乗せられていた。
「集が白服に捕まった。助けようとしたら止められた。どうして?」
集がアンチボディズに捕まったのだ時にいのりは行動を起こそうとしていた。だけどそれは葬儀社でも一番若い見習いの梟によって止められた。それが腹に据えかねているみたいだ。
「そうか、捕まったか」
だが涯には予定道理だ。これでうまくこっちに引き込めると考えていた。
「涯」
だけどいのりには納得がいかないようだ。だからこそここは素直に答えておく。
「ああ、わかったわかった。梟が止めるように俺が命じた」
「こうなること知っていたの?」
「ああ」
涯の肯定の返事にいのりの視線の圧力が増す。
「どうして?」
そう見下ろすいのりの姿に満真名の姿が重なって見えた。表情が変化しない分余計に。それが涯には何かがきた感じがした。
「もちろん我々の計画の成就のためだ」
涯の答えにいのりは首をかしげる。どうしてその答えが出るのか? と思っているのだろう。
「ルーカサイトの攻略。成就にはふたつの『鍵』が必要だ。一つは城戸研二のヴォイド。もう一つはそれを扱うことが出来る王の力だ」
「それと集が捕まることに、どういう関係あるの?」
言いかけようとしたがやめた。涯がわざと集をGHQに捕まえさしたのは既成事実を作るためだ。あの時はっきりと宣言されたのならば説得しようとしても考えは変わらないだろう。だったら葬儀社に入らざるを得ない状況にすればいいだけの話。もっとも集は集で別の目的で捕まったのだが。それは集しか知らないことだ。いのりも涯もルーカサイトの攻略の保険のためにわざと捕まったと知らない。
「おまえが知る必要はない」
涯は自分の目論見を教える必要がないと決め、何も言わず肩にジャケットをかけ次の作戦を告げる。
「俺たちはこれから城戸研二と桜満集を救出するためにGHQ第四隔離施設を攻略する」
その言葉にわずかだがいのりの顔が明るくなっていた。おそらく救出に反応したのだろう。自分も行くと目は語っていた。
「じゃあ…」
「いのり、お前は待機だ」
涯は苛ついていた。集のことでいのりがここまで感情を態度に出すことはこれまでなかったのだから。だけどいのりは言葉に出さなくても涯の待機命令に納得いかない様子だ。
「今回はお前の力は必要ない。集にヴォイドを使わせる予定はないからな。ここでおとなしく帰りを待っていろ。いいな?」
「…………はい」
いのりの返事はいつもよりも遅かった。
いのりは部屋のひとつで待機していた。ふゅーねるを抱えて座っている。
「ね、ふゅーねる……どうして、こんなに寒いの?」
寒い。気温などいったものではない、言葉では言いようのない気持ち悪い気持ちが渦巻いている。GHQに捕まる集をただ電車の中で見送ることしか出来なった。集は平然としていたけどどうされているかと思うと叫びたくなる。
「どうしたら寒くなくなるの?」
ふとふゅーねるにあった傷が見えた。ヴォイドゲノムを奪取したときに壊れて、あの部室でとうとう動かなくなったのを集が届けてくれて仲間のツグミが修理してくれた。
「集……」
おにぎりがくれたときは暖かった。GHQから自分を抱えて逃げ出したときも横転したバンから出たときに駆けつけてくれたときはもっと暖かった。
「集がいれば、いのりは寒くないの?……」
寒いのは嫌といのりは立ち上がった。
あのときの俺の精神状況はあまりよろしくなかったみたいで兵士が入り込んだときに原作知識から展開を知っていることからか急がなければいけないと思い込んでしまい。涯の返事を聞く前に出てしまう。だけど部屋から出る直前に
「城戸研二のヴォイドは重力操作だ!」
と涯の声が聞こえた。
なんとか自分がいた独房へと向かう。周囲では電子錠が壊れたのか自分と同じ囚人がわらわらと蜂の巣を突いたように我先に逃げ出している。それを押さえ込もうと警備員も防衛の為のエンドレイヴが動いていた。だが俺にとっては好都合だった。この混乱に紛れて行動できるのだから。
このままうまくいってくれて欲しいのだが現実はそううまくいかずゴーチェが立ちはだかる。周りには囚人はいない、完全に狙いを付けられた状態だ。
鍛えているといっても所詮は学生。銃ひとつで戦車に立ち向かえるほどには強くはない。ヴォイドがあればゴーチェ一両程度、何とかなるのだがそれすらもない。
その時にふとヴォイドゲノムに関しての記憶が思い出させる。体の中のアポカリプスウィルスを刺激することでヴォイドを形成、それに伴い身体能力が上昇することを。
原作のように綾瀬のシュタイナーが偶然助けてくれるともわからない。だからこそ自分の力で切り抜けるしかない。イメージしろ! ヴォイドを取り出す光景を!
でもあのヴォイドを取り出す時に出る光はない。だけど確実にあの時よりも遥かに劣るが自分の力が上がった感触がした。少々頼りないけど武器もある。構えとは分からないが反動も強引に抑えられる。これならばなんとかなる!
俺はゴーチェが動き出しす直前に直ぐ近くの壁へジャンプ、そのまままた壁を蹴って三角跳び。だがそのジャンプ力は普通ではまず出ない距離。3、4メートルは優に超す距離で非常識な跳躍で一少年では到底出せないに距離に隙が出来る。武器を置いてないほうの肩に乗り即座にゴーチェの首辺りに銃をフルオートで撃ちっぱなしにした。少しの間銃の衝撃で痙攣し、そのまま動かなくなった。
狙いは成功した。エンドレイブにも欠点はある。エンドレイヴが攻撃や衝撃を受ければ遠隔操作しているパイロットに軽減はされるが痛みや衝撃もフィードバックされる。エンドレイヴ自体を倒すのはヴォイドを使わなければ無理だと思っている。だからこそ狙ったのは操作しているパイロット。エンドレイヴ自体が無事でも首に至近距離でありったけの銃弾を当てればパイロットは唯ではすまないだろう。
「っ!?……流石に反動はあるか!」
動かなくなり倒れるゴーチェから降りたときに全身に引き攣るような痛みがはしる。ヴォイドゲノムの身体上昇能力をヴォイドを取り出さずに使用したからだろう。幸いにもすこし我慢すれば無視できるレベルなのが幸いだ。
弾も撃ちつくしてもう不要になった銃を捨てたときに俺は何かに掴まれて持ち上げられた。しまった油断しすぎたか。
俺を持ち上げた機体はゴーチェとは違い細く、全体的にシャープなライン、そして白く塗装された機体。シュタイナー。葬儀社が使っている機体だ。俺にとっては味方になる。
『あんた、いのりに何したのよ!』
マイクから通じて綾瀬の声が聞こえてくる。しかも、不機嫌でイライラしてるのがはっきり分かる。
『あの子がガイの命令に逆らうわけがないじゃないの! おかげで作戦がめちゃくちゃよ!』
「知らん! それはいのりに聞いてくれ!」
原作知識からいのりが来てくれることは知っていたが俺はそう頼んでいなかった。俺が考えていたのは嘘界さんからルーカサイトの目標のボールペンを貰ったら面会のとき涯の作戦に従う予定だったけどな。結局、俺のトラウマ突かれて情けなくなっていのりに励まされて原作どおりになってしまってけどな。さっきまでの自分は正直まともな判断できなかったし、言い訳がましいか。ともかく、いまはいのりの元へ行こう。
ああもう、分かっちゃいるけどもうちょい優しくしてくれ! 後ろからゴーチェが数両迫っていると分かっているけどさ!
いくらエンドレイヴといえば足場が狭ければ力を存分に力を発揮できない。だから綾瀬は俺を抱えたまま吹き抜けになっている監獄搭の踊り場でおろされた。目の前には数両のゴーチェがいた。
「ごめん、ちょっと隠れてて」
流石の綾瀬でも数両のエンドレイヴを同時に相手にするのはきついのだろう。しかも俺を抱えたままは負担になる。
「流石にそのままはきついぞ!」
だからと言っても目の前でおろすのは無責任すぎないかな。大半はシュタイナーに向かっているけど二、三両はこっちに向かっているし。
「たかが学生一人にエンドレイヴ三両は流石にオーバーキル過ぎるぞ、ちくしょう!」
一両だけでも過剰戦力なくせに手に持っている銃はいつでも撃てるようになってる。おそらく暴徒化した囚人の鎮圧用なのかも知れないけど流石にただではすまないだろう。反動がきついけど出し惜しみしている場合じゃないから、さっきもやったようにヴォイドを取り出すイメージし、身体能力を引き上げ、捕まらないように走る。
だけど逃げ場はなく徐々に追い詰められていく、その時上の階の連絡通路が爆発。近くの噴水に何かが落ちた音がした。そちらに視線を向ければ噴水には
『んー!! んー!!』
頭巾が外れこちらを見ている拘束されたままの城戸研二がいた。なにかを言おうとしているが口を防がれている為にくぐもった声しか聞こえない。視界の隅にはロケットランチャーらしきものを構えた涯の姿。さっきの爆発は涯が撃った物なのだろう。偶然なのかもしれないけど俺の近くに城戸を送ってくれた。内心感謝する。
「すこしは黙ってろ!」
この状況で俺がやることは一つ。城戸研二のヴォイドを使い、状況を打破する。ついでにうるさかった城戸を黙らせておく。
出てきたのは銃の形をしていた。能力は重力の操作。涯からすでに聞いている。取り出してからすぐに地面へ向けてヴォイドの力を全開で放つ。
弾は出ず銃口が光り、周囲に光が満たされる。重力の操作によってここ一帯は無重力になり、綾瀬のシュタイナーもアンチボディズのゴーチェも噴水の水も、果ては自分すらも浮いていく。
綾瀬は涯から事前にヴォイドの特徴を聞いていたのか少なくともこの状況がヴォイドによって起きているのだと理解しているが突然の状況に戸惑っている。だがこれでもまだマシだろう、アンチボディズにいたっては何が起こっているか理解できずに唯手足をばたつかせているだけである。
そんな様子がまるで自分のようだな、と柄にないことを考えていた。直前に嘘界さんから自分のこと突かれたせいで感傷的になっているのかもしれない。
憑依した直後のことだ。あのときの俺の精神状況は最悪だった。自分自身すら信じられなくて、何もかもあやふやに感じていたあの頃を。だからかもあの世界で確実だといえないはずなの原作知識に頼っていたのだから。けど…………
「集ーーーーー!!」
上のほうからいのりの声が聞こえてきた。俺に向かって飛び降りている。無条件に俺を信じてくれる人がいるのだから。それに全力で答えよう。
「いのり!」
俺もいのりに答えるために宙に浮いた水を足場にして駆けて行く。いのりは既に重力操作の範囲に入っていて止まっている。
「いのり……俺を信じてくれる?」
返答はいのりへ手が伸びていった。
密かに隠れていたスナイパーがいのりを狙っていた。集がいのりに対して何かを起こす前に邪魔しようとしている。
「邪魔をしないでいただきたい」
だがそれは嘘界によってパンと容赦なくGHQの兵士の頭を撃ち抜いた。嘘界にとって目の前にある光景のほうが兵士の命よりも何倍の価値がある。この光景の邪魔をする無粋な輩の命なんてどうでもいいのだ。
「ぉぉ…………」
プリズムのように銀の螺旋の光を発しながら彼女の胸から巨大な剣を取り出す光景に目が離せなかった。
どういう仕組みなのか分からなかったがセフィラゲノミクスから盗み出されたという『罪の王冠』と呼ばれるコードが関係しているだろうか。
その時だった、一瞬だけ彼がこっちを見たときが気がした。本当に一瞬だったからか気のせいだと考えたが嘘界は間違いなく見たと確信できた。
何故と考えようとしたが直ぐにそんなことは考えから消えた。彼が動き始めた。
まずは何もないはずの宙を踏み出し、銀閃となって近くのゴーチェを両断した。それだけでは止まらず即座に翻して二両、三両と次々に両断し、貫いていく。その光景が嘘界にはまるで剣舞を思わせる幻想的ともいえる舞いに見えた。
だがアンチボディズも軍隊だ、なんとか困惑から立ち直した一両のゴーチェが仲間を斬り捨てて行く敵としてミサイルを彼らに向けて放つが簡単に剣で切り払われ舞を彩どっていく。ミサイルを切り払っていく姿はまるで舞を舞うようで爆炎と銀のプリズムがその舞をより幻想的なものへと昇華していく。
「美しい……」
嘘界は集がエンドレイヴを斬り捨てていく光景に完全に見ほれていた。幻想的ともいえる光を纏い、少女を抱えながら剣を持ち、宙に浮かぶ何十両ものゴーチェを銀の閃光となって斬り捨てていく。
月を背に舞う光景はまるで神が天に還るようだった。
ということで二次創作らしく能力使った独自仕様。
簡単に言えばヴォイドを取り出すイメージして自分の身体能力を上げる自己暗示。
利点としては一人だけでもいつでも使用は出来る。欠点は普通にヴォイドを取り出して上昇させたほうが幅が大きいし、こっちを使う場合は体に反動が出ます。