カムラの里は魔境だと心の底から思う。by里守   作:クトウテン

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モンスターハンター楽しいですね。まだ買ったばかりですが。



其の一 プロローグ

里守、という仕事がある。

 

読んで字のごとく、里を守る──言わば守衛業務だ。

 

その里の対象となるこのカムラの里は、人口200人にも満たない小規模な集落で、名産の団子でなんとか外部とのやり取りはあるが、それ以外はほぼ絶無と言って過言ではないほどの、まぁ有り体な限界集落の一つだった。

 

限界も限界、当たり前だ。

 

なにせこの村──地獄がすぎる。

 

「また来たぞ! 【百竜夜行】だぁ!」

 

聞こえた見張り台からの声に、思わず俺は顔を覆う。

 

「ウッソだろお前……! 前来たの1週間前だよなぁ!?」

「いやぁ、キツイっす(素)」

「コロ……シテ……コロ、シテ……」

 

俺の声に同調するように同僚達の声が聞こえる。どれも地獄の底から響く怨嗟に違いなかった。

 

──里守、という仕事がある。

 

こんなちっぽけな、平穏安穏を絵に書いたようななんの名所もないド田舎の村で、ぼうっとしながらあくび一つ交えて大した広さもない村をぐーるぐると歩き回る哨戒業務をやるだけだろう。そう思ってる自分がいた。

 

しかし、どうだ。

蓋を開けてみれば──。

 

そこは戦場だった。

何が、何を持ってそれを戦場と定義していいかは知らないが、大地が揺れ、自分の3つも4つも大きく回った巨体がそこかしこを暴れ散らかす状況をそうと呼ばないのであれば、もうどう呼んでいいか分かるないほど、そこは戦場だった。

 

「里長ァ! 早く助けてェーーー! ヨツミワドウが! 一心不乱にこっちにィ!」

「ムッ! イカン! その門は突破されてはイカンぞ! よし、この太刀を貸してやるからやってまいれ! 気炎万丈!」

「まじでそれしか言わねぇの痴呆かよ!!! 馬鹿じゃねぇのマジ馬鹿じゃねぇの! 如何しろってんだよこんな鉄の延べ棒一本でよォ!!」

「カムラの鉄をバカにしてはイカンぞ! この里の古くから伝わる製法で作られた刀はなぁ──」

「バカにしてんのはアンタの頭だよバーーカバーーカ!」

 

そんな会話の最中も、敵──モンスターの進行は留まることなく、1匹2匹と外壁を乗り越え次々とその巨体を顕にする。

 

百竜夜行。

特定の日に、この村へとモンスターが押し寄せる一大崩壊危機イベント。

 

そして何より、この百竜夜行の際に駆り出されるのは当然──里守である。

 

それはバリスタであったり。それは大砲であったり。それは銅鑼の鳴らす役目であったり。

それは滅龍槍を穿つ役であったり。

 

多くのモンスターが蔓延る中を死と隣合わせで駆けずり回り、なんとか村を、ひいては自分の命を守る。それが里守。

 

そして今──目の前のヨツミワドウが、その巨体を大きく捩り、空気すらも裂きながら右腕を凪ぐ。

 

それは人であれば一溜まりもない致命の一撃。

ハンターですらも大きな怪我を追うこと間違いなく、ましてやただの里守など、空気のように簡単に引き裂かれる。それは自分も例外ではない。

 

死を、身近にして想う。

 

「──こんなきれいな月夜、死んでもいいと思わないか?」

 

ドッッッッ。

 

突如鳴り響く爆砕音。

それは他の里守が目の前のヨツミワドウへと発射した徹甲榴弾に違いなかった。

 

効果は絶大で、徹甲榴弾は敵の脳天を強かに撃ち、それによって一時的な麻痺へと陥ったヨツミワドウは地面でもがき苦しむ。

 

翔蟲でその巨体の顔まで登り、未だ藻掻くソレに対して刃を抜き放った。

 

──あぁ、月光に照らされた刃の、なんと美しいことか。

 

「俺はそう思う。だから、お前もそう思ってくれよ」

 

だから、おやすみ、と。

 

一刀両断。

ただの里守には、そんなきれいにこの怪物の命を消し去る事はできない。

だが殺す事は──それでも出来る。

 

長く苦しんだ。大きく暴れた。

それでも──その怪物はやがて動かなくなった。

 

静まり返る面々。

固唾を飲み、それぞれが状況を見守る中、声が降り注ぐ。

 

「ヨツミワドウ討伐完了! 他モンスターの襲撃確認できず! 百竜夜行、終了です!!!」

 

聞こえた櫓からの声に、ドッと歓声が湧く。

 

宴じゃー!と騒ぎ立てる面々を尻目に、俺は自分が殺めたヨツミワドウの巨体へと背中を預ける。

 

今日も、なんとか生き延びた。

しかしまた、このパレードはやって来るだろう。多くの死を引き連れて。

 

今回勝ったのは人間だ。

しかし次、このヨツミワドウのようになるのは、果たしてどちらか。

 

考えるだけで憂鬱だ。

自虐するように、月が浮かぶ空を見上げて笑みを浮かべる。

  

「やっぱりカムラは地獄だぜ」

 

里守の標語を繰り言のように呟きながら、俺も集団の和の中へと足を勧めた。

 

──これは、英雄の物語ではない。

 

向かった先で、里長と里守たちに出迎えられ、何故か担ぎ上げられる。やめろー!と叫ぶもそれは聞き入れられなかった。

 

──これは、英雄ではなく、狩人でもない。

ただの人間で、ただの里守の、そんなちっぽけな、どこにでもある英雄譚なのだから。




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