これは、たくさんある中のある一つの物語。
本当にちっぽけな物語。
器を歪められた少年は魂に刻まれた『約束』と『使命』に縛られて、世界を生きる。
これは、例えばのお話。
もし、前世なんて誰も知らず、白兎の少年は記憶喪失なんていう『試練』があったとしたら。
白兎の少年はどのように生きるのだろうか?
さあ、一緒に見にいきましょう。
彼の、魂の輝きを。
ポツン、ポツン。
ここは何処だろうか?
真っ暗闇に何処からともなく闇の雫が落ち、真っ暗に波紋が広がる。
僕はそれをじっと見ていた。
なんの目的もなく、なんの結果もなく。
そこに始まりは無いし、終わりも無い。
僕は自分を闇と一体にさせながら、自己を確立できなくなった。
この闇は僕を侵食していく。
しかし、恐ろしいとは思わない。
そこになんの感情も存在しないから。
僕の魂が『一つ』へと溶け合い、そして──
僕は目を覚ました。
体を起こすと、体に掛かっていた毛布がずれる。
辺りを見渡すと、なんとも言えない程のボロボロな部屋だと分かる。
それに僕は何となく懐かしさを感じた。
僕はそれを知らないはずなのに。
そうしていると、不意に声がしてきた。
「おや? どうやら起きたようだね。体は大丈夫かい?」
「……はい。大丈夫です」
声をかけてきたのは低身長ながらに似合わない胸を持ち合わせ、真っ白な服に青い紐が付いていて、黒髪長髪のツインテールの少女がいた。
この少女にもなんとなく懐かしさを感じるが、すぐに霧散してしまった。
「そりゃ良かった。僕はヘスティア。神の一柱さ! 君の名前を教えてくれるかい?」
「……僕……の……名前は」
僕の名前は……。
全く思い出せない。
それどころか、今までの記憶が一切存在しない。
僕は誰で、ここは何処なのか、言葉は話せるみたいだし、日常的な知識もあるようだが、『思い出』と言えるものが塵一つ残さず欠落している。
その旨を目の前のヘスティア様に伝えると、
「そうか……。それは辛いね。記憶喪失か……。僕はまるっきり専門外だからなぁ。記憶喪失の君に聞くのもなんだが、これからどうするんだい?」
「どうする……とは?」
「孤児院に行く、あるいはどこかの【ファミリア】に保護してもらう。大まかで言えば、こんなものだろう。僕としては孤児院をお勧めするよ」
「……」
僕は考える。
どうするべきだろうか。普通ならば、孤児院に居させてもらうのが良いのかもしれない。しかし、何故だろう。【
もしかしたら、自分の記憶を取り戻すこともできるかもしれない。
と、普通は考えるだろうが、今の僕にとっては記憶はさほど重要ではない。
『思い出』と言えるものを全て無くしても尚、自分の中にある『約束』と『使命』の二つ。具体的には分からないが、今思い出せるのは
これが、僕にとって一番重要な事だと思っている。
他のことをあっさりと忘れたのに対し、断片的でもそれを思い出すということはそれほどまでに大事だったということだ。
だから、【ファミリア】に入るべきだと僕はそう思っている。
「【ファミリア】に入ります。ヘスティア様の【ファミリア】に入れてくれませんか?」
「別に良いけど、僕はまだ【ファミリア】を立てていない。つまり、ボクの【ファミリア】に入るということは団員は君一人だ。それでも良いのかい?」
「はい、構いません」
「……分かった。決意は堅そうだね」
そうして、僕は【ヘスティア・ファミリア】の一員となった。
「神様。今日の稼ぎは一万ヴァリスです」
「……ベル君。いつも思うけど、それ結構多いからね? 普通の冒険者一人が稼ぐ量じゃ無いからね? いや、別に悪い訳じゃないんだけど、本当に無理してないのかい?」
ベルというのは、ヘスティア様が僕に『恩恵』を刻んだ時に名前が出てきたので、それが僕の名前だと分かったため、それが名前となったのだ。
「してませんよ? いつも通り、
「それがおかしいって言っているんだよ! 冒険者になってまだ一週間も経ってないんだよ!?」
「と、言われましても。基本、一撃で倒せますので」
「記憶喪失でも、体は何故か戦闘を覚えているんだっけ? 僕は戦闘とは無縁な神だからあまり分からないんだけど、タケに聞いたら、そういうのもあり得るって言っていたよ」
ヘスティア様は苦笑しながら、僕に言ってくる。
そこら辺は僕も不思議です。
歳は大体14くらいに見えるが、だとすれば
強引に考えるなら、子供の時からとてつもない量の特訓をしていたということになる。
しかし、その割には体の筋肉の量は普通だ。
そういう体質かと思えば、ここ一週間足らずでそれなりに筋肉はつき始めている。
やはり、何かがおかしい気がする。
まぁ、どうでも良いけど。
「じゃあ、ベル君。服脱いで横になって。ステイタス更新をするよ」
「はい、お願いします」
僕はベッドに横になり、僕の背中にヘスティア様が乗った。
ヘスティア様は『
僕は最初に『恩恵』を授かった時、【スキル】が発現した。
その名前は【家族の愛】。
効果は『家族の【魔法】【スキル】を行使可能』というものだ。
しかし、僕は家族を知らない。
だから、【魔法】も【スキル】も結局無いのと同じという事だ。
ヘスティア様は【ステイタス】の更新を終えると、【
ベル・クラネル Lv.1
『力』B 752→A 847
『耐久』C 671→B 793
『器用』C 640→A 821
『敏捷』A 812→S 953
『魔力』I 0
【魔法】
【】
【スキル】
【家族の愛】
・家族の【魔法】【スキル】を行使可能
「トータル500オーバー。とんでもない成長具合だね……。【スキル】の影響としか思えないけど、肝心な効果がこれだけじゃ、分からないな〜」
「……何だかすみません」
「いやいや! 君が悪い訳じゃないんだよ!? ある意味、これだけなら問題ないんだ。問題なのは常に発動しているものが、この『成長』以外にも作用している可能性があるという点だ。無知は危険を招くから、できるだけ分かっておきたいんだ」
「結局、僕の記憶次第という事ですね」
「まぁ、そうだね」
僕達はうんうんと唸りながらも夕食を食べ、就寝した。
僕はなんとなく勘づいている。
明日は絶対に何かが起きると。
僕の人生を左右するような何かがありそうだと。
そして、僕の求める者に会えそうな……そんな気がする。