歪な白兎は迷想を走る   作:幻桜ユウ

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第二話 試練の白兎

 

 

 

 翌日、僕はダンジョンに潜っている。

 

 現在は3階層をモンスター達を一撃で仕留めながら、少しずつ降りている。

 

 4階層に着く頃にはモンスターの出現率が減り、比例して周囲も静かになっている。

 

 僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ついに5階層へと降りる。

 

 もう、モンスターの影も姿も見えない。ここは僕だけの世界になったかのように静まり返っている。

 

 分からないわからないワカラナイ。

 

 ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!

 

 心臓が早鐘を打つ。

 

 冷や汗が次々と川のように流れる。

 

 呼吸は浅くなり、耳は周囲からの音を敏感に聞き取る。

 

 だから──いや、そうでなくとも聞こえていただろう──聞こえてしまった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ブモオオオオオォォォォォォォォ!!!!

 

 

 僕はギルドからの支給品の短剣を構え、声がした方へと体を向ける。

 

 暗闇から出たのは『ミノタウロス』。レベル2にカテゴライズされるモンスター。

 

 正真正銘、レベル1()では勝てないモンスター。

 

 そもそも、『ミノタウロス』は中層のモンスター。

 

 異常事態(イレギュラー)がなければ、決して5階層になんて上がってこないモンスター。

 

 そして、ダンジョンは異常事態(イレギュラー)に満ちている。

 

 僕は最悪の異常事態(イレギュラー)に遭遇してしまった。

 

 ああ、そうだ。最悪だ。最悪のはずだ。

 

 それなのに、何故だろう?

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 心が、魂が、目の前の『敵』を打ち破れと叫んでいる。

 

 僕は、誰だ?

 

 僕は記憶喪失で、自分が誰なのか全く分からない。

 

 だけど、一つだけ分かっている事がある。

 

 僕は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『冒険者』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、急いでダンジョンの階層を上がっている。

 

 【ロキ・ファミリア】の『遠征』の帰りでミノタウロスの群れと遭遇したのだが、ミノタウロスの群れは一斉に逃げ出し、群れの一部は階層を上がって行ってしまったのだ。

 

 ここは上層。

 

 余程の偶然がなければ、ここにいるのはレベル1冒険者しかいない。

 

 レベル1の冒険者ではレベル2にカテゴライズされるミノタウロスには絶対に勝つことはできない。為されるがままに蹂躙されてしまうだろう。

 

 急げ! 急げ! 急げ!

 

 『遠征』の帰りでクタクタになっている体に鞭を打ち、急ぐ。

 

 

 ブモオオオオオォォォォォォォォ!!!!

 

 

 ミノタウロスの声が聞こえてきた。

 

 あっち!

 

 私はその声を追って、その声の主へと辿り着く。

 

 そして、私は見た。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、そんな光景を。

 

 助けなければならないのに、私はその場から動けなかった。

 

 その戦いに水を差してはいけないと理解してしまったから。

 

 すると、白髪赤目の少年はこちらを視認すると、少年はミノタウロスを斬りつけ、こちらに寄ってきた。

 

 

 「下がっててください! ここは危ないです!」

 「えっ、いや、でも」

 

 

 私は少年の言葉を否定しようとしたが、言葉に詰まってしまった。

 

 その姿──そして眼を見たからだ。

 

 かつての父のような()()の眼。

 

 私を守ろうとする()()の如き決意を秘めた眼。

 

 私はそれに見惚れてしまった。

 

 そして、少年の次の言葉は私の心を強く打った。

 

 

 「そこにいてください。絶対に守ってみせます」

 「──っ!」

 

 

 私は本当にその少年の後ろ姿にお父さんの姿を重ねて見えた。

 

 少年は再び、ミノタウロスへと向かって行った。

 

 私はそれを止める事はできなかった。

 

 そんな私の横にベートさんがやってきた。

 

 

 「おい、アイズ! 一体、何ボーッとして──何だ、これは?」

 「『冒険』」

 「なんだと?」

 

 

 ベートさんは私を訝しげに見た後、あの『冒険』に割り込もうと攻撃しようとしている。

 

 私はそれを止めた。

 

 ベートさんは叫ぶ。

 

 

 「どけッ、アイズ! 駆け出しがミノタウロスに勝てるわけがねぇ! お前も見てたら分かってんだろ! 『技』と『駆け引き』は確かに良いかもしれねぇ! だが、圧倒的にアビリティが足りてねぇ! あんなもんただのジリ貧だ!」

 

 

 ベートさんが言っていることは正論中の正論。

 

 あの少年は『力』が足りていないから、ミノタウロスに決定打を与えられない。それでも、少年が互角に渡り合えているのは『技』と『駆け引き』。そして、体力は減り続け、いずれ限界が来る。

 

 でも、それでも、あの子ならば……

 

 

 「大丈夫です。あの子なら、きっと」

 「……チッ! 分かった。俺はフィンの所に戻る。それはテメェが責任を取れ」

 「はい。ありがとうございます」

 

 

 ベートさんはこの『冒険』の見届けを私に託し、フィン──私達の団長の元へと戻った。

 

 私は今も尚続く戦いにまた眼を向けて、そして、急展開が起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「ブモオオオォォォォォォ!!!」

 

 

 僕はミノタウロスの攻撃をかわしながら、的確に斬っていく。

 

 しかし、ダメージは浅い。決定打には至っていない。

 

 普通に倒せない以上、狙うのはただ一点のみ。

 

 全モンスターの弱点『魔石』の破壊。

 

 ミノタウロスの魔石は胸にあると直感的に理解する。

 

 そして、大振りの腕を回避しながら近づき、そして胸の中央へと短剣を『一刺し(ペネトレイション)』する。

 

 パキッ。

 

 そして、静寂となった間にたった一つ()()()()()()()がした。

 

 しかし、『魔石』が割れた音じゃない。

 

 僕はソレを手の感触で理解してしまった。

 

 割れたのは……短剣(僕の武器)だ。

 

 

 ブモオオオオオォォォォォォォォ!!

 

 

 ミノタウロスは歓喜のような声を上げる。

 

 絶望を運ぶ声を上げる。

 

 僕に死を与える腕が向かってくる。

 

 だが、

 

 

 「……だ」

 

 

 だが、

 

 

 「ま……だ」

 

 

 だが!

 

 

 「まだだ!」

 

 

 まだ、僕は折れていない!

 

 僕は向かってくる腕を跳躍して避け、腕を踏み台にし、()()()()()()()()()()()()()()()に向かって、蹴りを放つ。

 

 

 ブモオオオォォォ!?!?

 

 ミノタウロスは僕の反撃に戸惑った声を上げる。

 

 しかし、僕は止まらない。自身の足でその剣先を押し込む。

 

 砕けええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 パリィン!

 

 僕が蹴った折れた剣先はさらに深く刺さり、そして魔石を穿った。

 

 魔石を失ったその巨体は灰へと還る。

 

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。

 

 勝てた。

 

 勝てた。

 

 勝つことが……できた。

 

 勝利の余韻に浸るのも束の間、絶世の美少女とも言える金髪金眼の少女が話しかけてきた。

 

 

 「おめでとう。凄かったよ」

 「貴方は、さっきの」

 「うん。私はアイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。アイズって呼んで」

 「ご丁寧にありがとうございます、アイズさん。僕はベル。ベル・クラネルです」

 「ベル……。ベル。うん、覚えた。よろしくね、ベル。あと、敬語はなくて良いよ?」

 「……分かった。よろしく、アイズ」

 「うん。よろしく、ベル」

 

 

 自己紹介を終え、握手をする。

 

 その時、アイズは微笑んでいた。

 

 その様子を見て、すでに体も頭も限界だった事もあって、思わず呟いてしまった。

 

 

 「綺麗な人だ……」

 

 

 僕はそう言うのと同時に気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、どんな顔をしているのだろう。

 

 顔が熱い。もしかしたら、真っ赤になってるかもしれない。

 

 その張本人は気絶してしまったため、私は思わず抱き留めた。

 

 先程の少年の言葉を思い返す。

 

 

 「綺麗な人だ」

 

 

 ボンッ!

 

 あうあうあう!

 

 真っ白な言葉で真っ直ぐな瞳で言われた。

 

 いくら、仲間や主神に天然だの何だの言われている私でも分かってしまった。

 

 この子は本気で私を綺麗だと思ったことを。

 

 リヴェリアにも言われたことがあるけど、ここまで取り乱すことはなかった。

 

 でも、この少年の言葉は私をグルグルと掻き乱す。

 

 心臓は早く鼓動する。

 

 これは……何?

 

 この気持ちは……一体何?

 

 

 

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