歪な白兎は迷想を走る   作:幻桜ユウ

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第三話 気絶の白兎

 

 うーん。どうしよう?

 

 私、アイズは現在、混乱の極致にいる。

 

 その理由としては今も私の胸で寝ている白い少年のことなのだ。

 

 怪我をしていたため、回復薬(ポーション)を振りかけたのだが、流した血が戻るわけではない。

 

 だから、早く治療院に届けたいのだが、早くフィン達の所に戻らなければならない。

 

 私が戻るまであまり動かないような気がするし、せめて誰かに言伝を頼みたいが、さっきいたベートさんはさっさと戻ってしまった。

 

 この子を連れて、フィン達の所に行くのも勿論ダメ。

 

 他派閥であるこの子を連れてきてしまえば、皆に迷惑がかかる。

 

 でも、早く戻らなきゃどちらにせよ皆に迷惑がかかる。

 

 うーん、うーん、うーん。

 

 よし、こうしよう!

 

 私はある()案を思い付き、早速行動に移すことにした。

 

 アイズの行動は1番の愚行で、そして1番の幸福に繋がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はベルをおぶって、できるだけベルに衝撃がいかないように最速でフィン達の元へ向かった。

 

 そして、フィン達のいる階層に着くと、少し広い空間に少年を置き、壁を傷つけて、モンスターが生まれないようにした。

 

 そして、そこからあまり離れないところでフィン達と合流した。

 

 合流後、皆に迎えられた。

 

 

 「お疲れ様です! アイズさん!」

 「お疲れ〜! アイズ!」

 「随分と遅かったじゃない」

 

 

 レフィーヤ、ティオナ、ティオネ。

 

 3人が寄ってきて、私を労ってくれる。

 

 嬉しかった反面、もう少し後にしてほしいという焦りを『人形姫』とまで言わしめた真顔の奥に隠した。

 

 ……リヴェリアにはバレてそうだけど。

 

 そういう私の意図を汲み取ってくれたのか、リヴェリアが助け舟を出してくれた。

 

 

 「さて、アイズ。ベートからおおよそは聞いている。それについての報告を聞こう。3人とも少しアイズを離してくれ」

 「うん、後でね。(ありがとう、リヴェリア!)」

 「あっ、はい……後でお話ししましょう! アイズさん」

 「アイズ、また後でね!」

 

 

 私は3人に手を振りながら、リヴェリアと共にフィン、ガレスの元へ向かう。

 

 

 「アイズ、お帰り。ベートから話は聞いているよ。その後どうなったか教えてほしい」

 「うん、えっとね……」

 

 

 私はあまり得意ではない説明をたどたどしくともすると、

 

 

 「なるほどね。分かった、後日その少年には直接謝罪に向かおう。あと、アイズ。もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 「えっ?」

 

 

 バレた!? 意識は向けないようにしていたのに!

 

 私の狼狽える様子を見て、リヴェリアが小さく笑う。

 

 

 「アイズ。気づいてないのか? お前、体がずっと部屋の方に向いているぞ? そんなに心配なのか?」

 「えっ、あっ、うっ」

 

 

 リヴェリアの指摘に私の顔はみるみるうちに真っ赤になる。

 

 私は上手く返答できずに言葉にならない声を出す。

 

 

 「よし、アイズ。僕は部隊を引き連れて先に戻るから、団員達に見つからないように彼を治療院まで運ぶんだよ? リヴェリア。君もここに残って、アイズの手助けをしてあげてくれ」

 「分かった」

 

 

 私はコクコクと頷き、リヴェリアは快く了承した。

 

 というか、リヴェリアが了承した理由の殆どが好奇心によるものだと思ってしまう。

 

 

 「じゃあ、先に行くよ。ロキには上手く伝えておくから安心してくれ」

 「ありがとう、フィン」

 「なに、数少ない戦闘以外の我が儘だ。僕は君の変化を嬉しく思うよ」

 「?」

 

 

 私はフィンの言うことが理解できず、首を傾げる。

 

 フィンはアイズのその様子にクックと笑い、「今はまだ分からなくて良いよ」と言い残し、部隊を引き連れて地上へと向かった。

 

 団員達はこの場に残る私とリヴェリアに怪訝な表情を見せながらも、そこまで気にすることなく、地上へと向かった。

 

 正直、普段『戦姫』と呼ばれていることがここまで違和感を持たせないとは何とも言えない気持ちである。

 

 中でも、レフィーヤやティオナは私が残る事に文句を言いかけていたが、リヴェリアが座学の脅しをかけると素直に従った。

 

 分かるよ、2人とも。私もリヴェリアの座学はトラウマしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は皆と別れた後、ベルを寝かせた部屋へと戻った。

 

 

 「ふむ、この少年がベル・クラネルか。見た目はまだまだ子供のようだが」

 「でもね、凄かったんだよ。覚悟が、瞳が、姿が、英雄のようだった」

 

 

 そう、英雄のようだった。今は、可愛い白兎のような寝顔だけど、さっきの『冒険』はとてもかっこよかった。これが、神々の言う『ぎゃっぷもえ』というものなのだろうか?

 

 どうでも良いか。ベルは私を守ると言ってくれた。ベルは私よりも弱いけど、あの瞬間だけはまるで私の英雄のようだった。

 

 私の前に現れてくれなかった『英雄』。

 

 『英雄』なんていないと、私は剣を執り、今まで走り続けてきた。

 

 ベル。貴方は『私の英雄』になってくれる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が重い。

 

 確か、ミノタウロスに勝って、アイズと話していた時、急に意識が落ち始めたんだっけ?

 

 体は全然動かない。金縛りにあっているようだ。

 

 考えることはできるから、先程感じたモノを考えるとしよう。

 

 先程感じたモノというのはアイズと話していた時──いや、アイズを守ると言った時──微かに僕の中に鼓動するモノがあったのだ。

 

 記憶が戻った気配がないという事は、鼓動したのは『約束』か『使命』のどちらか、あるいは両方。

 

 アイズと話している時はそれが顕著に現れていた。

 

 ある意味、そのせいで気絶したと言っても過言ではない。

 

 気絶する直前、()()()()()()が何かを呟いた気がした。

 

 具体的な内容は分からないが、しかし確実に分かったことがある。

 

 記憶を失う前の僕はアイズに何らかの関係があったという事だ。

 

 他の人には反応しなかったのにアイズにだけは反応した。

 

 もしかしたら、アイズに似た誰かかもしれないが、何故か()()()()確信がある。

 

 僕が求めているのはアイズだと。

 

 でも、今更思い出したが、アイズはあの【ロキ・ファミリア】の【剣姫】。レベル5冒険者で僕よりも数倍どころではない強さを持っている。

 

 正直、彼女を守ると言ったことがかなり恥ずかしい。あまり、後悔をしていないのが不思議だが。

 

 長い間考えていると、ようやく体が動くようになった。

 

 そうして、目を開けると、最初に目に飛び込んできたのは金色の髪。続いて、視界の端には翡翠色の髪が映っている。

 

 というか、何故天井が視界に映っているんだ?

 

 それに5階層とは違う場所のようだし、アイズがここまで運んだのだろうか?

 

 でも、1〜4階層まででこんなところあったかな?

 

 僕は現実逃避をやめ、起き上が──ろうとしたのだが、アイズに頭を押さえつけられた。おそらくアイズの膝の上に。

 

 なんで、膝枕? というか、起こさせてくれないの?

 

 

 「起きた? ベル」

 「うん、起きたけど、どういう状況?」

 「……膝枕?」

 「違う、そっちじゃない」

 

 

 いや、それも聞きたいがとりあえず僕がどうしてここにいるのかを説明してほしい。

 

 そう思っていると翡翠色の長髪の美女エルフが僕に説明と謝罪をしてくれた。

 

 確か、アイズと同じ【ロキ・ファミリア】の団員。【九魔姫(ナインヘル)】のリヴェリア・リヨス・アールヴさんだったかな? あっ、エルフじゃなくてハイエルフか。

 

 ん? そんなまさにエルフにとっての崇拝対象に頭を下げられている僕。

 

 これ、エルフに人達に見つかったら殺されるんじゃ……。

 

 とりあえず、謝罪は受け取り謝礼の類も要らない事を伝えた。あくまで逃げずに戦おうとしたのは僕の判断であり、逆に自分から突っ込んだようなものである。自身の行動は自身が責任を持つ。当たり前の事だ。

 

 そう言うと、リヴェリアさんに「君は冒険者らしくないな。しかし、非常に好まれる性格だ」と小さく笑いながら言われた。

 

 その様子を見たアイズが心穏やかではなかったのはリヴェリアしか気づかなかっただろう。

 

 

 

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