レッドが地上に戻るようです   作:naonakki

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第十五話

 ミュウツーの背後から落ち着いた足取りで歩いてくる男。その横にはドサイドンがついている。

 ロケット団のエンブレムが付けられた皺一つ無いスーツ。オールバックにセットされた髪。その顔には残忍で狡猾さを感じさせる嗜虐的な笑みを浮かべている。目の前にいるだけで胸を締め付けられるような息苦しさを与えてくるこの存在感。

 

 三年前と何も変わらない。

 ロケット団のボス――――サカキ。

 

 この男は目的の為なら手段は問わない。

 それが、どれだけ非人道的なことであろうと。どれだけポケモンが傷つき苦しむ結果になろうとも。その思想が三年前のレッドの怒りを買い、結果ロケット団は壊滅することになった。

 ちなみにロケット団を壊滅させた後、我に返ったレッドは、自分がロケット団を壊滅させたと世の中に広まると、色々面倒そうなことになるという理由で徹底的に黙秘を貫いてきた。その為、世間ではロケット団は謎の存在によって滅ぼされたとして一時期世間を賑わせた。

 

 レッドとサカキが最後に会ったのは、トキワジムでのバトルの時だった。当時、既に才能を開花させていたレッドによって一方的に敗北したサカキは一時ロケット団を解散させたが、それからも世界を征服するという野望を諦めることなく好機をうかがっていた。

 しかし、レッドがチャンピオンであるグリーンを倒してからポケモン界は飛躍的に発展し、敵となるポケモンリーグは力を蓄えていき、サカキを焦らせた。それでもと、サカキは諦めることなく着々と裏で世界を牛耳る為の準備を進めていた。

 

 しかし、そんなサカキを絶望させる出来事が起きた。

 

 レッドとサカキが最後に対峙してから三年後、レッドが再び世間に姿を現した。そしてその実力は、当時カントー、ジョウト最強と言われていたコトネが赤子に見えるほどの圧倒的なものであった。

 さらにレッドはシロガネ山での壮絶な修行の成果を見せつけるように、まずはかつてのライバルであるグリーンを倒してみせた。そして、挙句の果てには世界最強とのうわさも囁かれていたシンオウの無敗伝説を誇るチャンピオンのシロナをも下した。

 

 当然その一連の流れをサカキも把握していた。

 圧倒的実力を持つレッドは世のポケモントレーナーを惹きつけ、再びポケモン界の発展が加速していったのだ。その凄まじい勢いの前では、いかにロケット団の組織力が大きくても簡単にはじかれてしまう事は明白だった。この三年で再結集させていた団員や協力関係を結んでいた数多の関係者がサカキの元から離れていくのは自然なことであった。

 そしてとうとう、最後にサカキだけが残った。

 まるで、この数年の努力なんて俺の前では無意味であるとレッドに嘲笑われているようだった。たかが子ども一人に組織を壊滅され、そして立ち直ることすら許されない。サカキは絶望し、そして心の奥底からとめどない憎悪と怒りが湧き上がることとなった。

 

 しかし、ここでサカキに幸運が訪れる。

 サカキの怒りに呼応する存在がいたのだ。それがミュウツーだった。

 ロケット団の武器として使用するために生み出したそれは、レッドによって最後まで成長させることができなかった。消息も不明となっていた。ミュウツーが成長しきっていることはサカキ自身にも予想外のことであった。

 さらに嬉しいことにミュウツーの実力はサカキの予想以上のものであった。瞬く間にハナダシティを壊滅させたことが何よりの証拠であった。ミュウツーがかつて自分が下した命令を実行していることはすぐに分かった。

 サカキはすぐにミュウツーの元へと発った。ミュウツーが強いとは言っても、所詮はポケモン。自分が操ってこそ真価が発揮できると判断したのだ。

 

 誤算があったとすれば、サカキよりも先にレッドがミュウツーと相対し、ミュウツーが倒されてしまったことだ。

 しかし、それも結局レッドの優しさという甘えた感情のおかげで助かった。

 

 

 

「……久しぶりだな、レッド。お前のせいで私の人生は滅茶苦茶になってしまったよ……。だが許そう。最後にはすべてが私に味方したのだから! むしろこれから君に起こることを想像すると哀れでもある……」

 

 サカキの声がレッドの全身に纏わりつく。

 レッドの瞳孔が開き、そこにサカキだけが映り込む。他の景色は不要だとばかりに消えていく。

 

 …………どうしてこいつが?

 

 ドクン…………ドクン…………、と心臓がゆっくりと、大きく鼓動する。

 これまで、ブルー達をそしてミュウツーを操っていた黒幕がサカキだと分かった瞬間、抑えようのない怒りが際限なく湧いてくる。

 

 ………こいつが全ての要因。

 

「……ふふふ、お前の敗因はこのミュウツーを殺せなかったことだ。全く、こんなポケモンとっとと殺してしまえば良かったものを。……いいことを教えてやろう。こいつはミュウツーといって、最新の科学技術をつぎ込んで作った私の命令だけを聞く最強のポケモンでありそして、『道具』だ。私の為に動き、私の為に朽ちていくだけの運命だ。これが正しいポケモンの使い方というものだ」

 

 サカキが口端を上げながら心底馬鹿にしたような様子で、ミュウツーを足で小突きながらそう言う。

 ミュウツーは何も反応しない。その様子は本当に操り人形そのものだった。

 

 

 

 その瞬間、プツン――と、レッドの中の何かが弾ける。

 

 

 

 レッドは再び――いや、先ほど以上の怒りに包まれる。あまりに強く握りしめた拳からは血が滴り落ちていく。レッドのポケモン達も殺気を振りまき、サカキを睨む。

 

 あまりの怒りに我を忘れたレッドは、ポケモンに指示を出すでもなく自ら駆け出す。鍛え上げられたレッドの肉体から繰り出される速度は、サカキが反応する頃には、すでにサカキの目前まで迫っていた。

 サカキの横にいたドサイドンはレッドの動きに反応し、サカキを守るべくレッドに『ロックブラスト』を放つ。複数の岩石がレッドに迫るがそれをレッドは体を逸らし、最低限の動きで躱していく。レッドはそのまま拳を振り上げ、渾身の力を込めてサカキに殴りかかる。サカキはレッドの人間離れした動きに驚くものの、その拳がサカキに届くことは無かった。ミュウツーによって展開されたバリアーに阻害されたのだ。

 ちなみにバリアーに阻害されなかった場合、サカキの顔面は潰れていた。

 

「……ふふ、懐かしいな怒る君を見るのも。……しかし、お前の相手は私ではないぞ?」

 

 サカキが不敵にそう言うのと同時に、ドサイドンが今度は『とっしん』でレッドに攻撃を加える。レッドは止む無く背後に数メートルほど飛びのく形でその攻撃を躱す。

 サカキは信じられないものを見る目でレッドを見つめ、慌てたようにミュウツーの方へ向く。

 

「ちっ、これ以上、レッドを見ていると頭がおかしくなりそうだ。……本当に同じ人間なのか? ……やれ、ミュウツー」

 

 サカキの言葉にミュウツーが自らの脳に高負荷をかける形でリミッターをも外していく。かなりの負荷をかけているのか、ミュウツーは無意識下であるにも関わらず苦悶の声を上げている。しかし、サカキの命令は絶対である。レッドが止める間もなく、そのまま無理やりその力を解放する。

 ミュウツーから放たれるエスパーの力が波動となり周囲に広がっていく。巨大なドーム状に広がっていくそれは、たちまちヤマブキシティを覆っていく。

 

「はっはっはっ! いいぞ、これこそ最強のポケモンたる御業だ!」

 

 サカキが興奮したようにそう言うと同時に、まずハナダの洞窟の野生のポケモン達が再び洗脳される。そして先ほどまで倒れていたワタルを含むポケモントレーナー達がゾンビのようにゆらりと立ち上がる。その虚ろな様子からミュウツーに操られているのだと理解する。ナツメ達のポケモンによって守られていた彼らであったが、今のミュウツーの力の前では防御の結界は破られてしまう。

 

 そしてそれらの洗脳の力はレッドのポケモン達にも及んでいく。

 サカキは、レッド以外の存在を全て洗脳してレッドの味方を全て奪った後、洗脳したレッドのポケモン達に丸腰のレッドを襲わせるという恐ろしい作戦を実行しようとしているのだ。もし、レッドのポケモン達がレッドを襲ったとあれば、洗脳が解けた後、レッドのポケモン達が受ける心の傷は計り知れない。

 

 しかし、レッドのポケモン達は操られない。

 エーフィが持てるすべての力でレッドのポケモン達を守っているからである。死んでも守ってみせると言わんばかりにサカキを睨みながらエーフィは自分以外の六体を守り続ける。サカキの思惑に気付いたレッドのポケモン達は怒り荒ぶる。

 しかし、それが限界。それ以外の存在は守ることができない。それはつまり、再びブルーとコトネも操られてしまうと言うことである。そして、レッドが駆けつけるまで戦ってきた満身創痍のトレーナーとそのポケモン達も操られてしまう。

 レッドが苦虫を嚙み潰したように周囲を見つめるも無数の敵を前にした今、迂闊に動けない。

 

「……ふん、レッド自身のポケモンがレッドを襲う光景を世間に報道し、世界を絶望させたかったが仕方ない。少し面倒だが結果は変わらない。この大軍を相手にレッドとそのポケモン達だけで果たしてどこまで持つかな?」

 

 つまらなそうにそう言うサカキは、それでも最後には笑みを浮かべレッドにそう言い捨てる。

 そして同時に無数のポケモン達がレッドに襲い掛かる。

 

 ハナダの洞窟の洞窟の強化された無数の野生のポケモン達。

 ブルーやコトネを含めた、実力者達に鍛えられた無数のポケモン達。

 これまで数々の修羅場を乗り越えてきたレッドでさえも、絶体絶命の状況。

 

 この局面において、レッドは逆に冷静さを取り戻していく。やがてレッドの心はあれほど怒りで荒れていたにも関わらず、不気味なほどに静まり返っていく。

 怒りが収まったわけではない。むしろ怒りは最高潮に達している。

 怒りに身を任せて周囲への注意力が欠けている今、この場を乗り切ることができないと理解し、レッドの本能がレッド自身に冷静さを与えたのだ。

 

 怒りによる勢いと、瞬時に全てを観察し分析する冷静さ。

 ミュウツーがサカキの命令によって無理やり自身のリミッターを解放したのに対抗するように、レッドも本能によって自然に自身のレベルをさらに一段階上に押し上げた。

 

 

 

 レッドは、深く呼吸を吸い込み、吐き出す。

 シロナ戦の時にして見せたように帽子の鍔を掴み、鍔が後ろになるように被りなおす。

 

 レッドは’ある’一点を見つめて呟く。

 

 

 

 …………もう少し待ってくれ。絶対に助けるから。

 ……だからそれまで耐えてくれよ。

 

 

 

 レッドは、一瞬瞳を閉じ、また開く。

 その瞳には不屈の闘志の炎が浮かぶ。

 そしてレッドが最も信頼しているポケモン達――仲間に叫ぶ。

 

 

 

 ……いくぞ、皆!!

 ついて来い!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたわっ!」

 

 シロナの視線の先にカントー、ジョウトのポケモンリーグが見えてくる。

 その瞬間、シロナの鼓動が弾む。シロナの表情にも自然に笑顔が浮かぶ。

 シロナは、レッドに早く会いたい一心で、今回のチャレンジャーを返り討ちにした直後、一息つく間もなくカントーへと発った。その後も休憩を挟むことなくひたすらに飛び続けた結果、ベテラントレーナーがかかる半分以下の時間でカントーに到着することができた。

 

 ……よし、このままレッド君に会いに行くわよ!

 

 キクノとレッドからのメールによって後押しされたシロナに最早迷いは無かった。ポケモンリーグの入り口前に降り立ったシロナは疲れた様子を一切見せずに急ぎポケモンリーグの入り口に向かっていく。

 

 ……レッド君がどこにいるのかは正確な情報は分からないけど、ポケモンリーグの職員に聞けば分かるわよね。

 

 そんなことを考えながら、鼻歌交じりにるんるん気分で入り口を潜った瞬間だった。すぐに違和感に気付いた。

 まず、想定していた以上に人でごった返していた。入り口から入った場所は大ホールになっており、大人数を収容できる造りになっているが、今は空いている場所を探す方が難しいほどであった。

 そして、もう一つの違和感。

 異様なほど静かなのだ。そしてここにいる全員から等しく、絶望や不安といった感情が放たれていた。一言で言うと空気が重い、異常に。

 

 ……え、なにこれ?

 

 シロナには状況が理解できない。自分の跳ねるような昂る気持ちとのあまりのギャップに戸惑ってしまう。というか自分が空気の読めないお馬鹿さんになったような気分になり、とたんに恥ずかしさが込み上げてくる。頬が熱い。

 何か重大なことが起きているのだと思われる。それほどのことであれば、シンオウのチャンピオンである私に連絡の一つも来るはずだが、少なくとも自分がシンオウを出発する直前までは、そういった旨の連絡は来ていない。

 ここにいる人達をよく見てみると、皆この大ホールに設置されたモニターに視線を向けていることが分かる。自分もつられるようにモニターに目を向けようとした時だった。

 

「……え、シロナさん!?」

 

 一人の女性がこちらの存在に気付き、心底驚いたようにそう言ってくる。こちらは、どんなテンションで返事したらいいのか分からないので、「……ど、どうも~」と片手をあげて小さな声で挨拶しておく。笑顔を浮かべたつもりだったが、引きつっていたかもしれない。

 その女性の発見を皮切りに、瞬く間に私の存在が周囲に知れ渡っていく。今更だが、変装をしておいたほうが良かったと後悔する。

 

「本当にシロナさんだ!」

「ほ、本物……だよな?」

「どうしてここに!?」

「そ、そうですよ!? ついさっきまで防衛戦だったはずじゃ!?」

「……も、もしかしてこのピンチにいち早く駆けつけてくれたとか?」

「そう言えば他地方に救援を出しているって聞いたけど……」

「それにしても早すぎじゃあ……」

「いや、そうだ! レッドさんとあそこまで接戦を繰り広げたシロナさんだ! 俺達に想像もできない方法でこんなに早く駆けつけてくれたんだ! そうに違いない!」

 

 …………えぇ、本当に何が起きているの?

 早くレッド君に会いたい……。

 

 地獄の底で希望の光を見出したかのように、皆縋るようにこちらを見つめてくる。当然、何のことだがさっぱり分からない為、たじたじしてしまう。

 しかし、シンオウのチャンピオンとしての自分の立場上、下手なことを言えないことも十二分に理解している。救援といった不穏な言葉が出てきているのも気になる。ここは冷静に状況を把握しつつ、どう動くか決める必要がある。

 

「……ええ、地方が違えど私はいつでも皆さんの力になります。……それで今の状況を教えてくれるかしら?」

 

 そう言うと、皆は先ほどのように表情に影を差すと一斉にモニターに顔を向ける。説明するより、見た方が早いとでも言うように。

 先ほど見ようとしたモニターにシロナは遂に視線を移す。そしてシロナは見た。

 

 無数のポケモン達が、レッド唯一人に襲い掛かっている様子を。

 

 試合や冗談などでは無い。レッドのポケモン、そしてレッド本人を本気で殺そうとする殺意に満ちた攻撃が繰り返されているのだ。

 レッドは負けていない。無数のポケモン達の無数の攻撃をぎりぎりでかいくぐり僅かな隙を見つけて反撃している。それは間違いなく神業と呼ばれる領域に達した動きであった。シロナがこれと同じことをしろと言われても不可能だろう。

 しかし、レッドがいくら攻撃して敵を倒しても次から次へと後続部隊が攻撃を繰り出していく。その繰り返し。終わりはない。

 しかも、レッドに襲い掛かっているトレーナーは、このカントー、ジョウトの有名トレーナー達だ。

 

 明らかに異常な光景だった。

 何が起きているのか理解することはできない。

 しかし、一つ理解できたことがある。それが目の前にいる人たちが絶望している理由でもあるのだろう。

 それはレッドが危険であるという事。レッドが強いという事はシロナ自身が一番理解している。現に今は、無数の強敵を相手に呑まれることなく抵抗しているし、疲れているような様子も一切見られない。

 しかし、結局は一人の人間であることに違いは無い。個は全に勝つことはできない。今は膠着状態でもいずれその拮抗は崩れ、決着するだろう。……レッドの敗北という形で。それは即ち……。

 

 

 

 ……レッド君が…………死ぬ?

 

 

 

 ようやく出会えた自分の運命の相手であるレッド。これから二度と現れないであろう存在。

 そのレッドの死を予感する。

 

 

 

 ………………は?

 どうしてそんなことになっているの?

 

 

 

 シロナの脳内が急速に冷え込んでいき、急速に活性していく。

 余計な思考が全てそぎ落とされ、シロナの内からドロドロとした闇が湧き上がってくる。

 目の前にいた人達もシロナの変化に気付き、先ほどまでのシロナを歓迎し盛り上がっていた雰囲気から一転、沈黙へと化していく。

 その時、ポケットに入れている’真新しい’携帯端末が震えていることに気付く。電話の着信だ。シロナはその着信に出る必要があることを直感的に感じ取り、電話に出る。相手はゴヨウだった。

 

「あ、シロナさん! ようやく出てくれましたね! 今までどこで何していたんですか? 今すぐにこちらに来てください。カントー地方がまずいことになっている……」

「……分かっているわ。今、カントーのポケモンリーグにいるわ」

 

 シロナがゴヨウの言葉を遮る。ゴヨウはまさかシロナがカントーにいるとは思わなかったのか、息を吞む様子が電話越しに伝わる。

 

「な、なぜ、カントーに? まさか今朝の……」

「ゴヨウ、時間が惜しいわ。まずは状況を教えて頂戴」

 

 ゴヨウは色々と察して呆れたように言葉を続けようとするが、シロナの絶対零度の声色によって遮れられたことにより、ゴヨウは続きの言葉を紡げない。シロナの強い怒りを電話越しに感じ取ったのだ。ゴヨウは慌てて意識を切り替える。

 

「そ、そうですね、失礼しました。状況ですが、まずは……」

 

 ゴヨウからの要領よく簡潔な説明を黙って聞くシロナは、すぐに脳内に落とし込み、状況を整理していく。そしてゴヨウから一通りの説明を受けた後、シロナは言った。

 

「ゴヨウ、お願いがあるわ」

「私のポケモンを貸してほしい……でしょうか?」

「……流石ね」

「何年あなたの元で四天王をやっていると思っているんですか。勿論いいですよ。シンオウ最強のエスパー使いのポケモン達です。どうか大船に乗ったつもりでいてください。私のポケモン達が必ずシロナさんを守るでしょう」

「恩に着るわ」

「ではカントーのポケモンリーグに私のポケモン達を転送しますね。……では、シロナさん、ご健闘を祈っています」

 

 ゴヨウはそう言うと電話を切る。

 私は、携帯端末をポケットに戻し、ゴヨウから転送されたポケモンを受け取る為、パソコンがある場所に向かって歩みを進める。すると、人々はシロナの行く先を邪魔しないようにと、自然に人が左右に割れていき道を形成していく。

 誰もシロナに声をかける者はいなかった。

 その整った顔を平静に保っているようだが、その溢れる怒気だけは隠し切れない。レッドにも迫る実力を持つシロナの修羅と化した様子を前にした人々は、黙る以外の選択肢を取ることができなかった。

 

 しかし人々は、このシロナの姿を見て、より一層の心強さと希望を見出していた。

 レッドとシロナ……、世界最強のこの二人がいれば何が襲って来ようと必ず最後には勝ってくれると。

 

 シロナは、その道を突き進み、素早くモンスターボールを回収すると、そのままもと来た道を戻り出口から外に出てそのままトゲキッスを繰り出し、跨ると飛びだった。

 

 

 

 シロナは、高速で景色が後ろに移動していく中、ただひたすら前を睨む。

 

 

 

 …………レッド君、待っていてね。

 

 

 

 今回の首謀者は、ロケット団。そのボスであるサカキ。

 噂は聞いたことがある。

 目的の為ならどんな非道なことにも手を染める巨大な悪の組織。

 

 

 ロケット団……。

 世に巣くう害虫……。

 ……必ず後悔させてあげるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろヤマブキシティだ、準備はいいかヒカリ?」

「…………」

 

 グリーンがピジョットに跨りながら飛ぶ中、並行してトゲキッスに乗って飛んでいるヒカリに声をかける。しかし、ヒカリからの返答は無い。心ここにあらずといった感じに、ぼうっとした様子である。

 

 レッドの怒りにあてられた二人は、しばらくして落ち着いた後、他の増援と共にヤマブキシティに向かっていたのだ。

 しかし状況が変わり、ジムリーダークラス以下の実力のエスパーポケモンの防御の結界では、覚醒したミュウツーによって破られてしまい、操られることが分かった為、チャンピオン級の実力を持つグリーンとヒカリの二人のみが、こうして向かっているのだ。

 そういった訳で、グリーンとヒカリは世界を救うための大事な役割を担っていることになる。

 

 そのはずなのだが……。

 ヒカリは、レッドと出会ってからこのような状態なのだ。その割にはしっかりとグリーンに付いてくるあたり、意識はしっかりあるようである。訳が分からない。

 

「……おいおい、ヒカリ、どうしたんだよ? さっきからそんな感じだけどよ。緊張してるのか? 大丈夫だ、俺たちとレッドがいれば絶対乗り越えられるさ!」

 

 そう元気づけるグリーンだが、その表情には焦りと緊張の色が現れている。レッドの助太刀に早く駆けつけたい気持ちと、本当にこの二人が駆けつけただけで今回の敵に勝てるのかという不安に駆られているだ。

 

「…………レッドさんってあんな顔するんですね」

 

 その時だった。ヒカリがボソッとそんなことを呟いた。

 「え?」とグリーンが聞き返す。

 

「……私、レッドさんのことは尊敬しています。凄い強いし、シロナさんにも勝っちゃうし。……でも私、やっぱりシロナさんを一番尊敬していたんですよ。格好いいし。このトゲキッスだってシロナさんに憧れて育てましたし」

 

 いきなり何を言っているんだとグリーンは「……おう、それで?」と続きを促す。

 

「だって、レッドさんって根暗でなんかぱっとしないじゃないですか? 普段、なよなよしてるし。女心を一ミリも理解していないし。そりゃあ、シロナさんと戦った時の真剣な姿はそれなりに格好良かったですけど……。まあ、私の中ではシロナさんの次に尊敬できる良い人どまりって感じだったんですよね……」

「……おう」

 

 グリーンは、ヒカリがなぜ呆然としていたのかなんとなく察して、心配した自分が馬鹿だったと言わんばかりに、気だるげにそう返事する。

 しかし、そんなグリーンにお構いなく、ヒカリは急に表情をぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 

「そう思ってたのに、さっきのレッドさんなんですか!!?? どうして、あんな格好いい表情できるって隠してたんですか?? ……思い出したらまたゾクゾクしてきちゃった。……ああ、もう、格好よすぎですレッドさん。あの感じで『俺の女になれ』とか言ってくれないですかね? なんて! きゃー! 想像したら死ねるんですけど!! ね、ね、どう思いますグリーンさん?」

 

 両手を紅潮した顔に当て、きゃっきゃっと背景に花畑が見えるほどの自分の世界に入ったヒカリがそんな風にはしゃいでいる。

 キレたレッドを見て、ヒカリがころりと恋に落ちたのだとグリーンは理解する。そんなヒカリをグリーンは呆れたように見つめると、その表情を真剣なものに切り替えて睨む。

 そう、今はそんなことを言っている時ではないのだ。

 

「おいヒカリ! 今はふざけてる場合じゃない! 切り替えろ!」

 

 

 

「うるさいですっ!! そんなことは分かっています!!」

 

 

 

「…………えぇ」

 

 グリーンがヒカリを叱るべく大声を上げるも、その倍くらいの勢いで逆に威圧されてしまうグリーン。ヒカリの表情は笑顔から一転、怒りに染まっている。何が起きているのか分からず恐怖するグリーン。

 

「……許さない。サカキとかいう奴。レッドさんによってたかって……。絶対私が助けてみせます……。そしてレッドさんに私が価値ある女だと証明してみせます。まだ彼女はいないって言ってたし。シロナさんにも恋愛でなら、なぜか勝てる気がしますし」

 

 今、ヒカリの中にはレッドに対する恋心と、そのレッドを襲っているサカキへの怒りがせめぎ合っている状況である。

 

「あー、レッドの彼女は無理じゃねえかな、だって……」

「さあ、早く行きますよ! グリーンさん、ちゃんとついて来て下さいよ!」

「あ、おいっ、聞けよ!! ていうか待て!」

 

 ヒカリはそう言うと、グリーンの言葉を無視して加速していく。それを必死に追うグリーン。

 

 

 

 ったく、なんで女ってこう自分勝手な奴が多いんだろうな……。

 

 

 

 そう思うグリーンであった。

 

 




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