レッドとミュウツー率いる大群の対決。
ミュウツーが、上空に浮かび上がり、戦況を常に上空から把握しつつ、他のポケモンやトレーナーを操り、レッドに襲わせる。レッドはひたすらにそれを耐える。
その対決はマスコミによって全国に放映されることとなる。レッドが強いことは全国民の共通認識であった。しかし相手は無数。しかもそれは強力な野生のポケモンに、これまでカントーとジョウトを支えてきた実力あるトレーナー達。
いくらレッドでも分が悪すぎるというのが皆の見解だった。
ポケモンリーグは迅速にシンオウや、ホウエン、イッシュ地方など他の地方にも救援を求めるも、救援に駆け付けるまで数日はかかってしまう。
シロナ、ヒカリ、グリーンの三人のみが、急ぎ増援に向かっているという情報はある。それまでレッドが耐えることができれば、もしかしたら……と期待もする。しかし、それでもその三名がレッドの元に到着するまでおおよそ三時間はかかるとの見立ての為、それまでレッドが単独で耐えることは難しい。
状況は最悪と言わざるを得なかった。
勿論、レッドも自分が絶体絶命の状況に立たされていることは分かっているはずだ。
しかし今回の敵はロケット団。かつて世界中で悪行を働き、人々を恐れさせた存在。壊滅したと思っていたロケット団のボスであるサカキが今回の件の首謀であることが判明する。
レッドは今や、人々の憧れの象徴であり、心の拠り所となっている。もし、そのレッドが敗北してしまえば、人々の精神的支柱が無くなり、瞬く間に世界中がハナダシティのように壊滅させられることは想像に難くない。その先に待つ未来は、ロケット団が支配する、人々やポケモンにとって地獄のような世界だろう。
だからこそ、レッドは、抗い続けるのだろう。
圧倒的不利の中、敵から逃げることなく堂々と立ち向かう。
レッドは、相変わらずの奇跡的な反射神経と読みの深さで、攻撃をいなして躱していく。流石に無傷と言うわけではないが、それでも受ける攻撃を最小限に抑えていく。複数体のポケモンを繰り出し、最低限の指示のみでポケモン達と連携をとる。しかし、いくら敵を倒しても、その度に新たな敵が出てくる。
三十分が経過する。
まだレッドは、倒れない。
レッドとポケモン達は傷つきながらもその勢いは衰えない。しかし、状況を打破するには至らない。
人々はその姿を見て、レッドの諦めない姿を見て感銘を受ける。しかし、まだ救援が駆けつけるまでまだまだ時間はかかる。ダメージを蓄積していくレッドを見て、人々はもうだめだと、絶望する。
人々はただただ、何か奇跡が起きることを祈りながら目の前の現実を見続けた。
一時間が経過する。
まだレッドは、倒れない。
勢いも衰えていない。レッドやレッドのポケモン達へのダメージ量は増え続けるが、そんなものは関係ないと言わんばかりにレッド達は立ち向かい続ける。
ボロボロになっても戦い続けるその姿に人々は、心を奪われ、敬意の念を抱く。
それでもやはりレッドに勝算が見込めない状況に変わりは無い。
だから人々は、「もういい……」と涙を流す。これ以上、傷つく必要はないと。
一時間半が経過する。
まだレッドは、倒れない。
相変わらず、最初の勢いを保ったまま膠着状態を続けている。しかし、レッドやレッドのポケモン達へのダメージ量もやはり時間を追うごとに増えていく。
…………?
ここまで来て、人々は違和感に気付き始める。
なぜレッドは倒れないのかと。
勿論、レッドに負けてほしいと思っているわけでは無い。だが状況を見る限り、ここまでレッドが耐えること自体、どう考えても異常なのだ。
しかし、現実にこうしてレッドはまだ戦い続けている。
人々は、何が起きているのかとさらに見守る。
二時間が経過する。
まだレッドは、倒れない。
勢いも衰えない。レッドの瞳には未だ闘志の炎が燃え続けている。
さらに心なしか、逆にレッドが押し始めたようにも見える。
ここまで来て、ようやく人々は自分たちの認識を改める。
我らがレッドを、自分達凡人の尺度で推し量ること自体が間違っていたのだと。
レッドは負けるつもりなど毛頭無く、本気で勝ちにいっているのだ。
それに気づけば、後一時間もすればシロナ達が救援に到着する時間に迫っている。今の勢いに乗るレッドとシロナ達が組めば、本当に戦況がひっくり返るかもしれない。
希望が見えてきたことで、人々はテレビ越しに熱烈な声援を送り、盛り上がっていく。
一瞬のうちに数十手以上の攻防が繰り広げられる目の前の光景を前にレッドは、全神経を集中させ、その一手一手を読み解き、常に最適解を導き、ポケモン達に指示を出していく。
…………きっつい。
……けど、いける。
レッドは、疲労を感じつつも、着実に手ごたえを感じていた。
人々の考え通り、レッドははなから負けるつもりなどなく、勝利をもぎ取ろうとしていた。
一点、相違があるとすればレッドは増援を全く期待していないということ。というかそもそも増援が来るなんていう思考は無かった。
シロガネ山での修業時代、どんな苦難があっても常にレッドとポケモン達で乗り越えてきたのだ。レッドにとっては今回もその延長にしか過ぎない。それがレッドにとっての当たり前であり、常識であった。
レッドにとって全身にできた夥しい傷や怪我も慣れたものだった。致命傷は全て避けているので問題ない認識だった。体力もまだ余力はある。
そんなレッドの勝利プランとは、いたってシンプルだった。
操られても立ち上がれないほどの、ダメージを与え続けることだ。
それを繰り返していればいずれ、自分の前に立つポケモンはいなくなる、と。
脳筋的な考えではある。
それにこれまでレッドも反撃しているとはいえ、無数の攻撃が降り注ぐ中、攻撃できるチャンスは中々訪れず、相手側の戦力はほとんど削れていない。
それでもレッドは確かな手ごたえを感じていた。
というのもレッドは相手の動き――正確には、ミュウツーが他のポケモンやトレーナーをどう操っているかの思考パターンを、攻撃を受けていく中で分析し、見切り始めたからだ。
レッドはミュウツーが非常に賢いポケモンであると理解する。
効率的に無駄の無い動きで相手を追い詰めるように操っていることが分かる。しかし、同時に実戦経験をほとんど積んでいないであろうことを見抜く。
ミュウツーが操るポケモンやトレーナー達の動きは、極端な言い方をすると、お行儀のよい教科書のような動きなのだ。
この混沌とした中、効率的に動いてくれた方がレッドとしては動きが読みやすくて逆に助かる。確かにミュウツーによって、能力値自体は底上げされているのだろうが、肝心の意識はミュウツーの意識下だ。相手の動きを見切り始めた今、相手の攻撃を逆に利用し、相打ちさせるなんて芸当も可能になってきた。
これがもし、トレーナーやポケモン達が自分の意識を保った上で襲ってきたのだとすれば話は違っていただろう。その場合は、とっくに敗北していただろう。
バトルで勝つ為には、柔軟な判断に基づいた戦略が必要だ。それが無ければ俺に勝つことは不可能だ。何を考えているのか全く不明なシロナさんと戦った時の方が全然きつかったくらいだ。
とはいえ、懸念はある。
一つは、相手はまだ全軍で攻撃を仕掛けているわけではないということ。半数以上はまだ温存しているのだ。自分を倒した後のことを考えてのことなのかもしれない。そこにはコトネとブルーも含まれる。俺としてはそのまま温存しておいてくれることを祈るばかりだ。もし全軍で攻撃を仕掛けてきたらその時はどうなるか……。
そして二つ目、ミュウツーが自ら攻撃してきた場合だ。しかし、その場合、周囲の洗脳の精度も下がることが予想される。それにミュウツー自身の行動パターンは既に見切り始めている。
それらの可能性を考えつつ、それでもレッドはこう結論付ける。
……まあ、何とかなるか。
やはり勝利はほぼ間違いないとレッドは確信する。
むしろ、レッドとしては、攻撃を見切るまでのここまでが一番きつかったと考える。本当にギリギリだった。もし、最初から全軍で突撃されたりしたらやばかった。
既に一番の難所は越えた。
とはいえ、相手の動きを見切ったとしても、例外なく全員が強い敵であることに変わりは無い。そしてこの数である。時間はそれなりにかかる。
レッドはしばらく考えて、’十時間 ’もあれば片が付くだろうと試算する。
………………余裕。
シロガネ山での三日間完徹に比べれば楽というものだ。
「…………なぜレッドは倒れない?」
二時間が経過した今、レッドが倒れないどころか、寧ろ勢いが強まっていることにとうとうサカキは、そう呟いた。
ミュウツーのバリアーに守られながら静かな笑みを浮かべてレッドが襲われている光景を見つめていたサカキだったが、すでにその余裕は消え失せていた。
いつまで経っても、現状を打破できない状況に怒りを覚え、同時に焦り始める。
今で……、二時間が経過したか……。
腕時計で時間を確認するサカキ。後一時間もすれば、なぜかカントーに来ていたシンオウのシロナが増援に駆け付けるという情報は入手している。それに元チャンピオンのグリーンとシンオウのNO2であるヒカリも来ると。
それでもこちらが有利だと思いたいが、レッドの予想以上の抵抗を受けて、その考えが甘いかもしれないと思い始める。
……くそっ、レッドめ。いつも訳の分からんことをして俺の邪魔をしやがって。
……仕方ない、もう時間がない。残りのポケモンと、コトネとブルーも戦わせるか。
サカキがそう思いながら、視線を横に向ける。そこにはコトネとブルーが呆然と立っている。
コトネが強いことは周知のことである。そしてブルーもコトネに匹敵する実力の持ち主であることは、ポケモンリーグに忍ばせている諜報員から聞いている。どうも、レッドとグリーンと幼馴染であるらしい。
それほどの駒であれば、なるべくレッド戦では消耗せずにとっておきたかったというのが正直なところだった。特に有名人でもあるコトネの利用価値は大きいと踏んでいた。
しかし、最早出し惜しみしている場合ではない。
「ミュウツー! コトネとブルーを戦闘に参加させろ! 残りのポケモン達もだ! 目一杯限界を引き出して構わない!」
ここでサカキは驚きの光景を見た。
レッドが明らかに動揺したのだ。
ここまで一切の隙を見せずに、完璧な振る舞いを見せていたレッドがだ。
その証拠に今、大きめの攻撃をレッド自身が腕に食らった。致命傷というほどではないが、これまでのレッドなら避けていた攻撃だった。
…………なぜだ?
偶然なわけがない。
サカキは考える。
今、レッドは明らかに自分の発言をトリガーに動揺した。
自分が何を言ったか。それはコトネとブルーを戦闘に参加させることだ。そして残りのポケモン達を戦わせるとも言った。
……いや、奴は俺の言葉の前半の方で動揺した。
つまり、コトネとブルーの部分に反応したのだ。
レッドと二人の関係性を思い出す。
コトネとは、シロガネ山で何度も会ったと報道されていた。
ブルーとは、昔からの幼馴染であると聞いている。
…………。
そこまで考えてすぐに一つの結論にたどり着いた。
まさかと思うが、そうとしか考えられない。
それがよほど面白かったのか、サカキは額に手をあて狂ったように笑いだす。
「……ふ、ふふ、ははははは!! これは面白い! 私は君を、どこか人間離れした特別な存在だと誤認していたようだ! レッドも所詮は、ただの子供だということか! …………ふふ、コトネか? それともブルーか? まあ、私にとってはどちらでもいいことだ」
そう言うとサカキは。アイテムで回復させていたニドクインとニドキングを再び繰り出し、コトネとブルーをいつでも攻撃できるように指示を出す。
「ミュウツー! いったん、攻撃を中止しろ! ……レッド、こちらを見ろ!」
…………っ!?
するとサカキの思惑通りにレッドの表情が焦りに包まれる。目に見えて血の気が引いているのが分かる。明らかにレッドは怯えていた。
その様子は年相応の子供のようだった。
これまで何が起きても動じなかったレッドがだ。
レッドはサカキにやめてくれと言うように手をこちらに伸ばしている。
散々自分を滅茶苦茶にした存在が今、自分の手の平の中にあると分かり興奮していく。
サカキがニヤリと笑みを浮かべる。
「……全く、レッドには驚かされるばかりだ。私にこのような小物の真似までさせるほど追い込みやがって……。だがそれもこれで最後だ。……分かるなレッド? 少しでも抵抗すればこの二人がここで死ぬことになる。お前はここで…………」
死ね。
無数のポケモンやトレーナーがいるにも関わらず静寂に包まれるこの空間にその声は、驚くほど響いた。
このサカキの発言に、レッドのポケモン達――特にピカチュウが激怒する。逆にお前を仕留めてやると言わんばかりに、ピカチュウが雷を纏おうとする。
バリアーで守られていようと関係ない。この命に替えてもお前を道連れにしてやると力を込める。
しかし。
すっ……と、レッドがそのピカチュウの動きを手で遮る。
ピカチュウは当然それに気づくも、絶対に上手くやるといった風にレッドの制止を無視しようとする。
やめろ。
レッドが怒気を含ませた言葉でピカチュウを止める。
ピカチュウはビクリと震えあがり、どうしてだよと言うように恐る恐るレッドを見つめる。
そしてピカチュウは見た。
レッドの慈愛に満ち溢れた表情を。
これを見たピカチュウはレッドの心中を察する。
全身から力が抜けていき、その場に座り込んでしまう。
レッドは、そんなピカチュウを優しく見つめた後、小さな声で「ありがとう」と呟き、その表情を怒りに包みながら、サカキに向き直り、そして言う。
……俺のポケモンの命は奪うな。当然、その二人もだ。
「…………やれ、ミュウツー」
レッドの言葉を受け、不快そうな表情を浮かべたサカキの冷徹な指示により、ミュウツーがレッドに向かって力を振るう。ミュウツーの『サイコキネシス』によって、突如レッドが見えない壁にぶつかったように後方に数メートル吹き飛ばされ、大地に叩きつけられながら転がっていき、やがて止まった。レッドは動かない。
レッドのポケモン達が驚き悲痛な悲鳴を上げながらレッドの元へと寄っていく。
……大丈夫だ。
しかし、レッドは震える声でそう言うと、ポケモン達に心配をかけさせまいと、ぐぐぐと力を込めて立ち上がる。
しかし、サイコキネシスを受けた箇所から激痛が襲ってくる。あばらが何本か折れていた。
それでもレッドは無理やり立ち上がると、より一層強い意志をその身に宿し、サカキを睨む。そして。
……もう一度言う。
……俺のポケモンの命は奪うな。その二人もだ。
サカキは、レッドから放たれる圧力に怯む。完全にこちらが優位であるにも関わらず逆にこちらが追い詰められているような感覚に陥る。ここは従えと本能が叫ぶ。
サカキは、咳払いしつつ、なんとか努めて平静を装う。
「…………ふん、まあいいだろう。利用はさせてもらうがな」
…………今は、それでいい。
ただし、無茶させたらゆうれいになって呪うからな。
「……本当にしそうだから困る。まあいいだろう。私をここまで追い詰めたことに敬意を表しそこは保障してやろう。お前には死んでもらうがな」
ピカチュウは、そして他のポケモン達もレッドが犠牲になる覚悟を決めていることを理解する。
ポケモン達もレッド同様、今回の戦いは勝てると確信していた。
この先もレッドと共に歩めると思っていたのに、その道が途端に途絶えようとしているのだ。
こんなことで……。
レッドのポケモン達の中に深い悲しみが広がっていく。
自分達ではこの状況を覆すことはできない。絶対の存在である主がどうしようもないと判断したのだ。
それにレッドが先ほどピカチュウを制止したこと。
レッドがあんな風に自分のポケモンを怒ったことは初めてだった。
つまり、レッド自身が犠牲になり、大切な人とポケモン達を救うことが、レッドの願いでもあり、自分達へ初めて見せる我儘でもあるのだ。
ピカチュウの瞳から涙が一粒こぼれ落ちる。
それを皮切りに、どんなに厳しい修行でも決して弱音を吐かなかったポケモン達が、自然に涙を流す。その瞳から大粒の涙が溢れては落ちていく。まるで赤子のような鳴き声を上げ、それが周囲に響いていく。
レッドは、帽子を被りなおし目の前の光景をシャットアウトする。
お前達も泣くんだな……、ごめん。
今まで俺について来てくれてありがとう。
……楽しかったよ、本当に。
皆によろしく言っておいてくれ。
そう呟いたレッドは、サカキのほうに向きなおる。
レッドの覚悟は決まっていた。
その佇まいは、子供のそれではなく、世界最強のトレーナーたる堂々としたものだった。
それをサカキはつまらなそうに見つめる。
「……言い残すことはそれだけでいいか? ここまで待ってあげた私の寛大さに感謝することだな。では、ミュウツー。お前がレッドを殺せ。それですべてが終わる。……いや、違うな。始まるのだ。私の時代が、くく……」
愉快げに笑いながら出されたサカキの指示に従って、ミュウツーが力を込めて『サイコカッター』を発動せる。
虚空から生まれた強力なエネルギーをミュウツーが力を込めて刃の形に練り上げていく。
やがてどんなものでも切り裂く刃と化したそれが、躊躇なく放たれる。
必殺の刃が、正確に狂いなくレッドに目掛けて凄まじい速度で迫っていく。
レッドは目を閉じて、静かにその時を待つ。
『サイコカッター』が上空から飛んできた同じ『サイコカッター』によって相殺される。
高出力のサイコカッターがぶつかり合った衝撃が、音となり、荒れ狂う風となり、周囲に広がっていく。
「なんだ!? 何が起きた!?」
サカキは、驚き喚きつつ上空を見つめるもそこには何も無かった。
いや、そもそも今のミュウツーの攻撃を相殺できるポケモンなど、この場にはいないはずなのだ。いるとすればレッドのポケモン達だが、それらは目の前で泣き崩れていたのだから。
「みゅう!」
その時だった。突如、横合いから鈴のような透き通った鳴き声が聞こえて来た。
驚いたサカキが急いで振り返ると同時だった。
ズシンッ! とニドクインとニドキングが地面に倒れていた。二体は眠らされてしまい意識を絶たれたのだ。
サカキが二体を眠らせた正体を見ようと視線をさまよわせると、空中に浮かぶ何かがいた。
その何かが、コトネとブルーに触れると、二人は球状に展開された強力なバリアーに包まれて、ふわふわと地面から少し上に浮く。さらに驚くことにミュウツーの洗脳が解かれて眠っている。
「……お、おまえは!?」
サカキは目を見開き、目の前にいる存在を見つめる。
その何かは、ブルーを覆っているバリアーの上にちょこんと腰掛けている。
蒼く大きな瞳に、長い尻尾が特徴であり、淡いピンクの皮膚に包まれたそれは、間違いなく、『ミュウ』であった。
あらゆるポケモンの技を覚え、全ポケモンの先祖とされる正真正銘、幻のポケモンである。
サカキが知らない訳が無かった。ミュウツーのオリジナルなのだ、当然である。
「な、なぜ、ミュウがこんなところに……?」
あまりに予想外な出来事に、混乱が解けないサカキは震える口調でそう呟く。レッドとそのポケモン達も何が起きているのか分からずぽかんとした様子で突如現れたミュウを見つめている。
ミュウは、サカキの言葉に「?」と首を傾げた後、ミュウはその可愛らしい顔を、怒り顔に変え(それでも可愛らしいが)、その短い腕をサカキの方へ伸ばし指さした後、腕を交差させてばってんを作り「みゅうっ! みゅうっ!」とサカキに訴える。
それは、まるでサカキのしていることはだめだぞ、と注意しているようにも見える。
サカキもミュウが何を言いたいのか何となく感じ取る。徐々に混乱が解けていき、その顔を苛立ちに包んでいく。
「……どこから湧いて出たのか分からんが、ポケモン如きが邪魔をしやがって!! その二人を返せ!! ミュウツー!! ミュウを排除しろっ!!」
サカキの激昂と共に、ミュウツーから『シャドーボール』が繰り出される。それはミュウ目掛けて狂いなく飛んでいくが、直前でミュウの姿が消え、上空に再び姿を現す。『テレポート』を使ったのだ。
構わずミュウツーは、再び『シャドーボール』を繰り出す。
しかし今度は、突如天から降り注いだ氷と雷の壁に阻まれる。
「今度はなんだ!?」
思い通りにならない現状にさらに怒りを増すサカキの怒号に応えるように、上空から鳴き声が返ってくる。上空に目をやると、そこには天を舞う『フリーザー』と『サンダー』がいた。二体は、ミュウに攻撃を加えさせないと言うように、ミュウの前に舞い降りてくる。
「……今度は、フリーザーにサンダー……だと? ……何が起きている?」
立て続けに伝説と呼ばれるポケモンの存在が現れたことにより、焦るよりも先に、何か異常事態が起きているのではと警戒を強める。
フリーザーとサンダーが、サカキを睨む。伝説のポケモンに睨まれたサカキは一瞬怯みかけるも、「くっ」と笑みを零す。
「……ふん、伝説と呼ばれようが所詮ポケモンに変わりはない! 寧ろ、私の手駒にしてやる! ミュウツー、こいつらもまとめて操ってしまえ!」
サカキの命令にミュウツーが、力を込めて三体を操ろうと力を込める。しかし、「……みゅう!」とミュウも同様に力を解放し、自分達に防御の結界を張っていく。いくらミュウツーが強いと言っても同格の存在が張った結界を突破することは叶わない。
さらにミュウは最初にミュウツーがこのヤマブキシティをエスパーの力で覆ったように、自分もヤマブキシティを覆うように力を解放していく。それはここにいる存在をミュウツーの洗脳から解く為のものだった。
しかし。
「…………みゅう」
と、落ち込むミュウ。残念ながらミュウツーの洗脳の力が強すぎて解除することはできなかった。コトネやブルーにしたように、直接触れれば解除することは可能ではあるが。
「……ふん、お前ごときがこの大軍にかけられたミュウツーの洗脳を解けるはずがないだろう。しかし流石にミュウ相手ではすぐに洗脳することはできないか。……だがお前達は勘違いをしているぞ? お前達が二体、三体増えたところでこの状況は変わらない。コトネとブルーは奪われたが、レッドはもう負傷して戦力にならない! こちらには数千を超えるポケモンがいるのだ! レッドの時はその後のことを考えて戦力を温存していたが、全て投入してやる! 私にたてついた罰として、レッド諸共殺してやる! ふふ、そうだ、よく考えれば、ここで戦力を失っても、また操って補充すればいいのだ! ポケモンは世に腐るほどいるのだからなぁ!!」
サカキがそう叫んだ瞬間だった。
…………ズズ……ン……
突然、地鳴りが聞こえてきた。
……なんだ、何の音だ?
その地鳴りはどんどんとこちらに近づいてくる。
それに伴い、地鳴りはどんどんと大きくなっていき、ヤマブキシティ全体に響いていく。なにか巨大なものが近づいてくるようである。かなりの速さで近づいてきている。
サカキは何か不気味で嫌なものを感じ取り、その顔に冷や汗が滴る。
そして。
「なんだあれは!!??」
とうとうその地鳴りの正体が見えてきた時、サカキは叫んだ。その表情は驚愕に包まれている。
それはポケモンの大群だった。
何十や何百といったレベルのものではない。
こちらと同規模の数千体を超えるほどのもの。
そしてその大軍の先頭で指揮するように飛んでいるのは、伝説の三鳥の残りである、『ファイヤー』だった。
そして、唯一そのポケモンの大群の正体に気付く者がいた。
レッドである。
…………あれは、
シロガネ山のポケモン達?
ファイヤーと数千を超えるシロガネ山で鍛え上げてきた野生のポケモン達が、サカキの姿を捉えた瞬間、獲物を見つけたとばかりに一斉に雄たけびをあげる。
オオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!
世界を揺るがすそれはサカキの本能に明確な恐怖を与えた。
そしてその雄たけびに応えるようにミュウが「みゅうううっ!!」と、シロガネ山のポケモン達がミュウツーに操られないように防御の結界を展開していく。
呆然とするサカキの前に、伝説の三鳥が躍り出てサカキを睨みつける。
サカキにポケモンの言葉は分からない。
しかし、その三鳥はこう言っているようだった。
ここからは俺たちが相手だ。と。
相変わらず感想、誤字報告頂いた方ありがとうございます!