レッドが地上に戻るようです   作:naonakki

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第五話

 急遽始まったブルーとコトネのポケモンバトル。

 二人の戦いは凄まじく、互いが一歩も譲らない展開へとなっていた。

 

 「カイリュー! りゅうせいぐんよっ!」

 「ボーマンダ! こっちもりゅうせいぐんで迎え撃ちなさいっ!」

 

 コトネとブルーの指示に伴い、二体のドラゴンの咆哮が辺り一帯に大気を震わせながら響き渡っていく。

 間もなくしてカイリューとボーマンダの叫びに応え、天空から隕石が落ちてくる。それは互いの敵目掛けまっすぐに向かっていき、そして隕石同士が衝突する。膨大なエネルギーの衝突により、轟音と共に衝撃波がまき散らされていく。大気に含まれる水分が蒸発し、大地が捲れあがり、一帯が土煙に包まれる。

 

 「……ボーマンダ! 吹き飛ばしなさい!」

 

 視界が塞がれている中、そう指示を飛ばすブルー。ボーマンダは自らの翼を力強く羽ばたかせ、土煙を吹き飛ばしていく。

 しかし、晴れ上がった先には、ドラゴン特有の力強さと神秘さを兼ね備え、見るものを魅了する舞を踊るカイリューがいた。

 

 ……!?

 

 カイリューが何をしているのか瞬時に悟り、ブルーの表情が焦りに包まれる。

 対するコトネは、冷静に戦局を見据えブルーに思考の余地を与える前にカイリューに指示を出す。

 

 「カイリュー、げきりんよ!」

 

 りゅうのまいにより力と速さを得たカイリューの攻撃をボーマンダは避けることはできない。怒りを爆発させたカイリューの攻撃が次々とボーマンダに叩き込まれていき、そのままダウンまで追い込まれてしまう。

 ブルーは苦い表情を浮かべ、ボーマンダをモンスターボールに戻し、新たなポケモン、ゲンガーを繰り出す。

 しかし、カイリューの勢いは止まらない。

 ゲンガーは為すすべなくカイリューのげきりんによって、あっという間に戦闘不能に追い込まれてしまう。

 ここでカイリューは疲れ切ってしまい混乱してしまうがそれを差し引いても余りある戦果を既に残している。

 現在、コトネとブルーの手持ち差は二体でコトネが優勢だ。

 流石はコトネといったところだ。ポケモンの育成レベルはブルーもコトネも同等のようだが、戦術や判断力はコトネが一枚上手だ。

 このままコトネがリードを広げていき、勝利をその手に収めるだろう。

 

 

 

 ……相手がブルーじゃなければ、だが。

 

 

 

 「……ふふ、この勝負絶対に勝ってみせます。」

 

 コトネは警戒態勢を続けつつも、多少の余裕が出てきたのか、その表情に笑みを浮かばせている。

 

 「……ふ~ん、カントー、ジョウト最強のトレーナーなんて聞いてたからどんなものかと思ってたけど、案外大したことないのね?」

 

 一方のブルーは、不利な局面に立たされていることを感じさせない様子でコトネの方を白けたように見つめると、そんな言葉を投げつける。

 

 「……なっ!? 負けているのはそっちです! 強がらないでください!」

 「……ふん、私が今まで本気を出していたと思う? おめでたい子ね。よくそんなのでカントーとジョウト最強になれたものよね?」

 「な、なにが言いたいんですか!?」

 

 ブルーの言葉を真正面に受け、顔を真っ赤にして激昂するコトネ。そんなコトネをあざ笑うかのように、涼し気な表情を浮かべるブルー。

 

「これから見せてあげるわ。……いきなさいキノガッサ! キノコのほうしよ!」

 

 ……うわ、でたっ。

 

 ブルーのモンスターボールから出てきたキノガッサを見て、全身に鳥肌が立つ。全方位に死角なく振りまいてくるキノガッサのキノコのほうしの恐怖はいまだに俺の体に染みついている。

 対策をしていないとほぼ確実に眠らされてしまい、気合パンチやマッハパンチやらでボコボコにされるのだ。昔、ブルーにこの作戦をやられた俺はブチギレたものだ。

 コトネほどの実力があれば初見であってもある程度は対処できるはずだが、先ほどのブルーの煽りで頭に血が上ってしまっている。その状態ではとても対処できないだろう。

 コトネのまっすぐな性格に腹黒いブルーの性格が見事に突き刺さった結果となってしまっていた。

 

 「キノガッサ! ストーンエッジよ!」

 

 とうとう猛威を振るったカイリューが落とされてしまう。

 その後の戦いはとても見られたものではなかった。

 出しては、眠らされ倒されていくコトネのポケモン達。

 そんな戦法にコトネはかつての俺のように怒りを露わにする。しかし、それが罠。冷静さを失えばそれだけ動きが単調になり、ブルーに動きが読まれることに繋がってしまう。

 ようやくキノガッサを倒せた頃には既に絶望的なまでの戦力差が出来上がってしまっていた。

 それでもコトネは諦めることなく執念の粘りを見せ、最後の一体同士までもつれ込ませる。

 だがコトネの最後のポケモン、メガニウムは既に満身創痍であり、一方のブルーのカメックスはまだまだ万全の体調である。タイプの相性ではメガニウムに分があるとはいえ、あまりに体力差がありすぎる。

 結局、奇跡の大逆転が起こるわけもなく、順当にカメックスが勝利を収める結果となった。

 

 コトネは倒れてしまったメガニウムにふらふらと歩み寄り、ポタポタと大粒の涙を流しながら、ガクリとその場に崩れ落ちてしまう。

 

 ……可哀想に。その悔しさ本当に分かるぞ。

 だが、ブルーのキノガッサと対面してあそこまで追い込んだコトネは純粋に凄いと思う。しかも見る限り寝不足そうだし。

 

 「……これでどっちが上かはっきりしたわね? ねえ、コトネ?」

 

 そしてそんなコトネに容赦なく冷ややかな言葉を差すブルー。

 コトネは涙を流しながらもキッと鋭い表情をブルーに向けるが、ポケモンバトルで負けた以上言い訳をするつもりはないのか悔しそうに睨みつけるだけだ。

 そんなコトネの様子にブルーは満足したのか、くるっとこちらを振りむくとこちらに歩いてくる。

 

 「……ほら、行くわよレッド。作戦の練り直しも兼ねてお昼食べに行くわよ。」

 

 そこで何を思ったのか、ブルーは自分の腕を俺の腕に絡めてきて、コトネの方を振り返る。

 

 「……じゃあね、聞いていると思うけど午後から修行の時にまた会いましょうね?」

 

 どこか挑発的な口調で別れの言葉を言い捨て、その場を急ぎ足で去っていく。俺もぐいっと腕を引っ張られる形で後を付いていく。ブルーが勢いよく歩くものだから、コトネがどんな表情を浮かべていたかは分からなかった。

 

 

 

 

 

 ……おい、ブルー。歩くのが速い。腕も離してくれ、歩きづらい。

 

 スタジアムから出て、無言のままのブルーに引っ張られながら歩くのにいい加減我慢できなくなり、そう突っ込む。

 その瞬間、ブルーはピタリと立ち止まると「……っはぁー。」と大きな息を吐き、こちらにもたれかかってくる。

 いきなりなんだと思い、ブルーを支えつつ覗き込んでみると、そこには疲労の色を浮かばせたブルーの顔があった。息は乱れ、額には汗が浮いている。

 

 「……流石に疲れたわ。格上のトレーナーと二連続で全力勝負なんてするものじゃないわね。」

 

 意外だった。あんなに仲が悪そうだったのに、コトネのことはしっかり認めているようだ。

 ……なら、もっと堂々とした戦略で戦えばよかったのに。まあ、仕掛けてきたのは向こうかもしれないけど。

 俺のこの言葉にブルーはギロリと睨みつけくる。怖い。

 

 「……うるさいわね。……私だってあんな戦い方したくなかったわよ。でも私にだってね……あっ、あそこのお店美味しそうだわ、行きましょう!」

 

 言葉の途中で急に俺の手を取り、駆け出すブルー。俺はまたも黙ってブルーに引っ張られていく。……まだ元気じゃないか。

 

 そういえば、コトネはなんで怒ってたんだろうな?

 俺なんかしたのだろうか? ……分からん。

 

 あ、そういえば報酬のこと結局聞きそびれたな。

 ……まあいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルーが俺の実力を見直してくれたところで、改めて作戦会議も兼ねた昼食も終わり、初の実戦での修行になる。

 ブルーのいう通り、急な申し出だったにも関わらず、何人ものジムリーダーや、四天王の人たちが集まってくれていた。

 

 そして、一人一人と戦っていたのだが。

 

 ……弱い。

 

 予想はしていたが、みんな弱すぎる。ピカチュウの十万ボルト一発でほとんどのポケモンが倒れていくのが現実だった。これでは一体倒すのに10秒かかるだけの、ほとんど流れ作業だ。

 おっと、イワークか。ピカチュウ、アイアンテール。

 ……これでは実戦を想定したサンドバッグ代わりにすらならないぞ。

 

 あ、そうだ。二人がかりで戦ってもらうのはどうだろうか? 

 いわゆるダブルバトルだ。こっちは一人で二体のポケモンを出し、向こうは二人で一人一体ずつポケモンを出し、勝負してもらうのだ。

 

 というわけで向こうには二人がかりで挑んできてもらう。

 ……おぉ、これはなかなかいいんじゃないか?

 こっちの集中力が分散されるため、先ほどよりは多少苦戦するようになったぞ。

 けど、これでも10秒が30秒に変わった程度だ。まだまだ修行というには程遠い。

 

 ……三人がかりでもいけるんじゃないだろうか?

 

 そんなことが頭をよぎる。

 三体のポケモンの状況を把握し、一斉に指示を出す。それはかなりの集中力が要求されるだろうが、何となくこなせる自信があった。今の俺、めちゃくちゃ絶好調だし。というかシロガネ山でも野生のポケモン相手に実践したことあるし、多分いけるだろう。

 周りの人たちからは、「流石にそれは……」、「いくらレッドでも」と反対意見も出たが、現に二対一でもほとんど勝負になっていなかったことも事実であり、試しに三対一でしようということになった。

 

 お、これは……楽しいぞ?

 六体のポケモンが入り乱れる戦場を実際に前にするが、思ったより戦況が見えるものだ。流石に一方的に勝つなんてことも無くなったし、効率的な戦術と各ポケモンの状況を判断するだけの視野の広さが要求されることもあり、良い修行になる。これを極めればシロナ戦でもきっと役に立つだろう。

 結局、その日は三対一のバトルをひたすら繰り返すことになった。

 

 最後にグリーンとブルー、そしてコトネと一人ずつ戦ってその日は修行終了となった。ちなみにワタルは用事があり来れなかったらしい。流石にバトル続きとあって、グリーン、ブルー、コトネにかなりの苦戦を強いられ、その日はへとへとになった。

 コトネと会うのは正直気まずかったが、コトネは真面目に修行に付き合ってくれた。だが、本調子には程遠く、いつもの切れがなかった。どう見ても昼間の件を引きずっていることは明白だった。

 修行中も何度かコトネから視線を感じたが、本人がこちらに接触してくることはなかった。

 このままコトネと気まずい距離感なのも嫌だし、今度ブルーに内緒でちょっと会ってみるか。なんかブルーはコトネを敵視している節があるみたいだし。

 

 結局、今日の修行は半分くらいのバトルは敗北してしまった。三対一のバトルをものにするのは中々骨が折れそうだった。トレーナーの指示を受けたポケモンの動きは野生のポケモンよりも複雑であり、シロガネ山のようにはいかなかった。逼迫した状況になると視野は狭くなるし、瞬間的に状況判断を迫られるシーンになるとどうしても思考がそれ一択になってしまう。

 だが、逆に言えば俺にまだ成長の余地があるということでもある。

 明日からは勝率を伸ばせるように頑張っていこう。

 その日も結局ブルーの泊っているホテルに行き、夜寝るまでシロナのバトルを分析し、ブルーと一緒に作戦会議を行い、倒れるように寝た。

 

 それから俺は、一週間ほどシロナ戦の研究と並行してこの調子で修行を続けていった。

 どんどんと三対一のバトルにも慣れていき、勝率が上がっていく中でポケモン達のレベルも上がっていき、俺の体の調子も日に日に良くなっていった。

 

 だが何事も思い通りには進まないもので、問題が起こる。

 この時、ある話題で世間は大いに盛り上がっていた。

 つい先日のことだ、シロナ側が俺に絶対に勝てると宣言してきたのだ。

 一週間ほど前から勝てるとは言ってきていたが、世間の反応からしても「強がっているだけでは?」、「ファンサービスだろう」という見方が大筋だった。

 しかし、先日放送されたものを俺も録画で見たのだが、むしろ勝って当然でしょう、一々騒がないでくれるかしら? とでも言わんばかりに自信に満ち溢れていたのだ。

 さらに対策もシミュレーションも完了済みということを全国放送でわざわざ言い切ってきたのだ。

 

 流石に俺の中にも本気の焦りが生まれた。

 

 世間もここまで言うとは、本当に勝てる算段があるに違いないと言い出してきた。

 いよいよブルーが言っていた、シロナが今使っているポケモンが二軍にしか過ぎないという可能性も現実味を帯びてきた。二軍でなくても、シロナがこれまで一度も本気を出してこなかった可能性もある。

 

 シロナという人の性格はこの一週間研究しまくってある程度は分かっているつもりだ。裏めいたことを嫌い、誠実であり、ポケモンのことを愛している、というのが分析結果だ。これはブルーの見解とも一致している。

 だからこそ、これは嘘や強がりでなく、シロナの勝利宣言は絶対的な根拠に基づくものだと判断できるのだ。

 俺は益々、修行に力を入れることを余儀なくされた。

 

 そんな時だった。

 テレビ関係の人たちがやってきて、修行の様子を放送してもいいかという要望があった。

 グリーンは修行の邪魔になるなら断るぞと言ってくれたが、ブルーの提案で受け入れることにした。

 ブルーの考えはこうだ。

 三対一でポケモンバトルをするという人間離れした芸当を敢えて見せて、シロナにプレッシャーをかけるというものだった。勿論ピカチュウは隠してだが。

 そして、こちら側も向こう側同様にシロナのことを徹底的に分析し、勝つ算段は見えているという事を告げるのだ。

 ちなみにこの作戦にはプレッシャーをかけられっぱなしは癪だといういかにもブルーらしい考えが根底にある。

 

 しかし、これがシロナ側から思わぬカウンターを食らうことになるとはこの時思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら、どうしたの? 休んでいる暇はないわよ! 次よ!」

 

 シンオウ地方のポケモンリーグの訓練所にシロナの声が響き渡る。シロナの視線の先には、地に座り込んでしまっている三人の男がいた。 

 

 「いやいや、シロナさん! もうかれこれ六時間以上はぶっ続けでバトルしていますよ? 俺たち死んじゃいますよ! ていうかなんでシロナさんはそんなに元気なの!?」

 「そうですよ。急に呼び出されたと思ったら、特訓するぞなんて酷いですよ!」

 「……本当、何があったんでしょうか。今日のシロナさん特に気合が入っているようですが。」

 

 そう愚痴をこぼす三人は、それぞれオーバ、リョウ、ゴヨウのシンオウの四天王である。

 三人はシロナに緊急招集を受け、集まったと思ったら急に特訓をするぞと言われ、ひたすら交代でシロナと戦わされている状況である。

 三人とも、カントー、ジョウトの四天王を上回るほどの実力を持つものの、三人を遥かに上回るシロナにボコボコにされまくり、すっかり消沈してしまっている。

 

 「……あなたたち、ついこないだ年端もいかない女の子にあっさりポケモンリーグを通過されていたでしょう? ポケモンリーグがそんなことではだめなのよ。もっと高い壁である必要があります。それに最近あまり合同で訓練をできていませんでしたし、ちょうどいい機会なので訓練をすることにしました。決してそれ以外の意図はありません。」

 「……あ~、先週のチャレンジャーのヒカリって子のことですか。でも、あの子相当強かったですよね。しかもあの年齢であそこまで強いって、かなり才能あると思いますけどね。……まあ、シロナさんには敵わなかったですけど。」

 「そういえば、そのヒカリさんは今頃何をしているのでしょうか? 再挑戦しにくるのでしょうか?」

 「いーや、噂で聞いたけど今話題のカントーに旅立ったらしいぞ。理由は知らんが。」

 

 シロナの言葉をきっかけに和気あいあいと談笑に耽る男性三人衆。

 

 「……あなたたち、さっさと起き上がらないとガブリアスのげきりんを味わうことになるわよ?」

 

 シロナの怒気を孕ませた言葉に男性陣がシュタッと立ち上がる。

 しかしここでリョウが一歩前に出ると、言いづらそうに

 

 「……あ、あの~、シロナさん。僕これから女の子とデートなんですよ。訓練は今度行いますので、今日は一旦帰らせてもらいます。」

 「ばっか、リョウ! お前、シロナさん相手になんつー理由で帰ろうとしてるんだよ!? シロナさんに異性関係の話題は禁句だろうが!」

 「い、いや、だって本当のことだし。……それに、今ヤバイ状況になってるのはオーバの方みたいだよ? ほら。」

 「え?」

 

 オーバが振り返るとそこには、修羅と化したシロナがいた。

 にっこり微笑むシロナだが目は全く笑っていない。

 

 「ふふ、オーバ? 今のは一体どういうことかしら?」

 「あ……あぁ……。」

 「……構えなさい。」

 「……はい。」

 

 有無を言わさぬ重圧でオーバにモンスターボールを構えさせるシロナ。

 

 「行くわよっ!! ガブリアス! げきりんよ!!」

 「あぁっ!!?? くっそぉ!! いけっ、ギャロップ! 頑張って避けてくれっ!!」

 

 オーバの断末魔を背中にリョウとゴヨウはこっそりと訓練所を後にする。

 

 「……ふう、オーバが馬鹿で助かりましたね。」

 「……ノーコメントで。」

 

 

 

 

 

 「し……死ぬ、まじで。」

 「まったく、だらしないわね。」

 

 目の前でぜーぜーと荒い息を突き、床に突っ伏すオーバを見て考える。

 とりあえず、四天王の三人を相手に修行を開始してみたけど……。

 どうにも物足りないわね。というか二人は帰ったみたいだし、二人の処遇については後で考えましょう。

 

 「……もしかしてシロナさん、二週間後のレッド戦のことを意識してます? 急に二週間分のスケジュール全部キャンセルしたって聞きましたよ?」

 「……まあ、意識していないといえば嘘になるわ。」

 「ははは、まあそうですよね。……そうだ、俺から一つアドバイスできることがありますよ。あのレッドってやつ、俺と同じ匂いがするんですよ。あいつはクールそうに見えて、いざバトルが始まれば熱くなるタイプだ。そんなレッドが二週間後の大舞台でどんなことをしてくるか何となく予想がつくんですよ。」

 「へえ……ちなみにどんなことをしてくると予想しているのかしら?」

 

 オーバの勘の良さは私も認めているところがある。まあ、勘に頼りすぎて考えるのを放置する傾向があるから一概に長所ともいえないけど……。

 

 「それはですね……」

 

 オーバの説明を聞いて、なるほどと納得する。

 確かにあり得ない話ではなさそうだ。対策する価値は十分ありそうだ。

 ……でも、そうなると誰を先発にするべきかしら。

 

 癖で思考に耽りかけて、オーバにまだ礼を言っていなかったことを思いだす。

 

 「ありがとうね、オー……あら、どこにいったのかしら?」

 

 ふと視線を前に向けると先ほどまでいたオーバが姿を消していた。

 よく見るとメモ用紙が置かれていることに気付く。

 それを拾い上げ、読み上げる。

 

 『シロナさんへ。この後、合コンがあるので帰ります。シロナさんも早くいい男捕まえた方がいいですよ♡』

 

 ……。

 

 メモ用紙をビリビリに破り捨てる。

 

 「……ガブリアス、今度オーバに会ったらなんの技でもいいから攻撃しなさい。遠慮はいらないわ。」

 

 そんな私の指示に動揺するガブリアスの姿を尻目にこれからどうするか考える。

 

 ……だめね、あの三人以外に扱いやすくて強いトレーナーなんていないわ。

 そういえば、レッドという人はシロガネ山に籠っていたのよね……。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……やるしかないわね。

 




もしかしたら来週更新できないかも……。

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