レッドが地上に戻るようです   作:naonakki

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第八話

 自分で言うのもなんだが、俺はことポケモンバトルに関しては誰にも負けない才能があると思っていた。

 これまでも数えきれないほどのトレーナーと戦ってきたが敵わないと思った者は一人たりともいない。それはかつてのライバルであるグリーン、ブルー、そしてコトネも含めてだ。

 それが普通だと思っていた。

 どんなトレーナーが相手でも努力をし策を練れば勝てない相手などいないのだと。

 そしてその考えはこれまでの結果という形で実証してきた。

 俺にとっての最大の敵はいつだって自分自身であり、昨日の自分よりも、一時間前の自分よりも、一分前の自分よりも、一秒前の自分よりも強くなることが全てであり、どこまでも強くなっていくことが楽しいと思っていた。

 

 しかし、今俺の前に立ちはだかっているシロナというトレーナーは今までの相手とは違う。

 最初は周りの人より少し強いだけのトレーナーくらいに思っていた。どうせ今回もすぐに勝つ算段がつくだろうと。

 しかし、こちらがいくら力をつけても相手は揺るがない。それどころか逆に勝利宣言をされてしまう始末。

 いつもはすぐ目の前に見えてくる勝利の二文字が全く見えてこない。

 一体何を隠して何を企んでいるのか想像することができない。

 初めて出会う自分自身以外の明確な『敵』であった。

 心がざわつき落ち着かない。

 ドクンドクンッと鼓動がやけにうるさい。

 うまく呼吸すらできないようだった。

 全身も細かく震えており、明らかに体の調子がおかしい。

 しかし以前のように体調不良というわけではないと思う。

 それに別に不快な気持ちというわけでもない。

 一体どうしたというのか……。

 なぜか今は無性にポケモンバトルをしたかった。とっくに体は悲鳴を上げている。それでも俺の中の魂が戦い続けろと言っているようだった。

 

 「ちょっとレッド! いい加減にそろそろ休まないと!」

 

 日が暮れ始め、辺りに長い影が伸びてきた頃。

 休みなくポケモンバトルを続ける俺にとうとう我慢の限界だと言わんばかりにブルーがその表情を怒りに包み突っかかってくる。

 俺はそれを無視してポケモンバトルを続けようとするが、ブルーはこちらに走り寄ってきて胸倉を掴んでくるという強行突破に打って出てきた。これは流石に訓練を中断せざるを得ない。

 

 「あのねぇ! ヒカリからあんなこと言われて不安なのは分かる……け、ど……って。」

 

 しかし、ブルーは俺の表情を覗き込んだ瞬間ポカンとした表情を浮かべる。鳩が豆鉄砲を食ったようなそんな感じだ。

 すぐにブルーは、「はぁ……」と呆れると、改めてこちらを見つめてくる。

 

 「……そうね。あんたはレッドだったわね。いらない心配をしたようね。」

 

 ……心配? なんのことだ?

 

 「……ったく、こっちの気も知らないで。とにかくそろそろ暗くなってきたから今日はここまでよ。ほら、早くシャワー浴びてきなさい。汗まみれで臭いからちゃんと洗うのよ。」

 

 ブルーはそう言うと、掴んでいた手を離し歩いて行ってしまう。

 ……なんだったんだ?

 ていうか臭いって……。

 しかし、今のブルーの言葉で周りも片づけを始めてしまい、完全にお開きの雰囲気だ。仕方がないので、俺はそのまま言われた通りシャワー室まで向かう。

 

 汗を洗い流しすっきりしても俺の心はまだざわついたままだ。

 何かの病気だろうか?

 シャワー室の壁に備え付けられていた鏡を覗き込んでみる。

 さぞかし酷い顔に違いない……って、え?

 鏡に映った自身の顔を見て一瞬思考が停止する。

 

 俺は笑っていたのだ。

 

 驚いた。なにせ無表情な俺がだぞ? 

 自分でもこんな顔の自分を見るのは初めてだ。

 訳が分からないまま俺はシャワー室から出る。

 どういうことなのかと考えながら歩いていき、角を曲がろうとする。

 

 「わぁぁっ!!」

 

 ぎゃーー!!??

 

 なぜか曲がり角の陰から突如現れたヒカリが大声を出してきたのだ。考え事をしていたところへの不意打ちだ。急所に攻撃を受けたときの気分だ。

 

 「えへへー、びっくりしました? ちょっと緊張してたみたいなんでほぐしてあげようかなーと思いまして。別に負けた腹いせにイタズラしてやろうなんて思ってませんからね? ……ってあれ? どうしました?」

 

 舌を出して可愛げにそんなことを言ってくるヒカリ。

 しかしこちらは腰が抜けてそれどころではない。その場にへなへなと崩れ落ちてしまう。

 

 「あ、あれ? そんなにびっくりしちゃいました? ……ぷ、でも驚いた時のレッドさんの顔、くく……。」

 

 反省しているのかと思いきや、まさかの噴き出すヒカリ。

 

 ……こいつ。

 

 この一瞬でヒカリはブルーに並ぶ面倒な女だという認定を下す。

 そのままよろよろと立ち上がり、ヒカリを無視して歩いていこうとする。

 

 「あぁ、ちょっと待ってくださいよ! 笑ったのは謝りますから!」

 

 ……いや、驚かしたことをまず謝れよ。

 嫌々顔を振り向けると、ニコーッと笑顔を浮かべるヒカリが視界に飛び込んでくる。笑顔を見てイライラするなんて珍しいこともあるものだ。

 

 ……それにしてもバトルの時とはずいぶん雰囲気が違うな。

 バトルの時のヒカリの印象はとにかく勝利に貪欲というところだ。どれだけ不利な局面に立たされても決して諦めない芯の強さがヒカリにはある。

 対峙していても絶対に勝ってやるという圧をビリビリと感じたものだ。並みのトレーナーではその圧だけで参ってしまうだろう。

 実力そのものもコトネとほぼ互角であり相当訓練してきたことが分かる。

 個人的にはトレーナーとしてヒカリには好感を持っていたのだが、まさか正体がこんなだったとは……。

 

 というか何の用だよ……。

 

 「いやー、レッドさん強いじゃないですか? その強さをどうやって身に付けたのかなーって? シロナさんは私と年齢がだいぶ離れているので実力差ができるのはまだ納得できるんです。でもレッドさんは私とあまり変わらないのにどうして実力差が生まれるのかなーって。」

 

 ……いや、やっぱりバトルの時のヒカリと同じだ。

 笑顔を浮かべているものの、その瞳の奥に勝利を求める欲望がチラチラと見え隠れしている。

 ヒカリがわざわざカントーまで来たのはこれだろう。こっちに来て強くなるヒントを得ようとしているのだ。

 そのヒカリの姿にかつて強さを求めてシロガネ山に挑みに行った自分の姿が重なる。

 今からホテルに戻ってシロナ戦の動画を見る予定だったが、今の落ち着かない気持ちのまま戻っても身にならないだろう。

 ヒカリの性格的にはあまり関わりたくないが、そのトレーナーとしての考え方に妙な親近感が湧いた俺は、どうやって強くなってきたのか話してあげることにした。

 ブルーには先に帰るように伝え、ポケモンリーグ内の休憩室で飲み物を片手に話し始めた。なぜか近くにいたコトネがチラリと何かを言いたげにこちらを見てきたが、そのまま行ってしまった。

 ヒカリのさっきまでのふざけた雰囲気はどこへやら、真剣そのものな視線をこちらに向けてくる。一言一句聞き逃さないという構えだ。普段からこうだったらいいのに。

 

 それから俺は約一時間ほどかけて主にこの三年間のことを話した。

 その間、室内には俺の小さな話し声とたまに相槌を打つヒカリの声だけが響いた。

 

 「……いっぱい話してもらってありがとうございました。それにしてもレッドさんって結構馬鹿なんですね! 強くなるために命を懸けるなんて。そんな人普通はいませんよ?」

 

 俺が話し終えた後、ヒカリの第一声がそれだった。やたらといい笑顔なのがむかつく。

 だが俺は何も言い返せない。話している時、自分でもよくこんな危険なことしてたなと痛感したからだ。

 しかし長々と話したおかげかいくらかは気分転換にもなったようだ。

 そんなことを思っていると、ヒカリがじーっとこちらを見つめていることに気付く。

 

 「……まあでも、その気持ちは分かります! やっぱり強くないと面白くないですもんね?」

 

 そんなことを今日一のキラキラとした笑顔を浮かべて言ってくるもんだから呆気にとられてしまう。

 

 「強くなって、困難な敵に打ち勝つ! これに勝る快感はないですもんね? レッドさんもシロナさんとの戦いに向けてやる気満々だし、分かりますよ私もその気持ち!」

 

 ……俺がやる気満々? 何を見てそう思ったんだ?

 

 「え? だってそんな嬉しそうな表情浮かべてるじゃないですか? 私からシロナさんがレッドさんでも敵わないくらい強いって聞いてテンション上がっているんじゃないんですか?」

 

 そんなこと……。

 あり得ない。

 今回シロナと戦うことになったのは周りが勝手に決めたことだ。

 ブルー曰く、これに負ければ俺は世間から批判されるかもしれない。むしろシロナは弱い方が都合がいい。

 そもそも俺はもう戦わないと決めていた。

 俺が戦いたいと思う道理など一つもない。

 しかし否定する言葉が喉でつっかえて出てこない。

 

 

 

 ……俺はシロナと戦いたいと思っている?

 

 

 

 その疑問を否定することができない。

 つまりは、そういうことなのだろう。

 そう自覚した瞬間、突如、闘争心が一気に湧いてくる。全身が戦いたいと訴えてくる。

 勿論、不安もある。しかしそれを上回る高揚感とでもいうのか、ワクワクしている自分がいることに今更ながら気づいた。

 自分でも信じられない。とっくに闘争心は消え失せていたと思っていたのに。

 まさかこんな子に気付かされるとは……。

 これは感謝しないとな。

 

 「……はぁ、よくわかりませんがどういたしまして。あ、そうだ! 感謝する気持ちがあるなら私の師匠になってくれませんか? 私もシロガネ山に籠ったりしてみたい気もしますけど親が絶対に許してくれないので。かと言って他に強くなる方法も思いつかないので……。」

 

 ……なぜそうなる? 絶対に嫌だが。

 

 「えぇー、お願いしますよー。女の子に一対一で教えれるなんてむしろご褒美じゃないですか?」

 

 じゃあお疲れ。俺はホテルに戻るから。

 俺はヒカリを無視してそのまま部屋を出ていく。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 一カ月間とかだけでもいいので、ね? ね? いつか恩返ししますので! 何とか!」

 

 その後、しつこいヒカリにお願いされまくり、早く解放されたい一心で一カ月間だけ修行を見てあげる約束だけしてしまった。

 ヒカリは「やったぁっ! レッド師匠、大好きです!」とわざとらしく言ってくると元気よくスキップ気味に去っていった。

 対照的に俺はトボトボと重い足取りのままホテルに戻っていった。

 

 

 

 色々な面倒なことはあったものの、俺はそれからも訓練を続け、これまで以上のペースで強くなっていった。

 そして、エキシビションマッチ直前には、ピカチュウがとうとう成長限界を迎えた。そもそもポケモンに成長限界なんてあるのか知らないが、少なくとも俺にはこれ以上ピカチュウがどう強くなるのか欠片も想像できない。

 ……自分で言うのもなんだが今のピカチュウに勝てるポケモンがいるとは思えなかった。冗談抜きで、その辺の町とかならピカチュウ一体だけで焼け野原にできると思う。

 他のポケモン達はピカチュウと同水準とまではいかなかったが、シロガネ山にいたときよりは遥かに強くなっていることは明白だった。

 

 他に変わったことと言えば、俺が今後静かに暮らす方法が見つかったとブルーから提案があったことだろうか。

 なんでもみんなの記憶をいじっちゃえばいいとのこと。

 そんなことができるのかと思ったが、もしかしたらそれが可能なポケモンがいるとかいないとか。詳しくはシロナ戦が終わった後に話してくれるとのことだ。

 

 そしてとうとうエキシビションマッチの日はやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリーンとレッドが戦った時をも遥かに上回る人がここセキエイ高原に集結していた。

 レッドとシロナ戦が始まるまで数十分といったこの時間。

 スタジアム内の客席は全て埋め尽くされており、今か今かとその時を待っていた。そして関係者客席にはカントー、ジョウト、シンオウの有名トレーナーや、著名な学者、各メディアのトップが集結していた。

 これだけの顔ぶれは滅多にお目にかかれないだろう。

 

 そして、スタジアム内に一人の男が入場してくる。

 

 赤い帽子を深く被った少年は、しっかりとした足取りで着実に歩を進めていく。

 

 その瞬間、会場が爆発する。

 観客たちの割れんばかりの歓声がビリビリとあたり一帯を包む。

 会場中にレッドコールが響き渡る。

 

 現在のポケモン界で最強と言われているトレーナー、レッド。

 彼が万全の体調であることは事前の取材で判明している。

 前回とは違う。最強のトレーナーの全力を見ることができるのだ。盛り上がるなと言われる方が無理な話だった。

 

 しかし、対するシロナはいくら待っても現れない。

 次第に疑惑の声があちこちから聞こえて来る。

 元々は、シロナが行方不明になった時点でエキシビションマッチも日をずらすか、あるいはシロナの次に強いヒカリを代役とすることが検討されたがそのまま決行することになった。

 というのもレッドの強さを前に逃げたと思われていたシロナだが、それはシンオウの四天王たちによって否定されたのだ。 

 シロナは強くなるために修行に行っているだけだと。

 それによって世間からの「逃げた」などという声は、多少収まったものの、未だにシロナがレッドに恐れをなしたのではないかという声は多く上がっている。

 そして今、時間が経っていくたびにその疑惑が確信に変わりつつあった。

 

 

 

 「お、おいおい! シロナさんちゃんと来るよな? 来なかったら俺たちどうなるんだ!?」

 

 そして、この男、シンオウ地方の四天王であるオーバもまた焦りを感じ始めていた。

 

 「落ち着いてください、オーバ。そもそもあなたが最初に「シロナさんは逃げてねえよ!」と言ったんでしょう?」

 「そうですよ。まあ、僕たちもオーバにつられて言っちゃいましたけど。」

 

 そんなオーバを窘めるのは同じく四天王のゴヨウとリョウ。とは言え、彼らの顔色にも若干の焦りが出ていた。

 

 「いや、そりゃそうだけどよ……。もう試合開始まで五分くらいしかないぜ?」

 「まあ最悪の場合はどうなるかもわかりませんが……我々のクビだけで済めばいいですかね。」

 「ク、クビ……。あぁ、頼むシロナさん来てくれえ!」

 「クビは嫌だなあ……。」

 

 両手を合わせて祈りを捧げるオーバーと、不安げな様子を見せるゴヨウとリョウに歩み寄る影が一つ。

 

 「大丈夫だよ。あの子は逃げるような子じゃないよ。あんた達は何も間違っていないよ。信じて待ってあげなさい。」

 

 シンオウ最後の四天王であるキクノが優し気な表情を浮かべ、そう言ってくれる。

 そしてそんなキクノの言葉に応えるように、会場中からざわめきが聞こえる。

 

 「……あれなんだ?」

 「どれだよ?」

 「ほら、あそこ。なんか近づいてきていないか?」

 「あ、本当だ。鳥か? 三匹いるな。」

 「……ていうか人が乗っていないか?」

 

 次第にその影が大きくなっていき、それに伴いまた観客席から漏れ出るざわめきも大きくなっていく。

 突然、会場中に響き渡るような大きな鳴き声が聞こえてくる。

 聞いたこともない鳴き声だったが、そこには言いようのない圧が込められていた。自然と体がかしこまってしまう。

 異様な雰囲気に包まれた会場が静まり返る中、上空に三体が到着し、その姿があらわとなる。

 それは雷、氷、炎を纏った美しい何かだった。

 その神々しい姿に誰しもが魅了されてしまう。

 一部の人間はその正体が伝説と言われているポケモン、ファイヤー、フリーザー、サンダーであることに気付くも突如舞い降りた奇跡を前に思考が追い付かない。

 そして何よりも驚くべきことは、ファイヤーの背中にあのシロナが乗っていたのだ。

 その姿は歴史に語られる英雄、或いは物語に登場する勇者のようであった。

 

 「……きれい。」

 「……かっこいい。」

 「本当に逃げてなかったんだ……。」

 

 観客席から感嘆の声が漏れ出る中、そのままゆっくりと地上に降り立つ三体。その後に華々しく降り立つシロナ。

 ファイヤーはシロナが降りたのを確認すると、ゆっくりと周囲を見渡した後、レッドの方へ視線を向けると数秒間じっと見つめる。

 レッドもまたそんなファイヤーから視線を逸らさず見つめ返す。

 一体と一人の間でどのようなやり取りがされているかは周りの人間には分からない。

 やがてファイヤーは最後に大きく鳴くとそのまま大空へ飛び立っていってしまう。フリーザーとサンダーも後に続く。

 シロナはそんな三体に「ありがとう」と言うと、レッドの方へゆっくりと方向を変える。

 会場内が不気味なほど静まり返る。

 シロナは、ファイヤーがそうしたようにしばらくレッドをじっと見つめると、口を開く。

 

 「……待たせて申し訳なかったわね。」

 

 ドォッッ!!!

 

 シロナがそう呟いたと同時に、会場中が盛り上がる。

 それは先ほどのレッドが登場した時をも大きく上回る盛り上がり方だった。

 そこには最早シロナを非難する声は一切なかった。シロナを歓迎するようにシロナコールが巻き起こる。

 しかしシロナはそんな歓声を気にした様子も見せずにレッドに言葉を投げかける。

 

 「初めまして、レッド。……さて、ここまで舞台を用意してくれているものね。多くの言葉はいらない。そうよね?」

 

 「………………………………。」

 

 レッドは何も答えない代わりにすっとモンスターボールを構える。

 その様子を満足げに見つめたシロナも同じようにモンスターボールを構える。

 

 そしてポケモンバトルが始まった。

 

 

 

 まず動いたのはレッド。

 彼が投げたモンスターボールから出てきたのは、ピカチュウ。

 これには、会場の一部から疑問の声があがる。

 ピカチュウは大変可愛らしいその見た目から人気はあるものの、強いというイメージはあまりない。そんなピカチュウをレッドが採用していることに違和感を覚えたのだ。

 しかし、三年前のレッドを知る者はこのピカチュウの登場に興奮を隠し切れない。それはそうだ。三年前、このピカチュウがいたからこそ、レッドはカントー、ジョウトの頂点に上りつめたのだ。

 そのピカチュウがどこまで強くなったのかようやく見ることができるのだ。

 対するシロナは、ルカリオを繰り出す。

 

 「バトル……始め!!」

 

 

 

 ピカチュウ、ボルテッカー!

 

 

 

 バトルが開始するや否や、レッドの指示が飛ぶ。

 その瞬間、観客達の大歓声をかき消すほどの落雷にも近い電撃音と共に、辺り一面が真っ白に包まれる。

 レッドの指示からコンマ数秒という僅かな時間。

 その小さな体からは想像できないピカチュウの咆哮と共に、雷を纏った突撃がルカリオに襲い掛かる。

 あまりの速さにレッド自身ですらピカチュウの動きを肉眼でとらえることは不可能。

 バトル開始一秒後、ルカリオが立っていた場所で鼓膜を破らんばかりの大爆発が起こる。

 会場中の人間が驚き静まりかえる。

 観客達から見れば、突如光ったかと思えば爆発したようにしか見えないだろう。

 大量の砂煙が舞う中、風が吹き抜け、砂煙が取り去られていく。

 

 そこには、ピカチュウのボルテッカーを完璧に受け止めるルカリオの姿があった。

 

 しかし鋼の肉体を持つルカリオが完璧に受け止めて尚、完全にダメージをカットすることはできなかった。全身からミシミシと鈍い音が響きその顔に苦悶の表情を浮かべる。

 ルカリオが踏みしめる地面には巨大なクレーターが出来上がっている。いかにボルテッカーの威力が凄まじいかその惨状が物語っている。

 

 これには、レッドも驚愕の表情を浮かべる。

 ピカチュウのボルテッカーは不可視の一撃。普通は初見で避けることなど不可能なのだ。

 それこそレッドがどのような攻撃をしてくるか未来を読むくらいのことをしないといけない。

 

 ようやく今の状況から何が起きたのか理解し始めた観客達が大いに盛り上がる中、レッドとシロナは静かに視線を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんで防がれたんだ?

 

 一発目にピカチュウという切り札を出して大技をかまし、相手の一体目を戦闘不能に追い込む作戦だった。いわゆる先手必勝。

 しかしその作戦も空振りに終わってしまった。

 俺がシロナ側ならあんな攻撃が来ても絶対に対処できない。そう断言できる。

 ポケモンバトルでこんな作戦を決行したのは今日が初めてだ。この作戦を知っていたのもブルーのみ。他に漏れることなどあり得ないのだ。

 顔には出さないように努力するが、俺の中には動揺が広がっていく。

 ……いや、これがシロナの実力なのだろう。

 やはりヒカリの言う通り、シロナの実力は本物だ。

 しかしそれはこの会場にシロナがやって来た時から分かっていたはずだ。

 あの炎の鳥ポケモンはファイヤーだ。シロガネ山で戦ったあの姿をもう一度見るとは思わなかった。

 そしてファイヤーのあの目……。

 こっちに来て調べて分かったが、あれは伝説のポケモンだ。そして他の二体は恐らくサンダーにフリーザー。

 そんな伝説のポケモンを従わせることのできる人がただのトレーナーであるわけがなかった。

 シロナの方へ視線を向けると、シロナは不敵な笑みを浮かべて見つめ返してくる。

 甘いわね、などと言われているようであった。

 

 ……上等、絶対勝ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十数日前。

 

 「いいですかシロナさん。あのレッドって野郎は間違いなく大舞台の一発目で大技をかまして来ますよ。」

 「……本当かしら? 普通ここまで規模の大きい大会だと皆慎重にいくものだけど。」

 「だからこそですよ。その裏をかいてレッドは一発目に仕掛けてくる。現にシロナさんも一発目に大技が来るなんて思いもしてなかったでしょう?」

 「……なるほど、オーバの言うとおりね。対策する価値はありそうね。」

 「でしょう?」

 

 

 

 「ありがとうね、オー……あら、どこに行ったのかしら?」

 

 




先の展開を考えてたら前回投稿より1ヶ月経ってました……。
また前回も誤字報告して頂いた方ありがとうございました。
7話の誤字は酷かったので助かりました。
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