清磨は王の間でガッシュと再会した。
ガッシュは王の座に座り、懸命に勉学に励んでいるところだった。
王の座に就くにはあまりに不似合いで、その姿からは威厳も何も感じさせない。
だが、ガッシュは王らしい王とは異なり、多くの民から親しまれる王になっていた。
清磨が王の間に入ってきたのを確認すると、ガッシュは王の座から立ち上がり、手を振った。
王とは思えない小さな子供のような挙動に、清磨は口元を緩めた。清磨も手を振った。
ガッシュは王の座から飛び降りると、駆け足で清磨のもとにやってきた。
近くまで来ると、ガッシュは足を止め、にこやかに清磨を見上げた。
「清磨」
ガッシュはかつてのパートナーの名前を呼んだ。
清磨はうなずいて応えた。
「ガッシュ」
清磨はやさしい王様の名前を呼んだ。
ガッシュはうなずいて応えた。
それからガッシュは清磨の胸に飛び込んで再会を懐かしんだ。
「おお、清磨。会いたかったぞ、どれほど久方ぶりか」
「どれほどになるか。あの戦いから1年は経っていないな」
清磨はガッシュの体が大きくなったことを実感した。まだ子供であるが、ガッシュが志したやさしい王様への道を着実に伺い知ることができた。
「しかし清磨。どうして魔界にやってくることができたのだ?」
「知らないのか? そうか。それについて後で話そう」
清磨はガッシュを掴んで地面に置いた。
「ガッシュ王、客間を用意しました。積もる話もありますでしょう。そちらでゆっくりお話しになられては?」
城にはさまざまな魔物たちが住んでいて、ガッシュの王の政を手伝っていた。その魔物が客間を用意してくれた。
「うぬ、すまぬな。少し清磨と話がしたい。少しの間、ここを離れる」
「わかりました」
◇◇◇
清磨とガッシュは客間につくと、しばらく色々な話をした。
清磨は人間界のことを多く話した。
高校に進学したこと。
家族や鈴芽たち友人はみな元気にやっていること。
かつて王を決める戦いを経験した者たちのこともわかっている範囲で話した。
恵は日本を代表するスターとして活躍していること。
フォルゴレは日本でコンサートを開いた。
なぞなぞ博士もバカンスを楽しんでいるようだった。清磨の家にもビッグボインを連れてやってきたことがある。
ガッシュは王になってからのことを話した。
自分のことは少し、他の魔物たちのことを多く話した。
ウマゴンは立派な騎馬になるため、遠くに修行へ出たそうだ。
キャンチョメもフォルゴレの魂を引き継ぎ、コメディアンを目指して旅に出たという。
ティオは同じ学校に通っているという。
その中でガッシュは心配事を話した。
「実はな、清磨。兄上が目を覚まさないのだ」
「ゼオンが? 何かあったのか?」
「わからぬ。倒れているところを発見されてそれからずっと眠り続けておる。医術師らに話を聞いても原因がわからぬという。清磨、一度兄上の様子を診てやってくれぬか?」
清磨にはアンサートーカーの力がある。もしかしたら解決の糸口になるかもしれない。
「そうだな、診てみよう」
「頼む」
清磨は意識不明に陥ったというゼオンの様子を見るために、城にある医務室を訪れた。
魔界の医学のレベルは進歩が送れており、原因不明の病のほとんどは治療方法が確立していなかった。
石化を解く「ライフォジオの光」が発見されるなどしたのも最近のことで、長らく魔物を苦しめて来たゴルゴジオの呪縛は解かれたものの、まだ未開の呪縛波たくさんあり、政治の課題の1つになっていた。
ゼオンはベッドの上で眠りについていた。
清磨はまず目視でゼオンの様子を確かめた。呼吸は確認できる。心臓の鼓動も確認できた。
ただ、魔物の身体構造は人間と大きく異なっている。清磨はいくつかの魔物の身体構造については学んでいた。
魔物の体は人間が神経伝達物質を使って神経を通して器官を動かすのに対して、魔物の体は人間で言うところの神経にあたる魔力の導管に複雑な魔力を流して動かす。
魔物の最大の特徴は脳から完全に分離して、それぞれの器官を動かしているところだ。
そのため、心臓を貫いても、手足だけになっても、それを動かすことができてしまう。
人間で言うところの再生芽が多彩で、組織が完全に破壊されても蘇生できる。
こうした魔物の身体的特徴をもとに清磨はゼオンの容態を確かめた。
そばに付き添っていた医術師の魔物が清磨に尋ねた。
「あなたは人間界で医術師をされていたのですか?」
「いえ、ただの学生です」
「それにしては専門的な知識をずいぶんと知っておられるようで」
「人一倍学ぶことには貪欲でしたのでね」
清磨はあることに気づいた。
「魔力がこの傷跡に吸い寄せられているように感じる。何か特殊な作用がこの傷跡に働いている可能性があるな」
清磨はゼオンの傷跡が、かつてクリアが使用した「スプリフォ」に似ていることから、おそらく清磨を魔界に導いたクリアセウノウスが関わっていると見て間違いなかった。
「サイフォジオの光による回復を試みましたが、ゼオン様の意識が戻る気配がありません。他にもいくつかの方法を試したのですが効果はありませんでした」
医術師はお手上げだった。現在最高の医学をもってしてでもゼオンは目覚めないのだという。
となれば、頼みの綱は清磨しかいない。
「どうだ、清磨? 兄上を治す方法がわかったか?」
ガッシュは清磨に尋ねた。
しかし、清磨は首を横に振るしかなかった。
「すまねえ。おれにもわからない」
「そうか……清磨でもダメか……」
ガッシュは肩を落とした。
「デュフォーなら……」
清磨はゼオンの顔を見つめながらそう言った。
「デュフォーならわかるかもしれない。ゼオンを目覚めさせることができるかもしれない」
「デュフォーも魔界に来ておるのか?」
「ああ、来ているはずだ。しかし、無事ここまでたどり着けるかは……いや、デュフォーなら必ずたどり着くだろう」
デュフォーならどんな危険なダンジョンも難なく突破してここにやってきてくれる。清磨はアンサートーカーとしてそう断言した。
「兄上、もう少しだ。デュフォーがきっと助けに来てくれる」
ガッシュはゼオンにそう呼びかけた。
ゼオンのことも心配だが、もう1つ大きな問題があるという。
「ティオもしばらく行方がわからないそうなのだ」
ゼオンの意識がなくなったのと同時に、ティオもまた行方がわからなくなったという。
ティオが最後に目撃されたのは学園内。その後、行方をくらませてしまったという。
清磨はティオの行方不明とゼオンのケガに因果関係があるように思った。
「まさかな……」
清磨はティオがクリアセウノウスなのではないかと一瞬考えたが、そんなはずがないと自分でその考えを打ち消した。