クリアセウノウスがバオウとの戦いを宣言したものの、魔界はいつもと変わらない日常が続いていた。
魔界で一晩を明かした清磨は部屋に差し込んできた太陽の光で目を覚ました。
その光は地球と同じ太陽だった。魔界は地球とまったく同じ位置に存在していて、地球とは異なる次元に存在している。清磨はそのことをすでに理解していた。
だが、地球と同じ場所でも、次元が異なればそこは異世界だった。地球とは異なる生活習慣、文化がある。
どのぐらいの間、魔界にとどまることになるかはわからないが、魔界の生活様式に合わせるしかなかった。
清磨は視線を横に移した。
隣にはガッシュが行儀の悪い格好で眠っていた。そして、ガッシュの隣にはパティが寝ていた。
ガッシュは自分の妃にパティを選んでいた。選んだというより、パティが強引にガッシュを獲得したと言った方が正しいかもしれない。それを知ったときは清磨もさすがに驚いたが、ガッシュのパートナーにはパティが最適なのかもしれないとも思った。
パティはガッシュに一途で、ガッシュのためなら命も賭ける。ゾフィスとの戦いの中で、パティは真に王を支える聖なる心を手に入れていた。
もっとも、ガッシュはまだ子供で恋愛には疎く、パティの求愛の意味をまったくはき違えているようではあったが。
本来はガッシュとパティの夜を邪魔してはいけないので別の部屋で寝るつもりだったが、ガッシュが「みんなで寝ようぞ。そのほうが楽しい。良い夢が見れるぞ」と言ったために、清磨はガッシュの部屋に邪魔することになった。
ガッシュもあと3つ歳を重ねれば、そういうこともわかるようになるのかもしれない。
魔物の朝は遅い。
種族にもよるが、少なくともガッシュは早寝遅起きである。まだ当分の間、目を覚ましそうになかった。パティもガッシュとシンクロするように眠っていたので、しばらく二人を寝かせておくことにした。
清磨は二人を置いて、寝室を出た。ガッシュの部屋はベル一族の魔物が見張りをしていた。
「清磨殿、おはようございます」
「ああ、おはよう」
清磨は王であるガッシュのパートナーということで、城に来るなり、身分の高い存在になっていた。
ベル一族は鳥人族、竜人族、魔人族からなる一族で、ガッシュなどは魔人族に当たる。
鳥人族も多く、城の見回りをする者たちはたいてい鳥人族が担っている。
鳥人族は空が飛べることに加えて、魔力を察知する力も高い。こうした仕事には適任だった。おまけにショートスリーパーであるから、臨機応変に任務につくことができた。
ブラゴのように不眠不休で活動できる魔物もこの魔界にはたくさん存在しているので、ショートスリーパーは珍しいことではなかった
「ちょっと魔界を散策したいんだが、外に出てもいいか?」
「それならば、案内役をつけましょう」
清磨は案内役のとある魔物と共に魔界の散策に出た。
◇◇◇
「悪いな、レイラ。案内役を頼ませてしまって」
「お安いご用で。それに一度清磨とデートしてみたかったからちょうどいいわ」
「デートってな……」
「なーに? 1000も年上のおばあちゃんじゃ嫌って言いたいの?」
「そうか、レイラは1000を超える長老になるんだな」
レイラはゴルゴジオの呪縛を受けて1000年間、石の中に封印されていた。
ゾフィスがゴルゴジオの封印を解いたことで、ようやく石の中から出ることに成功したが、流れた時を取り戻すことはできなかった。
しかし、レイラ自身は1000年後の魔界にうまく溶け込んでいるようであった。
レイラとは昨夜に顔を合わせていた。レイラはいまガッシュと同じ学校に通っているのだという。
ゆくゆくは政治家を目指すつもりということで、頻繁に城にやってきていた。1000年前を知るという意味でレイラには大きなアドバンテージがあった。
いまは、行方不明になったティオを探しているというが、まったく手掛かりがないのだという。
レイラは1000年前の魔物。現代の王を決める戦いに直接参加していたわけではない。
そのため、レイラのパートナーであったアルベールが魔界に来ているかはわからなかった。
レイラは清磨に色々な場所を紹介した。
清磨はそれらを確認しながら、魔界のシステムのおおよそを理解した。
魔界と人間界の生活は非常に酷似している。1000年毎とはいえ、人間界と魔界は交流をしていたのでそれぞれの文化が影響し合っていた。
地球に残る古代文明のいくつか、エジプト文明に見られるピラミッドなどは魔界から影響を受けた産物だった。
清磨は魔界を見ながら世界の大きさを改めて実感した。
ベルワンの地に住んでいる魔物は約790万人。ベルワンは清磨が推定したところによると、イギリスのあたりに位置している。ベルワンの面積はイギリスより30%程度大きいので、人口密度は人間界に比べて低いといえた。
しかし、魔物の中には巨人族や龍族もいる。それらは人の何倍もの大きさがある。それを考えると、それぐらいでバランスが取れているのかもしれない。
レイラはその後、幾人かの友人を紹介してくれた。
その中にはヨポポの姿があった。
「ヨポポ! ヨポポじゃないか。ヨポポ、久しぶりだな」
「ヨポポイ」
ヨポポとは、王を決める戦いの途中、イギリスで会った。
とても悲しい別れになっただけに、再会の嬉しさもひとしおだった。
ヨポポはガッシュと同じ学校に通っている。
「清磨、久しぶり、うれしいよ」
ヨポポは覚えたての言葉でそう挨拶した。
「そうか、言葉もしゃべれるようになったんだな」
清磨はヨポポを我が子のように抱え上げた。
「ヨポポ、ジェムも魔界に来ているはずだ」
「ジェム!」
ヨポポはそう言うと、とても嬉しそうな顔をした。
「ジェム、どこ? ジェム、会いたい」
ヨポポは地面に降りると、キョロキョロとあたりを見渡した。
「清磨、ジェム、どこ?」
「すまない。どこにいるかまではわからないんだ」
アンサートーカーでも、どこにいるかわからない人物を探し出すことはできなかった。完全なアンサートーカーであるデュフォーならあるいはわかるのかもしれない。
「探しに行く。ジェム、探しに行く」
思い立ったらということで、ヨポポはすぐにあさっての方向に走り出した。
こうなってしまったら、ヨポポの足を止めることは誰にもできない。
「ちょっと待ちなさい、ヨポポ。手がかりもないのに、まさか世界中を探し回るつもり?」
レイラがそう言い終わるころには、ヨポポの姿はどこにも見えなくなっていた。
「あの子、猪突猛進だから困ったものだわ」
「いや、ヨポポには魔物を惹き付ける不思議な力がある。魔物だけじゃなく愛する者を惹き付けることもできるはずだ」
清磨はヨポポの特殊な力に期待した。ヨポポなら必ずジェムを見つけ出してくれると確信できた。
「ジェムって、ヨポポの恋人? あの天然に先を越されるなんて、恐ろしい時代になったものだわ」
「いや、ヨポポはそこまで自覚してないと思うぜ」
ヨポポはただ純粋に好きになったものを追いかけている。下心も打算も何もないひたむきで純粋な恋心だった。
「おい、お前。清磨と言ったか」
レイラの友人の中から、ひときわ個性的な者が清磨の前に出て来た。
清磨はそれを見た瞬間思わず言った。
「お、お前はビクトリーム?」
「私がVに見えるか? 我が名はビクストリーム。我が先祖ビクトリーム爺のVをさらに華麗に継承したのだ。見よ、この華麗なるXを」
「……」
清磨はビクストリームのXを唖然として見ていた。すぐにビクトリームの血筋だとわかる体つきだった。
「ところで清磨よ、なぜおまえは我が先祖ビクトリーム爺を知っているのだ?」
「ああ、お前の先祖と一戦交えたことがあってな」
清磨は思い出したくなかったが、はっきりとビクトリームとの戦いを覚えていた。
「ほう、我が先祖ビクトリーム爺と戦ったとはたいしたものではないか。ビクトリーム爺は惜しくも1000年前の戦いに敗北したが、我が一族のために戦った偉大なる英雄なのだ」
ビクストリームはビクトリームをたいそうに尊敬していた。
「先祖は魔界に帰ってきていないのか?」
「何をアホなことを言っている。どうして1000年前の英雄が現代にいるというのだ。清磨、お前はアホだな」
「お前らの一族にだけはアホとは言われたくないがな」
清磨はそう言ったあと、レイラに確認した。
「ビクトリームはどうなったんだ?」
「さあ、私があんなバカのその後を知るはずないわよ」
レイラははっきりとビクトリームをバカと言った。
「ガッシュがこっそり消したんじゃないの? あのバカのことだけ」
「いや、そんなはずはないのだが」
清磨はちょっと不安になった。ビクトリームにはどこか勢いでデリートしたくなる趣きがあることは否定できなかった。
「だが、私はビクトリーム爺のVをさらに進化させ、Xへと昇華させた。だが、ここで終わらせてはいかん。私はVとXを融合させ、サーティーンとしてみせる。XVと書いてサーティーンだ。わかったか?」
「ああ、わかった。お前もバカなんだなということがよくわかった」
清磨はビクストリームがビクトリームのすべてを引き継いでいることを知ってほほえましい気持ちになった。
「機会があれば、私のXの力をとくと見せてやる」
「楽しみにしているよ」
「では、行くか。わははははは」
ビクストリームはそう言って、幾人かを連れて去って行った。
「レイラ、魔界って面白いんだな」
「そうよ、面白い世界なのよ」