ベルワンの地を遠く離れた異国の地にて、カフカ・サンビームは目を覚ました。
「ここはどこだ?」
サンビームが目覚めた場所は広いサバンナのようであった。
青い空のもと、どこまでもサバンナが広がっている。地面に生える草の中に地球では見られない種類のものが混ざっていた。
サンビームはその草を手で触れた。
「ここは魔界か。この大草原……すぐに相棒に会えればいいが」
サンビームは地面に落ちていた魔本を拾い上げた。
この本はかつて最高の相棒との間に交わした絆そのものだった。
一度は失われた本が再び、サンビームのもとに戻ってきた。
「相棒を探さねばならない」
サンビームは風を受けながら、地平線の彼方まで続く草原を歩み始めた。
しばらく進んだところに、超巨大な大樹が見えて来た。
「あれは?」
ここまで何の目印もなかったが、ようやく目印となるものが現れた。
その大樹は見上げる限り、山のような大きさを誇っていた。しかし、それは一本の木に他ならなかった。
「行ってみるか」
「待ちな」
サンビームの背後から声がした。
振り返ると、そこには獰猛な獣にまたがった魔物が2組いた。
見ただけで、荒くれものだとわかる目つきをした魔物だった。二人とも手に針のついた棍棒を持っていた。
「私に何か用かね?」
「ここはベリアル聖地だぜ。わかってんのか?」
「ベリアル聖地?」
「何をとぼけている。お前はベリアルの信者として、大樹ベリアルを参拝するのだろう」
「そのつもりはなかったが、あの木のほうに行こうとは思っていたところだ」
「おかしな格好をして、おかしなことを言うやつだ。まあいい、信者ならさぞ大金を持っているのだろう。よこしな」
魔物はさっそく金を要求してきた。
「金か。金ならあるぞ」
サンビームは懐から財布を取り出した。
「銀行からおろしたての100ユーロ10枚だ。これで勘弁してくれるか?」
サンビームは財布からユーロ紙幣を取り出して魔物たちに提示した。
「なんだ? 金じぇねえじゃねえか。てめえ、ふざけてるのか?」
「すまないな。あいにく私の国ではこの通貨を使うことになっているんだ。他に金目のものは持ち合わせていない」
「ふん、だったらてめえの命をいただくまでよ」
「この命を渡すことはできない。少なくとも、相棒に会うまではな」
「知ったことか。力ずくで奪うまでよ」
魔物はそう言うと、ぶんぶんと棍棒を振り回した。
道を外れたチンピラ魔物のようであるが、されど相手は魔物。人間に勝てる相手ではない。
魔物がまたがっている獣も百獣の王のように獰猛な牙を持っていた。
対して、サンビームの武器は1つしかない。
1冊の本。
「メルメルメー」
サンビームは背後で声を聞いた。
サンビームは振り向く代わりに目を閉じた。
「オッケーだ。ロックンロールスタート」
「はあ? 何を言ってやがる。ともかく、その首をもらうぜ」
「ウマゴン、リズムに合わせるんだ。ワン、ツー、スリー、ゴー」
サンビームはそう言って地面を大きく蹴って跳躍した。
すると、地面とサンビームの間に割って入るように、小さな馬が飛び込んできた。
「む?」
「第一の術シュドルク!」
サンビームは魔本の力を解放するために、術を唱えた。
すると、ウマゴンの頭には立派な角が現れ、毛皮が伸び、先ほどまでとは比べ物にならないほど立派な馬の姿になった。
サンビームはそのまま馬にまたがった。
ウマゴンは一跳びで荒くれものの頭上を飛び越して、向こう側に着地した。
「なに? 援軍がいたのか」
「なんでいなんでい、てえしたことねえ、ただの小さい馬じゃねえか」
荒くれ者たちはウマゴンをそのように称した。
「どうやらお前たちの目は節穴のようだな」
サンビームはそう言うと、かつての相棒の頭に手を置いた。
「ウマゴン、ロックンロールは始まったばかりだ。まだいけるな?」
「メルメルメー」
サンビームはうなずいた。積もる話もたくさんあったが、多くを語る必要はなかった。
ウマゴンに乗っただけで、ウマゴンの成長はすぐに実感できた。
ウマゴンもまたサンビームの心をすべて理解していた。
「八つ裂きにしてくれるぜ」
荒くれ者はウマゴンめがけて左右から同時に襲い掛かった。
「ふっ、そんなコンビネーションでは語り合えないぜ」
サンビームはそう言うと、心の力を高めた。
「第二の術ゴウ・シュドルク」
術を唱えると、ウマゴンの運動性能は倍化した。
ウマゴンが軽くステップを踏むと、一瞬にして敵はウマゴンの姿を見失った。
そして、二人の魔物はしたたかにぶつかった。
「ぶはっ」
二人は獣から落下した。
「てめえ、どこに目をつけてやがる」
「てめえこそ」
仲間割れが始まった。彼らには共闘という概念はなかった。
「待て、喧嘩している場合か。あの野郎がふざけた真似をするせいだ」
「野郎、絶対に許さねえぜ」
獣を失った魔物たちは、棍棒を構えるとその足で走りかかってきた。
「ウマゴン、新しい術だ。行くぞ」
「メルメルメー」
新しい術となると、ウマゴンにとってもサンビームにとっても、初めての扱いになる。
しかし、お互いにすでにその術をどう扱えばいいのか、心で理解し合っていた。
「第6の術ランズ・シュドルク!」
術を唱えると、ウマゴンの体に大きな力が集中した。その力はサンビームにも波及して、やがて、サンビームの右手に一本の白く輝く槍がもたらされた。
「グルービー!」
サンビームはその槍を構えると、前のめりになった。
ウマゴンは鋭いステップで敵の懐に踏み込んだ。
目にも止まらぬ速さ。敵が武器を構える間に、ウマゴンとサンビームは次の行動を取っていた。
「グルービー!」
「うわぁ!」
サンビームが槍を振るうと、その一撃で敵の持っていた棍棒を2本とも遥か後方に吹き飛ばしてしまった。
魔物たちはしりもちをついた。
ウマゴンとサンビームは両者を見下ろした。
「まだやるかね?」
「こ、こいつら、ただもんじゃねえぜ」
「ベリアルの正規軍の連中に違いねえ。に、逃げるぞ」
勝負あり。魔物たちは背中を向けて逃げ出して行った。
◇◇◇
「メルメルメルメルメルメルメー」
「ふむふむ」
戦いの後、ウマゴンとサンビームは再会を祝福し、お互いに語り合った。
ウマゴンはまだ言葉をしゃべることはできなかったが、ウマゴンのパートナーとして苦楽を共にしてきたサンビームにはウマゴンの言わんとしていることをすべて理解した。
ウマゴンは「ガッシュ王にふさわしい騎馬になるために、ベルアル聖地に留学したこと、自分の名前はシュナイダー。シュナイダーとしてかっこいい騎馬になりたいから、シュナイダーと呼んでほしい」ということを伝えた。
「ウマゴン、君の言いたいことはすべて理解したよ」
サンビームは自信満々に胸を張った。
「僕の名前はウマゴン。みんなから愛され可愛がられるチャーミングな存在になりたいから、これからもウマゴンをよろしくと言いたいのだな。ウマゴン、そんなことは言わなくても私はすでにわかっているよ」
ウマゴンは自分の伝えたかったことがまったく伝わっていなかったので、落胆した。
「うむ、違っていたか。はて、どこで理解を間違えてしまったかな」
「メルメルメー」
「わかった、ウマゴン。他の誰がなんと言おうと、私だけは君のことをウマゴンと呼ぼう」
「メルメル……」
ウマゴンはもう伝えるのをあきらめることにした。
「ウマゴン。君はこの地で修業をしているのだな。なるほど、この大草原、修行の場としてはうってつけの場所だな。さっきの盗賊たちがベルアル聖地と言っていたな。あの木が聖地の本拠地ならば、ウマゴン共に行こう」
「メルメルメー」
サンビームがまたがると、ウマゴンは修行の地「ベリアルの大樹」に向けて走り出した。