金色のガッシュ アフター   作:やまもとやま

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4、氷の粉砕

 フリズドマンに倉庫の案内を受けていたグスタフが部屋に戻ってきた。

 

「来たか、グスタフ。おれの恋人を紹介するぜ」

「バリーと恋仲を紡ぐ者。ぜひ、その姿を拝見したいものだ。だが、どこにも、らしき姿は見えぬな」

 

 グスタフは部屋にいる者たちを見渡した。

 先ほどとの違いは、バリーとガロウの近くに、小さな女の子がいるということだけだった。

 この少女がバリーの恋人であるはずがない。グスタフは一瞬で確信したので、他に誰がいるのかと見渡した。天井に目をやり、背後も振り返って探した。

 

「グスタフ、どこ見てんだ。おれの恋人のコルルはここにいるぜ」

「コルルです。初めまして」

 

 少女はそう言うと、グスタフにていねいに頭を下げた。

 まだ幼い目、かよわい姿。そして、たくさんの優しさと癒しを感じさせる少女だった。

 グスタフは少女の前に行って、少し身をかがめた。

 

「礼儀のいい子だね。では、君のお母さんがバリーと? シングルマザーに恋をしたというわけか。なるほど、強きを求めるなら、強き母心を知る必要がある。バリーも良い判断ができるようになったのだな」

 

 グスタフはバリーの目の付け所に感心した。バリーが真の強さを理解することができるようになったからこそ、より多様な愛おしさも理解できたということなのだろう。

 

「君のお母さんはいまどこに?」

「私のお母さんはずっと西方の国「バビオウ」のスぺラーズの村にいます。100の山々に囲まれた豊かなところです。私はもう村を出て3か月になります。新しい自分を見つけたくて、ホップの国「ガロウ」のシルビーアの町にやってきたのです」

「ほう、幼いのに肝が据わっているな。なるほど、そんな君の母となると相当なタマか」

 

 グスタフはバリーと向かい合った。

 

「しかし、遠距離恋愛となると寂しさも積もるのではないか、バリーよ」

「はあ? 何言ってんだ、グスタフ。遠距離どころか近距離だぜ。ほれ、拳を合わせることもできる距離だ」

 

 バリーはコルルと拳を合わせた。

 コルルの手はバリーより一回り小さく、まったくかみ合っていないように見えた。

 

「おれの恋人コルル。こう見えてもすげえ強い拳を持ってるんだぜ」

「……バリー、まさかこの子が恋人だとか冗談を言っているのではないだろうな?」

「冗談なもんか。なあ、コルル」

「はい、バリーとお付き合いをさせていただいております」

「……」

 

 コルルもはっきりとそう言った。

 グスタフは思わず、声を失った。これまで、幾度となく修羅場を潜り抜けて来たグスタフであるが、この衝撃はソ連崩壊の時をはるかにしのいでいた。

 

「バリー、お前、まさかこの子をはるか西の地より誘拐してきたのではあるまいな?」

「何を言う。おれがそんなことするわけないだろ、おれがコルルと交際しちゃいけねえってのか?」

「いけねーに決まってるだろ!」

 

 グスタフは珍しく感情的な声を上げた。

 

「お前みたいなガサツなやつがこんな娘の手を握り締めたともなると、殺人未遂だ。人間界ならば、永久に牢獄の中だ」

「失礼なこと抜かすな、グスタフ。おれたちは拳で語り合って、互いに認め合った仲なんだよ」

「こんな娘が拳を振るえるはずなかろうが!」

「見た目で判断するな。おれも最初はそうだったから、言いたいことはわかるがな。だが、おれは実際にコルルにすっ飛ばされて気絶した」

 

 バリーがそう言うと、コルルは両手で顔を押さえて、恥ずかしそうにうつむいた。

 グスタフは先ほどの事実をコルルに確かめた。

 

「お嬢さん、バリーの話はすべて本当なのかね?」

「お恥ずかしながら……私の心には禁断のもう1つの心が眠っているのです。私には狂戦士の一族の血が流れているのです」

 

 グスタフには、コルルから暴力性を全く感じ取ることができなかった。

 

「驚いた。バリー、おれは今日初めて、驚きというものを知った。おれがこれまで経験した驚きなど、些細な事でしかなかった。ソ連崩壊もオイルショックもすべては些細な事だったのか」

 

 グスタフはいま本当に驚きに包まれていた。

 

「まったく。グスタフ、聞け。おれたちが出会ったときのことを詳しく教えてやるから」

 

 バリーはグスタフにコルルとの出会いを詳細に話した。

 

 ◇◇◇

 

 バリーはガッシュとの間で約束した「王の拳」を完成させるために、旅に出た。

 しかし、あてはなかった。どこへ行けば、その拳が完成するのか。

 

「あてがないならば、己の足で歩いてゆけ。グスタフの教えだ」

 

 バリーはグスタフの教えに忠実に、世界の隅々まで到達するべく、足を前に出した。

 

 そんなバリーがたどり着いたのが、北方の最奥の大地である「ガロウ・シルビーア」だった。

 この地は魔界で最も寒い場所であり、なまじの者では到達することができない。

 

 バリーはその地に、己の肉体1つで足を踏み入れた。

 だが、その場所は予想以上に寒く、また吹き付けてくる雪は容赦なくバリーを凍り付かせようと絡みついてきた。

 

「ぐおっ、体が動かねえ……」

 

 バリーは厳しい氷の地獄に取り込まれてしまい、身動きが取れなくなった。

 自慢の拳も動かない。全身が凍り付いていくのがわかった。やがて、その心臓まで凍り付かせてしまうだろう。

 

「この程度を突破できないとはおれの拳はまだこの程度のものだったというのか」

 

 魔界の大自然の力をバリーは思い知った。

 単純な力が通じないすべてを凍り付かせる力だった。

 

 しかし、バリーにとって幸いなことが起こった。

 誰かが偶然にもバリーを発見したのである。

 

「おっと、なんだこのブサイクな氷像は」

 

 通りすがった者の顔は吹雪で良く見えない。だが、獰猛な気を感じ取っていた。

 

「氷像じゃねえな。誰かが凍り付いて動けなくなってんのか」

 

 通りすがった者は獰猛な目つきをしていた。見たところ、少女のようだが、全身の血が煮えたぎっているのがわかった。その視線を見て、バリーはかつてガッシュから感じた恐怖をはるかに超える威圧感を覚えた。

 

「シン・ゼルクの魔力あってもひでえ寒さだってのに、生身でやってくる者がいるとはな。気に入ったぜ」

 

 通りすがりの少女はにやりと笑った。その目は狂気に満ちていたが、同時に対極的な優しさによって、理性が担保されているようでもあった。

 

「一発拳をくれてやる。それでお前の体が砕け散ったら、それまで。耐えれたなら感謝しな」

 

 そう言うと、少女は右の拳を力ませた。剛腕の気が右の拳にこもった。

 

「やさしい王様がくれた新しい力だ。受けてみな」

 

 少女の渾身の一撃。

 バリーの顔面を捉えたかと思うと、バリーを封じ込めていた氷が粉々に打ち砕かれた。

 バリーは数メートルも吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた。

 

 痛みや苦しみより、バリーがその瞬間に感じたのは、感動だった。

 

「この力……おれが探し求めていたものに近い」

 

 バリーは痛みの中で、にっこりと笑っていた。

 再び、バリーを捉えようと、氷が忍び寄ってきたが、バリーは起き上がると、その氷に向けて拳を振り下ろした。

 今度は、バリーの渾身の一撃により、周囲の氷が粉砕された。

 

 一帯に地響きが生じた。

 それを受けた少女はその地響きから身の危険を感じ取った。

 

「なんていう剛腕だ。こいつはとんでもないやつの目を覚ましちまったかよ」

 

 少女は狂気を高ぶらせて、結果的にやや理性を後退させた。

 

 少女はバリーに向かってきた。先ほどの拳が真っ赤に煮えたぎった。

 バリーはその少女をにらみつけた。視線が合い、お互いの視線が弾けた。

 狂気の目に恐怖はあったが、バリーはかつてエルザドルに対峙したときのようにひるまずに闘志を前面に出した。

 

「拳には拳だ。おおおおおお!」

 

 バリーは少女の拳に向けて、自らの拳を突き出した。

 

 最強の拳と最強の拳がぶつかり合った。

 両者の一撃は同じ力を持っていたのか、すべての衝撃が相殺されて、互いに前のめりに倒れた。

 

「あんた、強いな」

 

 バリーは顔を上げてそう言った。しかし、すでに目の前には先ほどの獰猛な力はなかった。

 目の前には小さな女の子が倒れているだけだった。

 

「あう……痛い……」

「ありゃ? さっきの怪物はどこだ?」

「ゼルクの魔力が消えてしまったのですね。ようやく力をコントロールできるようになったと思っていたのに、全然ダメだったなんて」

「おい、あんた」

「私ですか?」

「まさか今の怪物はあんたか?」

 

 少女は何度も首を横に振った。

 

「ち、違います。私はただの……マッチ売りの少女です」

 

 少女はごまかすようにそう言うと、懐から本当にマッチを取り出した。

 

「シン・ライフォジオの魔力を灯しましょう。そうしないと、凍り付いて死んでしまいます」

 

 少女がマッチをこすると、美しい輝きが現れて、あたりを包み込んだ。

 極寒の地の中心にいながら、その光に包まれたバリーはゆりかごの中のような温かさを感じていた。

 

「あったけえ。なんだこりゃ?」

「もう安心です。しばらく寒さから身を守ってくださるでしょう」

 

 バリーはそのときに初めてコルルと出会った。

 

 ◇◇◇

 

「というわけだ。わかったか、グスタフ」

「なるほど……つまりお前はインチキをしていたと」

 

 グスタフはバリーの話を聞いて腕を組んだ。

 

「お前があの地で平気だったのはお嬢さんの魔力によるものだったというわけか」

「その通り。シルビーア極点にたどり着けたのはコルルのおかげ。だが、インチキではない。それが愛の力というやつだ。どうだ、文句あるか?」

「ない。実に美しい話ではないか」

 

 その話をグスタフの隣で聞いていたガロウが反応した。

 

「シルビーア極点の冷気はいかなる魔物にも耐えることのできぬもの。だが、愛の力あれば、どのような険しき道も乗り越えられる。我、それを知るために外の世界に出て来たのだ。見届けたぞ、愛の力」

 

 ガロウは長らくシルビーア極点の中で孤独に眠っていた。そういう経緯もあるから、二人の力がシルビーア極点に風穴を開けたというエピソードに感動したのかもしれない。

 この地で、バリーが新しい力を身につけたように、ガロウもまた新しい可能性を見つけ出していた。

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