高峰清磨はこの日学校を休んだ。
どうしても、ベッドから起き上がる気力が起きなかった。
「大丈夫、清磨?」
母親が心配そうな表情を浮かべて清磨の部屋を訪れた。
「病院に行きましょう、清磨」
「大丈夫だよ。すまない心配かけて、本当に大丈夫だ」
清磨はそう言ってから元気に笑ってみせた。
「でも」
「ちょっと徹夜で勉強しすぎただけだよ。気分が上がったら途中から授業に出るよ」
「……」
母親は清磨が最近精神的に参っていることに気づいていた。
うつ病か軽い気分障害なのかはわからないが、尋常でないことは間違いなかった。
清磨の元気がなくなり始めたのに気付いたときから、母親は色々と調べて回っていた。
思春期の気分障害は、IQの高い子供によくありがちだということを心療内科の先生から聞いていた。
清磨の頭脳は突出している。
しかし、ガッシュがいる間、清磨は明るく振舞うようになっていた。
ところが、ガッシュが家を出て行ってからはまたもとの元気のない姿に戻ってしまったようであった。
母親はもう一度ガッシュに戻ってきてほしいと願っていた。
そうすれば、清磨は元気になってくれるに違いない。
母親は、ガッシュの身元がわかったのでイギリスに帰って行ったとだけ聞いている。
そこで、父親に連絡を入れてガッシュに会えないかということを尋ねた。
清磨の父親は魔界の王を決める戦いのことを知っている。
すべてが終わったとき、清磨は父親にだけ魔界の王を決める戦いがあったことを話した。
父親は冷静に清磨の話を受け止めてくれた。
「申し訳ない。あれからガッシュがどこに行ったのか、こっちもわからない状況なんだ」
父親はそのように説明した。
「あのね、清磨が元気をなくしてしまって。私どうしていいかわからなくて」
「心配しなくても大丈夫だ。清磨はそんなにやわじゃない。自分の力で何とかするさ」
「でも……」
「清磨に代わってくれるか?」
「うん」
母親は清磨のもとに受話器を持っていった。
清磨は受話器を耳に当てた。
「何をふぬけているんだ? それでも魔界の王のパートナーか?」
清磨はガッシュのことを思い出した。ガッシュの顔がとても懐かしく感じられた。
「母さんには心配かけるなよ」
「悪い」
「日本の学校が合わないなら、こっちの学校に通うか?」
「いや、いいよ」
清磨は首を横に振った。
「何とか頑張ってみる。ありがとな、親父」
「それが大事だ。だが、あまり一人で抱え込むなよ。天才なんてバカと同じだ。たまにはバカやって来い」
「ああ、そうだな」
しかし、清磨の気分は優れなかった。
アンサートーカー。
いま、その特殊能力が清磨を苦しめている。
意識しなくてもあらゆることがわかってしまう。
それが清磨の精神を蝕んだ。
最も優れたエネルギー機関の作り方がわかってしまった。
言い方を変えると、地球を滅ぼす兵器の作り方がわかってしまった。
人の核心的心理構造がわかってしまった。
言い方を変えると、人間の心の醜さがわかってしまった。
宇宙の起源とその後の宇宙の歴史を物理学的に完全にわかってしまった。
言い方を変えると、宇宙の終わりを予測できてしまった。
それは恐ろしいことだった。知ってはいけないことを理解してしまったことで、清磨はそれらをどう扱っていいかわからなかった。
うまく使えれば、人類を救える。
しかし、使い方を間違えると、世界を滅ぼすことになってしまう。
清磨は結局、そのすべてを自分の心の中に封印した。
しかし、世界を滅ぼす方法はたしかに清磨の心の中に存在している。
そして、その心の中にある記憶を外部から盗む方法もわかっている。
清磨はいつ自分の記憶が盗まれて、その発明を悪用されてしまうかいつも怯えていた。
怖くて、外に出ることができなくなることもあった。
いっそのこと自分を破壊してしまおうかとも思った。
しかし、自殺はできなかった。
心の中にはまだ失いたくない大切なものがあったから。
ガッシュをはじめとした色々な人たちとの出会い。
それを消し去ってしまいたくなかった。
清磨はそうした闇の中をやみくもにさまよっていた。