清磨が苦悩の中にいるとき、清磨の家を訪れる存在があった。
インターホンを受けて、清磨の母親は玄関口を開いた。
「あら、あなたはたしか……」
母親はおぼろげな記憶をたどった。
「Dだ。清磨はいるか?」
「D君。清磨に会いに来てくれたのね。ありがとう」
デュフォーはDと名乗った。相変わらずそっけない表情を浮かべていた。
「D君はイギリス人よね? いま、日本に住んでいるの?」
デュフォーはうなずいた。
「待ってて、いま呼んでくるわ」
母親は嬉しそうに二階に急いだ。清磨が元気になってくれるきっかけになるかもしれない。
「清磨、お友達が来ているわ。早く来て」
「誰だ?」
「D君よ」
「D?」
清磨はたくさんの候補を思い浮かべたが、デュフォーが引っかかることがなかった。
デュフォーがわざわざ何の用もなく、やってくるはずがないという前提もあった。
デュフォーは清磨の顔を一目見ただけで、清磨が現在置かれている立場をすべて悟ったようであった。
「デュフォー、久しぶりだな」
「ついて来い」
「挨拶もなしか。らしいやつだな」
清磨はさっそく外に向けて歩きだしたデュフォーを追いかけた。
モチノキ公園は平日も人々でにぎわっていた。
二人は子供たちの喧騒を抜けて、人気のない高台のほうに向かった。
デュフォーはその間一言もしゃべらず、速足で歩くばかりだった。
高台にやってきたところで、デュフォーはようやく足を止めた。
今日は風が強かった。
清磨はデュフォーの隣に並んで、しばらく町の様子を眺めていた。
「まさか、デュフォーが来てくれるとは。いまどこで何をしているんだ?」
「お前、バカだろう。アンサートーカーなら自分で答えを出せ」
清磨は頭を押さえて息を吐いた。
「不安定なんだ。いまは何も浮かんでこない」
「愚かなやつだな。自分の力に溺れるとは」
「かもな」
清磨は草原に腰を下ろした。
「デュフォーは溺れなかったのか?」
「……」
「何もかもがわかってしまう。宇宙の消し方までも。わかってしまうことが怖いんだ」
清磨はそう言って、頭を抱え込んだ。
「もう何もわかりたくない。ただ無知でありたい。しかし、おれにはコントロールすることができないんだ」
清磨が現状を打ち明けている間、デュフォーはまっすぐ空を漂う雲を見つめていた。
「おれはどうすればいいと思う?」
清磨はそうつぶやいた。
「お前、頭が悪いな。自分で考えろ」とでも言われると思ったが、意外な言葉が帰ってきた。
「恋でもしろ」
「は?」
「お前、男だろ」
「……」
清磨は思わず、目を丸くした。およそ、デュフォーからは聞くことができない言葉だった。
デュフォーは解決策のすべてを話したのか、それだけ言うと、速足でその場を後にした。
清磨はしばらくデュフォーの後ろ姿をぼんやりと見ていた。
「恋? デュフォーも恋をするのか?」
その答えを出すことはできなかった。