それから数日後。いつも通り課題に取り組みながら家の手伝いをしている時だった。
「あの、こんにちわ」
「いらっしゃいませ。ああ、お久しぶりです」
相違って店の扉を開いたのは他でもない一歌さん。もはや志歩さんと同じく常連となった彼女達だが、今日は見慣れない1人の少女の姿があった。
背丈は女性にしてはかなり高く、それでいてスラッとした出で立ち。モデルと勘違いしそうなほどにプロポーションながら、その顔はどこか幼げである。
思わずそんな少女を見つめていると、不安がらせてしまったのか志歩さんの方へと視線をそらしてしまった。
「ああ、すみません。見慣れない方だったので……一歌さん、あの方は?」
「うん。私の幼馴染みで……前話したっけ、ドラムの」
「えっと、初めまして。望月穂波です。あの、一歌ちゃん達からお話は少し伺ったんですが、ギターを教えてもらってるって」
一歌さんが促すように彼女を見ると、律儀に頭を下げて自己紹介してくれる。3人とはまた違う、暖かな雰囲気を纏った人だ。
「はい、衛藤七緒と言います。教えてるって言っても、大したことはなにも」
「そんなことないよ! 七緒くんプロみたいにすっごく演奏上手いんだよ!」
それにつられて僕も頭を下げると、その言葉に咲希さんが反論する。確かに彼女がいた時も見本として弾くことは多々あったものの、そんな風に思われていたとは完全に予想外だった。
「咲希が大袈裟なのはいつものことだけど、それは私も認める。それに後、バンドの経験もあるみたいだから全体のバランスも見てくれると思うよ」
「えっ、そうだったんだ。でもそういわれたら納得かも」
「志歩ちゃんが素直に誉めるくらいすごい人なんだね」
「ちょっと穂波、それってどういう意味?」
志歩さんの賛美をそれぞれの形で受け止める一歌さんと穂波さん。前者は僕の方をまじまじと見つめ、後者は志歩さんの機嫌を直すのに手を焼いていた。
「バンドと言えばアタシ達、晴れてバンドを結成することになったの! その名は~……」
咲希さんの言葉で現実に引き戻される。とても嬉しそうに語っているのを見るに、恐らく穂波さんが最後の幼馴染み。
そして思わせ振りな態度でこちらに視線を送る彼女。どうやらこちらから聞いてほしいのだろう。
「その名は?」
「ずばり、『Leo/need』!」
「レオ、ニード?」
聞き覚えのない言葉にピンと来ず、首をかしげる。
「えっと、しし座流星群から取ってるんです。フランス語だとLes Léonidesって言うみたいで」
「それで、みんなが必要っていうニードに変えて、Leo/needになったんです」
「あとあと、大事なのが……あ、ノート借りるね!」
咲希さんがペンとノートを借りてその綴りを書きつつ、Leoとneedの間にスラッシュを入れる。
「えっと、このスラッシュは?」
「流れ星だよ! どう、素敵でしょ?」
「そうですね、ずっと消えない流れ星。いくらでもお願いを叶えてもらえそうですし」
随分ロマンチックな名前だと想いながら、嬉しそうに語る咲希さんを見つめる。同意を得られたからか随分と上機嫌だった。
「じゃあこれからはライブもされたり?」
「えっと、それはまだちょっと早いかなって……」
「まだまだ実力不足だからね。せめて衛藤さんくらいうまくならないと」
どうやらライブの予定はないらしい。実際腕前が足りていない事を実感する為にライブへ参加する場合もあるが、彼女達はそこにすら至っていないようだ。
「まあ、僕の腕前とかはおいておきましょう。とりあえずスタジオの手配と、後はドラムのセッティングですね。望月さんはご自分でされますか? よければお手伝いしますが」
「あっ、でもわたし一度一番下まで下げてから調整してるので」
「なら望月さんは椅子に座ったままで。僕が調整した方が早く終わると思いますし」
「あ、そっか。じゃあお言葉に甘え「スカート」っ!?」
そのまま手伝う流れになるかと思いきや、志歩さんが思わぬ落とし穴をが指摘する。今の彼女達は制服姿。
いくらスカートの丈が長くても精々太ももの半分くらいが限界だ。そんな状態で座ったまま僕がドラムのセッティングをしようものなら、当然その中に隠された何かが見えてしまうわけで。
「あ、あのすみませんやっぱり自分で!!」
「ぼ、僕の方こそすみません! デリカシーに欠けてました」
「ねえねえいっちゃん、やっぱり七緒くんって天然なのかな?」
「多分そうだと思う。色々教えてくれる時は特に、かな」
なにやら咲希さんと一歌さんが話しているようだったが、色々とスペックの高い穂波さんのことで悶々としてしまう。男子高校生にはとても辛い問題だった。
「とりあえず練習。今日はちょっと合わせたい曲があるので、録音させてもらってもいいですか」
「あ、わかりました。じゃあマイクも必要ですね。用意します」
志歩さんのクールな声が文字通り頭を冷やし、現実に引き戻してくれる。どことなくジト目なのはこの際気にしてはいけない。自分でまいた種だ。
そうしてセッティングが終わった後、彼女達はセッションを開始する。コントロールルーム越しに聞こえてくる迷いのない音色と歌声。彼女達のバンドとしての一歩を彩るにはふさわしいものだった。
「……僕も、覚悟を決めるかな」
いつまでも胸のうちに秘める訳にはいかない。迷いの晴れた彼女なら、どういった答えを返してくれるだろう。そんな淡くも確かに感じたこの想いを一歌さんに伝えるべく、僕は覚悟を決めるのだった。
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「あの、一歌さん。少しお話したいことが」
「えっ、もしかして私、さっきのところでミスしちゃったかな……?」
「ああいえ、そうじゃなくて……とりあえず、スタジオでお話しますね」
4人が休憩中、僕は一歌さんを連れ出してスタジオに入る。そこにはまだ片付けの済んでいない楽器やマイクが放置されていた。
軽い深呼吸をして気持ちを整える。覚悟は決まった。急な話と言われて彼女も戸惑っているが、この際気にしていられない。
「えっと、それで話って?」
「……一歌さん、僕は──」
緊張で口の中が乾く。それでも動き出した時は止まらない。
「──僕は、一歌さんのことが、好きです」
「えっ?」
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩