君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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少年は恩義を返したい

 

 久々になにもない休日。店は定休日。ベッドの上で横たわりながらただただ惰眠をむさぼっていた。

 

 最近は色んな事がありすぎた。あのスクランブル交差点で一歌さんを見てからというもの、全てが動き出したように。

 

 常連客である志歩さんや、その幼馴染みである咲希さんと穂波さん。色んな人と出会い、想いを交えて彼女達はバンドというひとつの結論にたどり着いた。これから先様々な苦労もあるだろうけど、僕に出来るのはただ上手くなるという願いを叶えるだけ。

 

「こいつも、もう用無しだと思ってたんだけど」

 

 部屋の片隅におかれたギターケースを眺める。未練がましくチューニングやメンテナンスを欠かさなかったからか、まだまだ現役で戦えるほどの音色を響かせてくれた。

 でも、その腕前は人に聞かせるものじゃない。その資格は既に失われている。ならそれを一歌さんに継承するのが僕の役目だ。

 

「まあ、最後の仕事だと思って頑張ってくれよな」

 

 そういってギターケース越しに優しく撫でる。思えばこれのお陰で初恋の人と友達になれたと言っても過言ではない。なんとも因果な話だ。事実は小説より奇なり、とはこういう時に使うべき言葉だろうか。

 

「おーい七緒、起きてるかー」

 

 そんな声と共にノックも無しに母さんが扉を開け放つ。昔の野外フェスのロゴが大きくプリントされたTシャツにジャージを1枚羽織っていた。

 ズボンはGパンとまあなんともラフな部屋着である。これで一世を風靡したミュージシャンだったというのだから驚きだ。

 

「母さん、一応高校にもなった息子の部屋なんだからノックぐらいしたらどう?」

「それならエロ本のひとつでも隠し持ってろてんだ。そんなことより、お前宛に電話が来てる」

「え? 誰から?」

「いつものライブハウスのオーナーだよ。人手が足りないんだとさ」

「あー」

 

 休日といえば客の書き入れ時。それはここ以外でも同じことで、ライブハウスならばそれ以上だ。そして電話の相手は、母さんの昔よしみの人。ライブハウスのオーナーを勤めていて、この店を開業する時にも色々お世話になった。

 

 そして今は僕がお手伝いとして昔から手伝っていた。恩返し、というのもあるが自分達の納得のいく音を出す為にも、知っていると融通が利く。

 結果、バンドをやめた後でもその経験は家業に大きく貢献していて、時おり臨時の助っ人として呼ばれることがあった。最近はバイトも雇ったらしく呼ばれることの方が珍しくなったけど。

 

「わかった。行くって返事しておいて」

「ま、そういうと思って既にOKしてあるけどな」

「じゃあなんで態々聞くんだアンタは……」

「そりゃなにも無しに行けっていったら反論するだろ?」

 

 当然じゃないか、と返事をする親に頭を痛めつつこれ以上反論することをやめる。指定された時間に外行きの服へと着替え、ライブハウスへと向かうのだった。

 

 

 

 ライブハウスでの独特の空気感を感じながら、オーナーの元へと向かう。そこで見慣れた灰色ショートの少女がオーナーと話していた。

 

「オーナーさん……ってあれ、日野森さん?」

「ん? あっ……どうも」

 

 こちらに気付くとどことなく余所余所しい態度を見せる彼女。正直バンドの練習に付き合っていても、彼女との距離感は掴み辛い。興味がある話であればグイグイ来ることもあれば、この様に素っ気なく返されることもある。

 

「ああ七緒君待ってたよ。悪いね、お店が休業日なのに呼び出しちゃって」

「いえ、困ったときはお互い様ですよ。それより日野森さんとお知り合いだったんですね」

「志歩ちゃんは普段ここで働いてもらってるからね。そのお蔭で君に楽をさせてあげられているわけだけど」

「ああ、なるほど」

 

雇ったバイトの1人が志歩さんだった、という意外なオチに世界は狭いという印象を受ける。

 

「紹介するよ、臨時のヘルパーの七緒君だ」

「あ、いえ、その……既に知っているっていうか……」

「日野森さんはウチの常連さんなんですよ。それで、最近よく幼馴染みの子達とバンド組んだみたいで」

「へえ、それは初耳だね。ならせっかくだし、今度ここ使ってみない?」

「え!?」

 

 バンドを結成した、という話に興味を持ったオーナーさんは志歩さんにある提案をする。それはこのライブハウスで機材チェックを兼ねて、彼女達に演奏してほしいという物だった。

 

「それで、どうかな」

「少しだけ待ってもらってもいいですか? みんなにも確認したいので」

「そんなに急いでないから大丈夫だよ。それに」

 

 そういってオーナーさんがこちらを見る。もしも断られても、という意味だろう。まあ、機材チェックならここで前からやっていたし問題ない。

 

「もしもの時は僕が入りますから」

「まあ、みんなやりたいっていうだろうけど」

「はは、それだと嬉しいな。さて、準備を始めようか」

「「はい」」

 

 こうして図らずしも、彼女達はステージ演奏の機会を手にしたのだった。

 

 

 

「なんていうか、衛藤さんってどこにでもいますよね」

 

 イベント終わりのライブハウス裏。自動販売機のジュースを買っていると志歩さんが話しかけてきた。

 

「どこにでもっていうのは大袈裟ですよ。それにバンドをするならスタジオやライブハウスを利用しない手はありませんし」

 

 適当なスポーツドリンクを追加で購入して、彼女に手渡す。

 

「欲しいって言ってませんけど」

「ついでですよ。特にお礼とか気にしてませんし」

「……そういうのは一歌にすればいいのに」

「い、一歌さんは関係ないじゃないですか!」

 

 飲み物に口をつけようとしたところで思わぬ不意打ちをくらう。あと一歩遅ければ吹き出すかむせ返るかのどちらかだった。

 

「なんていうか、日野森さんって結構ズバズバ言いますよね。最近は特に」

「別に。今さら隠す必要もないと思ったので。それに、相談にものってもらいましたから」

 

 クールや辛辣というよりも、思ったことを口にするタイプなのかもしれない。それは幼馴染みである一歌さんや咲希さんに対しても同じ。

 

「志歩さんはかっこいいですね」

「どうしたんですか急に。だからそういうことは一歌に」

「なんでそうなるんですか! 一歌さんのことから離れてくださいよ!」

 

 告白を聞かれてから彼女の塩対応もきつくなっている、そんな気がする僕であった。

IFルート

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