今日もまた学校から帰って受付を任されている。
というよりも母さんにあの告白を聞かれてから、意図的に一歌さん達と会わせるようこちらに出ることが多くなっていた。
本人曰く「態々教られに来てくれてるのに居なかったらどうするんだ」とのことらしいが、裏では絶対面白がっているに違いない。
「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃいませ。お待ちしてましたLeo/needの皆さん」
提示された課題をこなしながらに受付業務を担当していると、いつものように制服姿の4人が姿を見せる。
「店員さんからバンド名で呼ばれるのって新鮮だね」
「うん! なんだか常連さんって感じがしていいよね!」
「騒いでないで、まずは受付。衛藤さん、お願いします」
「はい。準備はできてますよ……っと」
受付の作業をしつつ、ふと気になったことがあったので尋ねてみる。
「日野森さん、ライブハウスの件どうでした?」
「ああうん、みんな二つ返事だった。オーナーさんには伝えてあるから、気にしないで」
「そっか、それならよかったです」
レシートを手渡しつつ胸を撫で下ろす。どういった機会であれ、バンドとして活動するにはステージでの経験が必要だ。この前はそういったノリではないのだと一歌さんが言っていたので心配だった。
「あと、今日もお願いしていいですか。さすがにオーナーの前でヘマできないんで」
「わかりました」
4人の中では実力も意識も頭ひとつ抜けている志歩さんらしい、と思いながら母さんに受付を任せる。スタジオに入れば既に僕のギターが立て掛けてあった。
「あ、七緒君のギター……」
「部屋まで取りに行くのも面倒なので、ここに置いてるんですよ。こちらはもう終わってるので、セッティングはそちらでお願いします」
僕の声を合図にそれぞれが準備を始める。その間、僕は軽く音出しも兼ねて1曲演奏することにした。それは日本人が知らない方が珍しいくらいのJポップ。そのロックカバーだ。
最近だと夏に放送される長時間番組の中で、フィナーレ前に流れることが多いと思う。
『──♪』
サビに差し掛かろうとしたところでベースの音が合わさる。どうやら志歩さんが真っ先に準備を終わらしい。手持ち無沙汰だったのか、興が乗ったのかはわからないけれど、特に断る理由はなかった。
「あ、しほちゃんずるーい!」
「そう思うなら早くセッティングする。練習もそうだけどステージじゃ早く音出せるかも大事だから」
「そっか、そうだよね」
音色の変化に咲希さんが反論するも、ごもっともな言葉で返す志歩さん。目から鱗といったように納得する一歌さんと、自分のペースを乱さず準備を続ける穂波さん。
それぞれが準備する中、次に演奏に混ざったのは穂波さんだった。優しくも安定感のあるビートが心地いい。
やがて一歌さんと咲希さんも合流し、ラスサビはみんなでセッションする形となった。
・
・
そして約束の日がやって来た。ステージの上では緊張した様子の3人と、平然としている1人の姿がある。
「悪いね、この間も来てもらってたのに」
オーナーさんに謝られる。しかし僕は首を横に振った。
「いえ、気にしないでください。それに僕も一歌さん達の初ステージ見てみたかったですし」
「そっかそっか。君がそこまで言うならちょっと期待してしまうね」
なにかしら思うことがあったのか、含んだ言い方をしてその場を去っていく。おそらく観客席側から聴こうというのだろう。僕もそうしたいのは山々だが、それよりもやらねばならないことがあった。
「ではLeo/needのみなさん、お願いします!」
ミキサーの前に立ち、声を張り上げる。観客はいないものの、彼女達にとってはじめてのステージ。
緊張をそのまま引き継いで、いつもとは違いどこかぎこちない3人。それを志歩さんがなんとか引っ張っている感じ。一歌さんの声もどこか震えているように聞こえる。
それを聞くスタッフやオーナーさんは、初々しいな、と思ったのか笑顔になっていた。
「……懐かしいな」
『あの頃』とは随分違う優しい音色だったけれど、こうして全ての音色が揃うと思い出してしまう。でも今は関係ないこと。今は、彼女達の願いを叶えることが大切。
いつまでも、戻らない過去に手を伸ばすのはやめにしよう、と彼女達の音色に集中するのだった。
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「き、緊張した~!」
ライブハウスを後にした4人の中で最初に口を開いたのは咲希であった。
「緊張したって、お客さんいなかったでしょ。なのにみんな固まってたよ」
「あはは、でもやっぱりステージだと聞こえ方も全然違うね」
「うん。なんとなく響きが違うっていうか、みんなの音が遠く感じたな」
その言葉に志歩・穂波・一歌が続く。かつて吹奏楽部に所属していた穂波でも、ライブステージは初であり緊張を隠せなかった。ボーカルを勤める一歌もいざ歌おうとすると、自分達以外が聞いているということで頭がいっぱいになってしまい、集中することができなかった。
「とにかく、これからは度胸もつけること。ミク達にも聞いてもらったりしてね」
ミスこそなかったものの、それだけではお客さんには聞かせられない。そんなことを悟りながらも志歩は思ったことを口にする。現実でもセカイでも自分達以外に聞いてくれる相手がいる、という点においてはLeo/needの大きな強みかもしれない。
こうして、Leo/needと1人の少年の物語は一旦の終わりをつげるのであった。
とりあえず長いお話は嫌われる……かもなので、
この物語はメインストーリー編で完結、とさせていただきます。
なにもないところから関係性を築く、というのがコンセプトだったので、
色々力になれていたとしても、付き合えるかは別問題だったり……
これまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
またこういうようなお話を書くかもしれませんが、
その時はまた、よろしくお願いします。
P.S. 現在の執筆スタイルに合わせて全話の体裁を整えました。三点リーダーと改行の削減、文頭の空白を追加してます。
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩