秋の肌寒さが強まる中、シブヤで最も有名な銅像の前で待ち合わせ。約束の30分前だけど早すぎる、なんてことはない。こんな寒い中で待たせる方が男としてどうかしてる。
「流石に人が多いな。待ち合わせ場所にはあまりに有名すぎたかな」
恐らく日本一有名な待ち合わせ場所として活用される、銅像前の広場。僕以外にも今か今かと待ち人を求める人達で溢れていた。これでは相手が僕を見つけられないかもしれない。
「ごめ〜んなーくん! 待ったよね?」
「そんなことないですよ咲希さん。僕も今来たばっかりです」
そんな心配どこへやら、金色の髪を揺らして掛けてくる咲希さんを隣に迎える。寒いからかモコモコの防寒着が少しだけ季節外れを醸し出していた。それでもピンクや黄色といった彼女らしいコーディネートに思わず笑みが溢れてしまう。
「もー、嘘ばっかり。でも、ありがとね」
「いえいえ。それじゃあ、行きましょうか」
「うん! えへへ、なーくんとデート〜♪ 腕、抱きついちゃおーっと!」
「「「っ!?」」」
歩き出すや否や、ギュッと腕に抱きつかれてしまう。激しいスキンシップに思わず心臓が飛び跳ね、周囲の視線が突き刺さった。これには僕も流石に足を止めそうになる。
「あ、もしかして嫌だった?」
「い、いえ。ただ少し歩きづらいかな、と」
「そっか、なら……これでどうかな?」
「「「(腕組みっ!?)」」」
なんとか言い訳を考え妥当な案で拘束から逃れるも、今度はそっと腕を絡められる。これはこれで恥ずかしいけど、さっきのに比べたら随分マシになった。相変わらず周りの視線が痛いけど。
でも今日は
〜〜〜
時は遡ること数日、咲希さんが大急ぎでスタジオに駆け込んできたところから始まる。
「もしかしたらアタシ、つけられてるかもしれないの!」
「……はい?」
流石の僕も開口一番そんなことを言われては反応に困る。そもそも本当につけられていたら、こうやって大声で店に飛び込んでくること自体間違ってると思うんけど。
後から入ってきた一歌さんと穂波さんは苦笑を、志歩さんは見慣れた呆れ顔になっていた。
「どういうことなんです?」
「えっと、実はね──」
話を聞くところ、休みの日にお出かけしていると視線を感じるらしい。流石にトイレの中とかまでは感じないそうだけど、お店の中でも時折感じたりと不安に思うことが多くなったそうだ。
「お兄ちゃんに聞いても『き、気のせいじゃないか?』って言われるだけだし……」
「(絶対司さんだ)」
「(司さんだよね)」
「(司さんでしょ)」
不安がる咲希さんの一方で、お兄さんの話題が出た途端に「ああ……」みたいな表情を浮かべる三人。どこか心当たりでもあるんだろうか。
「三人は何か心当たりとかありますか?」
「心当たりっていうより……」
「その、間違いなく一人そんな感じの人が……」
「咲希、やっぱり司さんだよ、それ」
司さん、という名前に心当たりがある。2ーAにいる変人として有名な先輩で、よく高身長な別クラスの人とよく騒ぎを起こしている印象だ。
酷い目に遭ってるけど怪我人ゼロ、被害者ゼロという奇跡的な数字を叩き出しているから、神高七不思議としても名高いうちの1人になってそう。
「でもでも、別の人かもって思ったら不安で」
「確かに、証拠はないもんね」
「だからアタシ、証拠を掴みたいの!」
本人であるという確証がない以上安心できない。実際ストーカーに遭ってもおかしくないくらい可愛い……ゲフンゲフン。
咲希さんのビジュアルなら目を引く人も多いだろう。見た目からは想像もできないくらい素直な性格を加味しても、人気は高そうだ。
「でも、証拠を掴むってどうするの」
「危ないことはしちゃダメだよ、咲希ちゃん」
「大丈夫! とってもいい作戦を考えてきたの!」
そう言って取り出したのは、少女漫画。彼女の愛読書なのか少し古めなのが印象的だった。
内容は単純で、狙われた女性を守るためにボディーガードとして1人の男性が恋人を演じるというもの。ベタな設定だけど、王道らしい展開の持って行き方だ。
「もしかして、これをするの?」
「うん! だからなーくん」
「アタシと、付き合ってください!」
〜〜〜
こうして、咲希さん考案の作戦によって偽物のデートをすることになった。とは言っても僕一人守りながら、つけてくる人を見つけるなんて出来ない。
「咲希ってば、あんなにはしゃいで……作戦のこと忘れてないよね」
「大丈夫、じゃないかな。うん、きっと大丈夫だよ」
「抱きついたと思ったら腕組んだりって、そこまでする?」
なので後ろからは一歌さん、穂波さん、志歩さんの監視がついている。ちなみにこれも咲希さんの案だ。流石に遠すぎて三人の話し声は聞こえないけど、あんまりよくない空気が漂ってる気がする。
「なーくん大丈夫? 歩きづらくない?」
「問題ないですよ。ただ少し恥ずかしいっていうか」
「ごめんね。ホントなら手を繋ぎたいんだけど、手袋してるから」
「全然大丈夫です」
指のないモコモコの手袋を見せてくる彼女に、自分の感情を止める。ギャグ漫画みたいな手のひら返しだけど今の僕にはこれが精一杯だった。
「じゃあ、まずは映画でも見に行きますか?」
「うん!」
まだお昼には早い時間、初手買い物とかで手荷物が増えてもアレだからといい感じに時間を過ごせる映画を選ぶ。見たい映画は彼女に任せて、僕はちゃんと3人がついて来られているかを確認。
「映画って、何見るんだろ」
「咲希ちゃんが選んでるみたい」
「あ、送られてきた。恋愛物だね」
咲希さんづてに連絡を飛ばし、受付の人にチケットを頼む。
「大人2枚でお願いします」
「大人2枚ですね。もし宜しければカップル割をご利用になりますか?」
「カップル割?」
なんでも結構有名な恋愛映画で、男女で見に来たお客さんに割引を適応しているらしい。映画なんて全然来ないし、来ても1人だからこういうのとは無縁だと思ってた。
「じゃあ、お願いします」
「はい、ではご確認の為にハグをお願いしますね」
「はい!?」
とんでもない条件を聞かされ思わず声が出る。そんなのどこにも、と受付にあった案内POPに目をやれば『愛する人にハグをして、お得に見よう!』なんて書いてあった。なお割引率は驚異の30%で人に見せつける分には十分ある、かもしれない。
「それはちょっ「ぎゅー♪」さ、咲希さん!?」
「これでいいんですよね?」
「はい、ありがとうございます」
咲希さんの躊躇ないハグによって2人の仲は証明され、お得に映画のチケットを購入出来た僕達。
「(あの2人爆発しねえかなぁ)」
受付の人からの視線がキツくなったのを、僕は忘れることはできないだろう。本当に、ご愁傷様です。
3パート続きます。
IFルート
-
咲希
-
穂波
-
志歩