君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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少女は嘘でも付き合いたい その2

 

「面白かった〜!」

 

 映画館を出て上機嫌な咲希さんを追う。映画の内容は、病弱な少女が部屋で寝込んでいたところに突然野球ボールが飛んできて、窓を割ってしまう。そこにお詫びにやってきた少年が女の子に一目惚れをして、看病を通じて仲を深めていく、そんな王道展開。

 

 最後は主人公の甲子園を応援したいが為に手術を受け、決勝戦の最後に少女が駆けつけて声援が届く。結果少年は優勝を掴み取り、二人は結ばれる。物語みたいな素敵な恋だけど、ハッピーエンドなのは悪くない。

 

「最後にアタシ泣いちゃったよー。頑張れ、って言っちゃったもん」

「あの時は流石にビックリしましたよ。でも、ハッピーエンドでよかったですね」

「うん。ホントにあの子が幸せになってよかった〜」

 

 終始画面に食いついていた咲希さんは、どこか病弱な少女に自分を重ねているようだった。声援をかけるシーンなんて、急に声を上げたから肝を冷やしたし。体が弱いことは先の二件で知っているけど、ここまで来ると心配になってしまう。

 

 でも、今は仮にもデート中。暗くなりそうな話題には一旦蓋をして、今を楽しもう。

 

「さっきの良かったね。私も泣いちゃった」

「うん。こんな形だったけど、今度はみんなでちゃんと……志歩ちゃん?」

「わ、私は泣いてないから」

 

 見守り隊の3人も満足できたみたいで良かった。

 

 そんな時、ふとそれとは違う視線を感じる。今までも確かに嫉妬の目を向けられたことはあったけど、これは不審な感じ。特に咲希さんへと向けられていた。

 振り返るとすぐさま外されるけど、気のせいかと戻せば再び感じる。

 

「どうしたのなーくん、忘れ物?」

「いえ、やっと釣れたみたいです」

「えっ、どこどこ?」

「気づかれるとマズイので、このままで。ひとまず場所を移しましょう」

 

 かなり時間がかかったけど、これでようやく目的が果たせそうだ。

 

 

 ひとまずお昼時を少し過ぎていたので、お洒落なカフェに案内する。お互いお腹も空いていたし、ゆっくりした時間を過ごしたかった。

 

「とりあえず紅茶で、後は……」

 

 メニュー表をパラパラと捲りながら注文をしていると、ページを1つ使った特別メニューが飛び込んでくる。内容は、カップル限定の特製パフェ。

 二人前だからかかなりの量だけど値段はお手頃。好物だからと見入っていると……

 

「このカップル限定のパフェ1つお願いしまーす!」

「はい、わかりました」

「あっ、ちょ、咲希さん!?」

 

 引き止める間も無く店員は奥へと消えていく。カップル限定と銘打たれている以上、さっきみたいに何か()が仕掛けられているかもしれない。注意深く観察しないと、と思うより前に不安そうな彼女の顔があった。

 

「もしかして、パフェ苦手だった?」

「いえ、むしろ大好きですけど……」

「なら良かった。甘いもの苦手だったらって思ったから」

 

 不安材料を取り除こうとするあまり、逆に心配させてしまったみたいだ。これじゃあ志歩さんのことも言えたものじゃない。こうなったら何が来ようと受け止めてやる!

 

「カップル限定のパフェ……」

「まあ、咲希ちゃんだから少しくらいは……」

「だからって浮かれ過ぎるのも良くないでしょ」

 

 そんな3人の視線を感じながら、落ち着いて周りの気配を探る。流石に店の中までついてくることは無かったみたいだ。窓際の席も選んでないし、少しは安心して咲希さんに集中できる。

 

「お待たせしました。ご注文の限定パフェになります」

「わーい、待ってました!」

 

 そうして出てきたのは特盛のパフェ。上げ底とは無縁のボリュームに思わず僕もスマホを構えてしまう。

 しかし特に店員さんからの指示もなければ、カップル限定の要素は見当たらない。パフェも量が多いことを除けば至って普通。

 

 しかし周りには男女ペアの客も多いけど、これを注文している様子はない。よく食べる人なら一人でも食べられそうなものなのに、一体どうしてだろうか。

 

「じゃあ、いっただっきまーす! おいし〜い!」

 

 置かれたスプーンを手に取る咲希さんは、てっぺんのイチゴとクリームを頬張り満面の笑みを浮かべる。

 僕も邪魔にならないところから食べさせてもらおうとして、スプーンがないことに気がついた。

 

「僕の分のスプーンは?」

「店員さん置き忘れちゃったのかな。すみませーん」

 

 ミスかと思って店員を呼ぶ。しかし返ってきたのは予想外の反応だった。

 

「こちらはスプーンはおひとつで食べていただく決まりとなっておりまして……」

「「えっ!?」」

 

 もう一度メニュー表を確認。確かに小さくはあるけどしっかり書いてある。

 しかも『追加のスプーンを出す場合は通常価格での提供になる』とも書いてある。ちなみに通常価格は表記の倍。学生の懐ではかなり痛い。

 見落としたこちらの落ち度であるため、店員さんに謝ってそのまま咲希さんの食べる姿を眺めることにした。

 

「なーくんごめんね、アタシが勝手に頼んじゃったから」

「いえ、気にしないでください。咲希さんのお蔭で大分お得に済みますから」

 

 だからと言って目の前で好物が食されていくのは生き地獄というか、かなり辛い。写真と違いのない綺麗な盛り付けと甘い香りが食欲を唆る。ついでにお昼時の空きっ腹も深刻になっていた。

 

「はい、あーん」

「えっ、や、いいですよ」

「でもなーくん、すっごくお腹空いてるんだよね」

「そんなことないです──」

 

 そこで耐えかねた腹の虫が鳴き声を上げる。これ以上は誤魔化しきれなかった。

 

「あはは、お腹は正直だね」

「うう……じゃあ、一口だけ」

 

 これ以上恥ずかしい思いをする前に差し出された一口を頬張る。クリームとイチゴの甘さが口いっぱいに広がって、思わず僕も笑顔になった。差し出した彼女は、こちらの方を見つめている。

 

「(なーくん、幸せそう。もっと見たいな)」

「咲希さん、どうかしましたか?」

「ううん。ほら、いっぱいあるからいっぱい食べて」

 

 一つしかないパフェを分け合って食べる。最後の方は互いに一口ずつ交換する形で盛り上がっていた。

 

「………」

「なんだか、こっちまで恥ずかしくなってきちゃうよ」

「本物のカップルでもあそこまでする?」

 

 そんな光景に3人の視線が少しだけキツくなるのを感じた。

 

 ◇

 

「ありがとうございましたー」

「おいしかったね。次はどうするの?」

「次は……あ、ちょっと待ってくださいね」

 

 退店の挨拶を背に受けながら店を後にする。特盛パフェのお蔭でお腹も膨れたし、次は買い物にでも考えていると、咲希さんの口元にクリームがついていた。

 どうやらパフェに夢中で今まで気づかなかったらしい。

 

「なーくん? あっ」

「「「あっ」」」

「クリーム、付いてましたよ」

「あ、ありがとう……」

 

 指で軽く拭き取って最後の一口をもらう。うん、やっぱり甘い。しかし当の本人は真っ赤にして俯いてしまった。ついでに言うとちょうど店を出てきた見守り隊の3人も固まっている。

 そのまま顔を上げないし動かないしで、なんとか動かそうと声を掛けようとして。

 

「うおおおおお、咲希〜〜〜〜!!!」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 絶叫を上げながら金髪の青年が突っ込んでくるのであった。

IFルート

  • 咲希
  • 穂波
  • 志歩
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