君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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少女は嘘でも付き合いたい その3

 

 カフェを後にし、動かなくなってしまった咲希さん。そんな彼女を見て金髪の青年が突っ込んできた。

 

「うおおおおお、咲希〜〜〜〜!!!」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 この絶叫には聞き覚えがある。天馬司先輩その人だ。顔より声で認識されているのは、この人が毎回大声でアピールしていたり被害にあってたりするからである。

 

 予想外の人物に咲希さんも再起動を果たすが、先輩はガッシリと両肩を掴んで離さない。

 

「咲希、何があった! この男に何かされたのか!」

「ち、違うのお兄ちゃん! あ、ううん、違わないけど、とにかく落ち着いて!」

 

 前の見えない先輩に彼女は焦りながらも食い止める。流石に店先で騒ぎを起こしてはいけないと、場所を移すことにした。

 

 

 とりあえず最寄りにあった乃々木公園まで移動し、手頃なベンチに集まる。ここなら大声をあげても多少は問題ないはずだ。

 

「それで咲希、この男は一体誰なんだ」

「アタシ達に楽器を教えてくれてる人だよ。それに何度も助けてくれたんだ」

 

 不信がる先輩に対し、咲希さんがこれまでお世話になったことを説明してくれる。

 当然家族である彼は彼女の事情を知っているし、さっきの必死さを見るに相当シスコンなのかもしれない。現に僕じゃなくて咲希さんに説明を求めてるし、今は納得しつつある。

 そしてこのデートも偽物であることをしっかり補足しておく。

 

「なるほど、そんなことがあったんだな……」

「そうなの! だから大切な友達なの!」

「わかった。すまなかったな、ええと」

「衛藤七緒です。よろしくお願いします、先輩」

「ああ、天馬司だ。これからも妹をよろしく頼む」

 

 すんなりと謝罪を受け入れて、ついでに自己紹介も挟む。こっちは名前を知っていても相手が知らなければ意味がない。知名度が(色んな意味で)高い人は大変だ。

 

「それでお兄ちゃんはどうしてここに?」

「うっ、そ、それはだな……」

 

 チラチラとこちらに視線を送る彼から、さっき感じた視線と同じものを感じる。どうやらつけていたのは司先輩で間違いないようだ。

 しかし彼がどうしてつけていたのか理由を知るものは本人以外いない。今度は咲希さんの質問が始まった。

 

「最近咲希に不埒なことをした男がいたと聞いてな」

「不埒って、何にもされてないよ?」

「オレも聴いた話だから確証はないのだが、なんでも学校帰りの咲希に迫ってキスをしたらしい」

「「「「キス……!?」」」」

「ちょっと誰! 誰がそんなことしたの!?」

 

 衝撃の発言に彼以外の全員が飛び跳ね、今度は志歩さんが咲希さんに迫っている。剣幕はさっきの司先輩と同じで、下手にそんな男が出てきたらそのまま尋問までしそうな勢いだった。

 

「キスなんてしたことないよ! それにそんな人知らない!」

「だが、えむ……いや、団員によればその後咲希が走って逃げたそうじゃないか!」

「そこまでするなんて……咲希、もしかして口止めされてない」

「でも、ホントにキスなんてしてないもん!」

 

 そのまま言い合いにまで発展する3人。僕と一歌さん、穂波さんは完全に蚊帳の外になっていた。

 

「学校帰りに、男の人が……あっ」

 

 そんな中、一人心当たりがあるのか穂波さんがぶつぶつと何かを呟き、思いついたように声を上げた。

 

「あの、司さん。もしかしたらなんですけど……」

「ん? そういえば穂波も一緒に居たそうだが、何かわかったか?」

「はい。ただその、キスは本当に誤解です」

「そ、そうか。穂波もそう言うなら確かだな」

「もう、最初から言ってるのにー」

 

 咲希さんが頬を膨らませるも、その場にいたであろう二人から誤解だと言われれば引かざるを得ない。志歩さんも「穂波が言うなら」と迫るのをやめていた。

 

「ならこれ以上邪魔をするのは無粋だな。咲希、暗くなる前には帰るんだぞ」

「はーい、お兄ちゃんも気をつけてね」

 

 嵐のようにやってきては去っていった司先輩。一歌さんの言う通り妹の時間を邪魔しないようにと気を利かせてくれたみたいだ。なんともいいお兄さんである。

 

「それで穂波、実際はどうだったの」

「それは、その。言ってもいいのかな……」

「司さんもいないし、焦らす必要もないでしょ」

「うん、そうだね」

 

 しかし、誤解が起こった原因までは突き止められていない。唯一真相に拘る志歩さんが穂波さんを追求していた。こうしてみんなの注目を浴びた穂波さんはゆっくりと真相(と思われること)を話し始める。

 

「誤解の原因になった男の人、衛藤さんなの」

「え、僕!?」

 

 思いがけない事実に焦るも、志歩さんの視線がキツくなるばかり。心なしか一歌さんまでジト目な気がする。

 

「ほら、咲希ちゃんが熱っぽかった時。覚えてないかな?」

「ああ、あの時は両手が塞がってたからおでこで……」

「……七緒君、そんなことしてたんだ」

「呆れた。一歌にはしないで咲希にはそういうことするんだ」

「ご、誤解です! 誤解なんです!」

 

 一歌さんに告白したという重荷が今になってのしかかる。だってあの時は本当に両手が塞がってたし、誤魔化して逃げられたらいけないって思ったからやっただけで、咲希さんに特別な感情があるわけじゃない……って言ったら悲しませちゃうし!!

 

「もうこれ以上付き合えないから。それじゃ」

「わ、私も帰るね?」

 

 それから暫く弁明を求めるも、すっかり呆れられてしまい志歩さんは足早に帰ってしまう。一歌さんもどこか複雑そうな顔をしていたので、何気にそれが一番効いた。

 

「ご、ごめんなさい衛藤さん。私が余計なことを言ったから」

「いえ、望月さんは関係ないですよ……」

「そうだよほなちゃん。いっちゃんもしほちゃんも、絶対わかってくれるもん!」

 

 一番信頼の厚い咲希さんの言葉に励まされるも、この誤解は少し長引きそうだ。

 

「私もそろそろ帰るけど、2人はどうするの?」

 

 言われてみれば、咲希さんを尾行している誰かの正体を暴けたし、これ以上偽のデートをする必要はない。志歩さんも一歌さんも帰ってしまったし、解散ムードが漂っている。

 

「うーん、もうちょっとだけなーくんと一緒に居たいな」

「なら、続行ですかね」

「ありがとう! そうだ、さっきの通りで綺麗なお店見つけたんだ。行こ行こ!」

 

 腕を引かれて歩き出す。もうしばらくは一緒の時間を過ごすことになりそうだ。

 

「(咲希ちゃん、元気になってよかったね)」

 

 そんな僕達の背中を、微笑ましく見送る穂波さんであった。




これにて「雨上がりの一番星」編は終わりになります。尻すぼみ感が否めないかも。

次回から「揺れるまま、でも君は前へ」編が始まります……が、基本的に学校でのお話なので関われるところが少ないです。
しかしユニスト的には大きく動きます。お楽しみに。

IFルート

  • 咲希
  • 穂波
  • 志歩
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