君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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今回から「揺れるまま、でも君は前へ」編……という名の裏方の話が始まります。


少年は知人と語りたい

 休日。当然学校は休みだがサービス業からすれば書き入れ時だ。それは実家の貸しスタジオ兼カラオケボックスも例外ではなく、多くの客で賑わっていた。母さんは接客に、父さんと僕は厨房を走り回っている。

 

「父さん、フライドポテト上がったよ!」

「よしきた! 次はナゲットを揚げてくれ!」

「はーい!」

 

 入り口の受け付と清算はセルフレジを導入しているから問題ないけど、厨房とそれを運ぶ人手は正直足りていない。まだ貸しスタジオの方が、時間を見る程度なので暇まである。

 しかしカラオケとなるとフードの注文が入るため、一定の数を越えると僕ひとりでは到底無理な作業だった。

 

 そこで登場するのが専業主夫である父さん。それを生業としているためか時短レシピの数々で注文をさばききっていた。

 千手観音かってレベルの平行作業で様々な料理を完成させていくのだから驚きである。現にメニューもそういった時短料理のみの為、注文から出来上がりまでが早かった。

 

 僕も手伝いの関係でデザートのレシピはある程度頭に入っている。パフェは食材を切って盛るだけだし、タネの仕込みさえしていればパンケーキもあっという間にできる。

 そんな要領でクレープの生地も焼けるし、と案外単純だった。

 

 ピークタイムを過ぎて注文の数が減ったのは、午後にかけての時間であった。

 

「いやーお疲れさま。厨房(ここ)は大丈夫だから掃除をお願い出来るかな?」

「あ、うんわかった」

 

 掃除用具を持ってカウンターに顔を出すと、母さんがお客さんと思わしき少女と立ち話をしていた。

 

「おお七緒、ちょうどよかったな。お客さんだ」

「いや、見ればわかるって。立ち話もいいけど仕事もちゃんとしてよね」

「いや、そっちの客じゃない。ちゃんと客の区別をつけろ」

 

 そう言って再び視線をお客さんへと戻し、見ることを促してくる。そこに立っていたのは焦げ茶と脱色した裏地のロングヘアーか特徴的な少女。少しだぼついたグレーのコートとバトーネックの白の上着、中から覗いているのは同じ白のフード。

 随分とカジュアル寄りなスタイルではあるが、なによりその自信に満ちた表情が特徴的だった。

 

「やあ、久しぶり。一年ぶり、ってところかな?」

「イオリさん……ご無沙汰してます」

「さーて、若いもんに任せて年よりは掃除でもしますかねー。七緒、あとは頼んだよ」

 

 掃除用具を横において向き直れば、母さんがかっさらうようにそれを持ち去ってしまった。気が利くのか、そうでないのか。少なくともこの場合は──

 

「カガリさんから聞いたよ。バンド、やめたんだってね」

「母さん、また勝手に喋って……」

「いや、私が聞き出したから責めるなら私を責めるといい。

 私自身も気になっていたんだ。あの後、君達に何があったのか」

 

 余裕に満ちた表情で語る彼女だが、その目の奥ではこちらの様子を探っている。恐らく母さんは『バンドをやめた』という事実告げたんだろう。

 

「別に、なにもありませんよ」

「……そう。じゃあ、君の仲間はどうしてる? 音楽、続けてる?」

「そんなこと知ってなんになるんですか」

「いいや、ただの興味本位だよ。かつてしのぎを削った者同士、ね」

 

 あくまで挑戦的な姿勢を崩さない彼女。それもこちらを試しているだけだ。どこかでボロが出ないか探っている。まったく、彼女らしくない。

 

 あくまで無言を貫いていたところで、ちょうどカラオケを終えた団体のお客さんが出てくる。その内の1人がイオリさんを見て黄色い声をあげた。

 

「あっ! もしかして『STANDOUT』のイオリさんですか!」

「ん? ああ、そうだけど」

「ほ、本物だ……!? あの、わたしファンなんです! もしよかった握手してくれませんか!」

「そのくらいならお安いご用さ」

 

 そういって彼女が手を差し出せば、ファンといった人物も恐る恐る手を握る。その表情は恐れから喜びへと変わっていった。

 

「ありがとうございます! あの、これからも応援してますね!」

「ありがとう。近い内にこの辺りでライブをする予定だから、よかったら友達も一緒に来てくれると嬉しいな」

「はい! 絶対行きます!」

 

 その後、彼女がどれだけすごい人物かと言うことを連れに語りながら、清算を済ませてお客さんは去っていく。そんな姿を見送って、僕は口を開いた。

 

「随分有名になりましたね。STANDOUTも」

「まあね。君もどうかな、頼めばチケットの1つくらいは用意できるけど」

「結構です。その1つは他のファンの人達に恵んであげてください」

「わかった。そろそろ潮時かな。じゃあまた来るよ」

「今度はちゃんとお客さんとして来てくださいね」

「わかってる。今度はちゃんと練習しに来るよ」

 

 やれやれ、と半分呆れ顔を浮かべつつ、彼女は去っていく。ドアを開けた時、ふとなにかを思い出したのか立ち止まり顔だけをこちらに向けた。

 

「──その時は話を聞かせてくれると嬉しいな。SuicidE RaiDのナナオくん」

「それ以上言ったら怒りますよ」

 

 僕の声を聞き終えることなくそれだけ言い残し、店を後にするイオリさん。胸の奥から沸き立つ怒りをため息で冷ましつつ、僕は受付に戻る。

 

「なんだ、返しちゃったのかい」

「そりゃ返すよ。店員と立ち話なんてピークタイムにできないから」

 

 今度は表で掃除していた母さんが顔を出す。面白いものが見れると期待でもしていたのだろうか。

 

「チンタラしてたら、あの子にだって越されるよ」

「あの子って、誰のこと」

「ほら、お前が告白した子だよ。今の腕はどうあれ、ありゃ化けるね」

「なんでそう思えるのさ」

「そんなもん、芯が通ってるからに決まってるじゃないか」

 

 そしてそのまま掃除に戻っていく。僕は言葉の意味を理解できないまま、仕事の忙しさに飲まれるのであった。




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