書き溜めを投稿しているこの小説ですが、前回投稿していた話が4話ほど先の話でした。
一時的に削除し、本来の話に切り替えていきます。誠に申し訳ありませんでした。
気を取り直して、今回は初詣イベント前編です。また緩めのお話をお楽しみください。
時は過ぎて、年末。本来ならお客さんの書き入れ時だけど、ライブの助っ人などで音楽関係も大きく動く時期なので店は閉めていた。現に母さんはどこかのイベントに出るとのことで一週間は家に居ない。
父さんも母さんの面倒を見るために同伴しており、家には僕一人だけが残されていた。
「と言っても、遊ぶ友達もいないしな」
高校生にもなって自分の価値観が固まり始めると、とりあえずの付き合いはなくなってくる。特に何かとこき使いやすい僕にとって親睦を深める余裕はな買った。
趣味のゲーセンも年末だと旅行客や遠征勢が多く訪れ、普段のようなプレイは望めない。
結果、一人で暇を持て余す形となっていた。
「一歌さん達は年末どうするんだろう」
あの四人なら何かと予定には困らないだろう。しかし店を閉めている以上出会いの縁は元より断たれている。連絡先も知らないし、知っていたとしてもこっちから連絡する勇気はない。
告白はしたけど結局断られてるし、進展らしい進展はない。あるとするなら咲希さんと仲良くなったくらいか。
あれからもあだ名で呼ばれ続け、他の3人と同様に親しまれている。多分あれが彼女の素なんだろう。
「……ギターの練習でもしようかな」
教える以上何もしないわけにはいかない。母さんにも釘を刺されたし、軽く演奏でもとスタジオに向かうと事務所の電話が鳴り響いた。多分開いてるかどうかの電話だろう。留守電でも対応できるけど、このまま無視するのも忍びなかった。
「はい、ミルキーウェイです」
『よかった、繋がった。もしもし、七緒君?』
「い、一歌さん!?」
マニュアル対応しようとしたところに、聞き馴染みのある声。さっきまで考えていただけあって心臓が跳ね上がる。
もしかしてスタジオの予約だろうか。でも今閉まってるのは常連の一歌さん達だってよく知ってるはずだし、わざわざ電話する理由なんてどこにもないはず。
「どうしたんですか? お店なら閉まってますけど」
『お店のことじゃなくて、七緒君の番号知らないから、こっちにかけてみたんだけど……』
「そうだったんですね。何か御用ですか?」
店のことではなく僕目的の電話と知りパニクリそうになるけど全力で平常心を保つ。まだなんの為にかけて来たかなんてわからないし、期待するだけ絶望も大きくなる。沸き立つ期待を全力で抑えつつ、次の言葉を待った。
『実は皆で初詣に行くことになったんだけど、良かったら七緒君も「行きます」えっ』
「あ、ごめんなさい。年末年始は暇してるので、大丈夫ですよ」
『そ、そっか。時間は……何時くらいがいいかな』
一歌さんからのお誘いを断る理由なんてない。嬉しさのあまり食いぎみで同意してしまったものの、ちゃんと問題ないことを付け足しておいた。
若干引かれながらも、少し声が遠くなる。どうやら僕ではなく他の皆に聞いているみたいだ。
『人も多そうだから、少し早めにした方が良さそうだよね』
『なら、夜の11時くらいはどうかな』
『そうだ! なーくんも一緒にいっちゃんのお家に』
『そ、それはちょっと、ハードル高すぎるよ……』
いつも通りの仲睦まじい会話が聞こえてくる。どうやら四人は先に集まって何かしらするみたいだ。咲希さんがその輪に加えようとするも、流石に男の僕が踏み込む余地はない。そして、僕が男だということをこれほど悔やんだこともなかった。
『お待たせ、とりあえず神社に11時でいいかな』
「はい、それまで楽しんでくださいね」
『ありがとう。それじゃあ、良いお年を』
「良いお年を」
相手が電話を切るのを確認してからこちらも受話器を置く。そして誰もいない店内で、勝利のガッツポーズを決めるのであった。その様子は色々ネタにされがちなクイズ番組の画像にも似ていたかもしれない。
◇
そしてやってきた大晦日当日。境内では様々な屋台が立ち並び、まるで縁日のようだった。そして冬場だからと黒い防寒着が並ぶ中、目立つように赤のジャンパーで鳥居に背中を預けていた。
こうしていると咲希さんと待ち合わせした時のことを思い出す。あれからも変わらず4人とは交流してるけど、仲が進展したりはしていない。伸びていくのはそれぞれの実力。
『チンタラしてたら、彼女にだって越されるよ』
ここで再び母さんの言っていたことが頭をよぎる。元ミュージシャンだけど、それ以上に人を見る目は確かだった。結果として自宅を改造する時に良い業者や良い助っ人に恵まれた、とも言っていた気がする。
まだ彼女達の実力はアマチュアクラスだけど、成長速度には目を見張るものがある。まるで専用の講師がついているかのように、音の仕上がりは凄まじいものだった。
いつか彼女達も僕の教えもいらなくなって、プロに上がっていくのだろうか。かつての僕が夢見た、壇上の先へ。
「なーく〜ん!」
そんな時、元気よく腕を振って駆け込んでくる少女。一足先に咲希さんが僕のところまでやって来た。
「わわっ、咲希さん」
「えへへ、一番乗り」
「咲希ったら急に走って……一番って、皆一緒に来たでしょ」
「でも、なーくん待ちくたびれてたみたいだから」
どうやら昔のことを考えててつまらない顔をしていたみたいだ。とりあえず心配させないように笑っておこう。
「いえ、それにしても早かったですね。まだ待ち合わせの30分前なのに」
「外は寒いし、あんまり待たせるのもよくないって咲希ちゃんが……」
「でも、咲希のいう通りだったね。お待たせ、七緒君」
「そんなに待ってませんよ。それじゃあ、行きましょうか」
皆が揃ったのを確認して、先導するため先を歩く。渋谷近辺の神社なだけあって、人はごった返していた。
「七緒君もいるし、ミクとルカは……」
『ええ、こっそり見てるわね』
「? 呼びました?」
「う、ううん! なんでもない」
どこか聞き覚えのある声がしたと思ったけど、一歌さんの手にはスマホがあるだけ。追求するのも野暮なので、そのまま参拝の列に並ぶ。
ちょっと特別な、初詣の始まりだった。
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩