列に並んでいると、年の終わり告げる鐘の音が鳴った。
「新年ですね」
「そうだね。皆、あけましておめでとう」
「あけましておめでと〜!」
「今年もよろしく」
「うん、よろしくね、皆」
それぞれが挨拶を交わし、新年の始まりを祝う。と言っても真夜中なので年明けというには実感に欠けるものだった。
周りも新年の挨拶で盛り上がり、参拝の列が止まってしまう。
「時間かかりそうだね」
「なら、お願い事考えようよ! なーくんは何にする?」
「僕は皆さんの願いが叶いますように、ですかね」
「一歌ちゃんと、じゃないんですね」
「流石に本人の前ではちょっと……」
「もう、穂波ったら……」
ちょくちょく話題になる僕と一歌さん弄りに、穂波さんも天然で加わるようになってきた。
確かに口にしない以上そういったことを考えるのも良いだろう。でも今は一緒に頑張っている4人を応援したい。教えている立場として、自分の幸せより教え子の幸せを願うのは当たり前のことだった。
それぞれの想いを秘めつつ、進み始めた列はすぐに賽銭箱の前に案内してくれた。お賽銭を投げ入れて二礼二拍手一礼。
「(Leo/needの皆の願いが叶いますように)」
これは僕の、嘘偽りない願い事だった。
◇
願い事も終わって、これからどうしようかというところ。
「ねえねえ、屋台がいっぱいあるから見て回らない?」
「そうだね。七緒君も良かったらどうかな」
「はい、是非」
「なら私はおみくじでも引こうかな」
「いいね、私も着いていくよ」
ここからは別行動となり僕と一歌さん、咲希さんは屋台の方へ。穂波さんと志歩さんはおみくじへと向かっていく。
屋台は種類豊富で、わたあめやチョコバナナ、ベビーカステラまで売っている。
「こういうのって、お祭りだからこそ美味しく感じられますよね」
「わかる気がする。賑やかな雰囲気で、ついつい余計なものまで買っちゃって」
「いっちゃん、ミクちゃんのライブの限定品、ずっと欲しがってるもんね」
「そ、それはその時しか買えないし、思い出みたいなものだから……!」
思わぬ指摘で顔を赤くする一歌さん。クールな印象が強いけど、意外な一面を見られた。ちょっと気になったので深掘りもしてみる。
「ミクが好きなんですか?」
「うん。うまく表現できないけど、ミクは本当に凄くて……」
そこから彼女が語るのは、ミクがどれだけの偉業を成し遂げて来たかのお話。CDを出したり、CMに出演したり、日本を飛び出してライブしたり。好きな人の話とはいえ、情報量と熱量に圧倒され引いてしまうくらいには話が続いていく。
「それで、ミクは──」
「もういっちゃん話し過ぎ! 屋台回れないよー」
「あ、ごめん……」
「い、いえ。でも凄いですね。そんなに語れるくらい好きなものがあるなんて」
「なーくんはないの?」
「語れるくらい好きなことはないですね。それより屋台、見て回りましょう」
僕の話は置いておいて目的の屋台回りへと移る。終始目を輝かせてる咲希さんにとって、新年のお祝い事はお祭りみたいに見えるんだろう。
「何から食べよっかなー、わたあめもいいし、焼きそばも捨てがたいし……」
「咲希ってば食べ物ばっかり。そんなに食べると正月太りしちゃうよ?」
「その分練習頑張るから大丈夫! 決めた、これ下さい!」
焼きそばの屋台に決めて屋台の人に話しかけている。無邪気な彼女に屋台の人も笑顔になっていた。
「みんなの分も買っておこうかな」
「なら、僕が出しますよ」
「えっ!? いいよ。誘ったのはこっちだし……」
「いえ、むしろ誘ってもらった側ですから。すみません、5つお願いします」
「おお〜! なーくん太っ腹〜!」
一歌さんの反対を押し切って、懐から財布を取り出す。正月太りの話から太っ腹は中々にセンスの利いたギャグだと思うけど、無意識だろう。多分。
袋を受け取って、荷物持ちにも昇進。
「ありがとう。そういえばあの時も奢ってもらっちゃったね」
「あの時は仮にもデートでしたから」
お金は決して多くはないけど、男の見栄を張れるのはお会計か荷物持ちくらいだし安いものだ。
そうしていくつか屋台を回っていると、巫女服姿の人たちが紙コップを配っている。風に乗って甘い香りとお酒の香りが鼻をくすぐった。
「あっ、あっちで甘酒配ってるよ!」
匂いで察した危険な香りに対し、咲希さんは駆け込んでいく。そしてそのまま3つ器用に持ってきた。
「はいこれ、いっちゃんとなーくんの分!」
「ありがとう。……美味しい」
「うん! それに体もあったまるね」
「………」
受け取ったコップに移る白濁色の液体と睨めっこ。モクモクと漂う湯気と酒気が僅かに残ったアルコールの気配を隠せていない。
「もしかして苦手だった?」
「いえ、苦手じゃないんですけど……」
「なら一緒に飲もうよ。とってもおいしいよ!」
不安そうな一歌さんと期待を込めた咲希さんに見つめられ、逃げ場がなくなってしまう。折角咲希さんが気を利かせてもらってきてくれたもの、頂かない理由は他にない。
意を決して、一口。そうして世界は反転した。
◆
七緒が周りの期待に負けて甘酒を煽ると、途端に動かなくなってしまう。
「七緒君、どうしたの?」
「もしかして変なものでも入っちゃってた?」
心配した一歌と咲希は俯いたままの七緒へと寄り添い、そこで彼の顔が真っ赤になっているのを見た。
「……ヒック」
「な、七緒君!?」
まるで茹でダコのように真っ赤な彼は完全に酔っ払っており、足取りも覚束ない。そのまま傍にいた一歌に寄り添い、再び俯く。彼が初めて見せた異常に二人は気が動転してしまった。
「ごめん、なさい……お酒、弱くって」
「弱いってこれ、甘酒だよ!?」
「はい……」
なんとか応答はできるものの限界らしく、どんどん一歌の方へ体重を預ける。ほとんど同じ身長とはいえ、一人で支えるのは困難だ。
「咲希、手伝って! 穂波達のところに戻るよ!」
「う、うん!」
まるで漫画みたいな展開だが、彼女達にとってはこれが現実。二人がかりで引きずりながら、おみくじのところまで戻る二人であった。
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩