君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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以前投稿していたものになります。



少年は健啖に励みたい

 イオリさんの動向が気になるも、それから店に現れることはなかった。かといって志歩さんに忠告出来るわけもなく、せめて彼女のお眼鏡にかなわないことを祈るだけ。

 

 最近はずっとそんなことを考えながら過ごしているせいか、食事もロクに喉を通らない。夕日に染まる道を歩き、空きっ腹にやられて街まで彷徨い出ていた。

 

「ファーストフード、は、露骨すぎるよね」

 

 以前偶然立ち寄った、一歌さんがバイトしているファーストフード店。今度も彼女がいるか試してみるのもいいけれど、告白した手前客として現れては会いにきたと思われてしまう。

 後ろ髪を引かれる思いをしながらも、何とか振り切り別のお店を探すことにした。

 

「オープン記念セールやってまーす、良かったらどうぞ!」

「あ、ありがとうございます」

 

 そんな中エプロン姿で客引きをしている人にチラシを渡される。内容は新装開店したアップルパイ専門店のものだった。しかもかなり豊富な種類を取り揃えていて、今ならお得に買えるという。

 

「あてもなかったし、行ってみようかな」

 

 チラシの地図に従ってやってきたのはまたもや宮益坂。オシャレな通りだし、何より宮女の学生にとって甘いスイーツは魅力的だろう。案の定、店の前では既にお客さんが並んでいた。

 店員さんから渡されたメニュー表を盾に、周りから感じる場違いの視線をどうにか凌ぐ。

 

「プレーンにカスタード、シナモンにチョコレートまである」

 

 普段は見られないような味付けに思わず唾を飲む。とりあえず安くなってるし全部2個ずつ頼もうかな。すっかりアップルパイの口になりながらも列は進み、僕の番がやってきた。

 

「2個ずつお願いします」

「2個ずつですね。すぐにご用意いたします」

 

 こうして袋を受け取り、とりあえず手頃なベンチを探して腰をかける。早速プレーンから一口。

 芳醇なバターの香りとサクサクのパイ生地に包まれた、リンゴの甘みが口いっぱいに広がっていく。久しぶりなのもあって他のもどんどん食べ進めるものの、僕の胃袋にも限界はあった。

 

「うっ……まだ半分残ってる」

 

 袋に残った包み紙を見つめてゲンナリする。これ以上は食べきれないので、持ち帰って母さんにでもあげようか。

 

「ええっと、アップルパイ、5個ずつください」

「5個ずつ、ですか? はい、ご用意しますね」

 

 列に並んでいた宮女生がまさかの大量買い。家族のお土産にでもするのか、それとも親戚で集まりでもあるかの量を注文していた。店員さんもどこか引いてるし。

 袋を手渡されこちらに歩いてきたので、どんな人だろうと思ってその顔を覗いてみれば。

 

「も、望月さん!?」

「え、衛藤さん!?」

 

 袋を抱えていたのは確かに穂波さん。偶然の出会いとはいえ、世界は思ったよりも狭いみたいだ。

 

 

「すみません、プライベートにお邪魔しちゃって」

「い、いえ、衛藤さんは悪くありませんよ」

 

 Leo/needの4人の中であまり関わることがなく、そのまま時間が経ってしまった者同士。お互い敬語が取れずどこか距離を感じていた。

 僕にアップルパイを買う姿を見られてショックだったのかと思ってみるも、問題はそこではなさそう。

 とりあえずこの気まずい空気をなんとかするために話題を切り出した。

 

「アップルパイ、お好きなんですか?」

「あ、はい。小さい時からよく食べてて」

「僕も好きですよ。甘くてサクサクで、中はしっとりしてて」

「衛藤さんも、お好きなんですね」

「はい。もし良かったらおすすめを教えてくれませんか?」

 

 とは言っても、新しく出来たお店の味を知ってるはずはない。好きなものに流されすぎてポカをやらかしてしまう。

 

「わかりました。ここのお店はあの有名な洋菓子屋さんと同じ系列なので、初めてならプレーンを……」

 

「あ、でも期間限定だったチョコもすごく美味しいので、そういう意味ならおすすめはチョコかも……」

 

「でもでも、衛藤さんがチョコが苦手だったら……」

 

 単純におすすめを聞いたつもりが堂々巡りに陥ってしまった。僕はただ、穂波さんの好きな味が聞きたかっただけなんだけど、彼女にとっては難しい質問だったらしい。

 というかむしろ、無難な答えを探した結果迷走している気がする。

 

「あの、そんなに難しく考えなくていいですよ。穂波さんの好きな味を教えてください」

「でも、衛藤さんに気に入ってもらえなかったらって思うと……」

 

 質問を変えても一度始まってしまった思いやりを止めることは出来なかった。これ以上彼女に負担をかけるわけにはいかないと、僕はプレーン味のアップルパイを手に取る。お腹がいっぱいでも関係ない。

 

「はむっ、うん。シンプルなのに奥深い味わいで、とっても美味しいです」

「あっ……そっか、良かった」

「じゃあ今度はチョコを頂きますね」

 

 今度はチョコを頬張る。こっちは甘さを控えたチョコが後味を爽やかにしつつも、しっかり食感の残ったリンゴがさらなる楽しみを与えてくれた。

 

「こっちも美味しいです。後味爽やかで」

「そうなの! だからいくつでも食べられちゃうんだけど、今まで期間限定だったから」

 

 実際の食レポも添えて美味しさを伝えれば、ガチレビューで答えてくれる穂波さん。志歩さんとは違った意味で落ち着いてる穂波さんがこれだけはしゃいだ姿を見るのは初めてかもしれない。

 ああいや、初詣のおみくじの時もなんでか中吉ですごく喜んでいたような気がする。

 

「望月さんも食べてください。僕ばっかりじゃ悪いですし」

「それじゃあ、いただきます」

 

 箱に所狭しと並んだアップルパイに舌鼓を打つ彼女は、すっかりいつもの調子に戻っていた。ただ本人が『いくつでも食べられちゃう』というくらいにはすごい速度で無くなっていく。有言実行、恐るべし。

 それはそれとして、幸せそうに食べる女の子の姿は癒しの象徴であり、僕も思わず見惚れてしまった。

 

「うん、やっぱりその顔の方が穂波さんらしいですよ」

「私らしい?」

「はい。何かお悩みだったみたいなので」

「あっ……」

 

 そこで現実に引き戻され、少し俯いてしまう穂波さん。せっかくの幸せな時間を奪ってしまった責任として、僕は問いかけた。

 

「もし良かったら話してみませんか? 楽になるかもしれませんし」

「……そう、ですね」

 

 こうして自分の置かれている現状と、自らの性格について少女は語り出した。

IFルート

  • 咲希
  • 穂波
  • 志歩
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