君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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大真面目にやらかしたので0時更新という形で。
楽しみにして頂いていた方々申し訳ございません。
七緒君のお話をしながら、最後のイベストへと進んでいきます。


少年は取り返しがつかない

 

 暗がりの中でスタッフさんが機材を弄り、音量や照明の調整を行なっている。今日ライブをするのはあの『STANDOUT』。ライブハウス前では既にお客さんが行列を作っていた。

 その為、今日は助っ人としてライブハウスに駆り出されていた。

 

「やあ七緒君、いつも助かるよ」

「おはようございますオーナーさん。」

「何せあのSTANDOUTだからね。っと、フライヤーの準備をお願いできるかな」

「はい」

 

 機材は僕より詳しいスタッフさんに任せ、雑務に駆り出される。お客さんに満足して帰ってもらう為にも必要な仕事だった。そして何より僕の得意分野でもある。

 準備を終えても開場まではまだ余裕があったので、今のうちに飲み物を買いに行くことにした。ここからだと楽屋側の方が近いかな。

 

 イオリさんに出くわすリスクがあったけれど、そんなこと早々起きるわけもなく……

 

「やあ、また会ったね」

「……どうも」

 

 神様は時に悪戯がすぎる。自販機の前で今まさに飲み物を買った彼女と鉢合わせてしまった。特に話すこともないから無視して用事を済ませてしまおう。

 

「君の紹介してくれた子だけど、気に入ったよ」

「っ!」

 

 購入ボタンを押そうとした手が止まる。彼女は確かに気に入ったと言った。それはどちらに傾くか分からなかった天秤が、悪い方へと振り切った事を意味する。

 

「それでどうするんですか。本当に招き入れるとでも?」

「うん。だからもう、声はかけさせて貰ったよ」

「……相変わらず、行動が早いんですから」

「ありがとう」

 

 嫌味たっぷりで返してみるも彼女にとってはどこ吹く風。今の僕には手を伸ばそうにも届かない存在だ。ただ紹介したとはいえ、諦めさせるために言葉を連ねる。

 

「誘っても無駄ですよ。日野森さんは今」

「幼馴染みの子達とバンドをやってるんだよね。ただ、全員でプロを目指してるわけじゃない」

「だとしても、他に替えが効かないような大切な人達なんです」

「なら、あの子自身はどうなのかな。そばで見てる君なら、わかるでしょ?」

「それは……」

 

 彼女のいう通り、練習を見てきてる僕ならわかる。志歩さんはいつだって練習第一で、更なる高みを目指してる。教えられる目と耳もあるけど、何より高みを目指す心があった。

 時折一緒に奏でてきたからこそわかる、彼女の向上心と意識の高さ。遊びのバンドでは決して収まることのない想いが、彼女を音楽に繋ぎ止めている。

 

「それに、あの子自身も迷ってるみたいだからね」

「日野森さんが?」

 

 彼女が語るには、既に何度も声をかけているが突っぱねることはしないらしい。まるで口だけ否定しているように聞こえるのだとも。

 ここまでバンドをまとめ、引き連れてきただけの目は確かである。

 

「それに、君もずっとそのままでいいのかな」

「それは、どういう意味ですか」

「私達も君の()()()だからね」

「………」

「少し話し過ぎた。今度はそっちの話も聞かせてね」

 

 別れの挨拶もほどほどに楽屋へ戻っていくイオリさん。その背中はいつもよりも小さく見えた。

 ひとまず僕も会場へと戻ろうと踵を返す。しかしその先には別の人物が待ち受けていた。

 

「イオリさんと、知り合いだったんですね」

「日野森さん……」

「それに、イオリさんが()()()ってどういう事ですか」

 

 一歩ずつ迫ってくる彼女は困惑を押し殺したような顔をしている。おそらく戻るのが遅い僕を探しに来てくれたんだろう。その代わり、話の内容は少し聞かれてしまったみたいだ。

 

「志歩さんには関係ないことですよ。それより戻りましょう」

 

 志歩さんの横を通り抜け、会場へ戻る。僕のことは今のみんなに関係ない。知らなければ存在しないも同じなのだから。

 

 

<志歩>

 

 いつも疑問に思っていた。同い年であれだけ演奏が出来るのに教えるばっかりで、自分の夢を追おうとしない彼のことが。

 相談にも乗ってくれるくらい献身的なのに、自分のことは一切口にしない。

 

 だけど、隠しきれない部分はいくつも見てきた。丁寧に扱われたギターに、節々から漏れる本音。

 そして何よりイオリさんが口にした、ファンという言葉。

 

 何より、衛藤さんに教えてほしいと頼んだのは私だ。もし彼にも追いかけたい夢があって、私みたいに悩んでいるなら、その責任を負わなきゃいけない。

 

「話さないなら、こっちにだって手があるから」

 

 今でもバンドに誘ってくるから、出会う機会はまだ残っている。触れることすら許してくれない彼の過去に迫るため、私はライブ終わりのイオリさんを待ち受けた。

 

「やあ、君の方から来てくれるなんてね。もしかして、受けてくれる?」

「いえ、今日は別のことで聞きたいことがあるので」

「……なるほどね。じゃあ、場所を移そうか」

 

 彼女はバンドメンバーと一足早い別れを告げて、ライブハウスの裏へ。いつか衛藤さんと話したあの場所だ。

 

「さて、何が聞きたいのかな」

「衛藤七緒さん、知ってますよね」

「うん、よく知ってる」

「あの人に、何があったんですか」

 

 この人に回りくどい言い方は通用しない。だったらもう真っ向から聞くしかなかった。

 

「日野森さんはそれを聞いてどうするの」

「もしプロを目指してたなら、目指してほしい。頼んだのは、私だから」

「なるほどね」

 

 少し考える仕草を見せていたけど、こっちの表情を見て納得した表情を浮かべる。どうやら話してくれるみたいだ。

 

「日野森さんは、『SuicidE RaiD』ってバンド覚えてる?」

「噂くらいには……期待の新星、なんて言われてたバンドですよね」

 

 一年前くらいに話題に上がったバンドユニット。まだ中学生とはいえバンド界隈を沸かせた存在だった。音楽性も全部ぶち抜くようなロックスタイルだったのは、記憶に新しい。

 

「でも、ワンマンライブの直前に突然姿を消した」

 

 ワンマンライブはプロへの登竜門みたいなもの。そこで実力を見せればスカウトだって目じゃない。なのにそんな大事なライブに現れなかった。

 それどころかその日を境に忽然と界隈から姿を消した。

 

「うん。今じゃ名前すら上がらないバンドだけど、私は嫌いじゃなかった」

 

「絶対にプロになるって覚悟が、その子達にはあったからね」

 

 決死の奇襲という名前からもわかるその覚悟。イオリさんが時折口にしていることと同じだった。

 

「でも、その話と衛藤さんになんの関わりが──」

「そのリーダーで、ボーカル兼ギター。それが七緒君だよ」

 

 衝撃の事実が、私を襲った。

IFルート

  • 咲希
  • 穂波
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