君と一緒に歌いたい   作:kasyopa

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少年は後が無い

<志歩>

 

 日が建物の影に隠れ、暗くなったライブハウス裏。そこで衛藤さんの事実を知った。

 

「本当、なんですか」

「嘘は言わないよ。お互い凌ぎを削った仲だから」

 

 音楽に年齢なんて関係ない。まだそこまで名の売れてなかったSTANDOUTとライバル関係にあったらしい。

 メジャーデビューを控えている今だからこそ、衛藤さんの実力はかなり高かったんだと予想できる。

 

『人によっては人生かけてやってる人だっているんです。それこそ死ぬ気で』

 

 妙にしっくりくる言葉は同じ覚悟を持った者同士だったから。でも、ならどうしてバンドをやめたんだろう。

 

「じゃあなんで急にやめたりなんか……」

「それは私にもわからない。でも、可能性があるとしたら最後のライブじゃないかな」

 

 一番知りたいところを彼女は知らなかった。後はもう衛藤さんしか手がかりは残っていない。

 

「日野森さんは何か知らないかな」

「いえ、全く」

「そっか。私も何度か聞いてるけど、相手にしてもらえなくてね」

 

 彼女も彼女でその謎を追っているようだけど、何も掴めていないらしい。

 でもここで新しい疑問が湧いてくる。私はともかくどうしてイオリさんまで彼に構うのだろうかと。

 

「どうしてイオリさんは、そこまでするんですか」

「自分の認めた相手が落ちぶれていくのは、見てて辛いからね」

「………」

「それは、あなたも同じだと思ってるんだけどな」

「っ、失礼します」

 

 最後の言葉が深く胸に突き刺さり、耐えきれなくなってその場を逃げた。

 

 一歌達とバンドが組めて心から嬉しいと思った。でも最近は練習を見るばっかりで自分の練習が出来ていない。唯一、衛藤さんと一緒に思い切り演奏する時が、私のガス抜きになっていた。

 でも、それじゃいつまで経ってもプロになれない。だからこうしてイオリさんは誘ってくれた。

 

 それに衛藤さんだってそうだ。私達の練習に付き合わせて、私のガス抜きにも付き合わせて、彼が彼の為に時間を使った日はあっただろうか。

 

「(そんな日なんて、一度もない)」

 

 分かりきっていたことなのに、今の時間が幸せで手放せなくなっていた。一緒に居たいと想いを重ねて、セカイで歌ったのに、他でもない私が迷っている。

 そして、結果的に誰かの、衛藤さんの想いを踏み躙っていた。

 

「(それならいっそ……でも……)」

 

 沈む夕日に背を向けて家へと帰る。この答えを導き出せるほど私はまだ大人じゃなかった。

 

<七緒>

 

 その日の志歩さんは店を訪れた時から雰囲気が違っていた。他のメンバーも連れず、まるで初めて会った日のように口少なくスタジオに入っては、ベースをかき鳴らしている。

 最近の彼女にしては珍しい行動だったけど、奏でられる旋律は揺れていた。

 

「何か、あったよね」

 

 もしかして、イオリさんの件で何かあったのだろうか。どちらにせよ、僕が撒いた種が、問題を起こしているのは明白だった。

 

「……このまま隠し通せるわけもないよね」

 

 音の止んだスタジオへ謝罪の意を込めて扉を開く。そこには汗だくの志歩さんがタオルで体を拭いていた。シャツから覗く白い肌がとても綺麗。

 

「ちょっ、なんで入ってきて!?」

「ご、ごめんな──へぶっ!!」

 

 ある意味それは最悪のタイミングで、顔面に思いっきり湿ったタオルをぶん投げられた。視界が奪われ後ずさる僕の後頭部にスタジオの頑強な扉が直撃し、僕の視界は黒に染まる。

 

 そして目を覚ませばスタジオの天井が出迎えてくれた。どこか芳しい香りがした気がするけど、よく覚えてない。

 

「見た?」

「えっと、よく覚えてないです」

「ならいい」

 

 記憶があやふやのまま、こちらを覗き込んでいる志歩さんと会話する。彼女の顔はどこか火照りとは違う赤に染まっていた。

 

「それで、どうして入って来たの」

「なんとなく、志歩さんが迷ってる気がして」

「迷ってたら何、人の断りもなく入っていいの?」

「そ、それはその、ごめんなさい」

「まあ、衛藤さんだから許すけど……次はないからね」

「肝に銘じます」

 

 痛む後頭部をそのままに起き上がって隣に座る。どうやらベースのチューニングをしていたみたいだ。あ、柔軟剤のいい匂いが……

 

「……ちょっと離れて」

「あ、はい……」

 

 一向に始まらない話と、未だに掴めない彼女との距離感。最近の2人がフレンドリーだった分感覚が狂った気もする。

 

「この前、『がむしゃらに演奏してる方が私らしい』って言ってましたよね。なのにどうして」

「その時はその時です。今はやっぱり迷ってるのが音に出てたので」

 

 志歩さんは他の人より腕が立つ分誤魔化すのはうまいけど、長年演奏してきたものの耳は誤魔化せない。心から楽しめている感覚が、さっきの演奏には見られなかった。

 

「また良かったら相談に乗りますよ」

「……でも、自分の事は相談してくれないんですよね」

「えっ?」

 

 予想外の言葉が返ってくる。しかもこれは嫌味ではなく本音。嫌味を言える虚勢を張れる人でないことは、今までのことで知っていた。

 

「イオリさんから聞きました。衛藤さんが『SuicidE RaiD』のリーダーだったって」

「どうしてそのことを」

「衛藤さん、本当はプロになりたいんですよね。だったら私達なんか放っておいて、練習したらいいじゃないですか」

 

「私の頼みなんか、断ればいいじゃないですか」

 

 そういう志歩さんはどこか苦しそうだった。相談に乗るつもりが僕の隠していた過去のせいで逆に苦しませている。

 確かに全ての始まりである彼女に責任があると思っても仕方ない。一人で抱え込むからこそ、こうやって二人きりの時に切り出してきた。

 

 でも、それは間違いだ。

 

「そうですね。本気でプロを目指すなら教えてる暇もありません」

「だったら……」

「でも、今はこれでいいんです。最初のお願いをしたのは、志歩さんですから」

「っ! どうしてそんなこと言えるの! 私より上手いのに、諦めたふりして!」

 

 気落ちしていた彼女は一変し、拳を握り怒鳴る形になっていた。不謹慎ではあるけど、この方がずっといつもの志歩さんらしい。

 これ以上誤魔化しても仕方ないので、僕はゆっくり口を開いた。

 

「僕に夢を叶える資格なんて、ありませんから」

「だから、どうして!」

「人の夢を奪った人が夢を叶えるなんて、できるわけないじゃないですか」

 

 ここまで来ると語らないわけにはいかない。意を決して、自分の過去を明かすことにした。

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