その日を境に、Leo/needのみんなが店を訪れることはなかった。
学校も違えば連絡先も交換していない。後者に関しては逆に交換してなくてよかったとも思えるけど、完全に縁が途切れていた。
これは僕に対する当然の罰であり、自ら許しを乞うのは差し出がましい。だから、これでよかったんだ。
気落ちしていても客は必ずやってくる。カランと扉が音を立てるや作り物の笑顔で接客に入った。
「いらっしゃいませ……あ、草薙さん」
「……どうも」
以前ここを利用したお客さんであり、同じクラスの女の子。あれから学校でも話す……なんて事もなく、こっちをたまに利用する程度には知り合っていた。
なので今はクラスメイトというより客と店員の関係に近い。
「またスタジオ借りられますか?」
「うん。あ、でもその前に」
彼女は何故か入口の方へと目をやる。連れの人でも来ているんだろうか。だとしたら相当人見知りなんだろう。
「星乃さん、どうしたの?」
「えっ、星乃さん?」
意外な人物の苗字で心臓が飛び出しそうになる。姿は見えないがそんな苗字おいそれといるわけがない。しばらく扉を2人して見つめていると、綺麗な黒髪がこちらを覗いた。
「久しぶり、だね。七緒君」
「え、ええ。まあ、はい」
二度と会えないと思った人物の登場に思わず喜びそうになるけど、ここは冷静に振る舞おう。既に返事がボロボロだけど。
「もしかして、知り合い?」
「はい、ギターを教えてもらってるんです」
「そう、なんだ」
「「………」」
お互いの気まずい空気に挟まれて、草薙さんもひどくバツが悪そうにしている。あっという間に受付を終えて、スタジオへと我先に逃げ込んでいった。
取り残された僕達は未だ言葉を選んでいる。ただ、このまま終わってしまえば次はないと思った。
「「あ、あの!」」
「「ご、ごめんなさい!」」
今度は見事なシンクロ。しかも頭を下げる動作までピッタリだった。意を結するのはどちらも同じだったらしい。
「僕は世間話だから、後でいいですよ」
「な、なら先に。最近、来れなくてごめんね」
「春先でみなさん忙しいでしょうし、大丈夫ですよ」
「そうじゃないの。ただ、志歩が……」
彼女の話を聞くには、最近様子がおかしいらしい。ついこの間もみんなでフェニランに遊びに行ったそうだけど、何か気にかけてる様子だったとのこと。
そして何より、このスタジオに来ることを嫌がっているそうだ。
「このスタジオ以外にも、練習に使ってるところがあって……最近はずっとそっちに行ってるんだ」
「なるほど、ならよかったです。そろそろ教えることもなくなってきたので」
日に日に上手くなっていく彼女達を見ていると、一緒にいられるのももうすぐか、なんて考える。上達の道は一つではないから、教える人もたくさんいる。
「そうじゃなくて……その」
一歌さんが視線を迷わせ言葉に詰まる。おそらく志歩さんと何かあったのか聞きたいんだろう。つまり、志歩さんからは何も聞いていない。それでも、彼女に問わせるわけにはいかなかった。
「ほら、お友達が待ってますよ」
スタジオの扉からそっと覗き込む草薙さんに目をやれば、急いで隠れてしまう。人見知りなのはあっちの方かもしれない。
「えっと、草薙さんには歌の練習を見てもらってて」
「だったら尚更です。ほら、借りてる時間がもったいないですよ」
急かすようにスタジオへ案内して扉を閉める。それは同時に、僕の気持ちに蓋をするようだった。
その後も休憩中に何度もこちらに視線を送ったり、話しかけようとしていたけど、全て無視することに専念した。
ここまで淡白に接するのは失礼だけど、このまま彼女が僕を頼らず一人で歩いていけたらいいと思う。
それまでの道のりに僕が居たとしても、長い時間の流れが消し去ってくれるだろう。
そんなことを考えていれば、やがて別れの時間がやってきた。利用時間終了の電話を入れて、出てきた2人と別れの挨拶を告げる。
「ありがとうございました」
「………」
しかし、一歌さんは足を止める。
「ごめん草薙さん、私、もう少し練習してから帰るよ」
「えっ、別にいいけど……じゃあ、またね」
そのまま草薙さんを送り出し二人きりの状況を作り出す。彼女の意図するところが読めないまま、受付へと詰め寄った。
「七緒君、練習見てもらっていいかな」
「すみません、今日は課題があるので……」
「そっか……」
以前の僕なら二人きりのシチュエーションに泣いて喜んだだろう。でも今は志歩さんの件がある。バンド仲間を売った僕に、彼女と付き合う資格はない。
勇気を出して放った言葉もかわされてしまい肩を落とす彼女。ひどいことをしてる自覚はあった。
「なら、今日はもう帰るね」
「はい。ありがとうございました」
それ以上彼女が踏み込むことはなく別れを告げる。こうして僕は一度目の偶然を棒に振ったのだった。
◆
<一歌>
帰り道を歩きながら、今日のことを思い出す。
草薙さんの案内でやってきたのは、偶然にも七緒君のいるスタジオ。最近はずっとセカイで練習していたから、訪れる機会もなかった。
咲希も会いたがっていたけど、志歩は何かと理由をつけてセカイで練習している。バンドはみんなでやるものだし、志歩が言うならセカイがいいんだろう、って思っていた。
でも、七緒君に会った途端そんな気持ちは吹き飛んだ。いつもより冷たい態度で、私とあんまり関わりたくないみたいに思えた。
前まではもっと寄り添ってくれて、咲希や穂波、志歩にだって優しくしてくれている。
告白された時はまだどういう人か分からなくて、とりあえず建前で友達からって言った。
けど今は一緒にいると楽しいし……可愛いところもある。そんな彼があんな風になったのには理由があるはず。
「どうして、教えてくれないの……?」
何かしてあげたいのに、何もしてあげられない。少しだけ痛む胸を抑えながら、私は静かにつぶやいた。
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩