<一歌>
それから私は志歩に聞き出す勇気もなく、七緒君のところにいくこともなく練習を続けていた。
セカイの練習でも彼女は誰より先に帰ってしまう。
「志歩ちゃん、どうしちゃったのかな」
「最近ずっとこうだもんね……」
何度も続けば咲希も穂波も気づいてくる。それでも相談すらさせてくれずに帰っていくから、何も聞けず終いだった。
「もしかしてアタシ達が上手くならないからって、愛想尽かしちゃったりとか!?」
「それは、ないと思う」
志歩に認めてもらう為に、自分でももっと上手くなりたい為に、草薙さんから歌を教わったり、ミクの提案で路上ライブを始めた。
そのお蔭で自分でもわかるくらい歌が上手くなったし、志歩だって褒めてくれた。それにみんなだって確実に上手くなってる。
「最近スタジオの方に行かないのも、何か理由があるのかな」
穂波の疑問に顔が強張る。心配事が一つじゃないことに2人だって気付き始めているのは明白だった。
「じゃあみんなでなーくんのところに行ってみようよ!」
「ま、待って! 七緒君、最近忙しいみたいだから、行っても会えないと思う」
咄嗟に思いついた言い訳でなんとか誤魔化す。今みんなで押し掛けても七緒君が辛い思いをするだけ。理由は分からなくても、今はそっとしてあげたかった。
「そっか、一歌ちゃんが言うなら仕方ないね」
「そうだね。会いたかったのになー」
咲希は二回も助けられたからか、七緒君に対して私達と同じくらいの態度で接している。穂波も初詣や合唱祭の間に随分仲良くなっていた。名前で呼ぶのも珍しくはない。
みんなと仲良くなるのは嬉しいけど、ちょっとだけ複雑だった。だから、この秘密は私だけに取っておきたい。いい秘密じゃなくてもよかった。
「もっと練習して、2人をびっくりさせるのはどうかな!」
「そうだね。そうしたら、志歩ちゃんもきっと……」
「でも、どういう練習がいいんだろう……」
個人練習だけだと限界があるし、私みたいに路上ライブ……は難しいと思う。咲希のシンセならまだしも、穂波のドラムセットは骨が折れそうだ。
「なにも練習だけがうまくなる為の方法じゃないわ」
「ルカさん?」
「そうだね。色んな曲を聴いたり、プロの演奏を見てみるのも勉強になると思うよ」
「メイコさん!」
遠くでチューニングをやってた2人が会話に入ってくる。バーチャルシンガーでも年上で先輩だから、すごく的確なアドバイスをくれた。
「確かに演奏するだけが練習じゃないもんね」
「ならライブ見に行ってみる? 曲も聴けるし、演奏も出来るし!」
「いいね。じゃあ……この前お手伝いに行ったところに行ってみようか」
手頃なライブスタジオを考えてみるけど、思いつくのは一つだけ。確か志歩と七緒君がお手伝いしてる筈。
今2人に会うのは不味い気がするけど、行ったことのある安心感からは逃れられなかった。
◇
<七緒>
今日のSTANDOUTのライブもかなりの客入りだ。誰もがメジャーデビュー確実と疑わないお客さんが、期待の新星誕生の瞬間を一眼見ようと押し寄せている。
未だ公式な発表はない為、ゲリラ的な告知も期待されていた。そんな中、僕はまたも助っ人として駆り出されている。もちろん、志歩さんも。
「………」
「………」
しかし互いに会話はなく、出来ることも違うためすれ違ってばかり。このまま会話もなくSTANDOUTの到着を待つばかりであった。
軽い休憩の為その場を離れ、飲み物を買ってから戻る。そんな時ふと見かけた志歩さんは、見覚えのある人物と話していた。
自らの楽譜を渡しその場を立ち去ろうとしている。間違いない、あれはミオさんだ。
「志歩さん、その人引き止めて!」
「えっ?」
「っ!」
声を張り上げお願いするも状況を理解できない彼女が行動できるわけもない。これからライブがあるというのに、ミオさんは裏口から飛び出していった。
よく考えればわかること。イオリさんからお願いされた時点で気付くべきだった。彼女とバンドメンバーにある溝の存在に。
「何、急に大声上げて」
「あの子、STANDOUTのベーシストなんですよ!」
「それって、まさか」
「僕追いかけるんで、後のことは任せます!」
「あ、ちょっと!」
緊急事態に今までの確執なんて意味はない。強引に仕事を投げつけ追いかける。
相手は女の子とはいえバンドマン、体力もそれなりにある。対してこちらの足が早いわけでもなく、追いかける内に遠くの方まで来てしまった。
「なんで、追いかけてくるの……!」
「なんで、って、逃げるから!」
やがて体力も底をつき、お互い人通りのない路地裏へと迷い込んでいた。時間は既にライブの開始時刻を過ぎていて、今から戻っても間に合わないだろう。
「ほら、戻りましょう。ライブには間に合いませんが、ちゃんと謝れば」
「戻ってこなかったあなたに、言われたくない」
「………」
戻ってこなかったというのは、ワンマンの時のことだろう。イオリさんとしのぎを削ると言うことは、他のメンバーだって同じだ。
「私だって、あなた達の歌が好きだった。なのに急にいなくなって……」
「それは、事情があって」
「そんなの知らない。だから、私が逃げたって何にも言えない」
少なくとも彼女は、僕たちの歌に好感を持っていた。それでも空中分解という現実に裏切られ、今に至っている。
僕も彼女がどんな理由で逃げ出したのかは知らない。でも、少なくともこれだけは言えることがあった。
「じゃあ、あなたの歌が好きな人はどうするんですか」
「えっ」
「あの時の事を知ってるなら、今日ミオさんの演奏を聴きに来た人達の気持ちだって、わかる筈ですよね!」
「そ、れは……」
単なる責任転嫁でしかない。それでも彼女をあの場所に連れ戻すにはこれしかなかった。
例え仲間との衝突があっても、お客さんという存在を裏切らない為に戻ってくれると信じたかった。
「……わかった」
「ありがとうございます」
こうしてミオさんを引き連れスタジオへと戻る。しかし彼女の足取りは未だ重いものだった。
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩