Leo/needの演奏は前座としての成功を収め、STANDOUTへとバトンを繋げた。初めてのライブに感嘆の声をあげる彼女達に、僕は労いの言葉をかける。
「お疲れ様でした、みなさん」
「なーくん! どこ行ってたの?」
「これでもスタッフなので、皆さん用に機材の再調整を。ちゃんとライブは見てましたよ」
「そうだったんですね……急に押しかけてごめんなさい」
「いえいえ。これも仕事ですから」
なんでもない会話を交わしていると、会場が一気に盛り上がる。どうやら彼女達のライブも始まったようだ。
「そういえば志歩さん、助っ人の方は」
「大丈夫、あの人が戻ってきたみたいだから」
助っ人として入る予定の彼女がここにいるという違和感を尋ねれば、その必要はないらしい。どうやらミオさんが戻ってきたようだ。
そして彼女もまたいい顔をしている。ちょっと目の周りが赤いけどそこは気にしないでおこう。
「それで七緒君、私達のライブどうだったかな?」
最後に一歌さんが感想を求めてくる。言えることは一つしかなかった。
「今までで一番良かったです。特に一歌さんの歌、聴き入っちゃいました」
「そっか……よかった」
ホッと胸を撫で下ろす彼女を見て、僕も安心する。初めてのライブでここまでやってのけた彼女達に、僕が教えられることは残っていないだろう。
「ねえ、ちょっといい?」
「あ、はい。なんでしょう」
一人干渉に浸ってる時に志歩さんが話しかけてくる。話があるようだけど、口調がいつもと違ってタメ口になっていた。
「その、紹介したことだけど」
「……許してもらおうとは思ってませんよ」
「そういう意味じゃなくて!」
ここで僕のことについて話して、終わりにしようというならそれでいい。それだけのことを僕はやったのだから。
しかし彼女は慌てて否定した。
「衛藤……ううん、七緒が動いてくれなかったら、みんなでプロを目指すってならなかったと思う」
「それは結果論ですよ。僕のせいでみんなに結論を急かしてしまったんです」
「でも、きっかけには変わりないから……だからその、ありがとう」
目を逸らし顔を赤くしながらも、感謝の言葉を伝えてくれる志歩さん。そんな彼女に対し、最も反応したのは咲希さんだった。
「あれ〜、しほちゃんなーくんといつの間に仲良くなったの?」
「ちがっ、これはその、感謝の気持ちっていうか……みんなも名前で呼んでるでしょ!」
「ふふっ、でもこれでみんな同じだね」
「そう、だね……」
口調が変わったのも彼女なりの歩み寄りなんだろう。そう言ってくれるのは嬉しいけど、ただその言葉を素直に受け止めるわけにはいかなかった。
「ありがとうございます。でも、今後こんなことがないとも限りませんから」
「七緒君?」
「だから、僕とのバンド練習も終わりです」
「「「「えっ……!」」」」
一度やってしまったからには、二度がないとは言い切れない。これ以上4人を引き剥がすようなことをする輩が、彼女達と一緒にいる訳にはいかなかった。
「そんな、急すぎるよ!」
「そうだよなーくん! アタシ達、まだ教えて欲しいことたくさんあるんだよ!」
「咲希ちゃんのいう通りです。考え直してもらえませんか?」
「七緒……」
状況が理解できない3人と、事情を知る志歩さん。知っているが故になんとも言えない苦い表情を浮かべていた。
「じゃあ、僕は片付けがあるので」
「あ、待って……!」
一歌さんの言葉を振り切り、僕はその場を後にする。好きな人のお願いでも、これだけは聴けなかった。
◆
<一歌>
ライブを成功させて、志歩に想いが伝わって、七緒君にも褒めてもらえて、嬉しかった。ただちょっとだけ思うことがあるなら、志歩まで七緒君を名前で呼び始めたことくらい。
これで全部元通り、みんな一緒の日々が帰ってくるんだと思ってた。
でも、七緒君はそのまま遠くに行ってしまう。まるでここから先会ってくれないような気がして。
「ねえ志歩、教えて。七緒君に何があったの?」
唯一手がかりを知ってる志歩に話を聞いた。
「何って、STANDOUTにスカウトされてたって話、あったでしょ」
「うん。でもそれがどうかしたの?」
「それで、七緒がそのメンバーに紹介したってだけ」
「「「ええっ!?」」」
もう終わった話だと思っていたのに、ここで思わぬきっかけが出てくる。
でもどうして七緒君がそんなことをしたんだろう。一緒に練習を見てくれて、私達のことはわかってくれてる筈なのに。
「なーくんがそんなことするわけないよ! だってアタシ達、ずっと一緒に居たんだよ?」
「でも本人が言ってたから間違いない。じゃないと、あんな態度取らないから」
それから志歩はさらに彼の過去について教えてくれた。かつてプロを目指した実力派バンドのリーダーだったこと。メンバーに不調が出て、そのまま空中分解したこと。
「でも、どうして志歩にそんなこと言ったんだろう……?」
「多分、自分と同じ目にあって欲しくなかったからだと思う」
「ほんと、不器用だよね」
確かに志歩の迷いとはよく似ていたし、私の知らない彼の過去はとても参考になった。
けどどうしてそんな大事なことを志歩だけに話したのか気になった。
志歩も納得ができたみたいだけど、やっぱり教えていたことに少し複雑な気分になる。
「わたし達、七緒君のこと全然知らないね」
穂波の言う通り、ここにいる誰もが七緒君のことを何一つとして知らない。いつも優しいからって甘えてばっかりで、彼自身に寄り添うようなことは出来てなかった。
いつしかそれが当たり前になって、一緒にいられるって勘違いしていた。
七緒君も私達と変わらない一人の男の子だと言うのを、すっかり忘れてしまっていた。
「なんとか、出来ないかな」
こうして、私達は再び頭を悩ませるのであった。
IFルート
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咲希
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穂波
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志歩