今回はガチンコバトル直後の、出久と爆豪の会話メイン。
あとザギが出久を過保護する理由の独白。
後半は、轟逃げろ!って感じを目指しました。
それでもOKって方だけどうぞ。
いいですね?
雄英の体育祭は、個性社会の到来による新たなオリンピックだ。
それ故に多くのスポンサーや様々な業種のスカウトが来る。
プロヒーロー以外にも芸能界、サポートアイテムやヒーロースーツ製作などの事業などのエンタメや広告や縁の下の力持ちの産業からの関係者もここに来る。
スポンサーとして資金源になるだけじゃなく、優れた若い人材のスカウトもするため、メインとなる3種目以外の見せ場作りのための競技のプログラムがある。
こちらは小中学校の運動会に見られる和気藹々さがある運動会の種目に寄せた内容だ。
ヒーロー科に入れたからといって必ずしも体格や個性に恵まれているとはいえない人間は少なくないのだから、内面を含めてスカウトの目にとまるよう頑張れる場を設ける必要があったのだ。救済配置といったらそこまでだが……。増えすぎたヒーローの働き口のためにこういった配慮が求められたのだろう。ヒーロー育成の進学校であるなら尚更だ。
〔ヒーロー……? むしろこれは、地球の嗜好情報媒体の一種のバラエティー番組のタレントか?〕
前にいた別宇宙の地球でも暇つぶしと周りとの繋がりを作る話題合わせのために見ていたテレビ番組を思い出す。
メイン3種目で活躍の場がなかった多くの生徒が参加するのが恒例になっているらしいことは、出久を通して知っていた。
実際に生で見ると余計にそう見える。
借り物競走や大玉転がし…諸々。
小柄すぎる生徒、逆に個性で体に大きな特徴が出ている生徒、内面アピールとして笑いを取ろうとふざける生徒。
特殊能力としての個性を抜きにしても、個性豊かな若者がいかにこの雄英に集まっているかがよーく分かる。
そう言う意味では出久は外見的に個性が薄い部類だ。重度のヒーローオタクだが、同類は他にもいる。
競技の様子を視聴できるスクリーンが生徒達や教師達が使う通路や食堂や休憩室などにあり、実況中継の放送マイクから流れる実況の声や音楽や歓声でもどれだけ盛り上がっているかが分かるようになっている。
エンターテイメント系に参加していない生徒ももちろんおり、最後の種目に向けて精神集中や体力回復を図っている。逆に全種目に出場している生徒もいる。
出久はザギが起こした事件で落ち込んでいたため不参加で、爆豪はそんな出久の近くで休憩を優先して不参加。
「ねえ……、かっちゃん。」
「あぁ?」
なにを聞きたがっているかを爆豪は察していたため、務めて冷静にいつも通りの態度で返事をする。
「知ってたの? ……僕の中にいる、誰か、のこと。」
「……。」
返事をあえてせず、腐れ縁かつ賢い出久ならすぐ理解すると知っている爆豪は返事をしないことで、知っていたことを肯定した。
「だよね…。だから、かっちゃんは僕の近くで…、目を光らせてたんだ。覚えてるよ、小学校の時にかっちゃんが大怪我したときのこと……、あの時からだったもんね。」
「……テメーがやったことじゃねぇ。」
「でも…。」
「先に手を出したのは俺だ。だから反撃くらってあーなったんだ。アイツはお前のためならって過剰になりやすいんだよ。」
「だから過保護?」
「逆に言や…、出久以外は敵ってぐれーにしか考えてねーだろーな。間違いなく。」
「えーー!? そこまで敵意剥き出し!? ま、まさかそれを全部かっちゃんが……。」
「安心しろや、別に今までに被害に遭った奴はいねーよ。…………たぶん。」
「ねえ、微妙に安心できない要素残さないで!?」
「しゃーねーだろーが! 俺の目が届かねーところで何かやらかしてたらどうしろってんだ!?」
「あ…、そ、そうだよね。ごめん…。」
「謝んな。それにアイツは出久が嫌がることはしねーよ。」
「ほ、本当?」
「ただ……。」
「ただ?」
「嫌な予感がする…。最終種目でなんかやるぞ…、間違いなく。」
「えっ!?」
目を見開いて青ざめる出久に、爆豪は出久の中で聞き耳を立ているはずのザギに聞かせるつもりもあって言葉を紡ぐ。
「出久の気持ちをちったぁ考えれりゃ…、騎馬戦の中もエンデヴァーをぶん殴ったことも逆効果だって分かんだろうが。」
横目で出久の中にいるザギに向けた言葉。
出久はその時胸のどこかがザワリッとするような奇妙な感覚を感じた。
その感覚でつい胸に手を置く出久は、この感覚がもしかしたら自分の中にいる別人格(ザギ)が反応したものだと考えた。
「…そこにいんのか?」
「わかんない…。」
出久の体内のどこかにいるのなら、急所である血液の循環をさせる重要器官の心臓のある胸の中あたりか?
本当のところはザギの胸中のざわつきが出久に反映されたからなので、正しくはない。
「おい。」
「わっ。」
爆豪が右の指先を出久の胸の中心に押しつける。
「極悪過保護は直らねーにしても、出久が泣くのが嫌だってんなら、テメーでどうすりゃいいか分かってんだろ!? それとも分からねーか? あぁ!?」
「か、かっちゃん…。人格から、へ、返事ないけど、どーしたら…。」
「出久に嫌われるかもってビビリ散らかしてじゃねーだろうな!?」
「えっ!?」
「図星か? あん? 出久の4歳までの記憶がぶっとんだのが原因か?」
「!」
爆豪が出久の言葉を無視して、出久の中にいるザギに言葉をかけ続ける。
返答はないが、逆に反応がないことが爆豪の問いの答えが正解だとみて更に続けると、出久がハッとした。
確かに4歳の時に記憶喪失になり、自分の名前も親の顔すらも忘れて大変だった記憶が強く残っている。新たに覚え直したり超強化された体の能力を制御するのに必死で原因のことを考える余裕が無かった。
突然強すぎる力に目覚めて、その反動で記憶が消し飛んだという可能性を医者が言っていたこともあったが、結局詳しいことは分かっていなかった。
それから何度も一部の記憶が消えたり、改変されたりしていることが日記を付け始めたことで判明したりして、脳の障害も疑ったこともあった。
「……君が…、したの?」
出久は胸に手を置いて、自分の中にいる誰かに問う。
だが返答は無かった。
答える気がないのか、答えられないのか。これまでの周囲の話からするとたぶん前者のような気がする。
優先順位が出久を過剰な手段で守ろうとすることで、敵だと判断した相手を誰彼構わず攻撃するのだとしたら……。
「止められるのは……、僕しかいないんだ。」
ずっと自分の中で乱暴な形だが自分を守ろうと奮闘してる存在に向き合い、本当の意味で止められるのは自分しかいないのだと出久は拳を握って。
「おい。」
「なに?」
「……クソ無謀なことだけはすんじゃねーぞ?」
「えー、でも…。」
「アイツは、お前がヒーロー目指さねーように雄英を消すって手段も視野に入れるような野郎だ。」
「えーーーー!? そこまで!?」
「マジだ。なんか知らんが、いくら記憶いじってもヒーロー目指すの辞めさせられねーから、渋々行動に移してねーってだけだろ。」
「そんな……。もしかして…、ヒーロー…、嫌いなのかな?」
「かもな。」
それは間違いないと爆豪は知っていたが、若干曖昧に答えた。
「……かっちゃん。」
「あ?」
「かっちゃんは、……もうひとりの僕と話をしたことがあるの? あっ、そっか…確か脅迫……。ご、ごめん! 聞いちゃいけなかった!」
「……。」
「僕と話をしてくれる可能性ってあるかな?」
「…さあな。」
「僕……、話をしてみたい。」
「話しかけ続けりゃ、向こうが折れるかもな。言葉で意思の疎通はできんだしよ。」
「そうだよね! できるはずだよね! よし! 頑張ってみるよ!」
〔……分かってる。いつか……その時が来ると…〕
ザギは、自分と会話を求める出久の気持ちを知り、けれど踏み出せない自分に少し驚いた。
なにを恐れている? なにを拒絶する必要がある?
分からない。
『ザギさんは、ザギさんだよ。ノアじゃない』
〔…………また…、言ってくれるか?〕
自分がノアのまねごとをしたきっかけ。
4歳程度で膨大なザギの記憶を流されて、混乱した頭で出久が出した言葉。
ザギのやってきた行いを理解していない状態であるのに、神の模造品であるザギに対して、神(ノア)じゃない、ザギはザギだと認めた言葉。
たぶん、きっと、生まれた時からずっと欲しかったもの。
神(ノア)に似せて、神(ノア)として同じ役割を果たせと求められ、けれど模造品(ザギ)に向ける賞賛と祈りではなく、あくまで模造品を代わりにして神(ノア)を求められるだけで。
〔……本物に…、なりたい理由…。あの時の出久に言われてやっと理解できた……〕
神(ノア)を倒して、自分が神(ノア)になれば、神(ノア)に向けられてきたもの全てが自分の物になると思った。
そうすれば模造品(ザギ)が、神(ザギ)として認めて求められると。
結果は完全敗北に終わって、何も手に入られなかった。
4歳から成長して、大人になる手前まできた出久はもうあの時の出久ではない。
賢く育った出久が再度ザギの過去の全てを知ってなお、同じ言葉をかけてくれる可能性は……、あるのだろうか?
〔ああ…………、そうか。だから…、話をしないでいたのか〕
聞きたかった言葉を貰えるどころか、拒絶されて否定されることが怖くて。
自分が犯した罪の数々を。
それを知っても、あの言葉を。
〔笑えよ…………、ノア………。あれだけのことしといて、こんなちっぽけで臆病に成り下がったこのオレを……〕
たったひとりの人間から否定されることを、何よりも恐れるようになった自分を自虐するように、ここにいない神(ノア)に吐き捨てた。
そうこうしてしていると、やがて最終種目の開始時間を知らせる放送が流れた。
〔……とりあえず、出久の障害になるのをひとつでも消さなきゃ…。オレが視た未来……、ヒーローになる出久の未来が実現したらすぐに終わるように〕
そうすれば出久はヒーローになったことで夢は実現し、すぐに引退させればヒーローになったという実績は残る。
この地球のヒーロー(英雄)があまりにも弱く、単なる職業、商品価値のようなものにしかなっていない世界。
元いた地球のノアのデュナミスト達と地球人達の姿を思い出すと、霞んで消えてしまいそうなほどちっぽけで無価値で無力。
〔出久を、あんなモノ(※今いる地球のヒーロー)でいさせない。ヒーローだけが輝く生き方じゃないことを教えるために、ほんの一瞬でいい、ヒーローになるのは。ヒーローに出久はもったいないのだから〕
自分が気がつかなかった、欲しかった物をくれた出久。
その出久には、この地球のヒーローは相応しくない。
それがザギの考えで、何より出久のために実現したいと考えていることだった。
体育祭の会場に戻り、説明と共に大スクリーンに表示されたトーナメント表を出久の目を通して見聞きし、ザギはコチラに鋭い視線と敵意を向けてきている轟を見つける。
〔手始めに消す障害は、お前だ。箱入りのヒヨコ以下〕
トーナメント表と轟の実力を考えて、確実に轟と当たることになるとみたザギは、その時まで何も手出ししないことにした。
過去の嫌な記憶を呼び起こさせられたきっかけのエンデヴァーを絶望させる八つ当たりもかねて、轟が自分と戦うことを求めて来ることを察知しているザギはほくそ笑む。
このネタのザギは、愛情不足のまま育ってしまった子供をイメージしています。
出久を泣くことを嫌がるくせに、出久を苦しめる結果になることを優先して実行しようとする情緒不安定のさは、ほぼ一切のコミュニケーションを絶っていることも原因になっています。
自分の中で完結してしまうから、歪んだ行動をしてしまう。
出久との会話は実はやろうと思えばできたのだが、それをしなかったのは4歳の時の初めての出会いと、ザギがノアの真似事と皮肉った行動をするきっかけになった言葉をもらった時の記憶を出久が失って、成長した出久が再びザギの過去を知ってもまた同じ言葉をくれるかどうかという不安と恐怖から行動に移せなかったという理由です。
でも、いずれは会話をすることになるだろうと考えていたし、自分のことを再度教えることになる事も……。
爆豪は現段階で一番ザギの行動基準とか、何をしようとしているのかを察せる理解者です。
騎馬戦の時に出久が意識を浮上させることができたのを見て、もう出久しかザギを止められないとみて色々と言い聞かせて任せるしかない状況。
ザギは、もう開き直っているので出久が泣くからやめろと言っても止められないと考えられたから。
次回は、ガチンコバトル。
書きたい部分を優先するために、色々とはしょってしまいます……。