ヒロアカ×ダークザギ  ネタ   作:蜜柑ブタ

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勢いで書いたら長くなりました。
久しぶりに1万字超えた。



今回は、職場体験の続き。
まだ2日目と次の日。


あと保須事件突入?
でも展開は異なります。

ザギが圧倒的なところを見せつけることをやります。



エンデヴァーが酷いことになるので、エンデヴァーファンの方は読まないことを強くオススメします!!





それでもOKって方だけどうぞ。






いいですね?




第28話  ザギだってやればできる

 

 

 

 翌朝、職場体験2日目。

 グラントリノはたい焼きが好物で冷凍庫に冷凍たい焼きを常備しているそうで、朝から電子レンジでチンして食べるのが日課になっているぐらいらしい。

 確か昨日の夜のデザートには、期間限定コンビニスイーツとして発売されていた珍しいフレーバーのたい焼きを買って食べていた。残念ながらグラントリノ的にはヒットしなかったようで、たい焼きは赤あんに限る!と言っていた。そう断言するぐらいグラントリノの口に合わなかったらしい。

 昨日コンビニに行った時に、朝食のための食料も買っていたので出久はそれを食べた。

 

 ちなみにグラントリノは、昨晩のことを出久に話してはいない。

 

 ザギが絶対話すなと激しく首を横に振っていたのを尊重したようだ。

 だがいつ口を滑らすか分からないと、ザギは出久の中でイライラしていた。

「それじゃ、朝飯も食べ終わったし、準備をしなさい。」

「えっ?」

「えっ? じゃない。今は職場体験だろう!」

「すみません! 素で忘れてました!」

「寝ぼけてちゃいけないよ!」

「はい! すみませんでした!」

 頭が覚めきっていなかったらしく、素で職場体験中だということを忘れてた出久を叱るグラントリノ。

 

 

 〔くそ、……老いぼれめ。油断したオレが全面的に悪いのは理解してるが…〕

 

 

 ある意味で弱みを握られたも同然だと思い込んでいるザギにとって、今グラントリノのことが気に入らないからと威嚇で攻撃することができなかった。

 グラントリノは別にザギの弱みを握ったからという気もないし、悪用する気はない。ただ単にザギが気にしているだけだ。

 ザギがイライラしている間にも出久は準備を整え、自分のヒーロースーツを身につける。

 グラントリノはすでに準備を整えていたので、出久の準備が終わると事務所内の火元や照明を消してから外に出て戸締まりをしてからパトロールに出かけた。

 グラントリノは、この辺りの地域一帯を主にパトロールし、犯罪者を見つけたら取り締まるのが彼の主なヒーロー活動のようだ。

 とはいえ、人口密集度は低めの過疎気味の土地であるため都会に比べたらもちろん犯罪件数は少ない。だがこういう人口の少ない場所に逃亡犯が潜伏する場所に選んだり、賃貸料の安さから小さくても何らかの犯罪グループが拠点を作ることが稀にあるそうなので気を抜いてはいけないのだ。

「まあ、基本暇なのは仕方ないわなぁ。むしろ暇である方がいい。」

「そうですね。分かります。」

 ヒーローが暇だということは、それだけ平和である証拠だ。

 ランキングを気にして血眼になって犯罪検挙数を稼ごうとしたりするヒーローも少なくなく、そのために八百長をやったりヴィランと通じてそれがバレて逆にヴィラン認定されて資格の剥奪どころか逮捕されて人生が詰んでしまったという今のヒーロー業界の闇があるが、ザギの認識する範囲でだがランキングはしょせんは副業的収入に繋がるものであって、本業であるプロヒーローの活動内容に関係ないはずだ。

 まあ知名度の高さから来る表向きの信頼度に影響はあるかもしれないが、知名度の高い芸能人が治安維持のための危険な職業に抜擢されるかと言ったらそんなことはあり得ない。

 その時代で求められることや、様々な面での移り変わりの変化の影響は大きすぎるが、グラントリノは華のない地道なプロヒーローとして今なお現役を選べるのだから、今の世の中が多様性を受け入れた華々しくも色んな意味で自由であるととれるかもしれない。

 その一方で犯罪の内容まで多様化して自由になったのは、もうイタチごっことしか……。

 恐らくだが遠からず、増えすぎたヒーローは何か大きなきっかけがあって振るいにかけられて多くがヒーローであることを辞めなければならくなるだろう。

 大きくなりすぎれば、維持できずに潰れてしまう。大きく成長しすぎた結果、最後には自重で潰れるなり根元が折れて倒れてしまったり、限られた足場に多くが乗りすぎて沈んでしまった、あるいは潰れてみんな落ちたというオチを描いて読み手に過ちを伝える物語や口伝される言い伝えのようなものが大昔からあるが、それでも繰り返してしまうのが性なのか、それとも見えない何かの力が導くのか、それはハッキリとはしない。

 大きくなり、増えすぎたヒーローはいずれそういう物語のようなオチが来る。地味だが堅実にヒーローを続けるグラントリノのようなタイプは生き残れそうではある。高齢になってもほぼ無名でプロヒーローを続ける芯の強さというか太さが違うから。それまでの人生の積み重ね方と生まれ持った資質だろうか。

 

 

 〔……認めざるを得ん。コイツ(グラントリノ)は、英雄(ヒーロー)としてのひとつの完成形だ〕

 

 

 ザギは悔しがりながらも、グラントリノを認めた。

 グラントリノのヒーローとしての在り方や見る限りの人間性は、ザギが見たことがある滅私の英雄達やウルトラ一族の年長者に通じるものを感じさせた。

 この地球のヒーローというものに失望していたザギにとって、初めてまともだと認められたのがグラントリノだ。

 今いる増えすぎたヒーロー達や、出久のいる教室の同級生、同じ学校に通う先輩達がそれに続く、上位互換のヒーローになる可能性はゼロじゃない。

 若さと経験の浅さ、そして大きな挫折をしても起き上がれるだけの力が出せるか……。何度転んでも何度でも立ち上がり、泣いてもまた笑い、どんなに辛くても歯を食いしばって守り続けられるか。

 ザギが実際に見て、戦った英雄達はそうだったから。

「ところで緑谷。」

「はい? なんですか?」

「…ヒーロー殺しに襲われたんだってな?」

「!」

 一通りのパトロールを終えて、一端グラントリノの事務所に戻ってきてからグラントリノがそう話を切り出してきた。

 雄英を通して出久がヒーロー殺しステインに危うく命を奪われかけたという情報と、ステインが出久の住む住所近くに出没した事件の情報がヒーローが共有する情報網にあげられたため、その時にインゲニウムが再起不能にされたのも相まってステインの追跡と警戒が強く呼びかけられたのだ。

 ステインの掲げる思想や行動と犯罪履歴はすでに全国に知られており、それに賛同する意見さえ出るほどのある種の英雄回帰を叫ぶ先導者のような扱われ方を一部ではされている。

 だがやっていることは殺人と一生ものの傷を残す傷害と、被害者遺族からの恨みと悲しみを買うばかりであるため、褒められたものじゃない。

「ザギが守ったんだってなぁ?」

「は、はい! ザギがこの腕でステインの剣を防いで、それから…。」

 ステイン襲撃された時のことを出久は事細かに語った。その会話の半分以上がザギへの褒めちぎりと感謝だったので、ザギが出久の中で悶えていたのだが出久は知らない。

 あとはステインの攻撃手段とか言動などの特徴など、事件の捜査に重要な情報を詳細に記憶して分析している出久にグラントリノは驚いて、そっちの方面での職種も向いているぞとヒーロー以外の職種の適性があることについて褒めた。

「しかし、ザギに反撃されて逃げ帰るしかなかったとなったらステインも相当屈辱だったかもしれんなぁ。」

 休憩のために淹れたお茶を飲みながらグラントリノが神妙な顔で言った。

「僕もそう思います…。」

 お茶の入った湯飲みを両手で包むように持っている出久が俯いてそう返答をした。

「体育祭を映した放送とか、その中で俊典が拳を傷つけても破れんかったバリアのこととか、オールマイト至上主義の奴が狙わねぇわけがない。それでいざ襲いに行ったらボロクソに負けて帰ったで済ませて諦めるとは全く思えん。」

 ステインの執念深さと狂気はグラントリノも知っている。だから出久に再び襲いかかってくる可能性があることも危惧していた。

 ザギから手加減した一撃を受けて負傷していてまだ完全回復しているとは考えにくい。だが治療に特化した個性を使用できる機会がステインに巡ってきていたなら話は変わるが、ステインの逃げ足の速さとこれまでずっと犯行を繰り返しながらも逃亡犯を続けられている警戒心の強さもあるため回復してもすぐに襲撃してくるとは考えにくかった。

 多くのプロヒーローとヴィランを殺傷してきた経験からザギとの力の差を理解しただろう。だからリベンジを行うなら入念な準備を整えてからになる。

 だが……、ザギはそれだけやっても無意味なほど強いことをステインはまだ知らない。

「リベンジしに来るとしたら、今のこの状況はかなり良いタイミングかもなぁ?」

「えっ!? いくらステインでもプロヒーローの事務所に直接襲撃するなんてことは…。」

「他の事務所なら立地もあるから人の目が多いだろうが、ここいらはゴーストタウン気味なうえにわししか事務所におらんし。絶好だと思うじゃろ?」

 観察眼と分析能力の高い出久にわざとそう問うグラントリノに、出久はグッと詰った様子を見せた。

 出久も同じ考えに至っていたからだ。もし警察やプロヒーローがすぐに駆けつけられない場所にターゲットを誘い込んで襲撃するならどういう場所と環境が適しているかを。

「もしかして、それを踏まえて指名を?」

「いんや、そこまで考えちゃない。」

 出久がまさかと思って聞いたが、グラントリノはそこまで考えてステインの再度の襲撃が行われる可能性が高い場所に出久をあえて呼び寄せたわけではなかったことをあっけらかんと答えた。

「俺がどーにかしなくても、最強の守護者がお前さんにゃついてるだろ?」

 グラントリノが出久の右腕を指差した。

「だから雄英もそれを信じて職場体験に出して問題ないって思ったんだろうなぁ。」

 

 

 〔それはどーだか……〕

 

 

 職場体験がもうすぐという時に、襲ってきた犯人が逃走中で再び襲われる可能性がある生徒を送り出すのは学校側の対応としては最悪の部類だ。

 だがそれでも実施を遅らせたり、中止をしなかったのはザギの強さと出久を第一優先で守る姿勢を信じての判断だった。

 もちろんこれは先のヴィラン襲撃の不祥事の悪い噂を払拭させる意味合いもあったが、ザギの制御のためには雄英だけでは不可能だという判断もあった。そのために大ベテランのグラントリノに頼り、指名にすぐに判が押されたのだ。

 恐らく他のプロヒーローの事務所ではグラントリノのように会話にこぎ着けるような上手い立ち振る舞いはできなかっただろう。実際指名が来なかったのはザギを相手にするのが危険すぎるという大前提と、出久を通したとしても会話すら不可能だという判断からだろう。

 だが仮に指名が来たとしても、雄英側から指名を秘密で断ってなかったことにしていただろう。それは指名してきた事務所の力不足や単なるネタとして指名している可能性を考えての判断となる。その判断は優れた頭脳の個性を持つ根津に委ねられるところだ。

 つまり合格判定に唯一入ったのがグラントリノだけだったのだ。このことは校長の根津がオールマイトを伝えず雄英の校長としてグラントリにそれらの事情を伝えている。もちろんグラントリノからの指名が来た後の話だ。根津が裏で斡旋したわけではない。

「やれんだろ? ザギ? 絶対に。」

 グラントリノがニヤリと笑いながら出久の右手の指をつつくと、ザギが猫が嫌がるかのように右腕を振ってグラントリノの手を振り払った。超手加減していてくれているのでグラントリノの指や腕があらぬ方向に曲がることは一切無かった。

 グラントリノは、ザギのそんな反応を見て懐かないツンギレの猫でも見るようなイタズラっぽく笑っていた。

 

 

 〔言われなくとも……、必ず出久を守る。……オレがそうしたいから〕

 

 

 ザギは、過去の自分からは想像もしなかったであろう今をとりあえず気の赴くままに実行する。

 自分がそうしたいと思うからそうするだけ。

 そのためなら、他のことなどどうでもいい。

 

 ……自分自身も。

 

 

 〔………オレらしくないな。本当に〕

 

 

 ザギはつくづく自分らしくないと頭を抱えた。

 だがそう思ったからと言ってやめる気はない。

 それを後回しにしてでも今やりたいと思ったことを優先することだという思いと衝動があるから。

 

 

 

 特に問題なく、地味に終わった職場体験の2日目。

 ところが急展開が次の日に起こった。

 

 

 グラントリノの事務所の電話に早朝からいきなり鳴り出す型は古いがまだまだ使えるファックス機能付き電話。

 グラントリノが寝ぼけ眼で電話を取るが、ファックスの受信だったと分かりファックスの受信ボタンを押した。

 ズルズルと引き込まれる白紙にファックスの機能で文字の羅列が印字され、吐き出される。

 何枚もの書類が出てきて、それらを順番に並べてから目を通したグラントリノは朝食の用意をしようとしていた出久に話しかけた。

「用意してくれてるとこ悪いが、それは冷蔵庫に入れときな。」

「どうしたんです?」

「職場体験前提の出動要請ってやつだ。」

「えっ?」

「保須市に行くから、準備しなさい。朝飯は途中で買って食べる。」

「急に何があったんですか?」

「保須でステインの目撃情報があったのさ。」

「!」

「コッチに来ようとする途中なのか、傷を癒すための潜伏先なのかはまだ分からんが包囲するのに出動しろって緊急じゃあなぁ。」

「僕が行ってもだいじょうぶですか?」

「職場体験中に指名した生徒を放っておけんるとでも? これも体験じゃ。事務所によっちゃ、もう緊急出動に生徒を連れてってるとこもあるだろうさ。特にレスキューとか。」

「は…、はい!」

 職場体験中の生徒を留守番させるのは規約違反なので連れて行くしかないことと、こういう緊急事態への対応も仕事であると説かれて気を引き締めた出久が返事をして急いで準備をした。

 そうして準備ができたところで事務所から二人が出てきた時だった。

 物陰から飛び出してきて武器を振るってきた人間がいた。

「!?」

「そっちから来るとはなぁ!」

 グラントリノが小柄さを利用して下から隙間に入り、個性であるジェットを利用した機動力を活かし、下からの振り上げた片足で襲いかかってきた相手のあごを蹴り上げた。

 相手は後ろに倒れたが、すぐに体制を整えて後ろへ飛び退く。

 赤黒い色が印象的な……。

「す、ステイン!?」

「狙いはこの小僧か?」

 保須市での目撃情報はガセか模倣犯か。

 ステインは体のアチコチを包帯で無理矢理傷口を塞いでいるような状態だったが武器を振るってくるぐらいには力も体力もあるようだ。

 ステインは黙ったままふた振りの剣を抜き、グラントリノと出久を見据える。

「なめらたもんじゃなぁ。」

 伊達に高齢になってもヒーローをやってはいない。

 グラントリノはとてつもない機動力と小回り、そして経験によって磨き上げた戦闘能力でステインを翻弄し着実に追い詰めた。

 だが、突如ステインの体がドロリと溶けて地面に崩れ落ちた。

「えっ!? こ、これって…。」

「………こっちが贋物だったわけだなぁ。」

 恐らく指定した人間をコピーして動きなどを模倣できる個性が使われていると見られた。

「保須の方も贋物かもしれねーな。どう思う? ザギ。」

 

 

 〔なぜオレに聞く?〕

 

 

 ザギは話を振られて呆れていた。

 もちろん声としても、テレパシーでも声を出してはいない。

「お前になら分かりそーだなー?って思っただけだが? 違うか?」

「ザギ?」

 更にザギに聞いてくるグラントリノと、出久も期待を寄せるように右腕に触りながらザギの名前を呼んだ。

 

 

 〔……良いように使いやがって〕

 

 

 ザギは、出久に期待されたから仕方ないと渋々であったが、右腕を動かし、指で何かを書く仕草をした。

「手の上に書いてくれんか?」

 グラントリノが自分の右手を手のひらを指しだし、そこに右腕が向いて右手の指で字を書く。

「ふむふむ……、本物が保須にいるのは間違いないとな? ただ、協力してる連中がいると?」

「それって…、ステインがヴィランと組んで…?」

「今は分からん。だがその可能性はゼロではないからなぁ。アイツなら一時的な協力ぐらいならしても不思議じゃない。実際それでヒーローとヴィランの両方をやった事件もある。」

 ステインが贋物と断じるヒーローを始末しつつ、ステインの思想に反するヴィランも始末できて一石二鳥ということなのだ。

 一度やっているから同じことを繰り返される可能性はあった。

 ステインがヴィラン側に回っているとなるとヒーロー側にとってはかなりの痛手だ。ステインがそれほどの強さを持つからだ。

 しかもステインをコピーしてこうやって刺客として送り込めるヴィランがいるとなると……。

「まさかステインがたくさん…!?」

 

 

 〔増やせるのがいるのは本当だ〕

 

 

 前に雄英に襲撃してきたヴィランの一味に新たに加わったヴィランの個性だとザギは超能力で見破っていた。

 

 

 〔さて……、どうしてくれよう?〕

 

 

 またも出久の命を狙う真似をした愚か者にどんな制裁を下すか、ザギは出久の中で静かに燃えていた。

 

 だがザギの怒りは、すぐに別のことで更に強く燃え上がることになる。

 その理由は。

 

「脳無!? しかも…、この数って…!?」

「コイツが雄英を襲ってきたヴィラン共が引き連れてた改造人間か? それも多種多様にまあ……。」

 保須に行く途中でゾロゾロウジャウジャと現れて保須市を中心に暴れ回り始める、USJでヴィランが連れてきた脳無とは別個体の脳無達。

 飛行能力を持つもの、垂直の壁にヤモリのようにへばりついて素早く動くもの、眼球が見当たらないがUSJで目撃された個体に近い形のもの。

 だがどれもこれも改造人間なだけにタフで、複数の個性を付与されており生半可な力では無力化できない。

 そのため保須市で目撃されたステイン捕獲のために招集されてきたヒーロー達が脳無との戦闘と一般人の避難誘導を同時にこなさなければならなくなった。もちろん保須市の警察や消防、周辺地域の警察消防も緊急出動してアチコチでパトカーのサイレン音と救急車の音がけたたましく鳴り響く。

 そのヒーローの中には職場体験で雄英の生徒を指名したヒーローもおり、そのため雄英の生徒もこの地獄絵図の現場に参加することになった。

 プロヒーローとサイドキック達の補助があるとはいえ、平和な日常が異形の怪物達に蹂躙される光景は衝撃的だ。

 異形型個性とは違う、人為的に造られた改造人間は意思の疎通が不可能であるし、何より命令されたことを淡々とこなし、付与されている複数の個性をうまく扱った殺傷攻撃を実行することに躊躇がない。

 倒したと思ってもすぐに立ち上がってきて再度襲いかかってくるのは当たり前、飛行能力を持つやつは捕まえるのがまず難しい、壁にへばりついている奴も動きが速い。

 

 

 〔あーーーー、面倒くさい!! こうなったら……〕

 

 

 ザギは、出久の体を指でつついて意識をコチラに向かせると、右手でジェスチャーして出久に体を貸して欲しいと頼んだ。

 出久はすぐにザギのジェスチャーからザギの意思を理解し、すぐに決断して頷いた。

 そうして出久から許可を得たザギが出久の体を借りて、表面に出る。

「ザギ!」

 グラントリノがザギを呼ぶ。

 だがザギは、無視して、近場にいる脳無を見た。見られた脳無もその視線に気づいた様子で振り向き、ターゲットをこちらに変えたのかザギに襲いかかってきた。

『〔伏せろ〕』

「!?」

 ザギが威圧感たっぷりの低い口調で命じると、襲いかかってきた脳無が反射的にザギの前で地面に体を伏せさせた。

 伏せた脳無にザギが右手を脳無の顔面に触れる。脳無は一切の身動きを取らず、その場にジッとしていた。

 1分程度して手を離したザギが宙を見上げて、口を開いた。

『〔集(つど)え!!〕』

 保須市全体に響き渡る不思議な声に脳無達がハッとしたのように動きを止めて一瞬固まり、すぐに方向転換して声の主の方へ急いで移動を始めた。

「……おいおいおいおい。そんなこともできんのかぁ?」

 やがて一箇所に集まってきた保須市全体に攻撃を加えていた脳無達が地面に大人しく座っている光景は、これはこれでまた異常だった。

 脳無達は、全員がザギを見てジッと命令を待っている犬のように忠実になっているようだ。

 それに反してザギは腕組みして、不機嫌さを隠さない顔をしていた。

「なにをしたんだ?」

『〔命令の遵守する仕組みを逆利用しただけだ〕』

「つまりお前の命令に絶対に従うように書き換えたのか?」

『〔造作も無い〕』

「そうか。まあどんなやり方をしたのかは今は置いとくとして、よくやった! 保須市と周辺にいた脳無を全部集めきったんだろ?」

『〔ふんっ〕』

 グラントリノが全ての脳無を集められたのかどうかを問うと、ザギはプイッとそっぽを向いた。

 否定していないということは全部集めきったということだ。グラントリノはザギの様子からそう判断した。

「緑谷くん!」

『〔……いたのか〕』

 駆け寄ってくる存在に目線を向けたザギが、特に興味もない様子でそう呟いた。

 飯田だった。

 保須市のプロヒーロー事務所に職場体験に来ていた飯田は真っ先に職場体験先のプロヒーローと共に脳無の群れとの戦闘に参加していた。

 保須市でステインの目撃情報があったのだ。恐らく早い段階でその情報を掴んだ飯田は指名先の中に保須市の事務所があったのを利用したのだろう。

 駆け寄ってきたはいいが、普段の出久ではなくザギが表に出ている状態だと気づいた飯田が足を止めた。ステインへの復讐心で心が荒れていても危険を回避するための強い理性は保てているらしい。

 そろそろ出久と入れ替わるかと思った時だった。

 

「きーーーーさーーーーまーーーー!!」

 

 ザギにとってあまり聞きたくない大声が辺りに響いた。

 ドスドスと割れたアルファルトを踏みしめて走り寄る大柄な男。

 顔に炎を纏わせたような状態で、怒りの表情。

 №2のヒーロー、エンデヴァーだった。

 周りにいたグラントリノ以外のプロヒーローも警察も慌てて道を開けたりエンデヴァーの剣幕と迫力に距離を取ってしまう中、ザギは一切動じず赤い目を細めて蔑む顔を隠しもしない。

 それが余計にエンデヴァーの感情を逆撫でして怒りによる顔の歪みがより酷くなる。

 すぐ傍まで来てザギを見下ろす距離に来たエンデヴァーは、フーフーと怒りを抑えきれない息づかいをしながらザギを睨んでいるがザギはどこ吹く風。なんか用?と言葉にするのも面倒くさいという雰囲気バリバリの面倒くさそうな顔をしているだけだった。

「お前……、あの時の…だろ?」

 ザギの名前を知らないから体育祭で自分を殴って一撃でノックアウトしたのと、光弾で一撃で気絶させられたのを合わせて同一人物かを問うてくる。

 ザギは目線をエンデヴァーに合わせてやることで肯定の返事とした。

「ちょうどいい…、いずれ貴様には個人的に会いたいと思っていたところだったからな!」

「待て。」

「なんだ! 邪魔をするな!」

 ザギとエンデヴァーの間に割って入りエンデヴァーを後ろへ下がらせるグラントリノにエンデヴァーが不機嫌さを露わにする。

「今コイツはこっちの事務所で預かったんだ。職場体験中と言えば分かるだろ?」

「っ……、よくもコイツを指名したものだな?」

「お前が指名すればよかったんじゃないか? 会いたいかったとかぬかしつつ本当は顔を合わすのが怖かったんじゃろ。」

「この…!」

「やめろ。クソ親父。」

「ぐおおおっ!? 焦凍!?」

 図星をつかれてカッとなったエンデヴァーの背後から凄まじい氷が襲いかかり、エンデヴァーの体を分厚い氷で包んだ。

「なんじゃい、お前の所は倅を指名したんか。」

「うちのクソ親父がすみません。あっ、ザギ。」

 エンデヴァーを封じた轟が駆け寄ってきてグラントリノに頭を下げ、ついでザギの存在に気づいてパッと表情を変えた。なんか嬉しそうだ。

『〔ハ~~~~……、なんだその顔は?〕』

「かお?」

『〔オレにそんな顔を向ける理由が分からない〕』

「? だってザギに会えたから…。」

『〔……意味が分からない〕』

 もうやってられんとばかりにザギが出久と入れ替わった。

 少しぼんやりしていた出久は、すぐにハッとして周りを見回し、グラントリノ、轟とエンデヴァー、飯田、そして大人しく一箇所に集まった脳無達を見て大げさなほど驚いていた。特に脳無に。

「えっ、えええええ!? なにが、なにがあったんですか!? ザギ、なにしたの!?」

「何したって、脳無を一箇所に集め暴れんよう大人しくさせたんじゃよ。」

「すごい! ザギ、そんなこともできるんだ!?」

 右腕を上げてザギにキラキラお目々を向けるが、ザギは特に反応を返さなかった。だが出久の中では照れるのを抑えられないでいたりする。

「おい!」

「うわぁ!?」

「やめろクソ親父。」

 氷を破ったエンデヴァーが出久に近寄ろうとすると轟が間に入って遮った。

「焦凍! どけ! 俺はソイツの中にいる奴に用がある!」

「あんたじゃぜってーーーー勝てないから無理だ。」

「誰が負けると言っている!?」

「二回も一撃でKOだったくせにかよ?」

「しょうとーーーーー!!」

 周りに知られたくないことをあっさり口にした息子の言葉をかき消すように叫ぶエンデヴァー。

「うぅ…、エンデヴァーが怒ってるぅ……。え…? ザギ…、待って、何する気?」

 エンデヴァーが激おこの様子に涙目になる出久だったが、右腕が勝手に動いたので嫌な予感を覚えた。

「む!? その腕は……。」

「やめとけ。右腕だけじゃが絶対勝てんから。」

「貴様は黙ってろ老いぼれ!」

 グラントリノの言葉から、出久の右腕がザギであることを理解したエンデヴァーが右腕を睨んだ。

「あわわわわわ…!! 本当に…本当にダメですから!! 絶対戦っちゃダメーーー!!」

「そんなことはやってみんと分からんだろう! 俺が直々に躾けてやる! かかって…。」

 自身の個性である炎を更に燃え上がらせ、エンデヴァーがザギに戦いを挑むと宣言しようとしたが、その言葉は最後まで続けられなかった。

 

 

 数分後。

 

 

 脳無達が暴れたことでひび割れて一部めくれた道路に犬神家のように下半身だけ突き出して上半身が完全に埋まったエンデヴァーの構図が出来上がっていた。

 纏っているヒーロースーツの一部がプスプスと小さな煙を出しており、足の先が時折、ピクッピクッと動いていてアニメや漫画のギャグ描写そのまんまにしか見えない状態である。

 周囲にいたプロヒーロー達、及び職場体験中の雄英の生徒数名、警察や消防などの各種関係者達がただぼう然とそれに至るまでの過程と終わった後を見ていることしかできなかった。あと一箇所に集められている脳無達も待っている状態が暇だからか、視線をそっちへ向けていた。

 なんともシュール?でカオスな光景と空気の中、一部はそれどころじゃない。

「……一応止めたぞ?」

 グラントリノはあちゃ~という感じで額を手で押さえた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「いやいやいやいや! こっちこそ謝らないといけないから落ち着いて! ね!? 君、なんも悪くないから!」

「そうそう! むしろ止めたのに聞かなかったうちの所長が悪いからさ!」

「だいじょうぶだ緑谷。ザギとの力量差を1ミクロンも理解してねーこのクソが全部悪いだけだぞ。」

「さすがに口が悪いぞ轟くん!」

 轟の父親への容赦の無い言葉に思わずツッコミを入れてしまう飯田。

 右腕を左手で掴んで押え付けながら、ギャン泣き土下座謝罪を繰り出す出久にエンデヴァー事務所のサイドキック達が出久を落ち着かせようと必死に声を掛けている。一連のことを見てたため、非があるのはエンデヴァーだと彼らは理解していた。

 周囲の制止を振り切って喧嘩を売って、あっさり負けたのはエンデヴァーだ。

 

 あまりにカオスな空気が濃厚なせいか、誰もこの時点で気づかなかった。

 ギャン泣き土下座謝罪中の出久に、後ろの方からそろりそろりと迫る猫背の見るからにヤバい奴。

 ステインが両手に刃こぼれした剣を握って接近してきていた。

 

 

 

 

 

 




このネタでは、トゥワイスの加入時期がちょっと早めになっています。
つまりトガ達よりも先に加入したかも?
ステインは、一次協定みたいな感じでヴィラン連合に力を借りてトゥワイスの個性で自分のコピーを送り込んでいます。

ザギは脳無達の命令を聞いて実行する機能を分析して読み込み、自分に従うようにさせるためにスペースビーストを操る能力の応用で使用して、保須市の脳無の群れを一箇所に集めて大人しくさせて攻撃意思も無くさせました。
ザギの号令があればザギの命じた通りに動きます。


エンデヴァーは……、次回に回すかどうするか考えて結局この話に盛り込みました。
あと息子の轟は、エンデヴァーへの敬意とか尊敬とか父親としても大事にすることもなくなってます。指名を受けたのは、使えるものは全部使え思考で利用しただけです。



次回は、ステインとの戦いの決着を付けたり、英雄についてザギと討論するかも?
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