仮免試験当日、まだ試験についての説明前の時間軸。
ザギがただただ拗ねている。
真堂がちょっとかわいそう?
それでもOKって方だけどうぞ。
いいですね?
仮免試験前にオールマイトのヒーロー引退が正式に発表された。
年齢的な部分もあるが過去の戦いの傷が深く、それまですごく無理をしていたことも公表され、個性も神野の事件の際にザギに喰わせたことで失われたためヒーローとして活動できなくなったと。
このことについて往年のオールマイトファン達や若い世代のファンの間で様々な論争や今後起こるであろう混乱を危惧した議論がテレビなどで専門家や評論家が議論したりしていた。
ファンの間では、ザギがオールマイトの個性を食べたことについて特に怒りが強いようでSNSを中心にぶつけどころがない怒りを吐き出したりしているがザギに直接何かしようとする度胸はさすがになかったようだ。
オールマイトが自分の個性を差し出したのはエネルギー不足でピンチになっていたザギを助けるために個性をエネルギーにしてくれと自ら差し出したからで、このことはオールマイトもカメラの前で語っているという理由もあった。
お茶の間に生放送されていた神野の事件の戦いの光景でオールマイトが自ら差し出していたシーンがハッキリ映されていたこともファン達が納得しないといけないことだった。
結果的にそれでザギは復帰し、オールフォーワンという巨悪とヴィラン連合という凶悪ヴィランの組織をその一晩で終わらせるに至った。
あまりに圧倒的な力と本当の姿(大きさ)を見せつけたのも利いたのだろう。下手に攻撃したら日本どころか地球がヤベェと……いう本能的危機感が突発的な感情による攻撃をセーブさせているのかもしれない。
オールマイトが自身のヒーロー生命を差し出してでもザギに賭けたことが、ザギが基本乱暴者だが根っこは悪い奴じゃないという考察にも繋がり、ステインよりは遥かにマシなダークヒーローという見方もされ始めた。
実際雄英の体育祭の競技中に危うく生徒を一人殺しかけたし、エンデヴァーをエネルギー弾一発お見舞いして倒したりと大問題行動を起こしたが、その後の保須市での脳無による無差別襲撃事件でエンデヴァーを社会的にボロクソにしてしまったことを抜けば神野事件まで大きな事件は起こしていないことになっている。
実際は雄英内で教員達を中心に悩みの種になっていたが、内内にしたので今のところ詳細は外部には伝わっていない。
ただしオールマイトがやたらザギに嫌われていることだけは変に知れ渡っていた。
SNSでハッシュタグが出回るぐらいには……。
そんなこんなで、仮免試験の日までの時間が経過していき試験当日を迎える。
***
「ザギ~…、気が乗らないのは分かってるけど少しだけ辛抱して?」
出久がパワードスーツを専用のカバンから出しながらブス~っと床の上で体育座りして背中を向けて不機嫌オーラを出しているザギに声をかける。
パワードスーツを着る前にダイバースーツのようなピッチリ体にフィットする素材の物を身に着けているのだが、これは試験前の時期に発目とパワードスーツの開発提携企業から提供された物で省エネの効率化とパワードスーツで擦れたり肌が刺激されるなどを防ぐために制作されたものだ。普通の衣服の上にパワードスーツを身に着けてもいいが下まで全部ヒーローコスチュームの方がテンションやモチベーションがあがるだろうという意図もあった。
ここは仮免試験が行われる会場の参加校に割り当てられたロッカールームのひとつで、雄英は毎年参加者が多いので広いロッカールームで出久以外の生徒達も各々のヒーローコスチュームを身に着けて入念なチェックをしていた。もし付け間違えたり、装備に不具合があったら台無しだからだ。前日から入念なチェックはしているがもしものことがあれば最悪の場合試験を受けられないことになる。
「ねえってば~! お願い! 開始時間迫ってるから!」
「おい、拗ねて時間稼ぎして、それで出久を泣かすんか?」
『〔!〕』
「……最初の頃のビビりようが嘘みてーだな。」
「だな…。」
「じゃかましい!! こうでも言わねぇとこの極悪過保護が重い腰をあげねーんだよ!!」
「爆豪! やせ我慢禁物だぜ!! 頓服の胃薬飲んだか⁉」
爆豪派閥の茶々に振り向いた爆豪の顔色を見て切島が慌ててそう叫んだ。爆豪はやせ我慢していただけだったと理解して茶々を入れていた上鳴と瀬呂はいらないことをしてしまったと慌てた。
「とっくに飲んどるわ……。クソが……、ぜって~~~なんも起きねぇわけがねぇってのに……よぉ…。」
「しっかりしろ爆豪ー---!!」
一応他校からの承認が得られたとはいえ、今年の仮免試験にザギが絡むことについて何も起こらないはずがないと他の者達も考えていた。特に爆豪は、小さい頃からの当事者だからザギの機嫌の変化に繋がるトリガーをある程度知っている分、胃に負担がかかった。
「ザギ…、仮免に参加するの嫌なのか?」
「いらんことすんな轟ー----!!」
空気を読めず、なおかつ懲りずにザギにお近づきになりたい轟の動向に叫ぶ爆豪。
座っていたザギは、近寄ってきた轟から距離を取るために立ち上がり、ササっと出久の後ろに移動してしまった。
「毎回思うが、なんで轟に近寄られんのが嫌なんだ?」
「無条件で懐く理由が分からないと言っていたな。」
「それでもあそこまで露骨だと、普通に傷つかない?☆」
「生理的に受け付けないとか…?」
「生理的……。」
「あっ! 轟! それでも仲良くなれる手段が全部ないってことはないと思うぜ⁉」
「そうそう! ザギも最初よりだいぶマイルドになってきたじゃん!」
生理的に無理だから仲良くなってくれないのかもと聞いてションボリする轟に慌ててクラスメイト達が慰めた。
しかしザギが表に出てくるようになってからそれなりに日数が経っているし、寮生活で衣食住を共にしてもいまだに先ほどのような露骨な距離を取ることをしてくるので、ザギは全然轟と仲良くする気がないとしか思えないが……。
そんなこんなで準備が整い、試験開始前の説明や注意事項などを伝えるために広い会場に一度参加者全員が集まるようアナウンスが流れた。
そうして会場に行けばそこには他校の生徒達がいるわけで……。
一斉に視線が集まる。
そのほとんどの視線はただひとり……出久に集まっていた。
露骨にギョッとした挙動をしていたり、最初は驚きつつもオオ~!っと目をキラキラさせていたり、反応は様々だ。
そりゃ今年の仮免試験にはザギを宿した雄英の生徒が参加することが知れ渡っていて、ザギを模したパワードスーツ姿が現れたらコイツだ!ってすぐに分かるからだ。
見るからにメカメカしく、硬くて重たそうなので歩くたびにガシャンガシャンと音がしそうだがほぼ音がしない。近くにいた者や耳が良い者達はそれを不思議に思っただろう。
〔……こいつらを今すぐに昏倒させた方が出久の心労を和らげられるか? 試験自体が無くなれば…〕
一方でザギは、いつもの出久限定過保護発揮中。
ザギが出久のためにと良からぬことを考えているのは出久も感じていて、声に出さずに心の中で祈るようにザギにやめてくれと頼んでいた。
仮免試験では、雄英は1年生から参加する者が多いことで有名であるためそういう意味でも注目が集まっていた。
しかも今年はザギという謎多き脅威といえる存在を身に宿した生徒が参加するとあって他校から色々グチグチ文句があった。
最悪の場合、今年しかチャンスがない者がチャンスを逃す可能性が大きく、運も実力のうちと言う言葉があっても理不尽過ぎる存在の参加を良しとしたくないという意見が上がったのだ。
更にザギが他者の個性を食べる能力を持っていることも問題視された。
この点についてはヒーロー協会を通じてヒーロー科のある学校の教員達にも現時点で分かっている情報が共有されている。
ぶっちゃけ個性は不味くて喰いたくない、というザギの嗜好のことがだ。
オールマイトの個性を食べたのはエネルギー不足でピンチだったのを補うために超嫌々であったことや、ヴィラン連合の個性を奪ったのは、彼らへの嫌がせと後々の報復を防ぐ目的で不味いのを我慢してやったことだったことも。
個性をエネルギーとして食べるぐらいなら他の方法を探すと断言するぐらいザギにとって個性は不味い味だというのがハッキリしているので試験中に個性を奪われてしまう可能性は限りなくゼロだということでザギを宿している出久の受験資格が認められたのだ。
万が一食べてしまっても、戻せるので無個性で将来を諦めることもないだろうという理由もあった。ただしザギの中に記録されてザギが自由に使える状態で残るが……。
そんな感じで出久は雄英からの受験生としてここに来れたのだ。
〔今年は合格者の枠をかなり減らされたとネズミが言っていたから、殺気立ちに似た若いオーラに満ちているな…。出久のいる学校が常連でもっとも狙われるからそのための対策訓練をしたはいいが……。さて、どうするか…〕
ザギは、出久の中で考える。
確実に雄英……特に出久(ザギ)を狙ってくるというのを雄英の教師達から口すっぱく言われ続けていたからその対策法も考えてきたが、出久を傷つける奴は万死だとザギは思っている。
野生の動物のように決まった時期に発情期が来るのとは違い、年がら年中好きな時に発情して妊娠出産が可能な地球人類は億単位以上いるのだからこの場にいる若いのが全員神隠しにあってもたいして問題ないはずだ。減れば増やせばいい。それだけだ。十月十日程度で、運が良ければ双子や五つ子だって問題なく生まれて育つ医療も確立されているのだから、数千、数万単位でやっと成熟するほど長寿な超人一族に比べたら圧倒的に替えが利くとザギは考えている。
「やあ!」
そこへ明るい男の声。
『わっ⁉』
急に声をかけられて驚いてしまう出久の挙動に、声をかけてきた相手はキョトンとし、出久を見ていた者達も軽くどよめく。
ごつくて禍々しさのあるパワードスーツ姿からは想像もできなかった挙動は中にいる出久が素でしたことだ。
「あ、ごめんごめん。急に声をかけちゃって。驚かせるつもりはなかったんだ。」
顔立ちの整った青年で、出久達よりは年上に見える。他校のヒーロー科だ。
青年は明るい調子で出久に謝り、上から下まで出久のコスチュームをジロジロと見る。
「なんか…メカメカしいな? こんなだったっけ? ザギって?」
『これはその……、ザギの姿形を象るようなデザインで…。』
「なるほど! 見た目をザギに寄せたってことか! すごいいいと思うよ、俺は! こういうのって形から入るだけでもテンション上がるし! すっげー良いと思う!」
『あ、ありがとう…。』
〔……馴れ馴れしい!〕
「うわっ!」
出久との間に割って入るようにザギがホログラムで出現した。
相手の青年は思わずのけぞり、出久は慌てるし周りのどよめきも強まった。
実際にザギを直接目にするのは雄英以外ではほとんどいない。だから実物が出てきたという動揺と驚きが瞬時に広がった。
『落ち着いてザギ! この人は別に…。』
『〔失せろ〕』
「……極悪過保護って、噂通りなのか。」
『〔ああ?〕』
「あっ、自分は傑物学園高校の真堂揺です! 自己紹介が遅れました、すみません!」
『〔失せろ。次はない〕』
『ザギーーー!』
「おぅふ……、さ、最悪に、ご、ご機嫌斜めみたいなんで…、ま、まあ、また機会があれば……。」
真堂という青年はビシッと背筋を伸ばして頭を下げて自己紹介したが、そんなもんはどうでもいいとバッサリされて、それを見ていた出久は慌て、ザギから殺意と共にバッサリされた真堂はさすがにこのままでは本当に殺されると予感したようで青い顔をしてスゴスゴと立ち去って行った。
途中でふらつきかけたので同級生らしき生徒達に助けられて支えられていた。
「なんか、……怖いもの知らずな奴だったな?」
「勇気と無謀を履き違えないようにしねーとな…。」
いくら雄英では標語となっているPlus ultraであっても、避けるべき危険は避けるべきだし、戦うべき時とそうじゃない時の区別をつけないといけない。
そうじゃないとただの無駄死にや状況を悪化させるだけになってしまう。
特にザギが絡むこれまでの事例でそれを思い知らされることになっていた。
ザギがあまりにも強すぎて、巨大すぎたからだ。
ザギを越えられるほど地球人類は未熟すぎたからだ。
ザギと対等になることは現時点で不可能。唯一心を許しているのは緑谷出久だけ。それ以外はどうでもいいと言ってのけるザギ。
当のザギは、出久が必死に他校の生徒にできるだけ危害を加えないでと説得していても、腕組してツーンとそっぽを向いていて、自分は悪いことなんてしてないもんという幼児みたいな拗ね方をしていて……雄英以外の生徒達を困惑させていた。雄英生徒一同は、いつもの光景なので見慣れていてヤレヤレと思っていた。
他校の生徒達が困惑したのは、なんというか…想像と違ったからだ。
ザギが異様に子供っぽいという点が特に。
真堂には馴れ馴れしくするなという意味で失せろと忠告していただけで、圧はかけたがそれ以上の危害は加えていないので仮免試験会場の運営や守護と監視体制などを担う大人達は冷や冷やしつつも、セーフだと判定していた。
オールマイトの引退については悩みましたが、体の状態や年齢を考えると引退が一番いい選択かと思って。
原作でもオールマイトに全部背負わせていたから、後々で他のヒーロー達が背負いきれなくて崩れていったって部分が大きいけど、どこかで退かないといけない時期が来ると思ったので仮免試験前の時期に引退を正式に発表したという流れにしました。
引退の原因について往年のファンや若いファン達の間でザギにいい感情を持たないけど、喧嘩を売りに行くのは絶対無理だしやっちゃいけないという答えが出ているのでそこまで大きい騒ぎにはならなかった感じにしました。
生中継でオールマイトが自分からザギに自分を差し出してザギに後のことを託した映像が流れたのが大きいですが。
仮免試験については、ザギは超拗ねてます。
出久がヒーローとして順調に階段を上っていくのが不服だけど、爆豪に指摘されると嫌だけど重い腰を上げる。
真堂が率先して絡んだ結果ちょっと犠牲になっちゃった感じになりましたが、夜嵐にするか、もしくは二人が絡むかで悩みました。
悩んだ結果、真堂が先に前に出たので夜嵐は出遅れたけど『失せろ(お前なんざどーでもいい。殺すぞ)』は、回避して真堂とザギのやり取りを見ていて冷や汗はかいているかも。
トガヒミコが退場しているので、ケミィをどうするか……そこが今の悩みです。