今回は、クラス委員長決め。
ほぼ原作通りで、ザギが文句言ってるだけ?
人間は昔も今も大きな出来事や好奇心に弱い。
好奇心とは進化の糧だ。知りたいと行動することが知恵を育み、希望と同時に罪を生む。この地球に住む知的生命体である人間という生物より高い知恵を持っていた『来訪者』のことを知るザギは、そのことを十分知っているつもりだった。
〔うっとうしい!〕
ザギは、出久の中でそう悪態を吐く。
ヒーロー科という科がある学校には、必然的にプロのヒーローが就任する。ヒーローという職業が定着していなかった頃と違い、プロヒーローが増えすぎて飽和状態の今の時代は一芸だけでは喰っていけないのが現状だ。そのためプロヒーローの免許だけじゃなく、例えば芸能活動や教員免許などの副業で生計を立てているヒーローも少なくない。
しかし雄英ほどの難関校となると優秀なプロを教員としてスカウトするのも通例であり、今年からは平和の象徴として謳われるオールマイトが教師として務めるため、世間では大騒ぎだ。
教師としての能力の有無ではなく、存在自体が話題の的であるため様々なジャンルのマスコミ関係者はこぞってオールマイトが就任した雄英に集まる。
とりわけ狙われるのは今年からの新入生だ。現場に集まったマスコミは、オールマイトの話題を聞き出そうとして手当たり次第に登校してくる生徒にマイクを向けて質問攻めしてくる。
出久も当然他の生徒同様にマスコミの餌食になりそうになった。
マスコミの人間が出久に目を付けてマイクとカメラを向けた瞬間。
僅かな放電と共にマイクやカメラがひとりでに爆発し、壊れた。
突然のことにパニックになる関係者達を見て慌ててだいじょうぶかと声を掛けて手を貸そうとすると、出久の後ろから爆豪が首根っこを掴んでそのまま出久を引きずって雄英に逃げ込むように入ったのだった。
「か、かっちゃん! なに? どうして…。」
「テメーのせいじゃねぇ。」
「へ?」
「っ…、め、面倒くせーだろうが。ああいうのは。」
「で、でも怪我した人いたら…。」
「マスメディアってのは怪我も死ぬことなんぞじょーとーな連中ばっかだ。ある意味命知らずの迷惑連中だがな。」
「でもそういう人達も守ったり助けないと…。」
「それにもう行けねーし。」
「あっ!」
爆豪がそう言って指差すと、雄英の門のところが鋼鉄のような分厚い壁で閉じていた。なんか門の向こうでギャーギャー騒いでいる報道関係者の声が聞こえる。
「あんだけ騒げりゃ問題ねーだろ。」
「う…、でも…。」
「遅刻すんぞ。」
「あっ! うう…。」
結局、爆豪に捕まったまま教室に連れて行かれたのだった。あとで聞いたが怪我人はいなかったらしい。
〔オレの存在を知られたくないからって、強引な奴め。まあこの様子だと、機材を壊したのがオレだって気づいてるか〕
爆豪は良い意味でも悪い意味でも察しがいい。以前のザギなら邪魔者として真っ先に始末する対象になるほど察しがいい。
ザギは、出久のために爆豪を殺さないでいてやっているのだと思い直す。
本日は、クラスの学級委員長を決めることとなった。
クラスの生徒による投票制だが、自分の票を自分に入れるも良しらしい。
普通科なら雑務の代表みたいな役どころになるのでやりたくない役だが、ヒーロー科の場合は、人を引っ張るリーダーとして経験を積むという意味で糧になるのでやりたい人間は多い。
授業までの空き時間で投票が行われ、結果……。
「なんで僕!?」
〔なぜこうなる!?〕
出久とザギの声が物語る。
投票結果、1位出久、2位八百万、となったのだ。順番で出久が委員長で、八百万が副委員長。
自分がまさか選ばれるとは思わずガチガチに強ばっている出久と反対に、若干八百万が悔しそうな顔をしている。
〔目立たせ過ぎたか? くっ…、出久が評価されるのはいいが、目立てば目立つほど禍も引っ張り寄せることになる…。これも運命の強制力か!? クソッ、なんとかしなければ…! どうにか出久に余計な負担がないように…、使えそうな別の人間に役を……〕
出久が学級委員長をすることをよく思わないザギ。別に出久にそれだけの能力がないからというわけではない、単純に出久にかかる負担を減らしたいというだけだ。あわよくばヒーローという夢と未来に繋げないようにしたいが、そうもいかない。
爆豪にやらせるか? いや、アイツでは周りが納得しないし、現に票数も自分以外は入ってなかった。
ザギが悶々と考え、授業が始まり、やがてお昼となる。
お昼ご飯中だった、突然学校内に警報音が鳴り響いた。
お昼ご飯を食べる食堂には、一年生だけじゃなく、他の学年や学科の生徒もいる。出久達の先輩にあたる生徒が3年間こんなことはなかったと言っている。
警報が鳴るということは非常事態だ。つまり今すぐ安全な場所への避難するために行動しなければならない。
ヒーロー科じゃなくとも危険な状況から今すぐ逃げることは頭に叩き込まれているこのご時世、まあ話や警告を聞かない馬鹿はいつの時代もいるが、一応ココ(雄英)はそこまで馬鹿な子供はいないらしい。3年間もなかった突然の警報に慌てふためき、パニックが伝染こそすれ逃げないという選択肢は取らない。まあ冷静さを欠いてしまうのは、未熟な十代の子供故だろう。それは仕方ない。
外が見える通路沿いのガラス壁から外を見ると、侵入者の正体が分かった。
マスコミだ。朝、通学路に集まっていた者達だ。
ザギが遠くを見る遠視を使ってマスコミ連中を止めている教師達を見つけた。大衆への主な情報元であるマスコミ関係者であるため、下手に手出しができず、どうやら警察が来るのを待っているらしい。
ペンは銃より強い…とは誰が言った言葉だっただろう。
ザギは割と真剣にマスコミその他への記憶操作をしようかと考えていると、生徒達の波の中から個性を使って飛び出して非常口の上の所で非常口の絵と同じ格好になり、この場を落ち着かせようと動いた飯田がいた。
飯田のおかげでパニックはひとまず治まり、警察も来てマスコミ連中は外へ追い出された。
そして飯田のこの活躍を見た出久が、この騒動の後、教室にてクラス委員長の座を飯田に任せると発言。異論も無かったため飯田がクラス委員長になった。
〔まあ、妥当か…。あのクソ真面目な性格なら問題はない。委員長にされた腹いせが出久に来ることもないな〕
ザギが肩をすくめ、無意識にホッとした。
すると出久の前の席にいる爆豪もホッとしている気配があり、爆豪も人知れず悟られぬようホッとしているようだった。
コイツも同じ事を考えていたらしい。そのことにザギはイラッとした。
〔それにしても…。視線がうるさい…〕
ザギは、出久の中からその視線を感じていた。
相手はザギを見ているわけじゃない。だが視線はあの日から出久に向けられていた。
敵意のような、殺意のような、畏怖のような、嫉妬のような、強い気持ちを孕んだ視線だ。ヒーロー基礎学の授業の日に、少しだけ出久と入れ替わったザギに一撃を入れられたあの日から、轟からあの視線を受けている。
〔殺した方が良かったか…?〕
轟焦凍からの、その視線に、ザギはひっそりとそう思うが出久は知らない。
〔出久の敵なら殺す。殺す必要が無いなら、あの赤白のガキに関するすべての記憶を抹消して社会的に殺す…?〕
轟を物理的にか、あるいは社会的に殺すか、出久に聞こうかと思ったが、ザギは止めた。
自分の存在を出久に知られれば……、いや、ダメだ。それはまだダメだ。
いずれ自分の存在を出久は知ることとなるだろう。なぜならザギは出久を乗っ取らずに身体の内側に共生している状態だ。それは、かつていた別時空にいた自分と敵対していたデュナミスト達と同じか、近い状態だ。
あの時、ザギは人間を見繕って完全に乗っ取って味方に扮して行動していたが、今回のザギは乗っ取っていない。
加減が分からずそのせいで出久の4歳の頃の記憶が消えたりするなどの弊害があり、その記憶と一緒に情報体のみの姿だったザギと出会ったことも忘れてしまった。
〔……いずれは知られる。だが…、今じゃない〕
出久は夢(ヒーロー)への道を歩き始めたばかりだ。
なのに自分が内側に潜んでいて、出久はザギとの出会いの記憶も無くそのことを知れば……。
〔………? オレは、なにを…?〕
ザギは、ザギとの出会いの記憶のない出久に自分の存在を知られることを考えたときに湧き上がった奇妙な胸の内のざわめきのようなモノが、なんであるのか分からなかった。
それを、人間の言葉で言い表すのだとすれば………………、それは“怖れ”。
ザギは、4歳の時に自分を認め受け入れた出久が、その時の記憶を失ったことで拒絶される可能性に、怯えていたのだ。
だが、ザギはその感情の揺れ動きの意味を知らない………。
ザギは、ひとりで与えられた使命を全うしようとしていたから、自我が芽生えてから感情の意味とか、そういうものの教育はほとんどなかったと思う。
そのため知恵はあっても、精神面での成長が乏しい。
出久へ向ける感情の意味も分かってない。
出久への負担を減らすために、自分の存在をまだ知られたらいけないと思ってるけど、知られたら知られたで仕方ないとは思ってる。
でも、拒絶されたら…という理解できてない恐怖心を持っている。
爆豪は、ザギの存在を出久が知ったり周りが知ることでザギが何かしでかす可能性を危惧している。
単純に危険な存在と考えているので。