ヒロアカ×ダークザギ  ネタ   作:蜜柑ブタ

81 / 84
今回は、筆がのった?
なんか執筆が進んだ。



序盤は、治崎のもとでやられたことのトラウマから医療に拒絶反応して狂乱してしまう壊理の治療に出久が頑張る。
原作での描写からするに、病院やお医者さんの治療行為を受け付けられるのか疑問だったので。
あと、ナイトアイの事務所に医者が常駐しているって設定にしています。


後半では、かなり後付け(いつものこと)設定によって、ザギがちょっと空腹(エネルギー不足)が少し解消される。





それでもOKって方だけどうぞ。





いいですね?


第79話  りんごに満たされて

 

 

 救護室に運ばれてベッドに寝かされた出久であったが、ブラックアウトした意識が浮上して瞼を開けた時。

 小さい女の子が嫌がる悲鳴が聞こえた。

 カッと目を開けて飛び起きてカーテンを開くと、そこにいたのは壊理という少女とナイトアイの事務所の医務室勤務の医師だった。

 医師は困った様子で傷を治すための医療器具を手にしているが、壊理が火が付いたように泣きわめいて壁の方に逃げていた。

「あの、いったいに何が⁉」

「すみません! あの子の傷の治療をしようとしたら……。」

「やあああああああああ!!」

 包帯が外されてた両腕のあちこちから血を流して壁をひっかくように逃げ場を求めて泣き叫ぶ様は、彼女が受けた苦痛を超能力で共感した出久には理解できた。

 医師が手にしていたのが傷が開いてしまった縫い傷を治すための器具であったのが彼女のトラウマを刺激したのだとすぐに分かった。

 拘束ベッドや拘束椅子で同じことをされていたから今のように逃げることはできなかったから、拘束がないとパニック起こして冷静さを一切失っているから窓もない壁の方に逃げて逃げたいという気持ちだけで壁を破ろうと壁をひっかくという無駄なことをしてしまっている。

 医務室の出口とは完全に反対方向で冷静に出口を探すだけの理性すら失っているのだ。

 それほどまでに体を痛めつけられて、治されるてはまた……というループの地獄をどれだけ受けたかを出久は思い出しまた意識が飛びそうになるが、なんとか堪え、パニックを起こしている壊理のもとへ近づいた。

「壊理…ちゃん?」

「ぎゃあああああああああ!!」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」

「いやあああああああああ!!」

 硬い壁をメチャクチャに掻きむしったせいで爪から血を流す有様になってしまった壊理に優しく声をかけ続ける。だが壊理は叫びながら涙をまき散らすばかりでまったく声が届いていないようだ。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ…。傷……、痛い痛いを、僕が治すよ。」

 壊理の後ろから両手を伸ばし触れるか触れないかのところで手を止めて、両手に薄緑の光を発生させた。

 傷を癒すヒーリングの超能力だ。本来なら直に触った方がいいのだが、触れられるのが無理そうな壊理の精神状態を考慮した。

 光の形で注がれる暖かい癒しの力を体に感じ、壊理が動けを止めた。

 そして恐る恐る背後を見て、涙や鼻水でグシャグシャの顔で出久の存在を確認した。

 その表情は混乱と恐怖とは違い、大きな戸惑いで恐怖が吹っ飛んだという感じだ。

「これ、痛くない?」

 出久が癒しの力を溜めた右手を壊理に見せる。

 その光がとても暖かいで一切の攻撃をしてこないのだということをパニックになっていた壊理は理解できたようだ。

 ジッと薄緑の光を見つめ、それから出久の顔を見た。

「治ってない傷…、僕が治してあげる。怖かったら言って?」

 出久は、癒しの光を溜めた両手を壊理に見えやすい様に示し、壊理の答えを待った。

 パニックが治まってきたらしい壊理は、出久の問いに少し間を置いたがゆっくりと頷いた。

 それを確認してから出久は壊理の体を自分の方に向かせ、両腕を撫でるようにヒーリングで癒していった。

 出血していた縫い傷は塞がり、新しい皮膚が傷を塞ぐ。

 縫い傷があったことを示す糸だけが残った。

「足の方も治そう。いい?」

 出久は、腕の傷を治したら次は足の方だと壊理に言い、やっていいかと再び聞いた。

 壊理は、出久からされる治療が痛くないと理解してさっきより早く頷いた。

 そうして許可を得てから椅子に座ってもらい、包帯がまだ撒かれている両足にも両腕と同じように薄緑の光を当てていく。先ほど暴れたせいで足の方の傷が開いてしまったように包帯に血がにじんでいた。

 その温もりと痛みが消える感触が心地いいのか壊理は自然と目を細めていた。

「あと、痛いところは?」

 出久は、他に痛い個所、正確には傷が他にあるかを聞いた。

 壊理は、自分が身に着けている白い患者服の胴体部分を両手で握りしめた。

 言葉にできずとも胴体の方にもあちこちに治っていない傷があることを示していると分かり、服の上から背中、胸、腹、お尻、首と、順々にヒーリングを施した。

「もう痛いところはない?」

 出久がそう聞くと、壊理はコクコクと頷いた。

 すっかり恐怖と混乱の発狂は失せたようで、まるで救いの主を見るような眼差しで出久を見ている。

「傷は治った…。残った糸は……。」

 見える個所だと両腕に残っている縫い傷の糸が残っており、これは物理的に取るしかない。

 出久は、黙って見守っていてくれた医師に目配せする。

 医師は静かに頷いた。

 それから出久は、壊理の目をまっすぐ見て言った。

「壊理ちゃん、腕や足とか……、体の傷は治したけど、糸が…残ってるんだ。これは、お医者さんに取ってもらわないといけない。」

 その言葉を理解してか壊理の表情に再び恐怖が浮かぶ。

「だいじょうぶ。僕がついてる。目をつむってて。僕にしがみついて。糸を取ったら終わりだから。ここにいるお医者さんは、アイツ(ペストマスクの男)じゃない。ヒーローの仲間だ。糸が残ってると体に良くないから、お願い。……我慢できそう?」

 出久が壊理を説得する。

 医療器具で糸を取られるという作業に恐怖を感じずにいられない壊理だったが、必死にそれが必要なことなんだと自分の心の中で自分に言い聞かせているようで、何かに耐えるように硬く目をつむって呼吸が荒くなっていた。

 過呼吸の恐れがあったが、やがて壊理は目を開け目の前の出久の首に腕を回し、片腕を医者の方に伸ばしてギュッと目をつむった。

 震えているのをパワードスーツ越しでも感じ、壊理の体を支えるように抱きしめた出久は医師の方を見た。

 医師は頷き、とにかく素早く壊理の体から傷を縫うのに使われた糸を取り除くために動いた。

 器具が触れただけでビクリッと壊理が震えあがるが、必死にトラウマと戦っているようで暴れそうになる体をじっとさせようとしている。片腕が済んだら、もう片腕、次に両足、最後に胴体のあちこち。全部の糸が取り除かれるまで硬く目をつむって出久の体にしがみついたり、手を握り締めて恐怖でパニックになって暴れないよう壊理は耐え抜いた。

 だいじょうぶ。出久…自分を助けてくれた黒い巨人がついてくれているという安心に縋りつくことで壊理は、耐えることができた。

 縫い傷がとにかく多く、そのため糸の数もその分多い。抜糸作業は丁寧に、だが急いで行われた。壊理の精神状態を考えると長い時間はかけられないという医師の判断だ。

 プロヒーローの事務所に在籍する医師として知識はもちろんだが、経験を積んでいることもあり実に素晴らしい手さばきで壊理の体中にあった糸が取り除かれた。

 そのあまりの糸の多さ(=切り刻まれてできた傷の数)に医師は、心の内で『なんて酷い…』と顔や口に出しかけるほどだったが堪えて見事に仕事をやり切った。

「終わりました。」

「終わったよ、壊理ちゃん。よく頑張ったね!」

 二人のその声を耳で認識した壊理は、目を開けたが、急に脱力して出久の方に倒れてきたため出久は慌てて抱き留めた。壊理は疲れ切った様子で細められた目をしていて、出久のパワードスーツの胸にもたれかかっていた。

「寝ようか? ここのベッドで。」

 出久は、壊理の頭を撫でながら聞くと、限界な様子の壊理はゆっくり頷いた。

 出久は、壊理を抱き上げ医務室のベッドのひとつに優しく乗せた。

 布団をかけてやろうとすると、出久の手を壊理が握ってきた。

 目を開けているのも辛そうだが、このまま意識を失って眠りに落ちるのが怖いのだろう。もしこの状況が夢で、逃げたはずの地獄が現実であったら……という不安があるのだ。

 しかしもう体力的にも精神的にも限界が来る寸前だ。今にも意識を失いそうになっている。

「…だいじょうぶ。ここが現実だよ。君はあの地獄には戻らない。だいじょうぶ。」

 出久は、自分の手を握る壊理の手を両手で優しく包んで再びヒーリングの温かい力を流し込む。

 もう傷が治っていて必要はないのだが、壊理を少しでも安心させるためだ。

 感応の超能力で壊理が何に恐れを抱いているのかを感じ取り、優しく言い聞かせる。

 壊理の目から涙が浮かび流れ落ちて枕を濡らすが、やがて限界を迎えて目を閉じた。

 横からそっとやってきた医師から渡されたウェットティッシュで乾いた涙と鼻水で汚れてしまった壊理の顔を拭ってやり、それから力が抜けた壊理の手を優しくゆっくりとベッドに降ろした。

 

『〔眠りが浅くなったタイミングで暴れられると面倒だぞ〕』

「ちょっ、ザギ⁉」

 

 急に現れたザギのホログラム。

 ナイトアイとの話し合いは終わったから戻ってきたのだろうが、ホログラムのザギが壊理の片手を伸ばした。

 そして薄紫の光が壊理の額に当てられる。

「なにを…。」

『〔これでちょっとやそっとじゃ目が覚めないし、回復に時間がかかるとクソめんどーだから悪夢だろうがどんな夢も見ないほど深く眠らせた。起こすのは夕食時でいいだろう〕』

「もう……、言い方……。でも、ありがとう。今の壊理ちゃんにはその方がいいと僕も思う。」

 ザギの気の利かせ方と言葉に若干呆れつつ、素直に出久は微笑んでお礼を言った。

 すぐそこにいた医師は、いきなり現れたザギに腰を抜かしかけていたがなんとか冷静さを保っていたものの声が出せずその場で固まっていた。

 

 

「まったく……、本当に協力的なのかそうじゃないのか……、あなたのキャラクターが分からなくなってきましたよ。」

 

 

「サー・ナイトアイ!」

 いつの間にか医務室に入ってきたナイトアイ。

 壊理を気遣って気配を消していたようだ。

「ザギからすべて聞きました。諸々のことはこちらでやるので、緑谷くんは、それまでにしっかり休息を取りなさい。いざという時にまた倒れられては困るので。」

「は、はい…!」

「大変なお手柄でしたよ。相手の感じる痛みや感情と同じ目線で記憶を知ることは実質不可能なこと。それこそあなたが使った超能力や似た個性でなければできないことですから。その子にとっても大きな助けになったことでしょう。それとザギ………、あなたの洞察力と経験値には驚かされました。」

「えっ?」

「詳しい話は、後日します。色々と準備と資料……などなどをまとめをしなければなりませんから。」

「あの…。」

「いいですね? 詳しいことは、後日です。」

「はい…。」

 壊理とあのペストマスクの男……いったいどういう関係で、どういう事件性があるのかを聞きたかった出久だったが、ナイトアイの眼光で黙らされ頷くしかなかった。

 動けるようになった出久は、パワードスーツを脱いで医務室のベッドで横になった。ちょうど壊理のいるベッドの隣だ。

 壊理のことが気になって出久はそちらに寝返りを打つ。

 ザギは、ベッドの横に立って腕組していた。

『〔気になるのか?〕』

「うん…。だって……。」

『〔この星の道徳の基準でならこういうんだろうな? “同じ人間のすることか”と〕』

「……ザギ。僕は…、許せない。感情で動くのはヒーローとしてあっちゃだめだ。冷静さと周りへの配慮を欠いたら……いけない。警察だって同じだ。」

『〔感情を殺すことだけが正しいことか? なんのために大きく発達した脳が感情を生まれつきの物にしたのか……。感情と本能をコントロールする理性の有無が文明を持つ知的生命体と獣を隔てたが、理性だけで生きる窮屈で寿命を無駄に寿命を減らす生き方で良いのか?〕』

「ザギは、感情に忠実だよね。いっつもイライラむかむかしてて疲れない?」

『〔自由にできる心があるのなら、自由にしたいという考えが出てもおかしくはないことだ。自由にしようが、縛られる生き方を選ぼうが、疲れることに変わりない。なら好きな方を選ぶ〕』

「それは君がひとりでも強いからだよ……。みんながみんなそうはできない。分かってて言ってるでしょ?」

『〔自由には責任が伴う。誰かが言ってたか……。出久はそれでいいのか?〕』

「……何が言いたいの?」

『〔自分で枷をはめて。自分で檻に入る生き方……。檻の中のルールに自分から嵌りに行って、本来ある自由を捨てることが〕』

「……それって、君が嫌っているプロヒーローに僕がなること? そうだね…、君から見たら、言わせたらそうなんだろうね。でも…、僕は助け求める声や伸ばされる手に手を伸ばしたいんだ。僕だけの手だけじゃとてもじゃないが全部助けられないし、背負えないって分かってるけど……。あの子……、壊理ちゃんみたいに助けてって声を上げることもできないほど辛い思いをしている人がいたらって……、それで誰にも気づかれないでいたらって思ったら……。ごめん……。ごめんね、ザギ…。君にとって嫌なことしかしない僕のために……。」

『〔……選んだのはオレだ〕』

「…僕を見限ったっていいんだよ?」

『〔!〕』

「そうでしょ? 君はその気になれば僕を上書きして消すことだってできる。でも、それをしないでいてくれた。そのせいでお腹が空いて仕方ないのに、すごく我慢してくれて……。どうしたら君の苦しみを無くせるかって考えてる。でも、僕には思いつかない…。君が食べたい物を僕は用意できない。」

 ザギが食べたいのは感情を持つ知的生命体の恐怖心と肉だ。

 だがこの地球の知的生命体である人間は、ザギの口にとことん合わない味しかしなくて食べたくても食べられない。

 かと言って家畜の肉類では、ガムやタバコのような嗜好品にしかならない。

 ザギの飢えは根本的に解消できず、慢性的なエネルギー不足もそのままだ。

 しかも……実は最近になってある問題がザギに起こっていた。

 

 

「あれ! 緑谷くん、起きてた?」

 

 

 そこへ通形が医務室に入ってきた。

「先輩…?」

「そろそろ夕食の時間だけどリクエストがあったら聞こうかと思って。食べれそう?」

 どうやらいつの間にかそれほど時間が経っていたらしい。医務室の窓から差し込む光はすっかり夕方の光になっていた。

「あまり……、でもお腹は減ってます。」

「そっか! じゃっ、消化に良さそうなのを頼もうか! あの子…、壊理ちゃんはぐっすりだね。」

「あっ。ざ、ザギ。」

 それを聞いて出久はザギに壊理を起こすよう頼む。

 夕食時まで夢も見ないほど深い眠りにつかせて回復を促進させていたが、通形が来るまでの間にどれくらい回復できただろうか。

 ザギがベッドと上に寝ている出久をすり抜けて壊理の方へ行き、手をかざす。

 薄紫の光が当てられると、起きる気配が一切なかった壊理の瞼がピクピク痙攣し、微かにうめき声を漏らして目を開けた。

 通形が訝しんで出久を見ると、出久は通形にジェスチャーでザギに壊理に催眠術をかけていたことを伝えた。

 目をこすりながら上体を起こした壊理は、寝起きでボーっとした様子だった。

「壊理ちゃん! おはよう!」

「っ!」

「あっ、ごめんごめん! びっくりさせちゃったね。俺は、ルミリオン。この事務所でインターンしているヒーローの卵だよ! そろそろ夕飯なんだけど、何か食べたい物がある?」

 通形の元気な声にビクッとなった壊理に慌てて取り繕った通形は、壊理に自己紹介し、夕飯のリクエストを聞こうとした。

「ごはん……?」

「そう、ご飯。何が食べたい? 好きな物ある?」

「……りんご。」

「りんごが好き? なら、ちょうどよかった! 実は事務所のサイドキックのヒーローのひとりが実家からたくさん送ってもらったっていうりんごがいっぱいあるんだ。食べる? 食べれそう? 俺はもう1個先にもらって食べたけど蜜が入ってて酸っぱさも程よくて美味かったからきっと気に入るよ!」

 通形が聞くと、壊理は頷いた。

 あまり食欲はないようだが、好物のりんごは食べれそうだ。

 深く眠ったおかげで溜まっていた精神的疲労が回復に向かっているようだが、万全ではない。だがそれでも食べたいという気持ちがあるのは生きたいと体が訴えているし、気持ち的にも前向きになっている証拠だ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 それから事務所の食堂に壊理と一緒に来たのだが……。

「あの……、これは?」

「いえ、これは私が前もって企画していたことです。ザギへのね。」

『〔……〕』

 食堂の長いテーブルのひとつに、たくさんのお皿が並んでいた。

 その更には色とりどりの肉や魚料理が盛り付けられている。どれも生、半生の調理がされており、野菜も薬味も味付けのタレの類もかけてあるものもばかりだ。

「どうことですか?」

「これは、雄英からの報告を聞き、緑谷くんをインターン生として受け入れると決めた段階で企画したものです。ザギ……、最近、肉やホルモン類の注文数が減っているようですね?」

「えっ?」

『〔……チッ〕』

 出久が驚いてザギを見上げ、ザギはばつが悪そうにそっぽを向いた。

「つまりこう考えられるのです。ザギ……、あなたは味に飽きていて家畜の肉類ではもう誤魔化せなくなっているのではないかと。」

「そうなの⁉ そうだったの、ザギ⁉」

「緑谷くん、君は知らなかったんですか?」

「お肉のことについてザギの好きにって思って任せてたましたから……。」

「なるほど……、だから言えなかったんですね。家畜の肉に飽きて、空腹を誤魔化せる限界がきていることを。」

「ザギ…。」

「それで、私からの提案です。ザギ、あなたには味覚がある。これは間違いありませんね?」

 ナイトアイが眼鏡を指で押さえ、ザギに確認する。

 ザギは不機嫌そうにナイトアイに顔を向けた。それはナイトアイの問いに対する肯定だ。

「味に飽きたのなら、それでいて味覚があるのなら……、視点を変えてみてはどうかと、ね?」

 そう言ってナイトアイは、テーブルに並べられた様々な料理を指し示す。

 肉も魚も生系が多いのは、ザギが家畜の肉や内臓を生で食べることを好んでいたことを考慮してだろう。

 だがザギは、げんなりした様子で俯く。

「ザギ…、ああいのは食べれる?」

 その様子から明らかにやる気がない……、いや食欲が湧いてないと見抜いた出久がザギに聞く。

『〔……一応喰える〕』

 だが食欲には結びついていないようだ。

「見るだけで、ウプッ…ってことですか? 試してみてから考えてもいいのでは? そのまま無理をし続けるのは辛いでしょう?」

『〔……余計なお世話だ〕』

「私はただ心配しているだけですよ。空腹で苦しんでいることが分かっているのですから放っておけません。」

 ナイトアイは、真剣にそう言葉を投げかけるがザギは長い溜息を吐くだけだった。

「ザギ。食べるなら、僕の体…。」

 生肉を食べるときは出久の体を使うしかなかった。だから今回もザギが出久の体で試すしかない。

 ナイトアイが用意した地球人流の味付けをした肉と魚料理を。

 ザギの仮面のような顔が人間の表情筋のように動くものだったなら、誰が見ても分かるものすごい嫌そうな顔をしていただろう。雰囲気だけでもそれが分かるから間違いない。

 そうしてザギが嫌々なオーラを出しながら出久の体を使うためにホログラムを消し、出久の外見がザギが表層化した時のそれに変わる。

 途端に出久の表情がものすごく嫌そうな顔に変化。

「本当に分かりやすいですね、あなたは。そこまで気が乗らないんですか? まあ、騙されと思って一口だけでも試して味に飽きずに空腹をなんとかする方法を真剣に考えましょう。あなたもそれについては困っていたんじゃないですか? 実際、注文する肉の量を減らしていたんですから。」

 ナイトアイが言葉をかけると、ザギは肩をすくめて長い溜息を吐いた。

 そうして渋々であるが用意された料理に手を伸ばす。

「手づかみで食事をするのでしたら、せめてお手拭きで手をふきなさい。」

『〔地球程度の病原にかかるわけがない〕』

「視覚的にですよ。あと、郷に入っては郷に従えということです。緑谷くんに恥をかかせたいのですか?」

『〔……ちっ〕』

 ナイトアイの指摘と注意を受け、ザギは渋々手近にあったお手拭きで手を拭いて清める。

 それからやっと一番近い位置にあった皿からドレッシングがかかった魚の切り身を指で積み上げて、口に運んだ。

 モグモグと咀嚼し、飲み込むが……。

「どうですか?」

『〔……植物性の油と塩と発酵させた酒の酢の味と香辛料の刺激…〕』

「それが味の感想ですか? 美味しいか、不味いかで言うと?」

『〔それだけだ〕』

「……使われている調味料の種類を分析はできても、味覚から得れる満足感には繋がらないと? ……それは魚でしたが、肉はどうです?」

 ナイトアイに促され、ザギは嫌々だが肉料理にも手を伸ばした。

 表面を焦がしたローストビーフ系の切り身だったが……。

『〔……肉好きの人間が好きそうな味〕』

「あなた的にはその味は好みじゃないと?」

 難しい顔をするナイトアイだったが、ザギは答えず手を引っ込めてしまった。もうこれ以上は意味がないと言いたげに。

 

「ほ~ら、壊理ちゃん! りんごがいっぱいだよ! 好きなの選んでくれたら、すぐ皮をむいて切ってあげるから!」

 

 そこに通形の元気な声と別のテーブルにドカンッと重たい物を乗せる音がした。

 ザギが視線をやると、椅子に座った壊理の前に箱詰めされたりんごを通形が置いたようだ。

 綺麗に包装されたりんごは、新鮮で瑞々しいようで、丁寧に育てられているようだ。

 ザギの鼻が微かなりんごの香りに反応する。

 それまでまともに反応しなかった鼻の奥の感覚、脳に直撃する感覚。それまで恐怖に満ちた知的生命体やエネルギーの塊を得られる機会がある時にしか感じない、食欲を刺激するそれ。

「ザギ? どうし…。」

 様子がおかしいとすぐに気づいたナイトアイだったが、ザギの動きの方が早かった、

 別のテーブルに乗せられたりんごの方に移動していた。正確には壊理の隣にだ。

 壊理は、様変わりした出久の外見に驚いていたが、そんなことなど気にならないザギは箱から包装されたりんごをひとつ手に取った。

 包装紙を外し、中に入っていた赤色と黄色の皮のりんごを見つめる。

 りんごとの距離が縮まったことで鼻をくすぐる香りがより強く感じ、ザギの喉が鳴る。

「ザギ? いったいなにを…。」

 通形も驚いた様子でいたが、ザギが聞かずに行動に移っていた。

 手にしたりんごを丸かじりし始めたのだ。

 たっぷり水分を含んだりんごの果汁が手から腕を伝うが、そんなこと気にせずガシガシとかみ砕き、その勢いは増していき、ついには普通は残す芯まで食べ尽くしていた。

「……黒い…巨人…さん…?」

 壊理は、ザギが表層化したことで顔に現れている赤い模様から彼がザギだ理解したようだ。

 そして椅子から身を乗り出して箱を両手で引っ張り、ザギの方へ押し出すようにする。それはザギがりんごをもっと食べたがっていると壊理が判断したためだ。

 そこからはもう夢中でザギは、りんごを齧る、そして飲み込む、それを繰り返して十個以上はあったはずのりんごは全部腹に収められてしまった。

 後に残ったのはりんごを食するときに生じたりんごの中身の匂いと、床に滴り落ちたりんごの果汁だけ。

 ザギは、ゼーゼーと荒い呼吸を繰り返し、テーブルに両手をついた。

 まるでまだ足りない、もっと、もっと…っと体が訴えているのを耐えているようだ。

「ザギ…?」

 通形が声をかける。

 やがてザギは天を仰ぐように天井を見上げると。長い呼吸をして。

『〔…………失念していた。オレとしたことが…〕』

 そう呟くと髪色と目の色、顔の模様などが消え、出久に戻った。

 ふらつく出久は寸前でテーブルに手をかけて倒れるのは防げた。

「緑谷くん!」

 通形が慌てて近寄る。

 ナイトアイも傍にいたサイドキック達を連れて駆け寄ってきた。

「…………あの…この味は…。」

「ああ。りんごを…、りんごを食べたんだ。無我夢中ですごい勢いで食べてたよ。」

「りんご………、それって…もしかして…、壊理ちゃんの分…。」

 すると壊理が椅子から降りて、お手拭きで出久の口周りをベタベタに汚している果汁を拭った。

「だいじょうぶ。まだあるから。それにしても……、ザギはどうしたんだい?」

「ザギは?」

 通形とナイトアイがザギについて出久に尋ねた。

「……どうやらりんごがよっぽど口にあったようですね。こちらで用意した料理よりも。」

「りんごで……。」

 ナイトアイは、思案するように顎に手を当てる仕草をした。

 ナイトアイが用意した味に飽きた時の対策として提案した肉と魚料理はほとんど手つかずで、代わりにりんごを貪った。

 その違いとは何かと。

 すでに家畜の血肉には飽きていたザギが突然りんごにむしゃぶりついたうえに、満足感をやっと味わえたという。

 何が違うというのか。

 ナイトアイは、思案し、ある答えを導き出す。

 そしてその確証を得るために、どこかにすぐに連絡を入れた。

 

 

 

 

 翌日の朝。

 市場に売られているりんごを含めた様々な新鮮な果実が詰まった発泡スチロールが事務所に輸送されてきた。

 

 

 

 




前半は、唐突な思い付きです。
本当はさくっと治療する予定でした。
ただ原作での描写を思い出したら果たしてトラウマを刺激されずに済むのか?って思ってしまい、医療用の器具を見てトラウマが刺激されて狂乱してしまったという展開にしました。
リカバリーガールもいないので、出久が超能力で傷を治療することに。
痛みもないし、傷もすぐ塞がるけど縫い傷に使われた糸が残ってしまうということにして、それを取り除くのに出久が壊理を支え、医者が急いで処置をしたということにしました。
抜糸してから超能力で治療すればよかったのですが、壊理にそんな余裕がなかったので傷の治療を優先した流れです。
そしてザギが妙に壊理には、拒否反応は示さず回復のために手助けしてる。

後半は、ザギが家畜の肉と内臓類を嗜好品として食べることに飽きてしまっており食べる量が減っていた。その問題解決のためナイトアイが地球の調味料と料理で飽きを緩和させられないかと行動。
しかし残念ながらザギの満足は得られず……。
だが壊理に食べさせるために出したりんごを見たザギが豹変。
りんごを十個は食べ尽くして、それで足りないけど今まで得られなかった満足感を少しだけ味わって引っ込む。
果たしてザギにとって肉と魚料理とりんごの違いとは?


次回でそこを書こうと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。