「ヒッキー、あーん」
「あ、あーん......」
今、私の目の前ではとても面白いことが起こっている。あの捻デレでお馴染みの先輩が、結衣先輩にあーんしてもらってるのだ。そう、あの先輩が。
それにしても先輩......
......何かすっごい可愛いんですけど!普段はずっと真顔と腐った目のせいで冷めた印象が強いけど、今は恥ずかしがって必死に結衣先輩と目を合わせないようにしてるのに結衣先輩が顔を覗き込んでくるせいでどんどん顔が赤くなってて動きがぎこちなくなってるのとか普段とのギャップですっごい可愛い!最初の方はちょっと結衣先輩に嫉妬しちゃったけどもうそんなのどうでもよくなるくらい今の先輩はヤバい。いややっぱどうでもよくないわ。私も先輩にめっちゃ餌付けしたい。あとめっちゃ近距離で見たい。
......ふぅ。ちょっと興奮し過ぎちゃった。
普段は見られない先輩の表情を目にして、脳内とはいえ早口で語ってしまった。
でも、先輩が悪いんですからね!いっつも頼み事しても「ちょっとアレがアレだから......」とかいって逃げようとするくせに、本当にヤバそうなときはちゃんと手伝ってくれるし、荷物持ってくれたり車道側を歩いてくれたりさりげないところで優しさ見せてきてあざといし......
「一色さん?顔が赤いけれど、大丈夫かしら?」
「あ、こ、これはちょっと暑いなーってだけなので!」
雪ノ下先輩の声で思考を急停止する。どうやら興奮が顔に出ていたようだ。
少し苦しい気がする言い訳をとっさに並べたは良いものの、まだ私の思考は乱されたままである。先輩のあざとさにやられたのもあるが、それより大きく影響している問題があるのだ。
それは、先ほど先輩に脅し文句として使った既成事実は咄嗟とはいえ、実はハッタリであるという問題だ。
実際はドッキングなんてしておらず、証拠写真も下着姿の先輩に跨がっただけの写真がたまたま角度的にドッキングしているように見えるだけなのだ。
でも、そんな嘘の既成事実をでっち上げないといけなかったのも先輩が気付かないふりをしているのが悪い。だって、先輩はそうでもしないと逃げちゃうから。あれでも責任オバケだから、取り敢えず嘘だってことは暫く黙っておこうと決心したのだ。
と、そんなことを考えているうちに結衣先輩による餌付けタイムが終了したようだ。結衣先輩は未だに顔を赤く染め、先輩は元凶である私のことを睨んできている。まさに絵に描いたような「くっ殺」って感じで嗜虐心を煽られますねぇ......。
「......おい、その悪人面はやめといた方がいいぞ」
「ぴゃっ!......そ、そっちこそいきなり耳元で囁くのはやめてください」
「あ、ああ、わりぃ」
いきなり先輩が耳元で喋ってきたので、驚いて変な声が出てしまった。
それにしても、何で先輩はこんなにいつも通りなんですかね?自分で言うのもなんだけど、結構えげつないことした(ことにしてる)と思うんだけど......。
まさか、バレてるとかじゃないよね......。
まぁ、今更そんなことを考えたって後の祭り、結局は突き進むしかないのだ。
どうせこうなるならヤることヤっちゃった方が良かったかもって少しは考えたりもしたけど、そんな度胸は私には無いわけで......。
少しチラッと先輩の息子さんのご尊顔を拝見しただけで、それ以上はまったくもって何もしていない。......嘘ですちょっと触りました。
まぁそれは一旦置いといて。まずはこの部屋の色ボケムードを一変させなければならない。じゃないと、私を含めた女性陣がそろそろ暴発しそうだ。もちろん性的な意味で。
なので、何か気を紛らわせられる方法を考えなければ......。
あ、確かパパの部屋に――
4人で一つの卓を囲み、黙々と牌を手元へと持ってくる。さて、俺の手牌は......
「......おい、一色。何で麻雀なんだ?」
「いやー、この前やっとルール覚えれたんで、やれるかなーって思ってぇ」
「いや無難にトランプとかUNOとかあっただろ......」
途中まで何も考えずに準備をしていたが、直前になって異常性を感じ取る。何故ここで麻雀なんだ......、こっちは一色のせいで気が気じゃないってのに......。いや、この事は考えない方が得策か。
それより、さっきからずっと険しい顔して悩んでるガハマさんは良いんですかね。あいつ絶対ルールとか分かんないだろ。
「由比ヶ浜、ルール分かんないなら無理しなくてもいいぞ」
「ううん、大丈夫だよ。一応、優美子とかとやったことあるし」
「そ、そうか」
どうやら麻雀経験はあるらしい。てかあいつら麻雀とかすんのかよ。麻雀やる高校生とか咲の世界線だけかと思ってたわ。
「んんっ、ん、ん"っ"」
一色がいきなり喉の調子を確かめるように咳払いをした。当然、一色の方に視線が集まる。
一色は、視線が集まったのを確認すると、大きく息を吸い込んだ。
「これより、『第一回、ドキッ!高校生だらけの麻雀大会(ポロリもあるよ!)』を行います!ちなみに、ポロリっていうのは、ポン・ロン・リーチのことですからねー?先輩?」
一色が大物司会者ばりの勢いで、タイトルコールを行った。完全に病み上がりの元気じゃないよね......。あと俺がやましいこと考えてたみたいに言うな。バレたかと思っただろ。
これには雪ノ下もこめかみを抑え、呆れたようなため息を吐く。
一色はそんな俺たちをよそに、説明を始める。
「ルールを説明します!まず、麻雀を通常通り行い、一位から四位までを決めます。そして、ここからが重要です。この大会の最大の特徴は、ズバリ!最下位の人が他の三人からの命令を受けることです!」
おいおいおい、そりゃあちょっと横暴過ぎやしませんかねぇ......、と顔をひきつらせると、それに気付いた一色がニヤリと口角を歪めた。
「良いですか?命令は絶対なんですよ?しかも最下位になる確率は四分の一、やるしかなくないですかぁ?」
「べ、別に命令がしたいわけでは無いけれど、どうせ比企谷くんが最下位になるのは明白でしょうし、勝負は受けないと気が済まないから仕方なく受けてあげるわ。決して命令がしたいわけではないわよ。決して」
え、俺が負けるの確定なのん?この際その誤魔化しは無視してあげるけど負けるの確定なのは御免なので、抗議をしようとしたところで、今度は由比ヶ浜が声をあげる。
「い、一応聞くけど、命令は何でもありなんだよね?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。――勿論、法に触れなければ何でもありです!」
「法に触れなければ何でも、ね......」
「ヒッキーに......何でも......」
一色の回答を聞き、由比ヶ浜と雪ノ下は俯いて考えるような仕草をする。
てかそんな意味ありげに何でもって言わないでね。八幡、命の危機を感じちゃうわ。
はたして本当に大丈夫なのだろうか。不安が残るまま、地獄の麻雀大会が始まるのだった。
今回はかなり悩みましたね......。ちょっと無理矢理感が拭えないけど。
余談ですが、最初の方の話に暇を見つけては少しずつ加筆修正を施したりしています。見直したらかなり粗が目立っていたので......。
さあ、次回更新はいつになるのかは毎度の如く未定ですが、お待ちいただければ幸いです!