やはり俺たちが看病するのはまちがっている   作:陽陰 隠

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危機

生命とは尊いものであると思う。

小学校からひたすら義務教育によって教えられる事だが、改めてそう感じる時がある。例えば、飼っていたペットが死んだ時。あるいは、新しい命が誕生する瞬間などだ。

だが、その新しい命を育む『行為』をむやみやたらに行うのは、生命に対する冒涜なのではないだろうか。ましてや、その過程に生命の危機を感じることがあって良いのだろうか。

否。まったくの否である。

 

さて、本題に入ろう。俺は何も理由も無しにこんな長ったらしく語った訳では無いのだ。

なぜなら、現在進行形で危機を感じているからである。これだけだと伝わりにくいと思うので、結論から言おう。

比企谷八幡、貞操の危機である。

 

ヤバい。マジヤバい。どれくらいヤバいって、こんな現実逃避するくらいヤバい。

 

「せんぱい、腕細いですねぇ~」

「お、おい、目を覚ませ一色。そして服を着ろ」

「嫌ならよければいいじゃないですかぁ~。まあ、せんぱいの力じゃ無理ですけどぉ」

 

俺は今、下着姿の一色に押し倒されている。しかし酔っているとはいえ、一色の力が強いのと、俺の力が貧弱すぎるのでよけることができない。しかものし掛かられて、ちょっと苦しいのだ。

要するに、詰みである。

近所迷惑覚悟で雪ノ下たちを呼ぶしかないか......

 

「......スゥ―――」

「無駄ですよ♪」

 

覚悟を決め、大声を出すために息を吸い始めた瞬間、文字通り一色の手によって防がれた。そして、段々一色の顔が近づいてくる。

 

「......責任、取ってくれるんですよね?」

 

オイオイオイ、(社会的に)死ぬわ俺。

 

「せんぱいも暑いですよね?とりあえず脱ぎましょ?」

「―――」

 

残念ながら口を塞がれているので俺に拒否権は無いようだ。

 

「じゃあ上から脱ぎましょうねぇ~」

 

そう言うと一色は、俺の口にハンカチを詰め込み、俺の服を脱がせ始めた。

 

「せんぱい、肌白いですねぇ。......下はどうかなぁ?」

「―――」

 

次はズボンに手がかかる。ゆっくりと割れ物を扱うように下ろされ、一色と同じ下着姿にされた。

もう八幡、お婿に行けない......

 

「あと一枚ですねぇ......ん?せんぱい、『コレ』はそういうことですかぁ?」

 

一色は俺の元気な息子を見て、嗜虐的な笑みを浮かべると、ゆっくりと手をそこに伸ばした。

 

「これがせんぱいの―――」

 

瞬間、俺の脳のキャパシティが限界を迎えたのか、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、起きましたか?」

 

知らない天井だ。てか◯っぱいか。

 

ん?なんで俺の目の前におっ◯いが?あれ?何も思い出せないぞ?

 

「今日は下着可愛くないんで、そんなにジロジロみないでくださいよぉ......」

「お、おぉ、悪い」

「......まあこの体勢ならしょうがないですけど」

 

なんでこの子はまんざらでも無さそうな顔してるのん?てか俺膝枕されてるのね。今気付いたわ。

 

「で、何なのこの状況。俺何されちゃったの」

「あ、ゴムは着けましたよ」

「ぶふぉっ!」

 

いきなりの爆弾発言に思わず吹いてしまった。え、ゴムってそういうことだよな......。いや、バンジーガムのことかもしれない。そうだ、そうに違いない。

だが、その淡い期待は、一色の一言でいとも容易く壊された。

 

「私、初めてだったんですからね。責任、取ってくださいよ♪」

「......マジかよ」

「証拠写真見せましょうか?」

「い、いや、いらん。てかなんで撮ってんだよ」

「先輩を逃がさないために決まってるじゃないですかぁ」

「なんで俺なんだよ......」

「先輩が好きだからですよ」

 

一瞬、その言葉の意味がわからなかった。いや、わかろうとしなかったからかもしれない。今まで散々勘違いだと自分に言い聞かせ、目を背けていたツケが回ってきたのかもしれない。

でも、それを俺がいまさら撤回するのもちゃんちゃらおかしい。だから、これは、勘違いの筈だ。

 

「......は?」

「だってこうでもしないと気付かずにどっか行っちゃうじゃないですか」

「え、だってお前は葉山が―――」

「あれは『本物』じゃなかったんです」

 

『本物』。そのワードを聞いた瞬間、心臓が早鐘を打ち始める。珍しくも、面白くもないそのワードにどれだけの想いが込められているのか、意味までは理解できていなくても、俺が一番知っている。

 

「結局、葉山先輩は先輩の言う、『本物』じゃなかったんですよ。前に言いましたよね、『本物』欲しくなっちゃいましたって」

「だからってお前、ここまでしなくても―――」

「それだけ本気なんですよ。先輩のこと」

 

二人の間に静寂が生まれる。何度も声を出そうとしても、喉に引っ掛かったみたいに出てこない。それどころか、どう繋げれば正解なのかもわからない。

 

一分。あるいは五分経っただろうか。

静寂を破ったのは、一色だった。

 

「多分先輩は今何を言っても勘違いだとか言って納得してくれないと思います。でもどれだけ時間をかけてでも納得させてあげます。だってそれが私の『本物』だから」

「......」

 

俺は何も言えなかった。今まで自分が目を背けてきたものを正面から見せ付けられてしまったから。まだ出せていない解を、先に解かれてしまったような気がしたから。

 

「取り敢えずお二人が戻ってくる前に服着ちゃって下さいね」

「あ、ああ、わかった」

 

あいつらと顔合わせるの、気まずいな......




週一更新が出来なかった敗北者です。
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